ゆめまぼろしの皇帝と楽園の住人   作:あだもすてー

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微妙に独自解釈が入っています。ご注意ください。


悩みの種

 目が覚めた。少しうっとうしい日の光がちょっぴり目に入る。ここは地下でもないみたいだ。

…それにいっつもあったあいつの気もなくなってる。

 

「私…」

 

 私がそうつぶやいていると、誰かが部屋に入ってきた。一人は淡い青い髪をした、よく知ってる顔。お姉さまだ。もう一人はパジャマみたいな紫のローブを着た人。パチュリーだろう。魔法使いだからやっぱり年はとらないみたいだ。そしてもう一人、日の光に照らされた私と同じ金色の髪に優しそうな表情のついた褐色の顔。この人は昨日のあの人。間違いない。

 

「あ…お姉さま…」

 

「おはよう、フラン。体調はどう?」

 

「うん、もうなんともないみたい」

 

「そう…よかった…」

 

 お姉さまから心からの安堵の声があふれてきている。それはほかの二人にも伝わっているようだ。私も、私のことをしっかりと心配してくれていることにすこし嬉しく思ってしまう。

 

「今まで心配させてごめんなさい、お姉さま。それにパチュリーも」

 

「フランが悪いわけじゃないわ。だからそんな風に思わないでいいのよ」

 

「うん…わかった」

 

「そう、それでいいの。それに、何か言うならもう一人いう相手がいるでしょう?」

 

 そう、もう一人いる。あの人だ。

 

「うん、わかってるよ。お兄さん、私のこと助けてくれてありがとう」

 

「ああ。元気になってくれてよかった。お礼の方はレミリアからしっかりもらってるからきにしなくていいさ」

 

 そういうと、お姉さまはなぜか顔を少し赤くしている。まるで桃みたいに淡く、一瞬だけど確実に赤くなっていた。それを見逃す私ではない。…なんで赤くなったのんだろう。

 

「お姉さま、顔が赤いわ。どうしたの?」

 

「何でもないわ。ねえロムルス?」

 

 そうお兄さん、ロムルスって名前ね、に話を振る。なんでもないわけでは明らかにないでしょうお姉さま。

 

「ん?あぁ。そうだな。特に何もなかったはずだが…レミリアは何か恥ずかしかったのか?」

 

「そんなわけないでしょう?少し黙ってなさいよ」

 

 どう見てもムキになっているお姉さま。それに対して涼しい顔のお兄さんに、そ知らぬふりのパチュリー。

これ以上話をほじり返すとお姉さまがかわいそうだ。だから私は話を変えることにした。

 

「あ、そうだ。お姉さま、お兄さんと二人で話がしたいんだけど…」

 

「え?ええ、別にいいわよ。…余計なこと言うんじゃないわよロムルス」

 

「ははは、やましいことは別にしてないだろう?」

 

 お兄さんがそういうとお姉さまは本当に駄目よ!、と言いながらパチュリーと部屋を去って言った。…パチュリーは何もしゃべらないで行ってしまった。

 

「さて、話というのは何かな」

 

「本当は特にないの。ただ、お兄さんがどんな人かなっておもったから」

 

 私がそういうとお兄さんは笑いながら言葉をつないだ。

 

「はは、そうか。こうしてちゃんとした状態で話すのは、これが初めてか」

 

「うん、あの時は私が私じゃないみたいだったし…」

 

「…まあ今はこうして健全な状態で話せている。それだけでも十分だ」

 

「本当に、本当にありがとう、お兄さん…」

 

「ああ」

 

 最初に話した時みたいに、とても優しい声と表情話しかけてくれている。多分、それはこの人の本心に違いない。こういう人柄なのかもしれない。でも、どうして赤の他人の私を助けてくれたのだろう。それだけがわからない。

 

「それにしてもお兄さん、どうして私を助けてくれたの?お姉さまから私のことは聞いていたんでしょう?」

 

「特に理由はないな。自分にできることで何かしらレミリアにしてやりたかった。ここに住まわせてくれる恩返しと言ったところだ」

 

「へぇ…。お姉さまへの恩返しね…。それならもっと楽なことでもよかったんじゃないの?」

 

 というよりも普通ならできないと考える。パチュリーでもできなかったことだから。そのことを聞いているならば普通の人――人でなくても、無理だと考えてしまうはずだ。

 ただ、それでもこの人は成し遂げて見せた。しかもとてもあっさりと。私にはもう、ただの人、という見方はできないでいる。

 

「…レミリアが一番望んでいたことは多分フランドール、君の呪縛を解くことだからだ。話をしたからわかるが、レミリアはフランドールのことを話すときにはとても悲しそうにしていたからな。あとは二人のことを放っておけなかったからだ」

 

「…それでできるっていうのもすごいわ。それと、私のことはフランでいいわ。お兄さん」

 

「あぁわかったよ、フラン。…それにしてもお兄さんか…」

 

「ふふっ、名前で呼んだ方がいい?」

 

「いや、好きによんでくれてかまわない」

 

 やっぱりこの人は根から優しいみたいだ。そしてとても強い。正義心があっても力がなければ、勇者でなく愚者になる。だけどこの人はその後者ではない。…それに、さっきのお姉さまとのやり取りを見ると頭が固い、と言ったわけでもなさそうだ。

 一言で済ますなら素晴らしい人だ。私はそう思う。

 

「…お兄さんと話してるとなぜだかとても安心するわ。また、お話してくれる?」

 

「もちろん。私は当分はこの館で厄介になる。その間はいくらでも」

 

 当分という言葉に引っかかる。つまりいつかはいなくなるということなのだろうか。…それは少し嫌かもしれない。いや、かもしれないじゃない。私はずっといてほしいと思っている。ただ、それを言うとこの人を困らせてしまう。それも嫌ではある。

 

「…そう。じゃあここにいる間は毎日お話してね?」

 

「ああ、約束しよう。…そうだ、そろそろ別の用事がある。フランも来るか?」

 

 お兄さんは思い出したように言い出す。もう体調も問題ないから私の答えは一つだった。

 

「うん、一緒に行くわ」

 

 

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 ある紅魔館の部屋の中でまた一人の少女が眠りから覚めた。 疲労と戦いからの純粋な休眠に加えて、弱めの催眠魔法により深い睡眠に陥っていたこの少女は、あの夜、ロムルスの前にレミリアと戦っていた少女であった。

 少女は華奢なその体を重そうに起き上がらせると、自らに何があったかそれは理解できた。ただ自らがいる場所がわからず、そしてとても大切なものを忘れた、というより初めからないように記憶から抜け落ちていた。

 

「私…。私の…」

 

 少女がそういっていると一人の少女が現れた。翼をはやし、赤いドレスを着たその少女は間違いなく、レミリア・スカーレット、本人であった。レミリアを目にした瞬間、彼女のある言葉が思い浮かんだ。

 

「思い出したかしら?あなたの…名前」

 

「な…まえ…。私の、私の名前…」

 

「私の名前は――」

 

 これはロムルスが吸血鬼の妹、フランドール・スカーレットと親睦を深める日、その日から数日たったある日の出来事。ロムルスがあの時、自分の前に闘っていた少女がこの館にいることを知るのはまた別の日である。

 

 

__________________________________________________________

 

 

「来たわねロムルス」

 

 そう返事をするのはこの部屋、というより図書館に住む魔女、パチュリー・ノーレッジのものであった。そしてその魔女に呼ばれたのは元皇帝ロムルス、そして同伴するのはフランドール・スカーレット。ロムルスがここへ来たのは先日の約束を果たすためであった。

 

「フランも一緒だが、構わないか?」

 

「別に問題ないわ。変なことをするわけでもないから。…とりあえず魔術を教えればいいのよね」

 

「よろしく頼むよ」

 

「あ、お兄さん、パチュリーに魔法教えてもらうんだ」

 

「ああ、レミリアに紹介をしてもらってな」

 

 そういいロムルスたちは部屋のさらに奥へと進んでいった。少し進んだ場所にあったのは開けた空間であった。ただ、普通の空間と違うのは床に魔方陣、そして燭台のようなものが四隅に置かれていた。誰が見てもそれが魔術的なものだとわかるものであった。それを見て思わずロムルスは声を漏らした。

 

「なるほど…ここで魔術の研究をするのか。私の国にも魔術の研究所はあったが…。こちらの方が質がよさそうだな」

 

「まあ私をなめてもらっちゃこまるわ。これでもだてに吸血鬼の友人やってないわ」

 

「じゃあ吸血鬼の執事である私はどうなることか」

 

 パチュリーはそういわれ、少し考え込むように首をかしげた。そして少し間をおいて答えた。

 

「…まあ普通の人間じゃないわね」

 

「ははは、褒め言葉として受け取っておこう」

 

 やり取りを聞いて疑問を浮かべたのはフランであった。

 

「お兄さん、お姉さまの執事なの?」

 

「そういえばフランには話してなかったか」

 

「まだ話してなかったの?ロムルス」

 

 笑いながらロムルスは忘れていた、と言ってフランに自らの経緯を話した。自分が別の世界から来たであろうこと、レミリアと戦ったこと。一切嘘はなく話した。だが…

 

「うーん確かに強そうだなって思ったけど…。お姉さまと相打ちって人間業じゃないってのも確かにわかるかも…」 

 

 このように少しフランにあやしまれつつ、ひかれてしまった。ただロムルスは全く悪くない。しいて悪いところと言えばその過剰な戦闘能力であろうか。ただ、それだけ強靭であっても彼はこうしてさらに強くなろうとする。そしてそれを聞いて口を開いたのはパチュリーだった。

 

「それだけ強いってのに私に魔術を教わろうとするのもおかしなことね」

 

「…確かに、強くなることも考えものではあるけれどな」

 

「そうなの?お兄さん」

 

 フランがそういうとロムルスは思い当たる節があるように話はじめた。

 

「人は自分と違うものを排除する傾向がある。…件の吸血鬼狩りの者も同じだ。たとえ危害を及ぼしてないにしても、いつかは自分たちの脅威となるかもしれない、そう思うものも少なからずいる。それが行動につながることもある。…先ほど話した七英雄もその被害者だと私は思っている。…私もそうなっていたかもしれない」

 

 そういうとフランは少し感情的に口を開いた。それは自らをかばう、というよりロムルスをかばおうとするものであった。

 

「でもお兄さんは私を助けてくれた。それにお兄さんはみんなのために闘っていたんだから、そう思われる筋合いはないよ」

 

 フランがそういうと今度はパチュリーも珍しく自分の意見を口に出した

 

「それにねロムルス。そう思う人たちはこの世界にはいないし、いうなれば私たちは…人間ではないわ。ここにいればそう思われる人もいないと思うわ」

 

 フランドールとパチュリーがそう話し終えるとロムルスは、ロムルスは驚きと安堵が入り混じったかのような感情を顔に出した。その表情は彼が今までしたことのないような顔だったらしく、彼自身もその表情をしたことに少し驚いた様だ。

 

「…。私を、そう思ってくれるのか」

 

 彼はそうやって、まるで自らの溜まった毒を吐き出すかのように重く、ゆっくりと声を出した。フランドール、パチュリーの二人はこの男が、吸血鬼と戦いあえる人間がこのような弱々しい姿をするのかと心内に思った。そしてフランドールは教えさとすように話した。

 

「そうだよ。お兄さん。私はそう思うわ。むしろ、私はお兄さんといると安心するわ」

 

 フランドールがそういったのに対して、パチュリーもこう言った。

 

「まあ、私の邪魔をしなければいいわ。…なんて言わないわよ。私もあなたに興味があるもの」

 

「そうか…。ありがとう、二人とも」

 

 ロムルスはそう言い終えると頭を抱え込んだ。少し震えている様子である。

その様子をフランドールたちは何も言わずに見ていると、少ししてロムルスは顔を上げて笑い出した。

 

「柄にもない姿を見せたな。こんな話をしてすまなかった」

 

 その姿をみてフランドールも幼い顔に無垢な笑顔を浮かべた。

 

「ううん。私はお兄さんのことをもっと知れてでよかったと思ってるわ。それに、こんな一面があるのもちょっとかわいいかも」

 

「かわいいだなんて初めて言われたな。これはまいったな」

 

 

 ロムルスがそう困った顔で言うとその場に再び、笑いが起きたのであった。




以上になります。
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