リボン・オブ・ザ・デプス   作:アザトリデ

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第16章 2

 第16章 中央広場Ⅲ 2

 「うおおおおおおおおおっ!」

 勇壮な響きは、巨人達の向こうからやってきたものであった。その喊声に振り向いたのは五匹のうち四匹。端に居た一匹は右足の膝から下を斬り飛ばされ、仰向けに倒れた直後、首を刎ねられていた。

 これを成したのは特大剣、ツヴァイヘンダー。持ち主はかつて不死人がリングレイに着いたばかりの頃に出会った、丸みを帯びた甲冑の騎士であった。

 「カタリナの騎士、ジークドルフ! 助太刀するぞ! 掛かって来い化け物ども!」

 いくら不意打ちであったと言え、巨人の足や首を一撃で両断するなど人外の膂力であり、おそらくソウルの業を身体能力の向上に注いだ彼は青ざめた肌の巨人達によって脅威と見做され、またよく通る大声によって注目を集めていた。両者は間合いを保ったまま対峙し、そしてその間に不死人は弾みをつけて左手を持ち上げ、遂にエストを飲むと瓦礫を跳ね除け、立ち上がる。

 敵はまだ、あの騎士に向かって攻撃を仕掛けてはいなかった。仲間の一匹が瞬く間に斃されたためか、青ざめた肌の巨人達は慎重な足取りでジークドルフとの距離を詰めようとにじり寄り、だがその行動は大きな遅れを呼び、無防備な背を、ソウルの共鳴が襲う。

 高速で飛行する黒い塊が青ざめた肌の上で弾け、強い衝撃を齎し、それは致命傷にまでは到底及ばないまでも、攻撃を受けることによって不死人が復帰したことを彼等に気付かせた。次には前後の攻撃対象のどちらを向くべきか迷いを見せ、だがそれをすぐに決着させると三匹が振り返り、残り一匹が騎士の方を向いたままでいた。数を偏らせることで一方を足止めし、もう一方を迅速に始末する腹積もりなのだろう。

 ならば不死人の役目は味方を信じ、耐えることである。右手の武器を聖職者のウォーハンマーから持ち替え、魔術師のロングソードを構えて詠唱。剣の腹で塔のカイトシールドの縁を叩き、闇の盾を付与した後、牽制の闇の玉を放っていく。

 また敵が石塊の砲弾を撃ってくれば、とは考えないこともなかった。しかし数が三匹にまで減った上、物理攻撃に強い闇の盾があれば凌げるとまでは言い切れずとも、騙し騙しでどうにか時間を稼ぐ。そのつもりで三匹に向かって魔法を撃ち続け、だが一匹が不意に走り始め、距離を大きく詰める。

 一見して直接攻撃を仕掛けるようでいて、掬い上げの錨は遠く、そして先が地面を深く抉っていた。青ざめた肌の巨人は接近しながらの石塊による攻撃を狙うらしく、これに対して不死人は斜め前に長く突出し、振り上げる錨と飛散する石塊の射角から逃れる。そうすることで闇の盾を使わずに敵の攻撃をやり過ごすことに成功し、だが遠くから、巨大な影が飛び上がっていた。

 「るう”お”あ”っ!」

 跳躍しながら、今度こそ直に殴りかかってきた二匹目の錨に対して身を横に投げ出して躱した直後、間髪入れずに三匹目の跳躍攻撃が訪れる。武器を振り被りながら青ざめた肌の巨人は宙を飛び、それに合わせて不死人は前に駆け出し、下を潜り抜けるも、敵はここで息をつかせるつもりはないだろうと即座に振り返り、だが三匹は動きを止め、不死人ではない、どこか遠くの方に顔を向けていた。

 目の無い彼等に見るという言葉は当て嵌まらないだろうが、とにかく意識を向けていたのは、騎士とその足止めを引き受けていた一匹の巨人の方角であった。否、そこに在ると言えるのは今や騎士のみであり、青ざめた肌の巨人は崩れ落ち、石畳の上で躯を横たえている。

 「はっ、はっ、はぁーっ! 見たか化け物ども! 今更命乞いしても容赦はせんぞ!」

 三対二。数の差が埋まりつつあり、見え始めた勝利の兆しにジークドルフの意気は高揚しているようだが、それとは対称的に青ざめた肌の巨人達に動揺する様子などは見られず、三匹は速やかに二と一とに別れると、二の方を騎士の方へと差し向ける。

 役割が入れ替わり、不死人は対峙する一匹との戦いを早期に収めなければならず、そして危険を冒してまで大して縁の無い己への助力をした彼に、全力を以て応えるべきである。遠ざかっていく二匹を尻目に眼前の敵を見据えて剣と盾を構え、しかし自身の内部で高まっていく戦意とは裏腹に、構えるだけに留まり、機を待ち続ける。

 やがて青ざめた肌の巨人が錨を地面に突き刺し、走り出した瞬間に不死人もまた石畳の上を疾駆。迫り来る超重量、掬い上げの鉄塊に闇の盾を湛えた塔のカイトシールドを打ち当て、弾き返した。

 「ごう”っ!」

 呻きながら巨躯が大きく怯み、晒した無防備の前で不死人は魔法を詠唱。形成されたソウルの大剣を上に向けて大きく薙ぐと、青ざめた肌の巨人は胸元を大きく斬り裂かれた。たたらを踏み、後退しながら傷を手で覆い隠すものの、そのあまりの大きさに血はとめどなく溢れ出し、視界を阻害するほどの濃い靄になると遂に膝から崩れた。

 二対二。数の有利不利が消失。押し留める者が不在となった今、不死人は二匹を相手取っているジークドルフの元へと駆け付け、片方の巨人が背後に迫った危機を察知して振り返るがそれは既に手遅れであった。顔に向けて囮の闇の玉を放ち、敵がそれを錨で防ぐと同時に詠唱、青く巨大な大剣が注意の疎かになった足元を浚う。

 「おおおおおおおおうっ!」

 轟いた怒号はツヴァイヘンダーの一撃と共に放たれ、それを受けた巨人の片割れは片足を両断されていた。それは不死人のソウルの大剣の攻撃とほぼ同時に、乃至はそれによって相手の注意が逸れた瞬間に行われたことであり、双方の巨人はぶつかり合い、手足や錨が絡まりながら仰向けに倒れていく。

 そしてその下では、二人の不死の戦士が敵の首元が近付いてくるのを待ち受けていた。不死人は落ちてきた喉を魔術師のロングソードで一閃、斬り破って致命量の出血をさせ、ジークドルフは豪快に、上段から特大剣を叩き込み、敵の頭部を斬り飛ばした。

 そうして青ざめた肌の巨人達は殲滅され、それは始めの苦戦を思い返せば信じられないようなことではあったが、匹敵したことそのものについて驚くよりは、これを実現せしめて当然の実力を持った屈強なこの騎士が居合わせた幸運こそ、噛み締めておくべきか。

 「あぁ、何故ここに居るのか、か。確かに一度は去ったが、今世界に波及していく怪異はこの地から、あぁ、いや、待て」

 大方の予想通りの話であったため、それが折れることについては何も問題はなかったが、そうなる理由については問題しか無い。警戒心を露にするジークドルフの両目は空を向いており、不死人もそれに倣うと、遠く、礼拝堂の上辺りの方角に暗雲の塊が立ち込めていた。

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