「ますたー、団子食べに行きましょう」
太陽王の輝きにも負けない笑顔、ローマの暴君のような甘えた声で、彼女は俺に提案した。彼女は沖田総司。この人理を救う活動の中で出会い、別れ、そして改めて仲間になった少女だ。名前から察せるとおり、あの新撰組の沖田総司である。俺の記憶が正しければ沖田総司は男のはずなんだけど、どうも違うらしい。そこはもう最近知り合った武蔵ちゃん同様「そういうことなんだよ」で済ますことにした。だって可愛いは正義だし。是非もないね!
そんな彼女は俺の寝室のベッドでごろりと寝そべってはカルデア支給端末「フォウフォン」にてなにやら動画を見ている。君は自由だね。そろそろソロモン戦だよ?
「団子って、またお月見ロワイヤルするの?」
「え、何ですその兎のサーヴァントが出そうなイベント。ノッブイベよりそっちの方に出たかったー!」
ガバッと起き上がったかと思えば再び体を投げ出しベッドに飛びつく。まるで猫だ、新撰組からすれば犬なのに。国家の犬ってちょっとそそらない? そんな事ない? ないかー。
「まえにね。オリオンって知ってるだろ? 彼と出会ったときのことさ」
「あの女の人なのか男の人なのか分からない人ですか? こまりますよね、特攻とか効かないし」
「男女の件は該当者が多いからこの際抜きにしよう」
君だって俺は男だと思ったぞなんて言わない。彼女は沖田総司、俺の知ってる沖田総司とは同姓同名の別人。色々該当するところ多いけどそういうことにしてる。言い出したら始まりのアルトリアからつっこまないといけないからね。
「で、何でしたっけ」
「いや、それはこっちの台詞なんだけど……団子が食べたいんだっけ、ならエミヤと藤太に頼もう。すぐに団子を作ってくれるよ」
「うぇっ……いや、そうじゃなくてですねマスター」
「?」
ベッドに座りなおし真っ直ぐにこっちへ視線を向けつつも手の挙動がおかしい沖田さん。こっちが何か理解し間違えたのか伝えようと必死で、手が時おりサインに見える。すまない、そういうサインはマシュともまだなんだ。初めては取ってるんだよ。
「れ……れっ……」
「れ? お出かけですか?」
「違います! っていやそうなんですけど!」
おぉ、バカボン知ってるのか沖田さん。確か現界するとそのときの情報が入るんだっけ、それなら知識として存在していても間違いない。
「何考えてるのか分からないですけど多分違いますよ」
心を読まれた。流石は剣士、心さえも読んでしまうのか。
「ますたーは顔に出まくりですよ~。はぁ緊張して損した。では改めてますたー」
ひょいっと立ち上がった沖田さんは俺の手を握り再び笑顔で
「お団子食べにレイシフトしましょう!」
嬉しそうに言った。
☆
レイシフト先はどことも分からない場所。だがアジア系なのは理解できた。
「これ、笹だ」
竹は確か湿った暖かい気候の場所にしか生えない。つまりヨーロッパや北アメリカには生息してないはずだ。さっきのお団子の件を考えると多分ここは日本、しかも空気が澄んでいるのを考えると産業革命やなんやらよりも前の自然豊かな頃だろう。それこそ牛若丸達が活躍していた戦国時代かもしれない。
「にしてもどうして唐突に団子なんだ? さっきも言ったけどエミヤに頼めば」
「まぁまぁそんなこと言わず、さささっ、こちらですよ~」
言われるがままに彼女に手を連れられの二人旅、まさかマシュと一緒にレイシフトしないなんて思ってもみなかった。いつもなら我先にといつも一緒に行ってたのに。
竹林をぐんぐんと進み、道なき道を奥へと進む。迷いなきその動きに彼女は何度も来てるのか? と疑問に思ったほどだ。だが考えてみればうちのカルデアは食料とるためにレイシフトしてるんだった。沖田さんがすいすいと進めるのも頷ける。
ふと草花の香りとは別に暖かく良い匂いがしてくる。食堂でよく嗅ぐうどんの汁の匂いだ。白だしのつゆは旨いんだよなぁと、気づけば腹は鳴り唾が増える。
「ちょうどお昼前ですもんね。ますたー、来てよかったでしょ?」
「うむ、たまには外で食べるってのも良いね。ナイスアイデア」
「えへへぇ、もっと褒めても良いんですよ~」
暫く歩いて見えてきたのは昔話で見るような「ザ・茶屋」の姿。煙がもくもくしているのも目に映る。ご丁寧に「だんご」の文字。うん、シンプルで良い。素晴らしい。
「こんにちは~」
「はいはい……ってまぁお嬢ちゃん、また来てくれたのかい」
「はいお婆ちゃん。沖田さんここの団子食べないと力入らなくて」
暖簾をくぐってみれば彼女の顔なじみなのか、おじいちゃんとおばあちゃんがで迎えてくれた。アットホームな感じがポイント高いぜ。気分は審査員、団子が待ち遠しい。
「あらまぁついに例の子連れてきたのね」
「ん? 例の子?」
「あぁお婆ちゃん、団子2人前ッ2人前ください!」
「ははぁどうしたねお嬢ちゃん。いつもは4人前食べるのに」
「ちょいとお前さん、口閉じないと縦に斬りますよ」
「ひぇ~おっかねぇ」
「??」
なんだ、さっぱり分からない会話だ。とりあえず理解できたのは沖田さんが食いしん坊だってことだな。後で腹のたるみをチェックしないと……ぐへへっ俺のツインアームビッククランチが火を噴くぜ。
「じゃあ二人で待っててねぇ」
おばあさんが厨房へといなくなり、俺達二人は茶屋の席にてお茶を啜る。んー、ちょい渋だが旨い。この苦さこそが甘さを引き立てるというもの。
「ますたー、先ほどの件は聞かなかったことにしてください。時々ですからね。時々だんごをちょーっとばかし多く取るんです」
「心配なのは君の財布の中身だよ。寂しくない?」
「いえいえ、それは大丈夫です。何故なら沖田さん、ちゃんとここでもお小遣い稼ぎしてますから」
「そうか、だから団子5人前でも大丈夫なんだね」
「……2人前ですよ~? 沖田さん小食ですし~」
「そっか、6人前だったか」
「加算しちゃ駄目ですよ三段突きー!」
からかい過ぎた。わき腹に手刀が刺さった。これ以上すると斬られてしまう。彼女は病弱な少女だが立派な侍だもんな……って、あれ?
「そういや沖田さん、今日は吐血しないね」
「お、そこに気づくとは。流石はますたー。私の事をよく見ていらっしゃる。例の病気は神代の魔女さん二人のご協力によって今日一日は健康を維持できるそうなんですよ。これ以上は無理らしくて残念ですが」
神代の魔女二人を持ってしても一日なのか。君の病気【KEKKAKU】だったのかい?
そんな俺の心配なんてつゆしらず、沖田さんは再びずいーっとお茶を飲んだ。
「あー、空青いですねー」
「そうだなー。いやぁこんな良い天気にお茶をずいっとするのは何とも言えない喜びを感じるね」
「おぉ、流石はますたー。通ですねぇ」
「へっ、縁側の立香君とは俺のことでぃ」
パチパチと拍手を貰う中、ついにやってきた団子。みたらしと小豆が二本ずつ。白玉かと思ったけどこれはこれは旨そうだ。
エミヤが作ってくれた団子もそうだが、うまい人が作ると光沢が綺麗だ。まさに職人にしか生み出せないと言いますか、やっぱ手作りが良いんですよ手作りが。
一口目を口に含む。まずはみたらしだ。噛んだ時に広がる甘さ、その名の通りみたらし。たれがほんとに甘くて好きだ。砂糖醤油は良い文明。
「旨い、沖田さんが何度も来るわけだ」
「でしょでしょ! ここのだんごは今まで食べたどこのだんごよりも美味しいんです。これは土方さんに食べさせてあげたかった。ねじ込みますよぐいーっと」
「痛そう」
気がつけば食べ終わっている。何ということだ、これは4人前食べてしまうのも仕方がないのかもしれない。
お茶をずいっとして口の中の甘さを一度リセット。続いて小豆を口の中へ放り込む。みたらしとは違う甘さ。これはこれで甘くて旨い。昨今日本人の和菓子離れが懸念される現代日本を思うとこの味は忘れてはならないと確信した。俺、世界救うよ。
「プヒーッ、ご馳走さま。旨かったー!」
「それはよかったです。来て正解でしたね」
「うん。でもどうして急なんだ? いつでも来れると思うんだけど」
「わかってないですねぇ」
小銭をおばあさんに渡した沖田さんは刀を抜きその場で何度も素振りをする。俺じゃ絶対にたどり着かないであろう域の音、高音と低音が混ざった音を斬る彼女の剣筋はまさに天才だ。
「もうすぐ、ソロモンとの戦いじゃないですか。そしたらここにも当分来れないし、だから大好きな人と美味しい団子食べながらのんびりしたかったんです。また食べに来るために、また二人で来るために」
気がつけばカチャリという刀の音と共に風が舞い。地面を土煙が這う。先ほどよりも速い一閃が時を斬ったように、すでに刀身は鞘へとその身を隠していた。まさに絶技、小次郎とは違う極致。壱の一だろう。
「まぁソロモンなんて沖田さんの手に掛かれば牙突ゼロスタイルなんですぐに戻って来れますね!」
「……あぁ、頼もしいよ」
これほどの天才がいるのに、人理を救えないのは寧ろ俺が原因だ。なら大丈夫、彼女がいれば、明日を取り戻すなんてすぐだろう。
「その時は7人前食べようね」
「ねぇますたー、なんでさっきから数が増えてるんですか? わざとですか? ねぇますたー!」
沖田さんはクィック強いよね。持ってないけど。