成れの果て   作:なし崩し

7 / 8
あと一、二話で一章終了予定です。

それと感想返しは少々お待ちを。
時間ができ次第返していきます――返すことでネタバレしちゃうようなのは除いてな!
まぁもう皆さん大体わかってるとは思うのだけども!

一章終了後はちょいと時間挟んでFGOか。
そのFGOも三つほど候補あり。
後々、一話だけ公開してアンケートでも取ろうかなって。






六話

 

 

 

 

 

 

 

 爆発する鱗粉が周囲を覆う。

 完全にアイズを覆うその鱗粉に逃げ場は無く、おまけに女型のモンスターは腐食液を吐きだそうと背を逸らしている。

 終わらせるつもりか。

 アイズはとっさに纏っていた風を解き、その風に乗せて周囲の鱗粉を吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた鱗粉はアイズを中心として球体のように広がり炸裂した。その爆発が中心にいるアイズへと届くことは無く、花火のように光を放ち消えていった。

 これまでの戦いの中で鱗粉が爆発するまでにかかる時間を把握していたからこそできた芸当である。

 驚いた女型のモンスターは腐食液の放出を止めてしまう。

 この魔法の特徴こそ、フィンがアイズの残留を認めた理由の一つであった。

 風を纏えば身体能力が向上し、風が腐食液を吹き飛ばす。風を放てば暴風となり周囲を巻き込み、鱗粉を遠くへと吹き飛ばす。マダオの『熱』とは違った、女型のモンスターの天敵とも呼べる。歴戦の冒険者であり【ファミリア】の団長であるフィンの読みに、間違いはなかった。

 そして、ドンッと上空に閃光が打ち上げられる。

 

 撤退完了の合図。

 そして、フィンが予測した『マダオの準備完了時間』の知らせ。

 見ればフィンの的確すぎる予測に引きつるような笑みを浮かべて、準備を終えているマダオがいる。

 

 ――見逃せない。

 

 気が緩み疼痛が体を蝕む。

 それでもと新たに風を纏い、高速でマダオの後ろへと着地。

 モンスターを見ればマダオを認識し攻撃に移ろうとして――――固まったように動きを止めた。

 まるで恐れるように、恐怖にふるえた赤子のようにその身を震わせる。

 

 ――――圧倒的な光がそこに集っていた。

 

 目を開けるのも難しいくらいの、眩い光だ。

 集まっている膨大な魔力はリヴェリアが紡ぐ魔法をも凌ぎ、その威力は想像しがたいほどに強力なモノ。何よりアイズもマダオの奥の手なんて一度きりしかみたことがなく、おぼろげな記憶の一つ。それでもこの光だけは覚えている。

 這い寄る暗闇を一掃する、温かい光。

 自分が憧れ到達したい目標の一つ。

 目の前にあるのはダメな大人の背ではなく、憧憬抱く英雄の背だ。

 フィンの言う、止まった男の背を見て思う。

 

(止まっていてくれないと、追いつけない)

 

 それでもいずれ、マダオが歩みを進める時がくる。

 いや、進んでほしいと思う自分がいる。

 止まっていてほしいが、進んでも欲しい。

 ごちゃごちゃな自分の中の想いに翻弄されながら、今は目の前の背に視線を向ける。

 

「――――目、閉じてろよ」

 

「…………ううん、閉じないよ」

 

「…………眩しいだけだぞ?」

 

 マダオの呆れたような声。

 知っている。

 その剣から放たれる光が眩しいのも、その担い手であるマダオが眩しく思えるのも。

 どうしてマダオが訓練に付き合ってくれていたあの時から、ああも変わってしまったのかアイズは知らない。

 それでも根っこが変わっていないのは、皆が知っている。

 

「さっさと帰ろう。レフィーヤにどやされる」

 

 マダオはそう言って前へと進んでいく。

 両の手に輝く一本の剣を持ちながら、振り抜きの構えを取る。

 そして、纏う雰囲気が一変する。

 

「邪魔だ化け物」

 

 研ぎ澄まされた剣のように。

 慈悲もないその声にモンスターが後ずさる。

 

(……いつか、追いついて見せる)

 

 そんなアイズの視線に気づかないマダオは、眼前の敵を完全に攻撃範囲内へと収めた。

 もうモンスターに逃げ場は無く、今更モンスターが攻撃態勢を整えようと結果は変わらない。

 

「――――――――…………」

 

 アイズにも聞こえない声で、マダオが呟く。

 同時に剣が纏っていた光が臨界を越え――――広大なエリアを白く照らした。

 それはモンスターも、アイズも同じことであり先にあるものが見渡せない程のまばゆい光。

 

 そして次に響いたのは轟音。

 一瞬だけ響いたその音は、一瞬で、一撃で敵を破砕したことを教えてくれた。

 今だ目に光が残るアイズが目をこすりながら前を向けば、

 

「――――――――――!」

 

 マダオの前方には、何一つ残ってはいなかった。

 広がっていたはずの、灰色の樹木も全て。

 後に残るのは更地になった寂しい大地だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

「し、死ぬ…………」

 

 全ての方が着いた後、【ロキ・ファミリア】の遠征は中止となった。

 理由は簡単で腐食液を持つモンスターとの戦闘であらゆる物資が不足してしまったからである。食べ物などであれば現地調達も可能であったが、冒険者たちが振るう武器はそうはいかない。天然武器というモンスターが使用する武器もあるにはあるが、強度も足りないし使い慣れていない武器を使っていて生き残れるほど深層は甘くない。

 結果、団長であるフィンが遠征の終了を決定したのである。

 そして先の戦いの功労者たるマダオは――――四肢をピクリとも動かさずにティオナに担がれていた。

 

「ティ、ティオナさん、もうちょっと丁寧にお願いします」

 

「あ、段差だ。よっと」

 

「だからもうちょっと優しく丁寧にふぐぅ!?」

 

 段差をひょいと降りた反動で、ティオナの肩がマダオに食い込み苦悶の声を上げる。

 これというのも普段使用しない奥の手を使用し、精神疲弊(マインドダウン)を起こしたからである。こうなった以上、ポーションで補給するか時間経過での回復を待つかであったが、残量の心もとないポーションを使う選択肢は無く、例えポーションで補給してもすぐに動けるようになるわけでもないのでこの様である。

 アイズの冷めた視線がマダオに突き刺さる。

 あれから一変してこうなのだから、仕方ないともいえるがマダオにしてみれば理不尽極まりなかった。

 

「い、息が……おおぅ」

 

精神疲弊(マインドダウン)で寝込んでるのに、容赦ないわね」

 

 姉のティオネの言葉にマダオが頷く。

 

「いいんじゃない? 別にあたしも見たかったなーとか、アイズだけずるいなーとか、今回の遠征は消化不良だーとか…………うがぁ!」

 

「俺を乗せた状態で荒ぶるなっ! しょうがないだろ緊急事態だし! 別にあのモンスターとの戦い楽しくなんてなかったし! 遠征に関しては最早俺関係なくない!?」

 

「そっちじゃなーい! はぁ、マダオが察してくれるなんて、元々期待してないけどさー?」

 

「いや、俺に何期待してんのさ……」

 

 するとティオナが溜息をつく。

 それにティオネ、レフィーヤ、リヴェリア、トドメにアイズまで溜息をつく。

 ここまで呆れられるようなことか!?とマダオは愕然とし項垂れた。

 

「あーもう、どしようかなこの……行き場のない昂りは!」

 

「後でダンジョン潜って解放してこい」

 

「むか。よーし、帰ったら久しぶりに鍛練しよう」

 

「俺抜きでだよね? そうだよね?」

 

「まっさか…………あ、アイズはお預けね」

 

「!?」

 

 期待に目を輝かせていたアイズが消沈する。

 しかし今回は思うところがあるのか渋々ながら同意するように頷くと肩を落とした。

 

「俺は? ねぇ俺は?」

 

「一緒に決まってるでしょ! まだ教えてもらいたい事はあったし!」

 

「あら、それだったらあたしも混ぜなさい。中途半端で嫌だったのよ」

 

「やめろぉ! アマゾネス姉妹が揃うとか俺を過労死させる気か!? フィン、フィーン!」

 

「僕は困った時のお助けキャラじゃないんだけどね…………ほどほどにしてあげなよ?」

 

「はい、団長!」

 

「止まってない! 根本的解決になってない!」

 

 しかし無情。

 フィンは巻き込まれまいと一人先に進みマダオは取り残された。

 覚えてろよと呟けば、団長に何かしたら分かってるよな、とアマゾネス姉の声が背筋を震わせる。

 理不尽なと再び項垂れるマダオを他所に、ティオナはつい先程の戦いを思い返す。

 

「結局、あのよくわからないモンスターが原因なんだよね?」

 

「未確認のモンスターで、おまけに体内に武器を溶かす腐食液持ち……厄介ね」

 

 そうぼやいたティオネが思い出したかのように、巨峰のような豊かな胸の間から一つの魔石を取り出した。同時にその光景をジっと見ていたマダオの目の前に音も立てずに現れたアイズが細い二本の指を突き出した。ギャァァァァという叫び声は華麗に無視され、ピクリとも動かなくなったマダオを無視して話は進む。

 

「あのモンスターから抉りだした魔石なんだけど……変わった色をしてるのよね」

 

「うげぇ、あれに腕突っ込んだの? ……ホントだ、変な色」

 

 アイズもひょこりと顔を覗かせてその魔石を覗き見る。

 多くのモンスターを倒したものの、腐食液は魔石すら溶かすのか灰の後には何も残っていなかった。直接腕を突っ込んで、モンスターの中から溶ける前に取り出したティオネだけがこの魔石を回収することができていた。

 実際はマダオも取り出すことに成功していたが、反応すら示さない。

 

「普通のがこう、紫っぽいのに……」

 

 ティオナの視線の先にある魔石は極彩色の輝きを持つ。

 明らかに異常な魔石であり、色があのモンスターを連想させて気味が悪かった。

 

 

 

 

 

 そうこうして歩き続け17階層のルーム。

 複数ある通路から息を荒くした大量のモンスターが姿を現した。

 赤銅のような筋肉質な肉体を持つ人型のモンスター――――ミノタウロス。彼らはルームを囲うように姿を現し、血走った目を向ける。が、ここにいるのは武器を失い疲弊していようと圧倒的な【ステイタス】の差を持つ冒険者たちだ。

 結果は分かり切っている。

 おまけに消化不足なティオナたちの八つ当たりが入るのだから、蹂躙されるのはモンスターの方である。

 ひょいと捨てられたマダオがぐぇと声を上げる中、アイズたちによる蹂躙が始まる。

 数分とせず数を減らした仲間を見て、ミノタウロスたちは恐怖を覚えたかのように背を向けて逃走を始めた。

 

 ――――前代未聞、モンスターの集団逃走である。

 

 流石のベートも慌てて声を荒げるが、聞く耳持たずのモンスターたちは止まらない。

 呆ける仲間たちに対してリヴェリアの声が飛び、各々が急いで逃走したミノタウロスを追った。タチの悪いことにこのミノタウロスたちは上層につながる通路を突き止めては登り、突き詰めては登り、でたらめに階層を走り回り追手であるアイズたちを攪乱した。

 一人、また一人と場を離れる仲間たち。

 そしてその中には回復して動き回れるようになったマダオの姿もあった。

 

「ひ、人使いの荒い! いや、まぁ人命かかってるからしょうがないけど」

 

 ある程度回復していたマインドに加え、リヴェリアにより無理やり飲ませられたポーションにより回復したマダオ。

 当然回復させられた目的は追っての増員であり、その為にマダオはただ一人上へ上へと走っていた。片手に携えた剣が少し重く感じられるが、ミノタウロス如きに後れを取るような状態ではない。上層にいる新人たちが、格上のミノタウロスの手にかかる前に止めなくてはいけないのだから多少の無理は通す。最低な大人はマダオの目指すところではない。

 その道中、見つけた。

 今にも上の階層に登ろうとしている、赤銅の体を。

 

「まぁぁぁぁてぇぇぇぇぇぇい!!」

 

 マダオの足元が爆散し、加速する。

 ミノタウロスは振り向きもせず、『ヴォォォォォォォォ!』と上の階へと姿を消した。

 どこまで登るつもりなのか、マダオがたどり着いたのは五階層であった。

 そして、耳が捉えた。

 

「ヴヴォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオ!」

 

「ほぁああああああああああああああああああああぁ!?」

 

 決断。

 魔法を使用する。

 

展開せよ(オープン)! ――――!」

 

 マダオの体に青い電が走る。

 視界にとらえたミノタウロスの前――一人の少年がいる。

 雪をほうふつとさせる真っ白な髪、真紅の瞳。

 その姿が一瞬――――とある少女と重なった。

 

「――――――――――!」

 

 反射的に、マダオの体が動いた。

 強化された肉体をフル活用し、掻き消えるようにマダオは前へと進む。

 そして振るわれようとしていた剛腕を、握りつぶすように止めていた。

 

「……………………へっ!?」

 

 間の抜けた声。

 同時に腕をつぶされたミノタウロスが咆哮をあげようとして、

 

「喚くな、みっともない」

 

 次の瞬間には上半身が消失していた。 

 下半身の断面からは煙が上がっており、ふと気づいたかのように残りの下半身も灰へと還った。

 後に残るのは魔石一つと、呆然とする白髪の少年一人である。

 

「…………うわー、恥ずかしい。我を失うとか、もうほんと今日は厄日か」

 

 恥じるように呟く声は、呆然としている少年には届かなかった。

 

 

 


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