「ぎえええええええええええええええええええええええええぃいッ!!」
高く鳴きながらその巨体はどこからか飛び降り、不死人の眼前に着地して盛大な水飛沫を上げる。
真っ青な肌には鱗や毛は無く、爪などの尖った部分も無くぬめっている。脚は鳥のそれのように人間とは逆向きについた関節をしており、光沢のある胴は太く短く、そこから伸びた全長の大部分を占める長い首の先には骨ばった頭部があり、そこに触手か髭か曖昧な長さ太さの何かが垂れ下り、他に黒い色の突起が五本付いていた。
進化の過程で奇形に奇形が連なった果てに誕生したかのような、分類の不可能な異形であった。中央広場に出現した巨人さえ、全体の骨格だけは哺乳類らしき名残があったが、こちらはその部分においても他の生物との類似性に乏しい。
その異形、真っ青な肌の怪物は不死人を見詰めたまま、首を低く下げてより地面に近付け、頭部の高さをこちらに合わせると、しかし襲い掛かりもせずにその姿勢を保つ。
この生物は、卑怯な捕食者であった。標的を見付けては後を付回し、監視することで勝手に弱るのを待つ。そして食いどきを見定めると、こうして逃れられないように立ちはだかり、さらにこの場に至って尚、時間を稼いで相手に毒が回るのを待っていると見える。
しかし毒消しの香草の残りが心許ない今、これ以上の時間が経過すれば不死人は間違いなく毒に溺れるが、背を見せて逃げようものなら後ろから食い千切られるのが目に見えている。
であれば立ち向かうしかないのだ。ブロードソードを握り、塔のカイトシールドを前にして真っ青な肌の怪物に切り込み、しかし相手が鼻の辺りを僅かに動かし、息を吸い込むような動作を見て直感が働く。
即座、横に飛び、するとほぼ同時に風圧で吹き飛ばされる。急いで起き上がり見てみると、真っ青な肌の怪物の首が不死人の横を通り過ぎ、土くれの壁に突き刺さっていた。
動きを視認することは叶わなかった。あの怪物は凄まじい速度で頭部を突き出すことが可能であり、今の攻撃を避けられたのは勘の助けがあった上での、奇跡だったとしか言いようが無い。予備動作が判明しており、だが次は対処出来ると断言は出来ず、あまりの攻撃速度のため回避の成否は運に恃むところが大きい。
真っ青な肌の怪物は土くれから頭を引き抜くと、再び首を下げ、高さをこちらに合わせて構えを取る。
向こうにあの攻撃方法がある以上、これでますます背は見せられなくなり、そして時間の猶予も無い。不死人は体力が尽きてしまわぬ内にこの怪物を打倒することを改めて覚悟し、無謀を理解しながらも、もう一度武器を構え、真っ青な肌の怪物に向かって走り出す。
すると先程と同じくらいの距離で再び怪物の鼻らしき部分がひくつき、不死人は横合いに転がり、その直後、すぐ側を真っ青な肌の怪物の首が通過し、だが瞬間的に荒ぶ風に堪え、敵の首が引き戻らぬ内に再び駆ける。
目指すは胴。或いは脚。長過ぎる首が攻撃するにあたり不得手としそうな場所へ潜り込もうと近付き、しかし粘膜が擦れるような音がしたため急ぎ退る。
胴体のどこに隠れていたのか、二本の長く平たい腕のようなものが飛び出し、不死人が居る場所の近くを掴もうとしていた。その挙動は瞬間的な早さが尋常ではなく、例えるなら蟷螂の捕食のようであった。
空振りに終わった敵の掴みだが、真っ青な肌の怪物はその腕を仕舞わず、無闇矢鱈に振り回したため、そこは到底近付ける空間ではなくなり、不死人は腕の振り回しに当たらないよう大きく距離を取ろうとするが、しかし落ちてきた怪物の首に当たり、横に大きく弾かれる。
甚大なダメージであった。慌てて懐からいくつもの雫石を取り出し治癒を始めるが、同時に胃の中に不吉な先触れを感じ、最後の香草を口にする。
いよいよ差し迫った状況に陥り、だからこそ不死人はすぐさま攻撃態勢を整えると、再び真っ青な肌の怪物に向かって走り出し、当然繰り出される、伸ばした首による強烈な突きを紙一重で躱すと、そして今度は胴に向かわず、不死人はその場で剣を振り上げる。
全力を込めて打ち降ろし、ブロードソードは怪物の青白い首に叩き込まれ、しかし斬り傷を殆ど与えることなく刃は止まっていた。
斬撃の効果は認められず、やがて真っ青な肌の怪物は頭を引き戻し、次に低く下げ、こちらに高さを合わせて次の迎撃準備を完了させる。
首への攻撃は通らず、そして胴には近付けない。であれば首の先の頭部への攻撃を試すべきだが、真っ青な肌の怪物がこちらに反応して迎撃を行う距離と、攻撃が繰り出されたあとの頭部の先と不死人との位置の関係上、相手が首を引き戻すまでに走って頭に辿り着くには時間が不足していた。
だが、検討するべきは時間や距離の事項なのだろうか。あの敵、真っ青な肌の怪物が、身体の一部を用いて突きを繰り出すという攻撃方法を選択出来るのには理由があり、それを崩すことが突破口となる。
不死人は立ち位置を変え、前後に動いて近付く振りをし、真っ青な肌の怪物の攻撃を引き出そうと試み、すると誘いに乗った怪物は鼻から一つ息を吸い、敵に向かって突きを放った。
不死人は上手くそれを回避し、すると今までにない鈍い音が周囲に響き渡る。まるで鉄と肉が衝突した音のようであった。
つまり鉄の門に頭を突っ込ませてしまった真っ青な肌の怪物は、痛みのあまり後ずさりながらよろけ、その隙に不死人は怪物の頭に取り付くと、上に跨って黒い突起の一つを左手でしっかりと掴み、右手の剣でそれを斬り落としていく。
「おぅっ、ひおおぉおぉっ、イおぉおぉぉおっ、ひぃおぉおぉおおっ!」
痛ましい叫びであった。
真っ青な肌の怪物は暴れ、赤い血を流すが、不死人は頭部に跨ったまま決して離れず、さらに黒い突起を斬り落としていく。そして最後となった五本目のそれに深い切り込みを入れ、引き千切ると、流石に体力の限界が来てしまい、地面に転がり落ちる。
真っ青な肌の怪物は未だ叫び、暴れ続けていた。やがて逃げ出そうと走り出し、だが斬り落とした黒い突起はやはり怪物の目玉であったのか、走って行く方向の先に待っているものは大クラゲの群れであった。
群れを侵した真っ青な肌の怪物は何匹もの大クラゲに脚を刺され、更なる悲鳴を上げながら毒の水に倒れる。そしてそのままのた打ち回り、それが却って大クラゲ達を刺激したのか、悲鳴はずっと続き、だがしばらくするとそれも徐々に弱り、いつしか途絶えていた。