リボン・オブ・ザ・デプス   作:アザトリデ

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第12章 11

 第12章 牢獄都市 最奥部 11

 何故このような結末となったのか。

 気が触れた、という可能性はあるだろうが、それにしては彼女の意識は明瞭そのものであった。ならば別の原因、例えば、何者かに唆された、などということはありはしないだろうか。

 ドレスの胸元から落ち、地面に転がっていたタリスマンを拾い上げる。枝木を束ねたような紋章のこれが、答えの一部であるのだろう。

 この牢は広いが出入り口が一つしかないため、不死人はタリスマンを手に、来た道を戻って行った。

 通路を進み、階段を登り、踊り場を挟んで尚も上がっていくと、間も無く出口が現れる。

 「ねぇ! あなた!」

 その扉を通り抜けてすぐ、予期していた場所から声が掛かる。無視を決め込むには関係し過ぎた間柄であり、不死人は振り返ると、牢の鉄格子を掴む虜囚の女に向く。

 「あの方は? 一緒ではないの?」

 花のような愛らしさを持っていた声にはあからさまな不安が現れ、震えていた。それが正解かどうかは分からなかったが、不死人は彼女に事の顛末を伝え、すると虜囚の女は驚き、落胆しながら、しばらくの間黙り込んで何かを考えている様子を見せる。

 「ごめんなさい、そんなことになるなんて、私、思わなかったの。ごめんなさい」

 やがて頭を深く垂れながら、虜囚の女は謝罪を繰り返す。後悔と戸惑いと、そして消沈が混ざり込んだその音声からして、彼女の人格は今まさに昏い変容を遂げようとしているように見えた。

 「私では、なんでそうなったのか、全然分からないの。本当に、何にも、考え付かないわ」

 やがて絞り出した言葉からはまるで彩度が抜け落ちており、またそれは亡者に相応しいものでもある。

 「ただ一つ、思い当たるとすれば」

 鉄格子を握る手の震えが止まる。

 「月の光が、狂わせたの。私達の全てをそうしたように」

 少なくとも、虜囚達にとってはそれが発端であるのだろう。責任の全てを押し付けようとしている訳でも無いらしいが、ただ確かに、女王の纏う美しさは人を狂気に導く類のものであった。

 その告白を最後に、彼女はその場に座り込み、呆けているような顔をしていた。それはあまり見詰め続けるべき姿ではなく、足早に牢の前を立ち去る。

 そうして次に足を向けたのは、再び梯子や階段を経由した先にある、青ざめた血の池であった。特に用があるのはその中州の、円柱のような牢にある厚い鉄の板であり、枝を束ねたような彫刻の見えるそれに近付くと、不死人が何もしないままそれは自ら地面へと埋もれ、牢内部への入り口となる。

 やはりアンゼリークが所持していたタリスマンがこれの開閉に関係していると見るべきだが、彼女が何故そのような物を手にしていたのか、その理由が明らかになることはないだろう。

 不死人は牢の中へと入り、螺旋状の階段の前にまで進むと、先の暗くなったそれを一つずつ降りていく。それが進むべき道であると確信し、そのつもりで何段か降りていくと、しかし階段の先に異変が現れる。

 そこでは、青ざめた血が満杯になって揺れていた。池の方から中州のここへと流れ込んでしまったのか、階段は青ざめた血によって塞がれており、それ以上降りようとすれば全身が沈み込むことになる。

 だが引き返すにはここで得たものは何も無く、仮にそうするにしてもせめてもう少しこの場所を調べるべきだろう。不死人は腰の辺りに青ざめた血が来るまで階段を降りると、そこから前屈みになり、足元などに何か落ちていないか手で探り始める。

 すると不意に足元で何かが崩れ始め、そして次の瞬間には足が外れる。

 足場である階段そのものが崩落し、青ざめた血の中に落ちていく。何かに掴まろうと腕を伸ばすも、手の平に収まるものは見付からず、深く、暗いその場所に、まるで際限無くどこまでも沈んでいった。

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