月曜夜、投稿画面で寝落ちました。
すみません。一日遅れの更新です。
『それでは登場していただきましょう! 新世紀のカリスマ霊媒師!! 地獄のメッセンジャー! ミスタァー、ドン! 観音寺ィー!!』
ぶらり霊場突撃の旅。
何とも不謹慎なタイトルのテレビ番組が始まった。喝采を浴びせる観客たちの声に答えるように、上空から姿を現したドン・観音寺が決め台詞を言い放った。
『スピリッツ・アー! オールウェイズ! ウィズ!! ィユー!!!』
「…………」
黄色い歓声と、野太い声援と。それらの熱量が、テレビ画面を通して伝わってきそうだ。私は無言でリモコンを手に取ると、テレビの音量を下げた。
「ごめんくださーい! ……あれ、おらんのか?」
「もっぺん呼んでみいや」
そのお陰なのだろう、今まで聞こえなかった店の戸を叩く音が聞こえた。聞き覚えのある声に、何事だろうかと立ち上がって店先へ急ぐ。
「せやな。ごめんくださーい!!」
「もっぺんや」
「ごめん……って、何でオレにばっか言わすんや。次お前が言えや」
「ハァ? ハゲのくせにウチに命令すな!」
「誰がハゲや、このクソガキが!」
「誰がクソガキやっ!!」
相変わらず口を開けば喧嘩ばかりの知り合いに苦笑いが漏れる。それにしても、どうしたんだろうか。こんな時間帯に。
「……平子さんに、ひよ里?」
「おぉ、おったか!」
「遅いわ!」
扉を開けると、ニカッと笑う平子さんと不機嫌そうなひよ里がいた。
「近々この辺に引っ越す予定やから、報告にな」
「引っ越し? あ、とりあえず上がってください」
「スマンな」
「邪魔するでー!」
勝手知ったる我が家のように、二人は商店に上がり込んだ。私は二人をちゃぶ台のある居間に通すと、手早くお茶と煎餅を準備して出した。
「おっ! これエエとこのやつやんけ!」
「こんなん貰うてええんか?」
「大丈夫ですよ。客人用に買い溜めしてるんで」
見た目が若い二人が良い煎餅で喜ぶ光景は、見ていて何だか変な感じがする。それでも喜んでくれたなら何より、と私は二人の正面に腰を下ろした。
「さて、と……今日のご用件は?」
「言ったやろ、引っ越しの報告やって」
「それは
「ほォ……」
平子さんは感心したような声を出し、そして小音量で流れ続けるテレビに視線を投げた。そういえば『ぶら霊』がつけっ放しだったか。
「何や面白そーなもん見とるやんけ」
「あぁ、生放送なんですよ。ちょうどこの町でロケしてるみたいで、ここの大人が子どもたち連れて見に行ってるんです」
「なるほどなぁ……喜助がおらんのはそのせいか」
その時、テレビに一護の姿が映った。警備員に取り押さえられた幼馴染は、何やら必死に叫んでいる。うわ、と小さく呟くと、平子さんが私の顔を見てニヤリと笑った。
「知り合いみたいやな、今のオレンジ頭」
「幼馴染ですね。一護っていいます」
「一護って……あん時のクソガキか?!」
訝しげに一護の顔を凝視していたひよ里が、驚いたような声を上げた。あの時というのは、恐らく小学四年生の花火大会の時のことだ。
「そういや、ひよ里は一護に会ったことがあったよね」
「ホンマ、人間の成長は早いな……」
「私も死神の力を取り戻してから、成長が止まっちゃったし……皆に抜かれてくのも悲しいもんだよ」
「お前ずっとチビ助やもんなァ」
「……平子さんが大きいだけです」
「つーか何しとるんや、アイツ」
「……さぁ?」
私は実は知ってるけど、という言葉は飲み込んで首を傾げておく。
そのタイミングで番組はCMに入り、平子さんもひよ里もテレビ画面に向けていた視線を私に向けた。
「んで……本題っちゅうのは、
「…………」
「詳しくはウチらも知らんけど、この辺に死神の力を持った人間が現れたらしいて聞いてな」
それはきっと一護のことだ。そして平子さんは、一護がその人間だということに気づいている。しかし、ひよ里は恐らく気づいていない。
「一体どこで、そんな話を?」
ここまで事実を掴まれていては、もう隠し通せるような話ではないだろう。ため息混じりに訊ねる。
「秘密や。しかし、思ったよりアッサリ認めたな」
「そこまで掴まれてちゃ、認めるしかないですよ。……で、何を訊きたいんです?」
「あぁ、一つだけな。――藍染は、動くか?」
平子さんがその名を口にした瞬間、室温が5℃ほど下がったような気がした。その温度に気圧されつつ、私はゆっくりと口を開く。
「えぇ、動きます」
「……っ! やっぱりな……」
「重霊地であるこの空座町で、人間が突然死神の力を手に入れた……何もないハズがない」
今の段階で彼らに伝えても差し障りない情報と、伝えるべきではない情報と。それらを頭の中で整理しつつ、失言のないように言葉を発していく。
何で喜助さんがいない時に来るの? とか、これ私には難しいと思うんだけど……なんていう泣き言は通用しない。
「ただし、どう動くのかは断言できないのが現状です。喜助さんの頭の中にはいくつかパターンがあるんだろうけど……」
「本人は何も言わん、と?」
「はい。まぁ言わないってことは、まだ動くなってことなんじゃないかとは思いますが」
「へぇ……」
腹の探り合い、上手くなったやんけ。言外にそう言われた気がして、私はそっと平子さんから目を逸らした。私がいろいろ隠してること、バレてるな。
「ま、それでも何かあったらオレらはオレらで動くからな。喜助によろしく伝えといてくれや」
「了解です」
頷くと、嫌そうな顔をしたひよ里と目が合った。
「え、何?」
「お前……ますます喜助のハゲに似てきとんで。話し方とか」
「……気のせいじゃない?」
「気のせいやない」
「うえぇ……心外だ……」
勘弁してほしい。私があの胡散臭い人と似てるだって? 高頻度で下ネタやらゲスい言葉を挟んできては、私に蹴飛ばされる喜助さんと?
「私はあんな胡散臭くないってば……」
「いーや、さっき話しとる時は十分胡散臭かったで」
「ええぇ……」
何てことだ。知らなかった。こういうところも、こないだルキアに怒られた原因なのかもしれない。
「やだなぁ……気をつけた方がいいかなぁ……」
心当たりなら、ある。
でもなぁ。うーん。
はぁ、と大きくため息をつく。
「あー……そんな凹むなや、な?」
「何や、喜助が可哀想になってくるわ……」
意気消沈した私の肩をひよ里が慰めるようにポンポンとたたき、平子さんが気の毒そうに小声で呟いた。
とまあ、そんなことがあったのは数ヶ月ほど前のことだ。その直後、仮面の軍勢は本当に空座町に引っ越してきた。しかし彼らが拠点として確保したのは、綺麗な家屋とは程遠い廃工場だった。
そういえば漫画でもこんな所にいたような、とは納得しつつも、漫画で見るより汚いこの廃墟に住むことに関しては理解できなかった。
「え、住むの? ここに……?」と呟いた私の頭を、ひよ里が平手でひっぱたいた。「そないなこと言うたかてしゃあないやろココしかなかったんやから!! ウチかて嫌やわこないなトコ!!」と一息にまくしたてられた。理不尽だ。
そんな経緯があって拠点が近くなったことにより、仮面の軍勢は一護に接触しやすくなった。それは事実である。
事実、なのだが。
「平子真子でぃす。よろしくーぅ」
「うおーい。平子君平子君、逆逆!」
よりにもよって、どうしてこのやり方なの?
教室の黒板前で、だらだらと礼をする平子さんを眺める。平子さんは数百年の時を生きていて、百年前まで護廷十三隊の隊長をしていて、始解も卍解も当然できて、虚化を使いこなしているのだ。
そんな人が、高校生として空座第二高校に潜入って。他の方法もあったでしょ、絶対に。せめて私に一言くれたら、一護に穏便に紹介することだってできたのに。
「……ふっ」
「ん? 何か言ったか?」
「い、いや。別に」
左隣のクラスメイトに問われて、何とか誤魔化す。
危なかった。
あまりにも面白い絵面だから、笑ってしまわないよう考え事をしていたのに。それでも少し吹き出してしまうくらいには面白いのが、この平子さんの現状である。
「えーっと……一番好きなんは女子で、嫌いなモンはありませんー。得意なことは逆さ文字ですぅ」
敬語なんて使えたんだね、あの人。
ていうか平子さん、制服似合わな過ぎじゃない? 明らかに成人している外見なのに制服って。コスプレ? コスプレなの?
「じゃあ平子君の席は……あそこの空いてる所な」
自己紹介を終えた平子さんを、越智先生が誘導する。先生が指さしたのは、一護の隣の空席だった。これは漫画通り、だった気がする。
「えー、俺あっちのがエエなぁ」
しかし平子さんは、先生の指示を拒否した。そして「あっち」と指し示したのは、私の真後ろの空席だった。何でだ。
私の側に来て一体どうするつもりなのだろうか。一護と接触するなら、分かりやすく一護の隣に行けば良いのに。
「カワイイ女子の近くのが楽しいやん、どう考えても」
「ったく……浦原、それでも良いか?」
「私は別に良いですけど……」
何考えてんですか、という意図を含ませながら平子さんを見る。目の合った平子さんはにやりと笑って、床に置いていたカバンを手に取った。
ほら、そんな笑い方するから余計に怪しげなんだってば。女子好きのやらしい奴だと思われますよ、あながち間違いでもないけどさ。
「よろしくな、浦原さん……やったっけ?」
「…………」
半笑いで浦原さんって言うな。
クラスメイトが呼ぶ『浦原さん』と、平子さんが呼ぶ『浦原さん』はニュアンスが違う。からかう意図が見え隠れしていて、ちょっと腹立つ。
着席するなりしれっと私に手を差し伸べて、握手を求めてきた平子さんの手を掴む。そのままギリギリと握り締めながら、私はにっこり笑った。
「痛ぁっ! ちょ、え……強ない? 当たり強ない?」
「浦原桜花だよ。よろしくね、平子くん」
「分かった分かった桜花ちゃんな! ゴメンて!」
よろしい。頷いて手を離す。
やっぱこの子コワいわ、と平子さんが呟いた。「やっぱ」とか言わないでよ、知り合いかと思われるじゃないか。
そして案の定、次の休み時間に一護に訊かれてしまった。あの平子とかいう奴と知り合いなのか、と。
「顔見知り、ではあるね。一応」
「やっぱり知ってんのかよ。……
後半は声をひそめて、一護が問うた。確かに尸魂界絡み……ではあるけれど、今は違うだろう。今は、ね。
「いや。そういうのじゃなくて、普通の知り合い」
「ホントかよ」
「ホントホント。尸魂界関係なら一護が知らない訳ないでしょ、一緒に行ったんだから」
「……それもそうだな」
一護は少し考えて、そして頷いた。
「そういや珍しいな、お前の知り合いなんて。小学生の時の夏祭り以来じゃねぇの?」
「夏祭り?」
「ほら、あの関西弁の奴だよ。名前なんて言ったっけ、えっと……」
「あぁ、ひよ里ね」
「ぶっふぉっ!」
「うわ、きたねっ」
聞き耳を立てていたのだろう、平子さんが飲んでいたペットボトルのお茶を盛大に吹き出した。一護がひよ里と面識があることは知っていても、ここでひよ里の名前が出てくるとは夢にも思わなかったに違いない。
「どうしたの、平子くん」
「い、いや……何でもあらへん」
思いきり吹き出しておいて、何でもないは無理があるだろう。
しかし一護といい平子さんといい……隠す気があるのかないのか、ワザとやっているのか嘘がつけないタイプなのか。
仕方ねぇな、と一護が謎の女子力でポケットティッシュを差し出す。礼を言ってそれを受け取った平子さんが、お茶でベチャベチャになった机を拭いている。
この二人がこうして普通に絡んでいるのもレアだなと思いつつ、私はこっそり伝令神機を起動して二人の写真を撮ったのだった。
一護は常にハンカチとティッシュを持ち歩いてそう、というただの偏見。
「貸して」って頼んだら「そのくらい持っとけよ」とか言いつつ貸してくれそう。