成れの果て   作:なし崩し

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やったぜ、じいじが来てくれた……。
金時を引こうと5000のカード買ったのに、余ってた12個の石で四回引いたらお迎え。この5000はどうしようとコード削らずに放置してたらまさかのじいじピックアップだよ。なんで皆の財布が寂しい時に搾り取りに来るんだ!取っといてよかった!

そんなこんなで余ってた5000を課金して最初の10連で来てくださったのである。あの5000はじいじのために使えってことだったようです。
ついでに次の10連でバスターゴリラが召喚されおった。


三話

 

 

 

 

 

 耳をつんざくような咆哮。 

 山羊のような曲がった二本の角、首から上は膨れ上がったような馬の顔。荒い鼻息とギョロリと動く眼球が目の前に立っていた俺へと向けられる。

 フォモールと言う名のモンスターは、その巨体を揺らして手に持つ鈍器としかいいようのないナニカを振り下ろす。

 何時もなら前衛に出てモンスターを狩りまくるティオナにアイズがまったく出てこない。それどころかやけにワクワクした様子で俺の背中を押す。なに、俺に嬲り殺されろっていうの、挽肉になれと言うの。ここは地下で太陽が出てないから力出ないんだけど。光合成できないんだけど!

 振り下ろされた鈍器を回り込むように避け、すれ違いざまに持ち手を切り裂く。ゴトンと音を立てて落ちる鈍器は無視して、怒りで血走った瞳を向けるフォモールに剣を走らせる。関節を狙ったそれは全て吸い込まれ、四肢を失った体が倒れ込む。トドメと剣を突き刺せば、魔石を残して灰へと変わった。

 一息つく――間もなく、仲間をやられたフォモールが隊を取り囲んだ。

 フォモールの群れに囲まれる中、何故か俺一人が最も敵が密集しているポイントの前である。

 

「ねぇフィン。なんでお前まで後ろに居るの?」

 

「ここで隊全体が疲労するのは避けたいからね。大丈夫、信用してるさ」

 

「爽やかに言われても……もうちょっと敵の層を薄くしてほしいなー」

 

「おしゃべりはそこまでだ――来るぞッ!」

 

 リヴェリアの声に振り向けば、フォモールの群れが進撃を開始する。

 フィンは各々の隊に指示を出し、敵の猛攻を受け止める。盾を構えそれらを防いだ者たちは、その威力からか地面を削りながら後ろへ押されていく。これで盾を持った前衛は行動できなくなるが、押しとどめられているフォモールも同様である。

 

「後衛組、攻撃続行! 片付けろ!」

 

 故に待機していた攻撃組の火力が唸る。

 ヒューマンに亜人の入り乱れる一団が迎え撃つ。

 それを傍目に、目の前にいる群れへと視線を向ける。恐らく此方を手助けしてくれるような余裕はどこにもないだろうし、先程まで後ろで俺を押していたティオナもアイズも自らの武器を取ってこの戦場を駆け抜けている。

 なれば、此方も全力で、死なない程度に頑張ろう。

 かつての、死が前提の戦場と比べればまだマシというものだ。

 愛剣を片手に一歩踏み込む。

 数が多い以上確実に殺せると確信したものは殺し、少しでも確率が低くなったものはその四肢を切り落とし身動きを取れなくしてから殺す。中途半端に動ける瀕死の敵こそが何をしでかすか分からず恐ろしいのだ。

 一、二、三、四と、群れの先が見通せるぐらいには数を減らした。

 しかしよく見ればそのさらに先から先程倒した数以上の敵が押し寄せてくる。幾ら殺せど群れが完全に途切れてくれることは無く、圧倒的な数を以て俺たちの隊を飲み込もうと襲い掛かってくる。

 欠けはしないが体力が失われていく俺たちに対し、大きく数が欠けるが欠けては生まれて五体満足体力満タンの敵。当然ながら持久戦となれば不利なのは俺たちで、かといって持久戦以外にこの状況を突破する方法もない。

 見れば後ろの隊は下がりに下がり、組んでいた円が小さく楕円形になっていく。

 楕円の先にいる俺は取り残されかねないと、周りに合わせて少しづつ下がる。

 そんな中でティオナの声が聞こえる。

 

「リヴェリア~ッ、まだぁー!?」

 

 円の中心、リヴェリアへと投げかけられる声に返す者はいない。

 その当人は今、その美しい声で紡ぎ自らの魔法を形に成そうとしていた。その威力を知っている誰もがその完成を願い、痛む体を引きずって敵の進行を食い止める。まだか、まだかと焦燥が募る中、一匹のフォモールが仲間を巻き込みながら前衛の一角に食い込む。

 振り下ろされる鈍器の威力は、ひときわ大きい体を持っていたフォモールに比例するような一撃。

 此方もまた仲間を巻き込んで盾持ちが吹き飛ばされ、前衛の一角に穴が開く。

 

「――――『展開せよ(オープン)』!」

 

 遊撃から援軍では間に合わない。判断は一瞬。

 自らが持つ魔法のキーワードを呟き、同時に体に力がみなぎるのを感じ取る。目の前にいるフォモールの首を定めて、速く、鋭く、ただ一撃で沈めることだけを考えて振り抜く。当然ながら刃渡りは足りない。だからこっそり刀身を伸ばす(・・・)。一撃で最大限の敵の首を斬り、単純にそれを繰り返す。

 魔法のブーストにより速度は先ほどと比べ物にならない。

 そして殲滅。

 前衛を崩し進入したフォモールもいるが、金色の影が走り抜けていったから問題はないだろう。俺がやるべきことは崩れた前衛の代わりにソコを維持すること。ここまで来てリヴェリアの魔法が不発とか勘弁してほしい。

 盾職の復帰と同時に、先程俺が殲滅した箇所に再出現したフォモールを狩りに戻る。

 

「堂々巡りだな。コッチは疲弊していく一方だし」

 

 そんなことを呟くと、フォモールの群れの上で何かがクルクルと回っている。何かと目を凝らせばそれはフォモールの首で、有り得ない速度で綺麗な断面を持った生首が生産され打ち上げられていたのである。間違いなくアイズだろう。

 多くの者がその光景に見とれる中で莫大な魔力の高まりを感じる。

 確信したのは、勝利。

 

 同時に、フォモールも脅威を感じたのか驚くべき行動に出た。

 

『オオオオオオオオォォォォォ!』

 

 全てのフォモールが武器を、あの鈍器を振りかぶり――投擲した。

 その全てが切り札であり完成した魔法円(マジックサークル)の中心にいたリヴェリアを狙っている。

 

「――――全員、跳ぶなよ!」

 

 剣の柄を握りしめ、炉に火を灯す。

 刃の周囲が熱で歪み、その刀身に光を宿す。

 威力は制限しあの宙に浮いている武器のみを焼き尽くす!

 

「――――――!」

 

 一閃。

 同時に剣から放たれるその熱が、宙に浮くその武器全てを飲み込む。

 そして光が宙から消え失せればそこには灰一つ残りはしない。威力の調整に成功したことに安堵しつつ、後ろのリヴェリアの魔法が放たれるのを感じた。

 

「【レア・ラーヴァテイン】」

 

 無数の炎の円柱が遊撃に出ている者たちを避けて放たれる。

 あまりにその強大な円柱は体の大きいフォモールを丸のみにして灰へと返す。モンスターの咆哮に変わり絶叫が響き渡る。

 リヴェリアの広範囲殲滅魔法。五十を超えたであろうそのモンスターの大群はたった一発の魔法によって一掃された。散る火の粉と熱気に包まれながらファミリアの仲間たちは剣を降ろす。俺たちの、勝ちである。

 

 

 

 

 

 俺たちがたどり着いたのは五十階層。

 ダンジョンの中に存在するモンスターの発生しない安全階層である。

 ファミリアの皆が遠征の山の一つを乗り越え、目の前の芳醇で香ばしい香りに羽目を外す。設置した野営地の真ん中に置かれた巨大な鍋を囲み、団員たちは腰を下ろして談話している。中身はダンジョン内で取れた木の実やハーブだが、携帯食と比べれば雲泥の差である。かくいう俺も木の実を数個確保してドライフルーツをもう一度作る予定である。

 

「それにしても、相変わらずアイズは食べないな」

 

 隣に座る少女に、スープの入った器を近づけるがぷいっと顔を逸らす。どうやらアイズは過剰な食事はコンディションに支障をきたすと信じているらしくいつもこの調子なのである。ちなみに反対側に座るティオナはアイズが飲まなかったスープの器を俺から奪いがっつりとワイルドにかぶりついている。

 その体のどこにはいるのかと思いつつ、気持ちのいい食いっぷりに少々見とれる。

 すると急に服が引っ張られ、何事かとそちらを向けば俺が自分用によそったスープを飲み干すアイズがいて、

 

「…………飲んだ」

 

「…………えっと、うん、えらいな?」

 

 何故か満足そうなアイズ。

 何だろうか、このよくわからなくも可愛らしい生き物は。

 なんだか餌付けをする気分でポーチの中から一つの袋を取り出す。

 

「簡単に言うと野菜から水分を飛ばしてサクサクにした、まぁおやつみたいなものかな」

 

 アイズはじゃが丸くんが好きだったので、なんとなくじゃがいものソレを選ぶ。

 薄くスライスされたポテトチップスではあるが油は使っていないのでヘルシーかつ素材の味が楽しめる。太陽の恵み、野菜や果物が大好きな俺が良く作る一品である。大抵は作って二日でロキの酒のつまみとなって消えてしまうが。

 

「ほれ」

 

 つまんで差し出せば、少し逡巡するような様子を見せる。

 そのまま様子を見てみるが食べる様子は見られないため反対側へとスライドしてみる。

 

「ティオナ、食べるか?」 

 

「おっ、それはマダオの新商品か! いっただきまーす」

 

 俺の手ごと持っていきそうな勢いで、じゃがいものチップにかぶりつく。

 柔らかい感覚が指に触れたかと思えばティオナは美味い!と言いながら味わっていた。その声に呼応するかのように、ワラワラとファミリアの団員たちが集まってきた。どうやら先日のドライフルーツで味を占めたらしい。ロキ、お前のツマミは無くなったぞ。

 

「ンー、素朴だけど美味しいね。同じものを食べたことがあるけど、甘みがある」

 

「ガハハハ、酒がないのが惜しいのう」

 

「エルフ好みの逸品だな。太陽の恵みか」

 

「リヴェリア正解。水分を飛ばす前に少し太陽にも当ててる。まぁ当てすぎるとカピカピになるものもあるから気を付けないといけないけど。そのイモとかは甘みが増してね。言っとくけど、俺の魔法フル活用している貴重品なんだからな?」

 

 どうせ止めても無駄だろうと、袋を開けて皆々に差し入れる。

 これは今度からドライフルーツにせよ秘密裏に作る必要がありそうだ。でないと俺の分もロキの分もあっけなく皆の腹に納まっていきそうだ。タチの悪いことに美味しそうに食べてくれる皆の姿に喜びを感じてしまっている時点で見つかっても上げないという選択肢はなくなっているのだ。 

 次々に消えていく野菜を見て、最後の一枚であったじゃがいものチップを手に取り食べようとしたところで――突き刺さるような視線を感じた。間違いなくアイズだなと確信しつつ隣を見れば、じっと俺の手に納まるじゃがいもチップを見ていた。

 苦笑しながら差し出せばアイズは、

 

「………………ん」

 

 手に取るわけでもなく、そのまま俺の手から口に含む。

 俺を含めた周りがポカンとする中ティオナだけがカラカラと笑い、レフィーヤから光のない目で見つめられる。ベートも不機嫌そうにそっぽを向くがその片手には野菜チップが見え、リヴェリアからはまるで母親のような温かい目を送られた。

 

「リヴェリアお母さん、レフィーヤが怖いです」

 

「誰がお母さんだ。レフィーヤも落ち着け、いつものことだろう」

 

「で、でもですねっ!? ま、マダオさんなんかにアイズさんは渡しませんからっ!」

 

 妙な対抗心を燃やしているレフィーヤ。

 アイズを尊敬しているのは分かるのだがその言い方だとちょっと誤解を招きそうである。美しいエルフの少女と女神にも劣らぬ美しい少女の絡み合い。なんとも俺の知り合いが喜びそうな展開である。アレは恋愛対象両方だったし。

 一騒ぎして幾分か落ち着いて、輪の外から野営地を眺める。

 火を囲むように集まる人々の影が、摩耗しかけた記憶を刺激しかつての光景を思い返させる。一人を中心とし皆で火を囲む。一人もくもくと食事を続ける少女を眺めながら、皆と共にその日の戦果に喜びの声をあげる。守れたという実感を胸に、その日を過ごした懐かしい日々。

 

「守れたって意味では、同じかなあ」

 

 違うのは敵そのもの。

 このダンジョンの中であれば敵は基本的にモンスターだが、俺が守ろうとした国の敵は純粋に人であった。多くの敵を殺し国を守ったと誇っても、酔いがさめればやってくるのは人を殺したという実感である。気づいたころには俺は手遅れでどうしようもない人間になり果てていた。

 

「…………マダオ?」

 

 気づけばどこか心配そうなアイズの表情が目の前に。

 感情の表現が乏しいアイズの表情が読めるようになったのは、日ごろの訓練のたまものか。どこか憧れていた人に似ていたアイズの表情が気になって、訓練中に読み取れるように頑張って、今思えばバカみたいな話ではある。

 それでも幼いにも関わらず表情の乏しいアイズが気になっていた。

 まるでそんなところも、あの人に似ていた。

 だからだろう、俺が柄にもなく気にするようになったのは。

 『彼女』と似ているアイズを、『彼女』と同じにしてはいけないと思うようになるのにはそう時間はかからなかった。それだけの才能を持ち、それだけの力を持つアイズだからこそ俺は危惧を抱き、彼女との訓練を終わらせた。

 『彼女』と似ていると言われた俺が教えることで、至ってしまわない様に。

 

「碌なことなんて、ないからな」

 

「……………………?」

 

 首を傾げるアイズに苦笑し、頭をくしゃりと撫でる。

 居心地が悪そうにでもどこか嬉しそうな表情と訴えるような視線に手を放す。

 そして最後にトンと頭に手刀を落とす。今日の戦い、一人で無茶をした罰である。

 

「無茶するアイズの将来が心配です。手綱を引ける奴が現れればいいんだけどな」

 

「………………!?」

 

 抗議の視線を受けながら、俺は一人苦笑を浮かべる。

 アイズと彼女を重ねてみてしまう、未練がましい自分に対して。

 

 

 

 

 


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