不死人は暗がりに気を払いつつ、その路地へと足を踏み入れ奥へと進み、だがそれほど長くは無くすぐに路地は行き止まる。ただし行く道を失った訳ではなく、路地の横に家屋の中に入る為の扉が見付かり、試しにそれをゆっくり押し込むと、軋む音を部屋の中に響かせながら扉は開いていく。
埃だらけのその部屋に不死人は踏み込む。
周囲をよく見渡すも、亡者がどこかに潜んでいる気配は無く、また特に目を引くものも無い。使われなくなって久しい家財道具が点々としているのみであり、だが調理道具が並ぶ一角の奥に、上へ続く階段らしきものを発見する。
これに近付き、上の階まで見通すが、見える限りでは亡者の気配は無く、不死人はその階段を登って上の階に至り、寝室のような部屋を目の当たりにする。
これもまた何の変哲も無い部屋であった。寝具の一式が置かれ、その他の家具は見受けられない。家捜ししようにもその対象となる物や場所が無いが、一つ閉まったままの窓が目に入り、不死人はそれを開け放つ。
あまり光は入らなかった。それは今の空模様が漠たるものであったことも影響しているが、それよりも周壁が近く、この家屋そのものが日陰になり易い位置である事の方が要因としては大きいようであった。
不死人は窓の外に頭を出して周囲を見回し、すると家屋の壁に深めに作られた縁があり、これは人の足が乗るための十分に取られているらしいように見受けられ、また縁が続く先には梯子が掛けられており、それはこの家屋の屋根の上にまで続いるようであった。
不死人は一応周辺に亡者が居ないかを一度確認してから窓から乗り出すと、縁を伝って梯子まで移動し、その梯子を登りきって屋根の上に出る。
柔らかに風が通る屋根の上は傾斜もあまり無く、足を滑らせて落ちる心配などは必要なかったが、問題は屋根の上を進んだ先で待つ、三匹の亡者達である。
亡者達はいずれもまだ侵入者の存在を感知しておらず、この家屋の屋根と隣の家屋の屋根を繋げる通路を挟み、一匹はこちらの家屋で不死人の側に背を向けて立っており、残り二匹は向こうの家屋の上で不死人の側に正面を向けている。
二と一とに別れてお互いを視界に入れている状態であり、そして三匹全てが下級兵士の亡者であった。
どのようにして突破するか、一度想像しなければならなかった。
仮に不死人の現在地の側に背を向けている一匹の亡者に忍び寄り、襲い掛かろうとすれば、十中八九、向こうの家屋の上に居る二匹の亡者がそれに気付き、奇襲を行う前にソウルの矢を浴びせてくるだろう。そうなれば三匹の亡者が一斉に不死人に魔法を撃ち始め、その先どうなるかは敢えて考えるまでもない。
故に不死人は奇襲ではなく、別の手段にて突破を試みる。
手に取ったのは、屋根の瓦を砕いた破片である。不死人はこれを握ると少し身を屈め、こちらに背を向けている一匹の亡者の背に山形に投げると同時、相手の視界に入らないよう屋根の起伏に身を隠す。
すると視認こそ出来ないものの、瓦を踏む足音から判別するに背に破片を当てられた亡者は動き出し、不死人が隠れている場所の至近にまで異変を探りに来ているようであった。
そのまま亡者はふらふらと彷徨うかのように辺りを移動し、そして孤立したそれが向こう側の家屋の上に居る二匹の亡者の視界から完全に外れた場所、屋根の高低差に覆われた地点にまで来た瞬間、不死人は飛び出して下級兵士の亡者の背を蹴り飛ばし、屋根の上から落とした。
残る障害は二匹。不死人を発見こそしていないものの、それらの顔は方角的にはこちらを向いており、不用意に近付けばすぐに魔法を撃ち始めるだろう。屋根の上を繋げる通路も狭く、強引に渡ろうとしたところで回避も防御も難しく、一方的にソウルの矢の的になる公算が強い。
だが別段頭を捻る必要も無い。不死人は瓦の破片をもう一度拾って握ると、身を屈め、先程よりも少し遠くに狙いを付け、それを投擲する。破片は宙を行き、並んだ二匹の亡者の頭上を飛び越し、その後ろの瓦の上に落ちて音を発した。
その音に注意が向き、二匹の亡者は身体の向きを変え、つまり不死人の居る家屋の側に背を向ける。
どれだけの時間亡者達がそうしているかは不明であり、速やかに行動する必要があったため、不死人は急ぎ剣を鞘に仕舞うと、両手で塔のカイトシールドを構えた状態で走り出す。
足音が響くのも構わず、最大の速度を出して屋根を跨ぐ通路を走破し、背を向けた亡者達に近付くと、やがて敵の存在に気付いた亡者らは振り返ろうとするが時既に遅く、不死人は盾を前面にした身体を勢い良く二匹に衝突させる。
その衝撃にて一匹の亡者は屋根の下へと落下。もう一匹は瓦の上に転倒し、そして不死人はそれに飛びつくと、膝で亡者の身体を抑え込み、鞘から引き抜いたブロードソードの剣先を干乾びた首に深く沈め込ませる。
三匹の下級兵士の亡者全てを排除し、激しく上下に揺れていた肩の動きに段々と落ち着きが戻ってくると、不死人は周囲を見渡し、観察する。
その家屋の屋根の上には室内に入れるような梯子や窓は見当たらず、代わりに長い手製の梯子が一つ、周壁に開いた窓らしき場所に向かって伸びていた。
他に行く道も無く、不死人はその梯子に手を掛け、揺らしてみると少し大げさにしなる。やや安全性に難があり、だが進むべきではない、という程危険でもない。不死人は風に揺れ、歩みに上下する梯子を伝って薄暗い周壁の内部へと入っていく。
厚い壁の中は外から見た印象よりも広く通路の幅が取られており、そして中には灯りが無く、それどころか、灯りを設置する灯台らしきものさえ見当たらなかった。壁に同じ間隔で開けられた窓から光が差し込むため、ある程度は明るさがあるものの、だが夜間は移動すらままならないだろう。
そうして不死人はある程度その場から中の様子を観察し、それに一区切りを付けると、その後実際に探索するべく、周壁の中を歩き始める。まずは梯子のあった窓から見て通路を右へ。
すると歩き始めて間も無く、通路の隅に丸められた藁の塊のようなものが大量に積まれているのを発見する。何かが中に詰っていたり隠れていたりするようには見えず、そして特に道を塞いでいるでもないので気にしなければそれまでだが、その藁の塊はあまりに大量にあり、また用途が今ひとつ不明であったので妙に不死人の目を引いた。
「いぇ”ッ!」
唐突に物陰から飛び出した下級兵士の亡者の剣を受け止める。
塔のカイトシールドと手入れのされていない直剣が打ち合い、その後不死人はすぐさま盾で敵を押し込み、体勢が崩れたところへブロードソードで首を薙いでその亡者を斃し、その次には通路の奥で青い光が迸るのを視界の端にて認めると、即座に斃したばかりの下級兵士の亡者が潜んでいた場所に飛び込み、ソウルの矢を物陰の壁に当てさせて凌ぐ。
一つ息をついてからその場で音に耳を澄ませ、おそらく自分以外に動いているものがソウルの矢を撃ってきた通路の奥の下級兵士の亡者しか居ないことを探ると、物陰から飛び出して走り、不死人はその敵との距離を詰めていく。