ZOIDS ~Era Travelers~ 作:Raptor
皆が談話するという大広間にオスカーは1人座っていた。
手元にあるコーヒーからまだ湯気が出ているということはここにきてからまだそんなに時間が経ってないのかもしれない。
「中佐。」
なにやら資料を読み込んでいるオスカーにシュンは声をかけた。
「おお、シュン。どうだ、少しは………」
「俺を解放戦団に入れてください。」
オスカーの会話を遮るようにシュンは間髪入れずそう言った。
その瞬間、後ろから思い切り肩を掴まれる。
「シュン、お前どういう風の吹き回しだ。」
案の定その手の主はケイトだった。
その目は初めてあった時のように鋭い。
いや、あの時以上かもしれない。
「戦うって決めたんだ、ディガルドと。」
ケイトの方を向きそう告げると今度は胸ぐらを掴んできた。
「てめぇ、リアン村の時と言ってることが全然違うじゃないか!!」
ケイトは声を荒げる。
当たり前だ、昨日あんなこと言っておきながら今度は戦いたいなんて言っているのだから。
でも、これが俺の出した答えなんだ。
そう言おうとした時だった。
「ケイト、そこまでにしろ。」
「だけどよ、オスカー。」
「いいから離してやれ。」
渋々という形で彼は手を離した。
「さあ、シュン。入団の理由を聞かせてもらおうか。」
オスカーはシュンをまっすぐ見つめる。
その瞳は見たこともないぐらいシュンを貫いていた。
一瞬背筋が凍りそうになる。
「俺、考えてたんです。リアン村を出てから………。自分はなにをしてるんだろって。」
シュンも同じようにオスカーをまっすぐ見つめる。
「皆が笑顔で暮らせる世界のために戦えば、戦争になれば傷つく人がたくさん出る。それが怖かった。でもわかったんだ、ディガルドはそんなに生易しいものじゃないと。それがわかっていても自分ではどうしたらいいかわからなかった。」
握っていた拳をさらに強く握る。
「白い空間でであったカノンという女性に言われたんだ。まだ自分の心と向かい合えていないだけだって。考えた………、俺の本心はなんなのか………。」
なぜだろう。
身体が震えている。
怯えているのだろうか。
決意はした。
でもこの言葉を言ったらもう………
戻ってこれないかもしれない。
「俺の本当の気持ちは………。」
言い出すのが怖くて怖くて仕方なかった。
そんな時だった。
『シュン、怖くないのですよ。シュンは1人じゃないのです、私がいつでも側にいるのですよ。』
声が聞こえた。
その声に背中を押された気がした。
「俺は、この世界を救いたいっ!!!」
ありったけとはこれぐらいだろうか。
ありったけの声で彼は叫んだ。
大広間には沈黙が流れていた。
「それがシュンの本当の気持ちなんだな。」
そう言ったのはケイトだった。
「もちろんだ。だから中佐、解放戦団に入れて…………」
「だめだ。」
今度間髪入れず言葉を遮ったのはオスカーだった。
「どうしてですか!?」
「この戦いがどういう戦いになるかは十分理解できているはずだ。」
オスカーは首を縦に振らなかった。
「わかってる、わかってるからこそ。」
「ならばなおさらだ。一つ聞こう、お前が命を賭してでもこの世界を救うために戦いたい理由はなんだ。」
「それは………。」
思いは昂ぶっていた。
心も決まっていた。
でも。
口から言葉は出てこなかった。
「一度太陽でも浴びて頭切り替えてこい。」
オスカーはただそう言い残すと、まだ残っていたコーヒーを煽るように飲んで大広間を出て行った。
アジトから出るとすでに日が傾き始めており、辺りを真っ赤に染めていた。
あと1時間もしないうちに太陽は山の裏に隠れて夜の帳が落ちてくるに違いない。
ゾイドで入ってきた入り口とは違う、人が通れる専用の出入り口から外に出たシュンは、切り立った岩のへりに座った。
ビルの三階ぐらいにあったその切り立った岩から足を投げ出し遠くを見つめる。
またどうしたらいいのかわからなかった。
しばらくすると後ろに誰かの気配を感じた。
「ケイト………。」
振り返った先にいたのはケイトだった。
その両手にはなにやらカップが握られており、その中にはコーヒーが入っているのか湯気が出ていた。
「隣、いいか?」
シュンは黙って頷くと、ケイトはシュンの横に腰かけた。
「さっきは………すまなかったな。」
ケイトの口から出たのは謝罪の言葉だった。
あまりにも意外だったため、反応できずに思わずケイトを凝視してしまう。
「ついカッとなっちまってな。本当は仲間に手をあげるなんてウチじゃ御法度だからよ。」
そう言いながらコーヒーをすする。
「謝らないでよ、俺はケイトのしたことは正しいと思うからさ。」
シュンも同じようにコーヒーをすすった。
ケイトのことだから砂糖もミルクも入っていないのかと思っていたらめちゃめちゃ甘かった。
思わず顔をしかめているシュンが気になったのか
「あ、砂糖足りなかったか??」
と見当違いな質問をしてくる。
さてはこいつ甘党だな………。
「いや、甘すぎるよ………。ケイトって甘党なの?」
「甘すぎるだと!?これでもいつもより砂糖少なめなのにな……。」
おっかしいなぁとでも言いたげに首を傾げるケイト。
「ケイトその顔で甘党なんだね。」
思わず笑ってしまう。
「悪いかよ、甘い物は正義だぞ!」
「その正義、邪念しか見えないんだけど。」
「な、なんだと!」
お互い向かい合って豪快に笑った。
さっきまであんなにギスギスしてたのが嘘みたいだ。
「本当はお前と一緒に戦いたかったんだ。」
「俺と?」
「ああ、お前は他の人とは違う。」
「俺が時代の旅人だから?」
ケイトは首を横に降る。
「お前は心の中に焔を灯してる。他の奴とは違う。」
「心の中の焔?」
「ああ、俺にははっきりわかるんだ。その焔がきっと俺たちを導いてくれる。」
そう言うとケイトは沈む夕陽を眺めながらあの激甘のコーヒーを煽る。
「なぁ、ケイト。中佐言ってただろ、『お前が命を賭してでも戦う理由はなんだ』って。ケイトの戦う理由はなんなんだ?」
シュンがそう聞くとケイトはカップをもって俯いたままだった。
「俺の戦う理由か………。」
ため息ではないが大きく息を吐く。
「俺の昔話は面白くねぇぞ。」
そう言うと一呼吸あけて、頭に巻いているトレードマークの雪上迷彩柄のバンダナを外した。
「このバンダナは当時同じ部隊にいた医療班の奴にもらったんだ。」
そのバンダナを手元で広げると一部がかなり血がしみており、赤黒く染まっていた。
「俺はガンダーラ王国の女王親衛隊。いわゆる近衛隊の所属だった。その医療班の女とは何かとウマがあってな、ディガルドとの戦争が終わったら一緒に戦争孤児を救う義勇軍を作ろうって約束してたんだ。」
まだ星が輝くには早い、そんな空を見つめながらケイトは言葉をつなぐ。
「でも叶わなかった。」
ケイトはゆっくり目を瞑る。
「約束したその翌日、ディガルドはガンダーラに侵攻してきた。迎撃する術はあったが、侵攻してきた数は予定の3倍の数だった。迎撃が間に合わなかった。難攻不落と言われてきたガンダーラがたった2日で陥落した。」
手にしていたバンダナを握り締める。
シュンは何も言わず、そしてケイトのほうを見ずその話を静かに聞いていた。
「俺は近衛隊の仲間と共に血族を守るのに必死でな、医療班の奴とは離れ離れになっちまった。」
「………それで、その医療班の子は?」
「………さあな、それっきりだ。いい女だったからディガルド兵に犯されて殺されたか戦死したか。生きてるのか死んでるのかも何もわからねぇよ。」
手元に広げていたバンダナを綺麗に折りたたみ再度頭に巻き直した。
「シュン、俺の戦う理由はただ1つだ。」
ケイトはシュンのほうを向いた。
その独特な紅い眼がシュンの意識を射抜くのではないかと言うほど強い眼差しだった。
「ディガルドを滅ぼす。俺が俺自身の約束のために、あいつとの約束を果たすために。そのためならばこんな命喜んで差し出すさ。」
残っていたコーヒーを一気に飲み干すと「おかわり持ってくるわ。」といってケイトは立ち上がり、アジトの中へと戻っていった。
その場からケイトが立ち去るとなんとも言えない虚無感がシュンを取り込んでいた。
『またなに落ち込んでるんですか?』
心の中に巣食う相棒が心配そうに尋ねてきた。
「落ち込むってかへこんでるんだよ。決意はできたのにまたなにしてんだろ、俺はってな。」
ケイトの作ってくれた激甘のコーヒーをすする。
「ケイトの戦う理由を聞いちまった後だと余計によ。俺にはあそこまでの覚悟があるのかなって。」
首にかかった爆炎の希少鉱石を夕陽に透かしながらそう呟いた。
「そう言えばカノンにあった時の、光の精霊のこと『彼女』って言ってたけどお前にも性別があるのか?」
『失礼ですね、どっからどう見ても私はレディーに決まってるじゃないのですか。そんなこともわからないでいるからいつまで経っても女性にモテないのですよ。』
ぷぷぷ、と彼女は馬鹿にしたように笑う。
『まあ、それはいいとして、性別っていうよりかは元々人間だった時に女性だったからそのまま女性になったって感じなのですよ。』
「へぇ、なんか精霊も大変なんだな。」
『なのでこれからはレディな扱いをして欲しいのですよ。』
「なんだよ、レディな扱いって。」
光の精霊が笑いながらいうのでつられて笑ってしまった。
『シュン、深く考えすぎなのですよ。確かに命をかけ戦う以上、生易しい気持ちでは困ります。それでもシュンの中での気持ちは決まってるはずなのです。それに従えばいいのです。私はそんな危ない橋を渡ろうとしているシュンを護るのが宿命なのですから。』
夜の帳が下りたその空間に紅く煌めく彼女はまるで闇夜に舞う蛍のようだった。
「ありがとう、光の精霊。」
シュンはゆっくりと立ち上がるとアジトの中へと戻っていった。
解放戦団のゾイド駐機場は吹き抜けになっており、どのフロアからでもたどり着けるようになっている。
これは有事の際、集合時間を1秒でも短縮したいというオスカーの意向らしい。
外から帰ってきたシュンは2階フロアから下を覗くと案の定そこにはオスカーがいた。
ここからは姿が見えないが、レイやバッカニア、さらにはミズハの声も聞こえてくる。
シュンは引き返して駐機場1階に向かうために歩みを早めた。
「シュン。どうだ、頭はさっぱりしたか?」
一番最初に気がついたのはやはりオスカーだった。
さっきの事の成り行きを知らない周りのメンツはどうしたの?と顔を見合わせている。
シュンは何も言わずに、ただの大きく頷いた。
「その顔、覚悟ができたみたいだな。」
オスカーの顔は険しいままだった。
「難しいことわからないけど、俺はこの世界を助けたい。俺は、時代の旅人なんだ!」
彼は思いを伝えた。
戦う意味はまだ見つからない、でもその想いに変わりはなかった。
しかし。
「そんな覚悟では戦えるわけと言っただろ、何度言えばわかるんだ!」
もちろんオスカーは反論してくる。
だが、引き下がるわけにはいかない。
「わかってたまるか!俺は意味があってこの世界に、ミズハに呼ばれたんだ。俺が時代の旅人であるならばこの世界の平和のために戦いたい!」
「時代の旅人が世界を救うのはおとぎ話の世界だろ!」
その瞬間脳裏を駆け巡ったのはミズハの言葉だった。
「違う!俺はこの世界を救う、それが俺の役目、時代の旅人としてこの世界にやってきた責務だ!俺は!時代の旅人がおとぎ話なんかじゃないって証明してみせる!!!!」
シュンは言い切った。
駐機場はその瞬間静まり返る。
すると上の階からパチパチと拍手が聞こえてきた。
「シュンよく言った。」
全員がふと視線を上に向けるとそこにはケイトがいた。
「俺はその情熱、嫌いじゃねぇぜ。オスカー、俺が責任を持つからよシュンを入団させてやってくれ。この通りだ。」
そう言って顔の前で手と手を合わせて合掌する。
「………ケイトがそういうなら仕方がない。他の者、特にレイは異存はないか?」
「はい、ございません。」
レイは笑みを浮かべながら小さく頷いた。
それに続いて他の者も小さく頷いた。
「異存がないならいいだろう。シュン、お前を今日から解放戦団の仲間として認めよう。」
そう言うとオスカーは手を差し伸べてきた。
「また部下としてコキ使わせてもらうぞ。」
さっきまでとは違う、優しい笑みでそう言った。
「はい、よろしくお願いします!」
「では、ミーティングを終える前に皆に伝えたいことがある。」
大広間の一番前に立つオスカーは座っている団員達にそう告げた。
「シュン・タキハラを正式に解放戦団の仲間として迎えることとなった。配属は一番隊レイの隊だ。みんな仲良くしてやってくれ!」
オスカーに説明され登壇すると大きな歓声が湧いた。
「よろしくな!」
「一緒にディガルドを倒そうぜ!」
歓声の中に混ざる歓迎の声がシュンには嬉しかった。
「みなさんよろしくお願いします!平和な世界の実現のために一緒に頑張りましょう!!」
シュンのその挨拶に歓声は強さを増して言った。
「ヨウヨウヨウッーヨウヨウヨウッー!!」
ディガルドと戦うことが時代の旅人の役目だ、時代の旅人がおとぎ話話なんかではない。そう言い切ってオスカーを納得させたシュンは正式に解放戦団の一員となった。
そこでシュンはレイの指揮する一番隊に配属となり近隣のヘルザ村奪還作戦の部隊に配属される。
だがそこでこの世界での戦争ということの難しさを知るシュンであった。
次回 ZOIDS EarTravelers
第8話 『Operation : Claymore 』
目を、背けてはならない