ゆめまぼろしの皇帝と楽園の住人   作:あだもすてー

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伏魔

「何の用かしらロムルス?」

 

 私の部屋に入ってきた彼に質問する。一瞥した時に見えた顔は少し険しい顔だった。まるで、そう、戦いに行く人のように。

「パチュリー、少し君にレミリアの妹君について聞きたいことがある」

「妹様のこと?なんでそんなことを…?」

 

 妹様のことを聞いてきた。まさか今からあそこに行くとかいうんじゃないだろうか。私ですらどうにもしようがないというのに…。

「話をつけてこようと思う」

「話?妹様と?」

「そんなところかな」

 

 嫌な予想が当たってしまった。何でこんな時の予想ばかり当たるんだろうか。大方、食事の時の話に触発されたんでしょう。…もう少し、利発そうには見えたのだけれど。

「やめておきなさい。私もあの狂気の原因はわからないのよ。下手に手を出すとまずいことになるかもしれない」

「…話によっては助けれるかもしれないから一応聞いておきたい。話してくれたら私の世界の魔法について教えよう。それでも駄目か?」

「駄目ね。私の独断で話せるものでもないし、そういうことは家族じゃないと。私にそのことを話す資格はないわ」

 

 …まぁ彼の世界の魔法については興味がある。ただそれと引き換えに話すのも気が引けるから口に出したりはしない。

「レミリアに聞くのか…。だが彼女は話しづらそうにして…」

「大丈夫だと思うわよ。もう聞こえてるみたいだし」

「それはいったい…」

 私は言葉を残しつつ壁の方を指さす。そこにいるのは蝙蝠、レミィの分身の一つ。おそらく彼をつけてきたのだろう。その説明を彼にもしてあげる。

 

「あれ。あの蝙蝠はレミィの分身みたいなものよ」

「何かついてきていると思ったらあれだったか…。不覚だったな」

 彼がそういうとタイミングを見計らったかのように話題の人物が入ってきた。

「そういうことよ、ロムルス。フランの話を聞くなら私に直接言いなさい」

 

 レミィがそういって現れた。その友人はそのままつかつかとこちらへ歩み、そしてポスン、とその軽そうな体を椅子に放り投げた。

「で?フランと何をするつもり?まさか本当に話すだけじゃないでしょう?」

 

 話はやはり蝙蝠を介して聞いていたらしく、状況は理解しているようだ。ロムルスも観念したように話す。

 

「もしかしたら、その妹君を救えるかもしれないと思ってな。この指輪を使おうと思ったのだ」

 

 彼はそういうと懐から指輪を取り出す。綺麗な装飾が施されたそれは一見ただの装飾具に過ぎないようだ。ただ、私からしたらそれがかなりの魔力をたたえてることがわかる。おそらく、結構な能力はあるマジックアイテムだろう。

 

「ソーモンの指輪という。これを身に着けていると身体への毒や麻痺などの障害を防いでくれるのだ」

「ふぅん…。パチュリー、これを見てどう思う?」

「そうねぇ…。かなり強い魔法がかかってるみたいだし、どうにかなりそうかも…でもやってみないとわからないわよ」

 

 私に話を振ってきたのでそう返す。事実、実践してみないとわからないからだ。障害耐性の魔法がどれほど機能するかは魔力から判断するしかないけれど、おそらくは問題ないはず。私も治癒系の魔法は使えるけれど、この指輪に魔法をかけた主は私よりもその分野では上手だろう。

「なるほど…。なら試してみる価値はある、ということね。ところでロムルス、この指輪をフランに嵌める算段はできているの?」

 レミィは乗り気のようだ。それもそうだろう、妹様を治すためならやれることはするだろうし、これまでもしてきた。希望があるなら何でもするに違いない。

 

「あぁ。レミリア、前の戦いを覚えているだろう。あの時に使った、不動金縛りを使おうと思う」

「あー、あれね。体が動かなくなるやつ」

「そう、それを使う」

 

 私も戦いを遠視の魔法で見ていたので、レミィが突然動かなくなってしまったのを覚えている。あの時は何があったのかと思ったが、彼はそういった魔法…?を使えるらしい。剣術や体術もかなりのものだし、無駄に多才だ。

 

「それを使って、束縛して嵌める、と。そういうわけね」

「その通りだ。ただうまくいくかはわからないから妹君がどのような状態か一応確かめておきたいのだ」

「まあ勝算があるっていうなら教えてあげないこともないわ」

 

 そういい、レミィは妹様の様態の話をした。

 

 憑りつかれた後は情緒が不安定で、乱暴になったかと思えば苦しみだし、また暴れる。

 明らかに妹様の声でないものも聞こえることがある。

 そもそも話し方が違う。

 

 そんなことを話していた。レミィが話し終えると、ロムルスは立ち上がり、こういった。

 

「そうか。ならば、問題はなさそうだ。…行こう」

 

 それを聞いてレミィもただ一言、言った。

 

「私も行くわ」

 

 …私もついていこうかしら。だなんて思っていると、レミィに、あなたも行くのよと言って引っ張られてしまった。拒否権はないようだ。まああってもしないだろう。

 

 

 

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 あの、人はいつになったらくるのだろう。

 あの、優しそうな声の人は、わたし中の、この声を振り払ってくれるんだろうか。

 できれば来てほしい。もう一度、声を、そしてその姿も見てみたい。

 でも、会いたくないとも思う。また会ったら傷つけてしまうかもしれないから。

 最近、お姉さまにも会えていない。暴れさせてしまったせいなんだろうか。私の、この…。

 

 

 

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 レミリアとの話が終わり、私とレミリア、そしてパチュリーはこの門の前へ着いた。やはり、少し嫌な気配は感じる。しかも、あれと似ている気配だ。この気配があったからこそ、私は多少の勝算を感じてこの話を持ち掛けたのだ。

 

「さて、着いたか。この門はどう開ければいい?」

 

「私がやるわ。念のため下がってて」

 

 パチュリーが名乗り出て封印を解き始める。この封印を施したのも彼女なのだろう。そして少ししてその封印は解かれ、門は開いた。

 門が開くと感じていた気配はより鮮明になる。私はそう肌で感じまた、確信した。これは間違いなく――

 

「お姉さま、それにパチュリー、会いに来てくれたの?…寂しかったなぁ」

 

 声が聞こえてくる。私が迷子になった時にここで聞こえた声と同じものだ。その声の主はやはりレミリアと同じ年頃の童女だ。おそらく、この娘がレミリアの妹君なのだろう。見ていると、私にも気づいたらしくこちらを見て声を上げる。

 

「あ、もしかしてさっきの男の人?」

「ああ。名前はロムルスだ。君がフランだね」

 

「うん、そうだよ。へえ…そんな恰好して…。何しに来たのかな?わたし、怖いなぁ」

「簡単な話だ。君の中にいる悪いやつを退治しようと思ってね」

 

 私がそういうと、少しフランの様子が変わる。まるでそう、悪口でも言われたかのように。

 

「悪いやつ?何、私が悪いやつってわけ?」

「違う、君じゃない。君に憑りついている者のことだ」

「…私は私よ?何も私の中にはいないわ」

 

 当然のように否定してくる。それもそうだろう、この何年間も隠れていたものが素直に出てくるはずもない。そう話をしているとレミリアが我慢できない様子で話に入ってきた。

 

「いい加減にしてもらおうかしら?今までいろんな手を使ってあなたを引っぺがそうとしてるのよ。とぼけるのもこれまでにしてもらおうかしら」

 

 そういってレミリアは魔力を体に巡らせる。その時こちらへ目配せをしてきた。どうやら気を引き付けるつもりらしい。

 そのレミリアの様子を見た妹君、正確には憑りついてるものも臨戦態勢をとったようだ。あとは私がこちらへの気がそれた内に技を打ち込むだけだ。

 

「フフ…お姉さま、遊んでくれるの?フラン、うれしいなぁ」

 

 邪悪な笑みを浮かべた妹君。だが、それは私への合図に過ぎないものになる。妹君がレミリアへ突っかかろうとした。私はその一瞬の感覚のトリガーを感知する。

 

「不動金縛り!」

 

 そして技を打ち込む。動物は脳が指令を体に送る間、動くまでわずかな時間の隙間ができる。その時間の間は攻撃がし放題になると、時の皇帝であったある格闘家の知識が流れる。

 

「ぐぅ!?ぐがぁっ…。貴様…なにをしたぁ!?」

 

 技はしっかりと効果を発揮している。体は動かなくなっているに違いない。…中の悪魔の声が漏れているようだ。

その様子を確認したからかレミリアはこちらに来てこう言う。

 

「ロムルス。私に指輪を。…姉として、けじめはつけたいの」

「…わかった。ただ、少し気を付けるんだ」

「わかってるわ」

 

 指輪を渡すとレミリアはそういい妹君へ近づく。それを見て憑りついている者も抗議の声をもらす。くるな!などと悶えているがその体、妹君の体はまさに金縛りにあったように動かないでいる。この技を編み出した帝国の兵士にこれほど感謝することはないだろう。

 

「…これで終わりよ。おそらくね」

 

「な、なんだそれは!?やめろ…やめろぉ!!」

 

 抵抗しようと再び体を動かそうとするが動かない。レミリアはそれを見て指輪を装着させる。ちなみに指輪はおそらくレミリアの妹君にはサイズが合わないだろうということで、ネックレスのようになっている。

 

「うぐぅ…!?な、ぐがぁあああ!!」

 

 結果として私の推測は当たったようであった。指輪は効果を存分に発揮し、妹君の中の者へと効果を働かせた。そして、その呪いは妹君の体の外へ出てきて姿を現す。その姿は私の予想していたものと同じであった。

 

「やはり、貴様か…ディアブロ!」

「貴様…なぜ我の…」

 

 青紫色の気色の悪い色の肌に、山羊のようなまさしく悪魔といったような後ろへうねった角、そして翼。それは私があちらの世界で幾度も戦ってきた敵のものだ。ディアブロはかなり力のある悪魔系のモンスターだが、これをどのようにして使役したのだろうか。それは少し気になるところである。

 

「誰に命令された。なぜ、その少女に憑りついていた」

「命令?我が?笑わせるな、人間。我はこの娘の中に召喚されただけのこと」

 

 体内に召喚。なんということだろうか。まさかそのようなことをする者がいるとは…。吸血鬼狩りの者がしたといったが行っていることはとんでもないことだ。決して人道的でない。ただ、その召喚したものもおそらくもうこの世にはいないだろう。

 

「なぜ体に憑りついていた」

「簡単なことよ、その方が面白いからだ。あの小娘の身内が恐怖におびえるのを見ていたら大変愉快でなぁ。カカカ…」

 

 簡単な理由、とはよく言ったものだ。確かに、レミリアを怒らせるには簡単な理由には違いないだろう。彼女の魔力と殺気が私のところまで届く。それだけでも簡単に怒っていることはわかる。

 

「それだけの理由でねぇ…。ロムルス、フランをお願い。こいつは私が倒す」

「任せられた」

「クカカカ!小娘!貴様が相手だと?片腹いたいわ!」

「なんとでも言うといいわ。その時が、あなたの最期よ。」

 

 どうやらディアブロは実力を見誤っているようだ。私はディアブロなど何万倒したか知れない。その私と同じ程のレミリアだ、おそらく勝負は…。

 

「最期だとぉ?それは貴様のほ…」

 

 予想通りの結末になった。哀れな悪魔は紅い悪魔の紅爪に粉みじんに引き裂かれた。爪の戦闘というと私も嫌な思い出しかないが。ともかく、一瞬にしてその悪魔の生命はここから消え去った。最後の言葉も先ほどの言葉となってしまった。その鮮やかな倒し方に私も少し感嘆してしまうほどだった。パチュリーの方もこうなることがわかっていたのか、たいして心配はしていない様子だ。

 そして魔力と血で朱くなったその爪を払いつつ、レミリアはこちらへ向かってくる。だがその様子はまだ緊張が走っている様子だ。

 

「終わった、わね。あっけないものだったわ…」

 

「あんだけ私の解呪に抵抗してきた悪魔がこれだけ弱いなんて…」

 

 パチュリーはそうはいているが、あれも一応、強い部類のモンスターである。ただ、レミリアが強いだけだ。そうは思うがそのことは口に出さず、レミリアに妹君の容態を伝える。

 

「レミリア、どうやら君の妹君は無事のようだ。念のため回復の術はかけておいたが、おそらく大丈夫だろう」

「そう…。ならよかったわ…。本当に、本当に終わったのね」

 

「そう。終わりだ」

 

 そういうとレミリアは糸の切れたかのように妹君のそばへ倒れこむように座る。…何年も思い煩っていた大問題が解決したからだろう、その顔はやはり安堵にあふれていた。

 

「…ロムルス、ありがとう。本当に、本当に、ありがとうね」

 

「…あぁ。」

 

「…お礼は、後で、するわ。だから、今は、上に行っていてちょうだい」

 

「…わかった」

 

 とぎれとぎれのその言葉が意味するところは私もすぐにわかるくらい単純なものであった。部屋を出る前に一瞥したその頬には、おそらく…。




以上になります。
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