ゆめまぼろしの皇帝と楽園の住人   作:あだもすてー

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素晴らしきこの紅魔館

 ロムルスは再びレミリアの部屋を訪れていた。しばらくしてから今度はレミリアの方から呼び出されたためである。だがロムルスは少し戸惑っていた。部屋から感じる魔力は以前のレミリアのものと、どこか違うものを感じたためであった。それでもロムルスは考えていてもな、と呟きその部屋に入った。

 

 そこにいたのは確かにレミリアである。だが、その姿はロムルスが初めて目にしたもとは違い、紅と黒とを基調にしたドレス、最初にロムルスと会った時より吸血鬼らしい服装となっている。

 だが一番変わっていたのは服装ではなく、レミリア本人であった。

その見た目の年齢は以前のあどけないものでなくおそらくはロムルスと同じ年頃、20代といったところだろうか、まさに人の年齢でいうところの絶頂期を迎えたものであった。顔つきは以前の面影を残し、しかし幼さは残さずに。まさに美女と言った顔立ちである。背の方も以前はロムルスの腰と同じほどの高さだったのが肩のあたりにまで伸びている。体の各部もより女性らしく、妖艶なものとなっていた。

先に口を開いたのはその姿にあっけにとられてしまったロムルスであった。

 

「そ、その姿は…?」

 

「すぐに話すわ。さ、こっちの席に座って」

 

 そう促され、ロムルスは席に座った。その様子はまだ驚いた様子でレミリアを見つめている。その視線を感じたのか、レミリアはロムルスが座るとすぐに話し始めた。

 

「色々聞きたいことはあるかもしれないけれど、まずはこれだけ言わせて」

 そう一息、間を置く。そうして再び話し始める。

「妹を、フランを助けてくれてありがとう」

 

 レミリアが始めに言いたかったことは感謝の言葉であった。喜びに満ち溢れているその顔から出る言葉もまた、喜びにあふれていた。その言葉につられてロムルスも驚きに支配されていた表情を崩した。

 顔がほぐれたからか、ロムルスはそれにつられて言葉を返した。

 

「ここにこの身を置かせてもらえる礼とでも思ってくれればいい。気にすることはない」

 

「ふふっ、なんだかんだでここにはちゃんといてくれるのね。気にしなくていいなら執事の方もよろしく頼むわよ?」

 

「ああ、しばらくの間世話になる。…で、だ。その姿はいったい何があったのだ?」

 

「そうねぇ…。吸血鬼も不老不死ってわけじゃないわ。杭を刺されれば死ぬし、老いだって無いに等しいものだけど一応あるわ。それはいいかしら?」

 

 ヴァンパイアと幾度も戦ったことのあるロムルスは当然、そのものたちが自分たちに倒され灰に戻るのを何度も見ている。それゆえに不死でないことの理解は容易であった。

ただ老いの部分については少しわからない様子であった。

 

「不死でないことはわかる。老いについては…つまり、吸血鬼というのは人間と比べて老いるのが遅い、そういいたいと?」

 

「そんなところかしらね。もっというと、私たちは大抵魔法、妖術の類を習得しているわ。だから人でいう成長期よりも老いることをなくすことができるのよ」

 

「なるほど、常に全盛期のままでいられるということか」

 

「その通り。その姿がこれよ」

 

 そういいレミリアはその翼を広げ、手を広げ、自らを誇示するようにした。その広げる動作一つ一つがまた、人を魅了するようなものであった。

ロムルスもその姿に少し見とれてしまったが、ある根本的な疑問があったことを思い出し、こう尋ねた。

 

「だが、なぜその姿に?レミリアはなぜ最初からその姿でいなかった?」

 

「…悔しいけど、フランにかかった呪いの効果がよくわからなくてね。元に戻った時に記憶に影響があった時、混乱しないように、昔のままの姿でいたのよ」

 

 その言葉にロムルスは、引っかかっていたものが取れたような表情になった。だが、またどこかしこりがあるような表情に戻ってしまう。だがそれは、レミリアの言葉によってなくなるものとなった。

 

「ああ、そうね。なんで貴方を呼んでこの姿見せたかというと、あなたと話すときはこうしたかったから。あなたとは隠し事を無くしたかったのよ」

 

「私に隠し事はしない?それはどういうことなんだ?」

 

 ロムルスがそう言葉を返すと、レミリアは少し恥ずかしそうな表情を一瞬してしまう。だが、それの意味するところをロムルスは察することができないでいた。

 

「え?ええとね…。そう、これから友人兼執事として働いてもらうんだから、隠し事があるような恥ずかしい主ではいたくない、そうおもったからよ。本当よ?」

 

 ロムルスは基本的には鈍感でない男である。この時にレミリアが自分のことを客人から友人と言い方を変えていることにも気づいている。また、戦闘においては鋭すぎるほどである。その戦闘の感はこういった場面でも多少は役に立ったようで、なんとなく、彼は彼女の思いをくみ取ることができた様子の表情をしている。

 

「ふふっ、そうか。私を、認めてくれるということか」

 

 そう彼が聞こえるか聞こえないかの声でつぶやくと、レミリアは少し顔を赤くしたが聞こえないふりを決め込んだようだ。あからさまに目を泳がせ、あちらこちらを見まわしては、埃が少し落ちてるわね、などとつぶやく始末である。

 

 そんなレミリアの姿を見て、ロムルスは再び少しだけ表情を綻ばせた。見た目は変わっても彼女は彼女なのだと確信しつつ。

 ロムルスがそう考えていると、そんな空気を吹き飛ばしたかったのか必死に話のタネを探していたレミリアは何か思い出したかのような表情をした。

 

「あ、そうだわ。お礼の方はきちんとするわよ。忘れるところだったわ」

 

「いや、気にしなくていいといっただろう」

 

「でもね、こういうのはきっちりしとかないとこっちも気持ちが悪いものよ。それとも受け取れないのかしら?」

 

「…見た目が変わっても、性格は変わらないのだな。わかった、厚意に甘えて受け取るとしよう」

 

「ボソボソ言ってた部分が気になるけど…。まあいいわ。それじゃあお礼の方は何がいいかしら?」

 

「そうだな…。金品の類は必要ないから…。そうだ、魔術を教えてほしい。戦いの時に使っていたものに興味がある術があった」

 

 ロムルスが自分の術に対して興味を持ったのを聞き、レミリアはもっと違うところにも興味を持ちなさいよ、などと考えはしたが、そのことは頭の奥に引っ込め――きれず顔に出しながら答えた。

 

「はぁ…。…術ね。いいわ、それなら教えてあげるわよ。ただ魔術を教わりたいならパチュリーに聞きなさい。あの娘の方が魔法に関しては私より上手だから」

 

「わかった。そうさせてもらうとしよう」

 

「それにしてもねロムルス、もう少し冗談とか言えないのかしら?」

 

 あきれ顔でそういうレミリア、それに対し少しわからない様子でいるロムルス。その顔を見たレミリアは少しため息をついた。そのまま微妙に恥ずかしげに表情を変えた。

 

「たとえばよ。私を一晩好きにしたい、だとか。せっかく私がこの姿でいるんだし」

 

 まあ皇帝様がそんなこと言えないわよね、とレミリアは皮肉を続ける。その言葉を聞き、ロムルスは笑いはじめてしまった。レミリアがうかがわしい表情でロムルスを見ていると、ロムルスは笑いながらテーブルを挟んで反対側へいるレミリアの方へ近づいて行った。その表情はいたずらを思いついた少年のような顔である。

 

「フフ…。そうだな…。私は言うならば君の家族の恩人だからな。確かに術を教えてもらうだけでは釣り合わないかもしれないなぁ」

 

 そういいロムルスはレミリアの顔、顎のあたりに手をすえ少し上に向けて顔を近づける。そして次にそのまま倒れこんでしまった。とても近くに顔が寄ったため、相手の息がかかるくらいの間隔になってしまっている。レミリアはというと完璧に油断していたために拍子を抜かれた顔になってしまったようである。そしてすぐあとに今度は顔が赤くなり慌てた様子になってしまう。

 

「え、ちょ、ちょっとロムルス?たとえで言ったのよ?別に本気にしなくても…」

 

「ほう…。私は、本気で言ったつもりだ。先にいったのは君の方だ、レミリア」

 

「う…。それはそうだけど…。じょ、じょうだんよね?」

 

「フフ…。私も、男だからなぁ。こんな美女に誘われてしまっては…」

 

 そういわれレミリアは縮こまってしまう。投げたブーメランが帰ってきたような状況に完璧に混乱している様子。そしてロムルスはというと、とても悪い顔をしてもてあそんでいるようである。その眼はある意味本気の眼である。

 

「自分の言った言葉には責任を持つべきだ、レミリア。さあ…」

 

「え、え。ま、待ってロムルス。そんな顔近づけちゃったら…。ま、まだ心の準備とかが…」

 

 ロムルスが少しづつその唇を近づけていく。レミリアは跳ね除けることもできるはずなのに、まるでロムルスがテラーボイスを使ったように混乱しているせいで動けないでいる。ロムルスはその様子を見て本当に寸前で近づけるのをやめ、少し顔の位置を戻した。

 

「…。嫌なら、思いっきり跳ね除けてかまないぞ。そんな縮こまらなくてもいいだろう」

 

「…え?あ…。うー…」

 

 ロムルスがせっかく与えてくれた打開策を聞いても、レミリアは何もしなかった。正確には話すことしかしなかった。

 

「あ、あなたはフランの命の恩人だし、そんな乱暴なことしてもって思って…。わかったなら早くどきなさいよ!」

 

「そういわれては仕方ないな。…ふふっ、私もこれくらいの洒落を利かせるくらいするさ」

 

 レミリアに言われ素直に身をどけるロムルス。その様子と今の一言でレミリアはすぐに事を悟ったようである。

 

「あ…。あ、あなた。嘘だったのね!?」

 

「はっはは。言われたからどいただけさ。嘘は何にも言ってない」

 

「この…!ロムルス…!覚えておきなさいよ!」

 

「さて、何を覚えればいいやら」

 

 してやったりといったロムルスに対し、完璧に引っ掻き回された様子のレミリア。いたずらの犯人と被害者といった様子で、最初のレミリアの皮肉の時と様子が逆転してしまっている。顔も涼しい表情のロムルスに対して、レミリアはロムルスの世界のヌエのような顔色である。怒りと恥ずかしさで大人となった顔には似合わないものになっている。

 

「くっ…。もうでていきなさい!私は疲れたから寝るわ!誰かさんのせいでね!」

 

「ふふ…。ゆっくり頭を冷やして寝るといい」

 

 ロムルスはそう言い残して素早く部屋を後にしていった。レミリアは出ていった様子を見てまだ感情が収まらない様である。そして一言、こういって感情をぶちまけた。

 

「今度戦うときは絶対倒してやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 部屋を出たロムルスは外をみてもう夜中になっていることに気づいた。月が窓からもよく見えて、その輝きがよく見えるようだ。ロムルスが先ほどの自分の行動を振り返って、少しやりすぎたかなどと思っていると、誰かが近づいてくるのに気付いた。紫色のローブを着たその少女はパチュリーであった。こちらはレミリアと違ってなんら変わっているところはないようだ。

 

「話は終わったかしら」

 

「ああ、今さっきだ。喜んでくれたようで何よりだ」

 

「それはそうでしょうね。で、私に魔術を教えてほしいんでしょう?」

 

「盗み聞きか。いい趣味とは言えないな」

 

「…正直あんなもの見ててハラハラしたわよ。まったく…」

 

「はは、あれも見られていたか」

 

 ロムルスはそういって笑い、パチュリーは少し呆れ顔でそんなロムルスの顔を見る。ただ、パチュリーの表情もいつもと違ってやわらかい表情になっている。

 

「まぁいいわ。私もあなたの魔術には興味あるからそのうち、交換条件で教えようとは思ってたからちょうどいいわ。とりあえず、もう夜も遅いし次の日に私の図書館へきて」

 

「了解した」

 

 そういって二人は自室へと戻っていった。この日の気苦労を癒すために。明日への英気を養うために。

 

 

 

 

 ロムルスは部屋へ戻った後、すぐにベッドへ横になった。彼にとって、この日は何かと驚くことばかりであったからだ。フランの呪いの正体、そして先ほどのレミリアの姿もまた然り。――後者にはロムルス自身も軽い意趣返しを行いはしたが。この世界へ、紅魔館へきて驚くことばかりなのだ。

 

「とりあえずは、一安心か」




以上になります。
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