今回は二話まとめて投稿しています。こちらは一話目です。
「一護、手」
「お、おう」
倒れ込んだ一護の手を掴んで、引っ張り起こした。
「……オレの負けだ」
私の手を借りて立ち上がった一護が、眉間に深いシワを寄せてため息をついた。
「さっきまで手加減してたんだろ。だからあんな一瞬で終わったんだ」
「そりゃ、してたよ。叩きのめすことが目的じゃないんだから」
「……そうかよ」
一護は私から視線を外した。
暫しの間、沈黙が流れる。
「強く、ならなきゃな」
そして、言い聞かせるように、宣言するように一護は言った。
どこか決意を秘めた目をしている一護を見上げて、私は冗談めかして笑った。
「そうそう。私のことも護らなきゃだもんね」
「あぁ、安心して待ってろ。すぐに、お前を護れるくらい強くなってみせるからよ」
「…………」
小さな頃の一護の発言をからかうつもりで放った言葉は、あまりにも真っ直ぐな答えとなって返ってきた。驚いて、思わず口をつぐむ。
何だか、最近こういうことが多い気がする。私より年下とは思えないような、そんな言動にペースを乱されることが。私に簡単に言い包められてオドオドしていた一護はどこへ行ったのか……
「お前の能力だって、すぐに聞き出してやるからな」
「……ん? それ気になってたの?」
「当たり前だろ。あんなこと言われて、気にするなって方が難しいって。……まぁ、負けたからお預けだけどな」
「いや、別に教えてもいいよ」
「はぁ?!」
「焚きつけようと思ってああ言っただけだし」
勝ち負けで言うと、この戦いは私の勝ちだ。約束では、私に勝てば私の能力を教えるということになっていた。しかし、だ。
「味方なんだから、だいたいの能力は知っておくべきじゃない? 私はそこにいる下駄帽子みたいに秘密主義じゃないから」
「ちょっと、アタシのことっスか? それ」
離れた所から口を挟んできた喜助さんを無視して、私は腰に戻した刀に優しく触れた。
「私の"
「はかる……?」
「そう。簡単に言うと、『相手の能力を知る能力』ってところかな。例えば……」
先程一護が背負い直した、"斬月"に目を向ける。
「刀の名は"斬月”。始解済みで多分、常時開放型。能力は、死神の力を取り戻した直後に喜助さんに放った技、アレがメインだと思う。あんた自身は、斬術は初心者に毛が生えたレベル。素手での戦いは私よりも上で、もしかしたら隊長格とも渡り合えるかもしれないくらい強い。でも、残りの瞬歩と鬼道はただの素人。……まぁざっと、こんな感じかな」
「……は?」
一息に言って、そして私は小さく笑った。
「ま、この程度の情報なんて、わざわざ斬らなくたって分かるんたけどね」
"雲透”が量り取れるのは、相手の現状のみ。だから、一護みたいな初心者に使っても大した意味はなかった。
「逆に効果抜群なのが、喜助さんみたいな実力者を相手にした時だね」
くい、と顎で喜助さんを指し示した。
「喜助さんの始解、一護も見たよね」
「おう。何か井上みたいな名前だったような」
「それは織姫。喜助さんの刀は"紅姫"ね。"紅姫"にはいろんな能力があるんだけど、中でも特にヤバいのが――」
「ちょ、ストップストップ!! どさくさに紛れて何てこと口走ってるんスか!」
「ふふっ、大丈夫大丈夫。言いやしないから」
喜助さんがわざわざ瞬歩まで発動して、猛スピードで私の口を塞ぎに来た。その余裕のない反応が可笑しくて、私は口を覆う手を剥がして再度口を開いた。
「更に言うとね、もっとエグいのが卍か――」
「桜花!!」
「あはは、冗談だってば!」
藍染惣右介が倒されるまでのストーリー上では、喜助さんは一度も卍解していない。そのことを私の口から聞いて知っている喜助さんは、私にすら卍解のことは伝えないつもりだったんだろう。
しかし、まだ"雲透"に慣れていない頃……喜助さん相手に発動されてしまった"雲透"の力のせいで、私は喜助さんの始解も卍解も含めた能力の全貌を知ってしまったんだ。
その時に私は「何てえげつない能力だ」とドン引きして、うっかり彼の卍解の名を呟いてしまった。
その時の喜助さんの驚いた顔は……もう、忘れられない。
とりあえず、数年経った今でも思い出すだけで笑えるような表情だった、とだけ付け加えておく。
「見ての通り、強い人ほど実力を隠している場合が多い。だから実力者には効果抜群ってワケ」
「なるほどな……」
喜助さんだって、私がそんなことを簡単にバラすほどの馬鹿だとは思っていない。それでも反応せざるを得ないのは、私の握る情報がそれだけ大切だということに他ならないんだ。
「あんたや喜助さんみたいに、普通は始解したら強力な技が使えたり、刀の形が大きく変わったりするんだけどね」
「形はお前のも変わってんじゃねぇか」
「それは、まぁね。でも"雲透"は直接のぶつかり合いには向いていない。それは事実だよ」
――さっきからぼくの愚痴かい? きみってぼくのこと、そういうふうに思ってたんだね。
そう言って若干へそを曲げたような素振りを見せる"雲透"に触れて、苦笑いする。私の心を読めるんだから、別に嫌っている訳じゃないことくらい分かっているだろうに。
「それでね、さっきは秘密主義ではないって言ったけどさ。この話は、皆には内緒にしておいてほしい。尸魂界の人たちはもちろん、織姫にもチャドにも石田にも」
「は? 何でだよ」
「考えてもみてよ。いくら友達でもさ、知らないうちに自分のことが丸裸になってるなんて気持ち悪いでしょ」
「まぁ、確かに」
「他の皆にはタイミングを見て私から話すから。一護の場合は、それが今だったってこと」
「……あぁ、分かった」
「よし、じゃあ話はここまで。次は喜助さんが相手してくれるから、心の準備はしておいた方が良いよ」
この人、本気で殺しにくるから。
そう言って私は、既に余裕を取り戻している喜助さんを指し示した。
本当に、この人の修行は容赦がない。「まぁ死んでも自己責任ってことで」なんて言いながら、赤く発光する"紅姫"を楽しげに振りかぶる姿はトラウマものだ。
「あー……そうだろうな」
「あぁそっか、経験済みだもんね。……まぁ、どんまい」
「……おう」
私はげっそりとした様子の一護の肩を、慰めるように軽くたたいた。
◇ ◇ ◇
私の能力は戦闘に向いてない。
その言葉の裏に「だから何かあった時はちゃんと守ってね」という意図を含めて、一護をさらに焚きつけたつもりだった。
その甲斐あって、なのかどうかは分からないが、一護は無事に喜助さんとの修行を乗り越えた。
そして、ルキア救出に向かう一週間前。私は、夏祭りへと出かけていた。友人たちとではなく
「何やってんだ、桜花」
「桜花ちゃん、早く行こうよ!」
「あー、ちょっと待って。
「なーなー桜花!」
「ん?」
今にも走り出しそうな
「オレ焼きそば食いたい!」
「うん、焼きそばね。お金あげるから買っておいで。
「えっと……たこ焼き、かな……」
「オッケー。はい、お金。私はここで待ってるから、二人とも買ったらここで集合ね。あ、迷子にならないように」
「分かってるっつーの!」
「ねぇ、お姉ちゃんは食べないの?」
「……あ、忘れてた。じゃあ雨、私の分のたこ焼きもついでに買ってきてくれる?」
「うん……分かった」
「ありがとね」
雨の頭をなでて、たこ焼きの屋台へと向かう後ろ姿を見送った。
それから再び、黒崎家の姉妹へと向き直る。
「夏梨、遊子。二人は家でご飯食べてきたの?」
「ううん。さっきお母さんに買ってもらったの」
「まだ食べてはないよ。ほら、これ」
夏梨が差し出したビニール袋からは、焼き鳥とフランクフルトの棒が何本も飛び出していた。
「そっか。なら大丈夫だね」
これで全員分の晩ごはんは揃った。お菓子は家から何袋か持ってきてるし、後は飲み物を買えば十分かな。
「一護たち、もう着いてるかなぁ?」
「あ……そのことなんだけどさ……」
何気なく一護の話題を出すと、途端に双子はバツの悪そうな顔になった。
「何か、悪かったなって……」
「お姉ちゃんも友達と行きたかったよね……ごめんね、ワガママ言って……」
どうやら子どもたちの世話をしているせいで、私が友人たちと回れなくなってしまったと思っているらしい。
「いや、最初から友達と行く気はなかったから大丈夫。今、うちの保護者は忙しくってさ。雨とジン太と三人で来るつもりだったんだよ」
だから黒崎家から一緒に行こうと誘われた時、二つ返事で頷いた。一心さんも真咲さんも来るから心配はないだろうと思ったんだ。
「それに、私は二人と回れて楽しいよ」
「……ほんと?」
「そんな下らない嘘、私がつくと思う?」
「ううん、思わない」
「でしょ? そういうことだよ。ほら、もう気にすんなって」
双子の頭をわしわしとかき混ぜた。
ショッキングなことに、高校生の私と小学生の双子とはあまり背が変わらない……が、例え腕を持ち上げないと頭をなでられないとしても、同じサイズの服を着るような背格好だとしても、かわいいものはかわいいんだ。
「いやぁしかし、お姉ちゃんってのも大変だねぇ……」
「まぁ、懐いてくれてるってのも嬉しいもんですけどね」
「ったく何で俺のとこには一人も寄ってこねぇんだよ……あぁ、寂しいなぁ……」
そう言ってうなだれる一心さんを、真咲さんが呆れた笑みを浮かべながら見ている。
双子の姉妹は基本的に真咲さんか私にくっついているし、うちの子たちは私から離れない。よって一人余った一心さんは、オマケのように黒崎家の女性陣の後ろをついてくるだけだ。流石に気の毒である。
「雨は人見知りだし、ジン太もなんやかんやで人に心開かないですからねぇ」
「その子らは仕方ねぇけどよ、夏梨と遊子は俺の娘だぞ? 真咲との愛の結晶、かわいいかわいい愛娘たちだぞ? 俺はこんなに愛しているのに何故……?」
「原因、そういうところだと思うわよ」
要するに愛が重い。そういうことなんだけど、真咲さんも容赦ない。娘たちも一心さんを冷たい目で見つめている。
しかし喜助さんといい夜一さんといい
そんな下らない話をしているうちに、夕食を手に入れたうちの子たちが帰ってきた。それからそれぞれの欲しい飲み物を買って、私たちは移動を始めた。
「ほら、行こう。一護たちもそろそろ着いてるはずだから」
友人たちとは、一心さんが事前に確保してくれていた土手のスペースで待ち合わせている。待ち合わせ時間は花火が始まる少し前だから、漫画みたいに竜貴と織姫が遅れるなんてこともないだろう。
「あっ! 桜花ちゃん、こっちこっち!」
騒がしい雑踏の中でも、織姫の声はよく通る。やっぱり、既にスペースに辿り着いていたらしい。
土手の斜面という足場の悪い所なのに、器用にピョンピョン飛び跳ねながら私に手を振る織姫と、その度に大きく揺れる胸を凝視する周囲の男共を睨みつけて牽制する竜貴に、私は笑顔で手を振り返した。
そして、他の人が敷いたブルーシートを避けるように、その場所へと歩いていく。
「久しぶり……って竜貴、どうしたの? その手」
「ちょっとインハイでね」
「あー、インハイかぁ。結果どうだったの?」
「コレのせいで準優勝。ったく、やってらんないよ」
竜貴が、腹立たしげに右腕を持ち上げた。確か原因は自動車事故だったような。
「それさ、事故にでも遭ったの?」
「そうそう。準決勝前にジュース買いに行った時に車に轢かれちゃって」
「それは……ご愁傷様……」
「ちょっと待て、何で事故って分かったんだ?」
訝しげな一護の左隣に座って、私の右隣に座り込んだ雨からたこ焼きを受け取った。ちなみにジン太は、少し離れた所で何やら楽しげに夏梨と話している。
「いや……竜貴と戦って腕を折れるのって、もう熊かゴリラくらいしかいないでしょ」
「さらっと失礼だな、お前」
「おいコラ。それはあたしがゴリラだって言いたいのか」
「違う違う、ゴリラぐらい強いってだけ」
「それフォローになってねぇぞ」
誤解を解いたつもりだったが、果たして本当に解けたんだろうか。私を睨みつける竜貴をどうどうとなだめて、まだほんのり温かいたこ焼きを口に放り込んだ。
「……なぁ、桜花」
「ん?」
しばらく経って、私を睨むのを止めてため息をついた竜貴が、ぽつりと呟くように言った。
「さっき話してたんだけどさ。織姫、夏休みはずっと忙しいんだって」
「らしいね」
「あんたも夏休み、忙しいんだっけ?」
「うん。ちょっとね」
「……あたしはさぁ」
いつもより大人しい声のトーンに、私は竜貴の顔を見た。どこかうんざりしたような、困ったような目をしていた。
「織姫のことも心配だけど」
「うん」
「あんたのことだって、心配なんだよ」
「うん。……うん?」
心配? 私が?
「何ていうか、織姫とは違う理由で目が離せないのよ。あんた昔っから妙にフラフラしてるから」
「…………」
他にも人がいるからか慎重に言葉を選ぶ竜貴に、私は無言で続きを促した。
「……
そこまで聞いてやっと「あぁ、そういうことか」と合点がいった。私は小さく頷いて、竜貴から目を逸らした。
「そんな心配しなくたって、別に戦場に向かうって訳じゃないんだからさ」
「……そっか。うん、そうだよね」
竜貴は、無理に明るさを取り戻そうとしているような声で言った。
私は、友人の様子に気づかないフリをして、隣で不安げに私を見上げる雨の肩を抱き寄せた。
という訳で、こんな感じの能力でした。ありがちな能力ではあると思います。
前話の後書きで恥ずかしげもなく感想をねだった結果、何人もの方が予想してくださいました。
投稿してから少し経って「あれ、これ恥ずかしいやつなのでは? でも今更変更するのもなぁ」と頭を抱えていたので、本当に嬉しかったです。ありがとうございます。