第11章 牢獄都市 拷問館 11
「ゴアッ!」
唸りを吐き出しながらルドウイークはよろけ、傷を負ったばかりの背を守るように身体の向きを入れ替えながら後ずさり、またそれに伴って黒い炎の濁流も途切れた。胴の前後や右手の断面から血を流す巨体は最早、満身創痍の見てくれではある。
「カアアアアアッ!」
だが黒曜の大剣に力を注ぎ込む様子に戦意の陰りはなく、リングレイの王としての風格は勿論、行き場の無い怨嗟も未だ漲り、燻っている。これに応じ、打倒せしめるとすれば、相応の覚悟が必要となるだろう。
ルドウイークは剣を振り被りながら、真正面より迫った。
「ヌオゥッ! ムンッ! ラアッ! ゼアッ!」
左から右方向に走る一振りを前転して潜り、その次に来る右下から左上への斬り上げには一度飛び退がって対応すると、相手はやや踏み込みながら左上にあった剣先をほぼ直下に打ち降ろしたためこれを左に躱し、主の昂ぶりが映った黒曜の刀身はまた上下に辿る軌道で暴力的に叩き落とされ、不死人はそれを右に避ける。
「イヤアアアッ!」
特に気迫の込められた連撃の五発目、黒い炎を従えるこの一撃を、闇の盾が打ち返した。
「グオゥッ!」
これは本来、闇の盾で迎えてはならない剣であった。何故ならまだ黒い炎が色濃く残っていたため、弾き返すのに成功したとしてその際には間違い無く熱傷を被ることとなり、実際不死人は左半身を存分に焼かれていた。
だが、だからこそルドウイークはその斬撃に必殺の意志を注ぎ、故に思いもよらない衝撃によって大剣を取り落とすことになり、また姿勢の崩し様はこれまでに無いほど無様であった。
焼け爛れたのは左側のみ。右手とその中に収まる魔術師のロングソードは無事であり、不死人はそれを構えて詠唱を始めると、隙を晒すルドウイークの前でソウルの大剣を作り上げ、先にあった胴の裂傷に向け、全精力を懸けた突きを放った。
「オゴッ! オッ、グボッ、オオッ、オッ、オオオオオォオォォオォォォォォ」
貫かれ、喀血し、青い大剣が穿った穴から血を噴出させ、リングレイの王は地に伏せる。王冠であった腰周りの触手も萎え、背にしていた炎で作られた巨大な十字の瞳も霧散すると、シャンデリアの火も弱まり、天井や壁に埋め込まれた亡者達の歌もまた、次第に掻き消えていった。
終幕である。しかしどこか後を引くのは、ルドウイークがその散り際で、恨み言の一つも無ければ、呪いをかけるような嘲笑も残さなかったのが不自然であったからだろうか。
それか、亡者である彼が今斃されたとして、いつしか蘇り、陰惨な舞台が再演されることを知っているからだろうか。
どちらであっても、不死人にとっては本来他人事だが、この悲劇の根幹にあるものは不死の呪いであり、無関係を決め込む事は出来ず、先に進むなら引き摺って往かなくてはならない。
だが一先ずは休息である。篝火と、先程投げ捨てた聖職者のウォーハンマーを探そうと焼け焦げた左半身を庇うようにして歩き出し、だがその二つの所在を突き止めるよりも前に不死人の目に留まったものがあった。
地面に置かれた、金色の十字のペンダント。ルドウイークが首から下げていたそれは、倒れた拍子にでも首から外れたのだろう。
巨大であったルドウイークならともかくとして、不死人にとってペンダントは首から下げるにはあまりにも大きく、しかし近付いてよく観察したところ、これは厳密にはペンダントではなく、金色の大剣の柄に鎖を付けただけのものであった。
何かの力を秘めているのか、大剣の柄は不思議と目を惹き付ける。魅了された訳でも無いが、明らかに普通の品ではないため、今後何かの役に立つやもしれないと、不死人はそれを拾い上げることにした。