数時間前と同じように、その死神は突然に現れた。
腰に差していた白金色の斬魄刀を滑らかに抜き放ち、細かい文様の入った刀の先をこちらへ向ける。
「倒すつもりだと? アナタごときが、この私を?」
「……そうだな。知性のない言葉で言えば、だが」
もはや慇懃無礼ですらない、ただ無礼なだけの言葉で敵であるザエルアポロを嘲笑う。そんな言動に苛立ちを覚えながらも、ザエルアポロはどこか冷静だった。
死神の小娘――朽木桜花とやらは玉座の間で、「始解で霊圧を完全に隠して、卍解では自身の存在を『なかったこと』にできる」と言った。加えて卍解では身体を透過させることができる、とも。
そしてその直後、言葉通り彼女は藍染達の前から記憶ごと消えてしまった。鍵が掛かったままの手枷を、その場に残して。
しかしあの時、彼女は卍解の解号を口にしていなかった。にも関わらず、彼女はそれらの技を卍解によるものと言った。つまり、捕まるよりも前から卍解を維持していた、あるいは始解の能力を卍解によるものだと嘘をついた。そのいずれかである。
恐らく後者が正解なのだろう、とザエルアポロはあたりをつけていた。何故なら気を失ってもなお継続される卍解など、見たことも聞いたこともないからだ。
一方で、あれが始解であるというならまだ理解できる。強力な始解というものは、藍染惣右介の”鏡花水月”という一例があるからだ。さらに言うと、朽木桜花のバックには浦原喜助がいる。自分程ではないにせよ、優秀な科学者だという彼なら斬魄刀を物理的に隠す術の一つや二つ、持っていてもおかしくないだろう。
「二人は下がってて。私がやる」
「しかし、桜花様……!」
「そうだよ、ここは協力した方が――」
「いいから、ね?」
朽木桜花は、死神二人の手助けを断った。そして、戦いにはそぐわない穏やかな笑みを浮かべてみせる。焦ったように彼女を見つめる二人を安心させるように。
「大丈夫、すぐに終わるから」
傲慢な台詞だ、と呆れた直後、彼女の姿が掻き消えた。瞬歩だ。しかし、対応できない速度ではない。
もし、ザエルアポロの仮説が当たっていたとしたら。今の彼女は「始解はしているが卍解はしていない」という状態だ。何故ならザエルアポロは今の今まで、『朽木桜花』という存在を忘れてしまっていたのだから。
真上から振り下ろされた刀身を防ごうと、羽を素早く動かして構える。ただ始解しているだけの斬魄刀だ、
案の定朽木桜花の刀は、ザエルアポロの頭上の二枚の羽が難なく受け止めた。
ザエルアポロの羽は合わせて四枚。つまり、残りは二枚だ。
刀を受け止める直前に、残り二枚の羽を彼女の死角に配置しておいた。ザエルアポロの羽を受け止めている今の彼女は、間違いなく実体化している。つまりこの二枚のどちらかで敵を包みこんでしまえば、勝負はそこまでだ。
そして朽木桜花は、左右から同時に迫る羽を避けようとしなかった。いや、反応が間に合わなかった、の方が正しいか。
「終わりだ、小娘」
所詮はこの程度かと振るった羽は、しかし。
彼女の身体を、するりと
「とうっ」
刹那。気の抜けるような掛け声と共に、朽木桜花の刀はザエルアポロの身体を脳天から両断した。斬られた。頭から。いや、その割には痛みも衝撃もない。透過した? 一体、何の為に?
不可解な現実にほんの一瞬、思考が止まる。
その一瞬を突くように、さっと斬魄刀を引いた朽木桜花が正面から迫る。考えている暇は無い。斬撃の軌道を逸らそうと、咄嗟に腕と羽を身体の前で交差させて――
「な……何だ、これは……」
まるで、攻撃から身を守ろうとしているようだ。
何だこれは。どうして自分は、こんな体勢をしているのだろうか。死神二人はザエルアポロに攻撃すらしていないというのに、一体何から身を守ろうとしているのか。
そうだ。そういえば、前にもこんなことが――
「は……?」
不意に、背後から衝撃。そして、激痛。
腹部から生える血塗れの刀身。
口から零れ落ちる、赤。
理解が、またほんの少し遅れる。
刺されたのか。背後から。一体、誰に。
――あぁ、そうだ。忘れていた。
忘れさせられていた。
この、忌々しい名を。その存在を。
「みんな酷いですよね。すーぐ私のこと忘れちゃうんだから」
「朽木、桜花……!!」
苛立つ感情は大いにあった。しかしそれ以上に、頭の中で鳴り響く警鐘の方が気になって仕方がなかった。
おかしい。何かが、おかしい。
存在を忘れさせる能力は、まだ理解できる。
問題は、
何せ相手は隠密に特化した能力の、お世辞にも腕っぷしが強いようには見えない小柄な少女だ。刀とて、力任せに振れば折れてしまいそうな程に貧弱な造りをしているというのに。
「このッ……!」
背後に居るであろう朽木桜花を羽で振り払う――いや、振り払おうとした。が、できなかった。
自らの羽は、無様に彼女の身体を通り抜けた。ザエルアポロの腹に刺さった斬魄刀の質量は、そのままであるにも関わらず。
「どう……なって、いるんだ……!」
「いやぁ、それが私もよく分からなくて。アナタはどう思います?」
そんな適当にも程がある台詞と共に、勢いよく刀を引き抜かれる。ザエルアポロは腹部を庇いつつふらふらと飛び退って、朽木桜花から距離をとった。
そして、おかしな点がもう一つ。
実体化しているはずなのに、彼女にこちらの攻撃が通らないのだ。どう考えたって、おかしいだろう。刀には実体が残っているのに、その身体だけが透過してしまうだなんて。
――まさか。
「成程……消えるのは『四択』だった、ということか……」
「正解」
『身体も刀も両方透過する』か『どちらも透過しない』かの二択ではなかった。刀のみ透過するか、本人のみ透過するか、刀も本人も透過するか、どちらも透過しないか。正しくは、その四択だったという訳だ。
そして厄介なのは、今どの状態なのかが分からないこと。これに尽きる。それが分からないから、降ってくる刃にどう対処すべきか判断が遅れる。判断が遅れるから、行動が遅れて攻撃を食らってしまう。
「全く……」
こんな、何も思い通りにいかない状況なんて面倒だ。それに何より、面白くない。ザエルアポロは溜息を吐いて、口の端から溢れる血液を拭う。このままこの小娘のペースに呑まれる訳にはいかない。
ちら、と朽木桜花の背後を見る。男の死神二人を狙うのも良いが、残念ながら今の己にそんな余裕は無い。
だからといって、
であれば。
今はここから離脱する他ない。そして、体勢を立て直す。逃げるのではない。戦略的撤退、というやつである。
「じゃあ正解ついでに、第二問」
引き際を見極めるザエルアポロに気づいているのか、いないのか。血振りした朽木桜花が、にこりと不気味に笑う。それを期に、これまで感じ取れなかった霊圧が急激に膨らみ始めた。
一体、何をするつもりなのか。警戒するザエルアポロを楽しそうに眺め、朽木桜花は口を開いた。
「霞め、”
ドン、と大きな霊圧が大気を揺らす。隊長格の死神が始解したと考えると、さして違和感もない大きさだ。しかし、問題はそこではない。
「……解号、だと?」
何故、ここで解号を唱える?
既に始解していたのではないのか。
ここで始解を行う意味が分からない。まさか、これまでの透過が斬魄刀の能力ではなかった、ということもあるまい。となると、これまで始解していたという事実を隠したいのか。一体、何の為に?
「”縛道の二十一・
朽木桜花が何やら唱えると、大量の煙が視界を埋め尽くした。すぐにその姿も見えなくなってしまった。
「舐めるなよ……!」
本人は隠れているつもりなのだろうが、霊圧を感知すれば簡単に捕捉できる。ましてや、彼女は先程霊圧を放出したばかりである。煙の中で高速で動く霊圧が、ザエルアポロの背後に回る。それを迎え撃とうと、ザエルアポロは咄嗟に振り返った。
そこで、ようやく気づく。
無茶苦茶な戦い方をするこの死神が、そんなに単純な戦法をとるだろうか、ということに。
「――遅い」
「ッ……!?」
彼女の霊圧を感じたのは、振り返ったザエルアポロの目前だった。しかし声が聞こえたのは、誰もいない筈の左側。
そして。
何が起きたのか理解するより早く、前触れなくザエルアポロの左腕が吹き飛んだ。
「なッ……!?」
ボタボタと血液が溢れて、瓦礫の隙間に薄く広がっていく。あまりの激痛に、滝のような汗が吹き出す。
まただ。また、鋼皮が役に立たなかった。
このままではいけない、早く回復しなければ。
しかし、近くに己の
回復はできない、か。
詳細は分からないが、霊力の動き方からしてあれは瞬歩の類だろう。霊圧をある場所に残しておいて、それで隙を突いた。そのために、隠していた霊圧をわざわざ表に出しておいた。
だからあの時、始解を。
「そうか……この為の、始解かッ……!?」
「ふふ、正解」
少女が、笑う。
人を斬った直後とは思えない程に無邪気なそれに、ぞわりと肌が粟立つ。こんなにも、相手の思考が解らないのは初めてだった。
始解の理由が分かったとはいえ、不可解な点はまだまだ残っている。
例えば。刀を自在に透過できるならば何故、最初の一太刀目で『羽だけを透過して、直後そのままザエルアポロの身体を斬る』という選択肢を取らなかったのか、だとか。
鋼皮を持つザエルアポロの身体を、あのような華奢で穴だらけな刀で斬れたのは何故なのか、とか。
今この死神は本当に始解しているのか、あるいは最初から卍解していたのか、とか。
「でも、大事なことを忘れてますよ」
「何、だって……?」
「私の斬魄刀は、私の存在をなかったことにできる」
「ッ……!!」
忘れてなど、いなかった。ただ、今このタイミングでその話を出す意図に、気づいてしまったのだ。
「さて、第三問。刀と身体の『透過』だけなら四パターン。じゃあそれに加えて『存在消去』も使ったら、パターンは合わせていくつになるでしょうか?」
何だ。
何なんだ、コイツは。
「……卍解――"
途端に、周囲が重たい霊圧で満ちる。
それと同時に心の奥底に湧いた一つの感情に、ザエルアポロは目を見開いた。
有り得ない。
自分がこんなふうに、敵に――
考えられたのは、そこまでだった。
その死神は、向けられた感情ごと溶けて無くなった。
◆ ◆ ◆
この現実に、私が一番びっくりしている。
確かに「すぐに終わる」と宣言したのは私だ。それでも
困惑しつつも卍解を止めて、”雲透”を腰に戻す。目の前に転がるのは『ザエルアポロだったモノ』だ。ヒトの姿をした者の命を奪うのは、これが初めてだった。そんな生き物の命を奪っておいて、私は驚くほど普通だった。どうやら、私も順調に人間を辞めていっているらしい。
まぁコイツのことだから、実はこの死体もフェイクでした、なんてのもあり得る。懐に入れた人形はいつの間にか消えていたから、少なくとも戦闘不能な状態であるのは確かなんだろうけど。
「桜花様っ!」
そんなことをつらつらと考えていると、不意に名前を呼ばれた。芦谷だ。
二人の方を振り返って、私は口を開く。
「芦谷、イヅル。助けに来てくれて、ありがとう」
続けて「二人とも怪我は平気?」と訊ねようとしたが、できなかった。凄まじい勢いで駆け寄ってきた芦谷が、これまた凄まじい勢いで私の両肩を掴んだからだ。……えっ、芦谷が私の肩を掴んだ? え?
「怪我はッ!? 無事なのかッ?!」
「え……えっ?」
未だかつてない至近距離から問い詰められて、その眼鏡の奥の茶色い瞳と視線がぶつかる。
へぇ、芦谷の目って茶色だったんだ。黒だと思ってた。
そんな呑気な感想が浮かんだのはきっと、色んな思考を放棄した結果なんだろう。
「う、うん……元気、だけど……」
「元気?! たった一人で一ヶ月も虚圏にいて! 十刃と戦って! 元気な訳がない!!」
「お、おう……」
息つく間もない反論とらしくない乱暴な言葉遣いに、私はただその顔を見上げて頷くことしかできない。何だこれ、芦谷の偽物か? なんて馬鹿なことを考えていると、芦谷に強引に肩を引っ張られて、その場でぐるりと一回転させられた。いやほんと、なにこれ。
「本当に、無傷だ……」
私の身体の隅々まで目を走らせて、ようやく満足したらしい。芦谷は呆けたようにそう呟いて、そして不意に顔を強張らせた。今度は何だよ。
「…………」
黙ったままの芦谷は、痛いくらいに掴んでいた私の肩からそっと手を離した。そして、引きつった顔のままぎこちなくその場に跪いた。
「わ、私は……何という、ご無礼を……」
「えっ、今?」
「大変申し訳ございません……」
どうやら、今になってようやく我に返ったらしい。余程、焦っていたんだろう。
「無礼な口を利いてしまっただけでなく、不躾な視線まで向けて……」
「いやいや、大袈裟だって」
「あまつさえ……お、お身体に、触れて……ら、乱暴な真似を……」
「あー、多分これ聞こえてないな」
「もういっそ、この身をもって償いを――」
「待って待って待って」
ついには物騒なことまで口走り始めた芦谷を制止しつつ、イヅルに助けを求める視線を送る。しかしイヅルは「僕には無理だ」と言わんばかりに、力なく首を横に振るだけだった。
それにしても、私の前では徹底して『従者』を貫いてきた芦谷が、あんな言動をしてしまうなんて。今だって、慌て過ぎて私の声すら全く届いていないようだし。
「……まぁ、無理もないか」
悪いのは、二度も行方をくらませた私だ。
生死すら分からない私を探すためだけに、護廷十三隊に入って副隊長にまで上りつめてしまうような人だからね。
その時の芦谷の様子を思い出すと、不謹慎だと分かっていながらも少し笑ってしまう。
全く、この人は。
どれだけ、私のことが。
「俺は、なんてことを――」
「芦谷」
何やらぶつぶつ呟いていた芦谷の名を呼ぶ。普通に呼ぶだけじゃ駄目だ。
「ねぇ、芦谷」
徐ろに右手を伸ばして芦谷の胸倉を掴み、ぐいとこちらに引き寄せる。強制的に顔を上げさせられた芦谷が、間の抜けた表情で私を見上げた。
「お、桜花、さま……?」
「心配掛けてごめんね。こんなところまで来てくれて、ありがとう」
でもね、と付け加える。
「単身
ザエルアポロはともかく、単身虚圏は普通に危なかったけどね。まぁ、そんなことは黙っておくのが吉だ。
今は芦谷に信用してもらわなければ。けれど、私はそう簡単には死なないとそのまま口で言うだけでは、芦谷は信じてくれないかもしれない。だから、きちんと話をして説得する。
父様なら、この間みたいに謝ることを禁じていたことだろう。同じ四大貴族当主だった夜一さんなら、下らんことで死ぬなと拳骨の一つでも落として終わりだろう。
そのどちらも悪くないけれど、きっと私はこっちの方が性に合っている。だから。
「芦谷にとって私はまだ、庇護対象なのかもしれない。何回も居なくなって、たくさん心配かけたのも分かってる。でもね」
どうやら私には前科があり過ぎるらしく、何かにつけ心配されることが多い。ウルキオラと戦った時の一護然り、今の芦谷然り。
みんな死神なんて物騒な仕事をしているのだから、そのくらいの死線なんて普通だろうに、と思わなくもないが。
「私ね、強くなったんだよ」
ザエルアポロと戦っていて、一つ気づいたことがある。
卍解で『存在消去』が強制発動してしまうことがなくなるなら、味方に忘れられて連携が取りにくい、なんてことにもならないのではないか。
つまり相対する敵の側をウロチョロしつつ、刀や身体の部分的な『透過』と『存在消去』を繰り返すだけで、相当な妨害ができるという訳だ。
少し前までは共闘なんてできなかった。
できないと、思い込んでいた。
けれど、”雲透”の力をより使いこなせるようになった今なら。味方に悪影響を与えることなく、一緒に戦うことができる。
これなら、喜助さん以外とも共闘できる。
「だから、守るんじゃなくて隣で一緒に戦ってほしい」
そう言って、先程の比ではない近距離まで顔を寄せる。私の行動が予想外だったのか、驚愕に目を見開く芦谷の表情が面白くて、思わず頬を緩める。
「それとも、私の隣は嫌?」
「……え、ぁ……はゎ……」
嫌と言わないのは分かっているが、念のため確認しておこう。私はそのくらいのつもりだったが、芦谷は違う捉え方をしたらしい。自責の言葉の代わりに、何やら不思議な鳴き声を上げ始めてしまった。
まぁ……「身をもって償いを」だなんて言うことはもうないだろうから、彼の様子が変なのは気にすまい。私は芦谷の襟首から手を離し、ぱっと顔を上げてイヅルの方を向いた。
「さてと。これから、芦谷と一緒に他の人を助けに行こうかなって思うんだけど。イヅルはどうする? 一緒に行く?」
「……君は二重人格か何かなのかい」
「なんて?」
これまで黙って私たちのやり取りを見ていたイヅルが、唐突に訳の分からないことを言い出した。そんな、おかしなモノを見るような目を向けられても。
「あぁ、いや……君は昔からそうだったか」
「何が? 昔?」
「いや、良いんだ。分からないなら分からないで」
「何だそれ」
それは、さっきザエルアポロを煽りまくっていたことを言っているのか。それとも今の芦谷とのやりとりのことを言っているのか。というか、昔からってどういうことだ。
「そんなことより」
自分で始めた話を勝手に終わらせて、イヅルは芦谷の方を見遣った。芦谷は片膝をついた体勢のまま、何やらぶつぶつと呟いている。完全に心ここにあらず、である。
「となり……俺が、隣に……わぁ……」
どうやら「隣」という言葉が刺さったらしい。それにしても動揺し過ぎな気はするが。
「とにかく君は、芦谷副隊長を何とかしてくれ。どうするんだ、刺激が強過ぎて壊れてしまったじゃないか」
「壊れたって、大袈裟な。芦谷はこれが通常運転でしょ」
芦谷の情緒が忙しないのは、今に始まったことじゃない。私がいない時の様子を見るに、普段はこんなに感情豊かではないのかもしれないけれど。
「芦谷副隊長がこうなるのは、君の前だけだよ」
「んー……まぁ、主の前で素なんか出せないだろうしさ。仕方ないんじゃない?」
「……それは……本気で、言っているのかい?」
何故だろう、イヅルがドン引きしているような。
大人しそうな見た目に反して、彼の言葉には容赦がない。一体何を言われるのだろうかと戦々恐々としていると、まじまじと私を見ていたイヅルが大きなため息をついた。
「なんてタチが悪い……どうしてこんな唐変木に忠誠を誓ってしまったのか……全く、芦谷副隊長が気の毒でならないよ……」
「流石に酷くない?」
「酷いのは君だ。どう考えても逆だろうに」
「逆?」
逆って何だ。どういうことだ、と首を傾げる。
しかしイヅルは、答えを教えてはくれなかった。ただ呆れたように、そして困ったように、私から目を逸らしたのだった。
桜花は最初から最後までずっと卍解し続けています。
始解と卍解の解号と、霊圧の解放はフェイクです。そういうあんまり意味のない言動を混ぜ込むことで、頭の良い敵を混乱させて勘違いさせるのが狙いだったり。
命を懸けて戦っている最中に、無駄なことはしないですからね。普通は。