リボン・オブ・ザ・デプス   作:アザトリデ

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第7章 王城 9

 「ダークソウル」

 彼女は、はっきりとそう口にした。

 「それを顕した強き不死は、目的が何であれ玉座を目指す。それが使命なのか、呪いなのかはともかく」

 溜め込んだ笑いを、そこで彼女は解放した。下劣に、大声でひとしきりに不死人を嘲笑した後、泣き笑いの形相を浮かべながら、揺れ動いていた視線を今一度こちらに合わせる。

 「でもね! でも。この地では決して薪の王は生まれ無いわ。あなたも見たでしょう? あそこにあったのはただの人間の玉座。何の力も無い。そう、あなたはここに来るまでとてもとても頑張ったのかもしれないけれど、でもね、ずっと勘違いをしていたの。ここには最初から何も無いのよ。何も!」

 女は一瞬だけ虚ろな目をどこか遠くへ向け、しかしすぐに笑みを取り戻すと、身体とそれを戒める鎖を揺らして笑い声を上げる。

 「あっはっ、あはっはっはっはっはっ! はあっ! はあぁ、ごめんなさいね下品で。でもあまりにも下らなくて。お詫びという訳では無いけれど、そうね、そこの机の上に木箱があるでしょう? それを開けてみて」

 やや訝しがりながらも、女に言われた通り、付近の机の上に置かれていた木箱を手に取るが、しかしその際、金物の音が鳴り、見ると木箱の下に何かの鍵が置かれていた。飛び上がる鳥の模様が刻まれたその鍵は、使うべき場所に心当たりがあった。鍵を懐に仕舞い、それから木箱を開く。

 中に入っていたのは、空っぽの緑の瓶が一つと、中が空洞となっている植物の繊維の塊のようなものが一つ、たったそれだけであった。

 「扱い方は分かるかしら? それはきっと、不死の秘宝よ。ここまで来たせめてもの土産として持っていったらいいんじゃないかしら」

 言われるが、先程の鍵と違い、こちらについて思い当たるものはなく、なんとはなしに植物の繊維の方を様々な角度から見詰める。すると意識がだんだんとぼやけ始め、やがて植物の繊維の塊が、懐かしい誰かの面影と重なり、次には遠い記憶の流入が不死人の身に起こった。

 ソウルの業。他にも失っていた諸々の知識や名称など。しかし自身の生まれ故郷や、どれくらいの間この世界を彷徨っているのかまでは思い出すことが叶わず、また既に不死として長くあるため、痛覚や味覚、それから嗅覚がごく乏しいことを実感する。

 「あら、早速いいことがあったみたいね? でもそれも今更かしら、どうせまた何もかも忘れてしまうでしょうからね。さぁ、もう用が無いならどこかに行ってくれないかしら。邪魔とまでは言わないけれど、このままここに居ても無意味だし、お互い気まずいでしょう? じゃあ、お達者でね」

 女は一方的に別れを告げると、全身から力を抜き、宙吊りのまま項垂れる。それが今の状態で出来る姿勢での休み方なのだろうか。随分と奇特な姿のように見えるが。

 そのままそこを去ったとしても何ら問題は無いが、だがもし彼女がその如何にも辛いような姿勢から解放されることを望んでいるのであれば、というつもりで籠に触れようとする。だがその直前、こちらの意図を察したのか、女はまた顔を上げる。

 「そこは開かないわ。お気遣いは嬉しいけど。高潔な姉とは違って、私にもはもう、この世界のどこにも味方が居ないの。だからこの籠から出てどこかへ行くつもりなんて無いのよ」

 平坦な調子で彼女はそれだけを言うと、今度こそ身体を休めた。そうまで言われては敢えて籠を開く理由も無く、不死人は女の元を去り、そのまま寝室を後にすることにした。

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