怯んだ身体を取り直してから殴られた方に目を向けると、そこには人と同じ程の背丈の、動く骸骨がおり、不死人に対し構えた両拳を見せていた。しかもそれは一体のみならず、その後背にもう二体、いずれも攻撃の用意があると見える。
骸骨達は素手であるため、一対一で相手をするならばあまり脅威度は高くないだろうが、しかし遺骨のゴーレムから目を離さずに三体の面倒を見るのは難しく、しかも彼等は散らばった人骨から起き上がった者達であり、皮膚も筋肉も無く動き回るという常識的には有り得ない性質を持っているため、小突いてばらばらにしたところでまた起き上がってくると予想される。
不死人は三体の骸骨達と遺骨のゴーレム全てを視界に入れながら相手の出方を窺い、しばらくこう着状態に入るが、もし今のまま一斉に攻撃されれば対応は極めて難しい。また、先程遺骨のゴーレムは自身の攻撃が骸骨達に当たらないようそれを中止したため、アリーナの王と戦った際のように同士打ちをさせるやり方は通じないと考えるべきである。
切り札は無いでも無いが、今はそれを持ち出すタイミングではなく、しかしこれといって策は浮ばず、天啓の如き閃きの訪れも今回に限っては無い。
時間切れが迫りつつあった。骸骨達は今にも不死人に飛び掛らんと構えを取り、その後ろの遺骨のゴーレムも不気味に沈黙を守ってはいるが、己の手勢に隙を生ませ、そこを突く魂胆であるのは目に見えている。
元より、手管を弄してばかりいれば、先々でもこのような場面で困窮するのだろう。であれば策を持ち込まず、偶には地力での突破を試みるべきか。それすら出来なければ、玉座など。
眼前に飛び込んできた骸骨の一体を塔のカイトシールドで打ち付けて崩し、その際に遺骨のゴーレムから飛び出した黒い塊の魔法を避けるため、身体を横に捻りながらブロードソードを握り締める。
そして捻った勢いのまま身体を一回転させると、渾身の力を込めた剣で近付いてきた二体目の骸骨の胴を薙ぎ払って崩し、再び飛来する黒い塊の魔法を前転して避け、膝立ちで起き上がった直後に三体目の骸骨の腹にブロードソードを突き込み、次に両足で立ち、突き刺した剣を両手で握って上方向へ力一杯振り抜き、骸骨の身体を吹き飛ばす。
不意に頭上に影が落ち、遺骨のゴーレムがこちら目掛けて腕を叩きつけようとするも、それを躱して逆に相手の胴に滑り込むと、そこを剣で刺してから抉じ開けるようにぐるりと一回転させ、引き抜いてからすぐに後退して三歩ほどの距離を取り、懐からそれを取り出して生まれたばかりの穴に投げ込む。
投げ入れたのは火炎壺。貴族街入り口の男性から一つだけ購入したそれは穴に入り込んだ途端に砕け、内側から燃え上がり、遺骨のゴーレムの黒い布の部分と白いベールに火が着く。やってみるまでは効果があるかどうかは分からなかったが、やってみれば上手く切り札として働いたらしく、火に包まれた敵はそれを消すため、自分の身体を叩き始める。
それを尻目に、不死人は振り返って骸骨達に意識を向けると、たった今遺骨のゴーレムに攻撃を加えた影響か、骸骨の数は四体にまで増えてしまい、それぞれが既に起き上がり始め、だが完全にはこちらを迎え撃つ準備が出来ていない様子であった。
手近な一体に近付き、足で蹴り込んでその骸骨の姿勢を崩した上、頭部目掛けてブロードソードを振り抜く。
そして間髪入れず、二体目の骸骨の前に踏み込むと、まだ無防備なままであった相手の胸に剣を突き刺し、横に振り抜いて身体を形作る骨を周囲に散らす。
三体目は流石に攻撃の態勢が整っていたらしく、こちらに向かって走り、拳を振り上げたため、不死人は骸骨から繰り出される拳打を塔のカイトシールドで弾き返し、相手の胴を袈裟斬りにする。
三体目の骸骨は崩れ落ち、その影に上手く隠れていた最後の一体は不死人の右側面に飛び出ると、剣を振り抜いたばかりの右腕を掴む。しかし、骨だけの身体は軽く、不死人は骸骨の足を己の足で払うと、相手の体勢が崩れた拍子に右腕を大きく回し、そのまま地面に叩き付ける。
その時の衝撃のみによって骸骨は砕けて散り散りになり、四体の骸骨を無力化した不死人は、遺骨のゴーレムに向き直る。
敵は今しがた自分に着いた火を消したところであったようだ。そのまま不死人の方には向かず、急いでその場に屈み、地面に手を着いて魔法を発動させようとしている。
だがその距離はあまりに半端であった。不死人は一息に敵との距離を詰めると、遺骨のゴーレムが叫び声を上げる前に、屈んだが故に低い位置にあったその顔面に向け、ブロードソードの突きを放つ。
剣は顔の中心にあった頭蓋骨を砕き、それどころか不死人の腕そのものが遺骨のゴーレムの中に深々と突き刺さった。
「ほぉおぉおうっ!」
遺骨のゴーレムが悲鳴を上げ、次に不死人は突きのために腕と一直線にしていた剣を敵の頭蓋の中で捻って横に倒し、そのまま剣と腕を力一杯引き抜く。
「ほぉおぉうおおぅおぅぉおおおおぉぉぉぉぅっ!」
痛ましい声を響かせながら遺骨のゴーレムは膝を着いて両手で顔面を覆い、しかしすぐに身体中の骨が崩れ始め、やがて灰を撒き散らしながら地面へ倒れていった。