ストライクウィッチーズ~あべこべ世界の炊事兵~   作:大鳳

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新生活が始まって何とか慣れだしてきたので初投稿です。UAが60000超えたので非常に驚いています。


6話 死から逃れしもの

 暗い、とても暗い。あたりをいくら見渡しても光が見えない。一体いつからここにいるのだろう。胸まである粘つく液体の中をもがくように進んでいく。頬をなでる感触があり風が吹いているのが分かった。しかし、拭いている風の音がまるで多くの人が嘆き悲しみ、そして許しや助けを乞うているかのように聞こえた。頭を振り自分に気のせいだと言い聞かせ前へ、前へと進んでいく。粘つく液体は容赦なく体力を奪ってくる。もはや気力だけで進んでいた。なぜかわからないが立ち止まってしまえばそこで終わりのような気がした。しかし、その思いに反して液体はどんどん深さを増していき、脚が付かない深さまでになった。必死に息を吸おうと立ち泳ぎで顔を水面へと出す。しかし、気力で支えていた体だったがそれで限界を迎えたようでズブズブと沈んでいく。思考がぼんやりとしてくる。

 その時誰かが自分を呼んでいるような気がした。鼻や口から粘性の液体が容赦なく入ってくるが、それでもあがいて再び水面を目指す。死に物狂いで両腕を掻き足を動かす。やっとの思いで水面から顔を出すと多くの黒い腕が生えていた。黒い腕たちはもう一度自分を水面に沈めようとするかのように押さえつけてきた。必死の抵抗をしていると白く輝いた腕が掴めと言わんばかりに垂れ下がっていた。顔が半分まで沈められていたが腕だけを伸ばし白く輝いた手を掴んだ。今まで暗闇だった周囲が光に包まれそして…。

 

 

 「先生!!患者が目を覚ましました!!」

 

 あの戦闘から1週間後自分は目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が八月初旬に海軍病院の病室で目を覚ましてからはや一週間が過ぎていた。医者によると、あの戦闘の後到着した航空ウィッチによって発見されたとき自分は半分死体も同然の状態だったらしい。後方で応急処置を施され浦塩から病院船によって本土まで搬送されたらしいがかなり危険な状態が続いており、病院船や海軍病院で大手術を何度か受けやっと安定した状態になったようだ。目覚めてしばらくは手すりを使わないと歩くことができなかったが、今は手すりなしで歩くことができるようになっていた。ベットから、起き上がり病室備え付けの洗面所へと向かう。洗面台の鏡に映っている自分は、顔の左側が包帯に覆われている状態であった。左腕を鏡へとかざす。その左腕は顔と同じように包帯によって覆われていた。上着を脱ぎ腕や顔にまかれている包帯を外していく。全ての包帯を外した時鏡に映し出されたのは左頬から左腕全体にかけて深い火傷を負っている姿であった。また光の加減なのかわからないが左目が若干赤くなっていた。

 医師の診察によると2カ月ほど安静にしておく必要があるようだ。左手を開いたり、閉じたりしてみるがその動きは弱々しいものであり皮膚が引っ張られる感触があり思わず顔をしかめる。その時ドアがノックされる音が聞こえてきた。もし看護師に包帯をほどいているのを見られてしまうと説教されてしまうので慣れた手つきで包帯を巻きなおしてドアのもとへと歩いていく。

 

 

 「待たせてしまってすいませんね。何分歩きづらいもので」

 

 そう言いながらドアを開けると先生と美緒ちゃんたちが立っていた。美緒ちゃんの手にはお見舞いの品であろう果物が入った籠が握られていた。若ちゃんその両手で抱えている盆栽はやめなさい。縁起悪いでしょうが。

 

 

 「面会が許可されたらしいと聞いてやってきたんだ。今回の件は、何と言ったらいいかわからないけど君が無事でよかったよ」

 

 先生がチラリと左腕に視線をやって声をかけてきた。

 

 「ありがとうございます。立ち話は何ですし中に入ってください」

 

 先生たちに中に入ってもらい自分はベットへと腰掛た。改めて美緒ちゃんたちを見ると涙ぐんでいた。

 

 「どうした美緒ちゃん、なんか嫌なことでもあったんか?」

 

 「違います。正さんが生きててくれたことがうれしくて。顔を見ただけでなんだか涙が止まらないんです。止めようとすればするほど流れてきて・・・」

 

 美緒ちゃんの言葉は嗚咽にかき消されていった。醇ちゃんは泣きに泣いているが、若ちゃんは泣くまいとしているようだが鼻が赤くなっているのが見てとれた。

 

 

 「大丈夫、大丈夫だから。俺は簡単に死んだりはせぇへんよ」

 

 自分はそう言って美緒ちゃんの頭をなでることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう一週間を検査などで海軍病院で過ごし福知山にある陸軍病院でリハビリを受ける事になった。カレンダーを見ればもうはや八月ももう一週間で終わる日付をさしていた。負傷に関しては医者も驚くほどの回復スピードで治ってきてはいたが火傷の痕が引っ張られるような感覚はいまだに続いていた。

 舞鶴にいたときは美緒ちゃんたちが毎日といっていいほど見舞いに来てくれたが先生が顔を見せることはなかった。福知山に移ってからは、フジ少尉やヒガシ少尉と智子さんそれに江藤中佐が数回見舞いに来たくらいだった。ヒガシ少尉や智子さんに久しぶりに会った時、美緒ちゃんと同じように大泣きされた。フジ少尉は少し泣いていたくらいだったが、江藤中佐が自分の姿を見るなり静かに涙を流したのは驚いた。

 リハビリはなかなかきつかったが足の方は少し痛むくらいだったので病院内を自由に移動していた。特に病院の中庭はお気に入りの昼寝場所であった。木陰があり、夏の日光から隠れることができたからだ。いつものように木陰で昼寝をしていると誰かがこちらに向かってきているのが足音で分かった。足音が聞こえるが2つとも微妙に違っていることから2人ほどだと推測できた。目覚めてから気配や音に敏感になってしまったようだ。何とか慣れてきたが、目覚めた当初は今までの感覚との違いに体が慣れず嘔吐してしまった。うっすらと目を開け音の方を見ると看護師と担当医がやってきていた。のっそりと体を起こす。若干の眠気が残っており頭の中の靄が張っているような気がする、

 

 「今起こそうとしたところですよ、伊勢崎さん」

 

 「そいつはどうも先生。で、どうしたんです?」

 

 「面会されたいという方がこられたので病室で待ってもらっています」

 

 「誰だかわかります?」

 

 「名刺をもらったんですが皇都新聞の方らしいです。確か名前が宮内だったと」

 

 

 宮内さんか無事だったようで何よりだ。病室へと戻りドアを開けると宮内さんが椅子に座っていた。頬に絆創膏が張ってあったがそれ以外のけがは無い様で何よりだった。

 

 

 「この前は助かったわ、君のおかげで生きて帰ることができたありがとう。失礼だが怪我の様子はどう?」

 

 申し訳なさそうに包帯を指さしている宮内さん。

 

 「何とか治ってきてますよ。それでどうやってここを知ったんです?」

 

 「君の上官の江藤中佐殿は私の後輩だからね、そこ経由で教えてもらったのよ」

 

 意外なところでつながりがあるもんだと思っていると宮内さんが新聞を投げてよこしてきた。一面の内容を見て思わず目を見開いてしまった。

 

 「『ウラルの鬼神奮闘す』っていったい何のことです?それに何で俺の写真が!?」

 

 「あとで教えるから記事も読んでくれないか?」

 

 

 記事を要約すると以下になる。

 

 『7月下旬航空歩兵基地が怪異の奇襲を受けた。警備中隊が壊滅する中、伊勢崎兵長の鬼神の如き活躍によって戦車型怪異一個小隊、歩兵型怪異2個小隊の撃滅に成功した。この功績によって伊勢崎兵長は昇進が決定した。」

 

 

 「どうだった?」

 

 「この記事は何なんです!?怪異はこの記事に書いているような数はいなかった!!これじゃあただの誇張じゃないか!!」

 

 

 新聞をベットへ投げつけ大声で叫ぶ、激しく動いたせいか腹部の傷から痛みが生じうずくまる。

 

 「仕方ない。陸軍の上の方からそういう記事にするように圧力をかけられたんだからな。写真を撮ったのは私だけど記事を書いたのは別の記者よ」

 

 

 「いててて…。一体なんでそんなことを?」

 

 「あの戦闘のことをそのまま書けるわけないでしょう?『警備部隊を前線に送っていたので男性隊員が戦いました』なんて記事にしてみなさい陸軍は国民からの信用を無くす上に、政治の主導権を海軍に奪われるでしょうね。それを上は避けたいからあの時の怪異の数を増やして、いないはずの警備中隊を登場させたわけ。これで味方が全滅した中一人で怪異の集団を壊滅させた英雄の誕生よ。陸軍には英雄が必要なの」

 

 

 「それでもこれはいくら何でもないでしょう…」

 

 自分はただ新聞の写真に目を落としそうつぶやく。そのつぶやきは、部屋に吹き込んできた風にかき消され病室にいる誰の耳にも入ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 8月31日扶桑海を侵攻している大型怪異通称『山』を撃滅するため陸海軍による共同作戦『隼』が開始された。艦隊を怪異への囮とし、多数の小型怪異の注意を引き手薄となった大型怪異を少数精鋭の魔女(ウィッチ)部隊によって攻撃するという作戦であった。海軍からの反対があったもののそれは数名の少女に皇国の命運を託すことへの抵抗感や不安が含まれていたからであった。

 様々な不安要素を抱えた『隼』作戦であったが艦隊や魔女隊の奮闘によって成功した。特に智子さんは大型怪異を破壊するという功績を打ちたてた。後に智子さん主役で『扶桑海の閃光』という映画が公開され爆発的なヒットをしたようだ。自分もちょっとした端役で出させてもらったりする。この映画が作られたのは多大な消耗を強いられたウィッチの補充のため公開されたプロパガンダ映画なのだがお口にミッフィーちゃんしておくことにしよう。

 智子さんとフジ少尉は研究員として明野飛行学校へと戻った。ヒガシ少尉は式典の際に無茶な曲芸飛行をしてしまい生死をさまようような大怪我を負ってしまった。幸いにも治癒魔法が使えるウィッチのおかげで一命をとりとめることができたが、見舞いに行ったときにしていた表情は忘れることはできない。自分は半年ほどリハビリのため病院通いを続けていたが年明けには明野飛行学校へ伍長へと昇進して復帰した。

 美緒ちゃんと若ちゃんは欧州へと遣欧艦隊の一員として派遣され、醇ちゃんは軍学校へ進学することになったようだ。地球の反対側だが美緒ちゃんと若ちゃんなら元気にやっていけるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―死者延べ8207人 民間人を除く戦傷者延べ12051人― 大本営『扶桑海事変報告書』より抜粋

 

 舞鶴で戦端が開かれてより1年以上の長きにわたる戦いを戦い抜き、皇国大陸領の大半と数多くの兵士の犠牲と引き換えに、何とか勝利したこの戦役は後に“扶桑海事変”として人々の心や歴史に記録されていくことになる。その記憶と共に“扶桑海の巴御前”そして“ウラルの鬼神”の名が人々の中に刻まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時がたち1939年10月明野飛行場近くの喫茶店では一人の女性が開店に向けての準備を行っていた。その女性は軍を退役した江藤敏子であった。彼女は軍を退役したのちに加藤武子から教わったコーヒーを売りに喫茶店を開業したのだ。

 開店当初は客がちらほらと訪れる程度であったが、『扶桑海の閃光』の大ヒットもあり“扶桑海の巴御前”御用達の店として女学生達に人気の店として繁盛していた。開店に向けてコーヒーを挽いていた。その時喫茶店のドアが開き、つけられていたベルが店内に鳴り響いた。顔を上げるとソフト帽を目深にかぶったスーツ姿の男性が立っていた。普段男性が喫茶店を訪れることはなく、あったとしてもカップルで来店することがほとんどであった。珍しいこともあるものだと思いながら男性へと声をかけた。

 

 

 「すいません、まだ開店時間じゃないんですよ」

 

 「いえ、久しぶりにお顔を拝見しに来ただけです。すぐに出ますよ江藤“中佐”」

 

 そう言ってその人物はソフト帽を取り踵を打ち鳴らし敬礼をする。ソフト帽を取った人物の顔を見て敏子は目を見開いた。伊勢崎正が立っていたからだ。顔の左側には痛々しい火傷の跡がいまだに残っており左目は若干赤みを帯びていた。

 

 

 「久しぶりじゃないか、どうだい一杯飲んでいかないかい?すぐに入れるよ」

 

 そう言って席に座るように促す。

 

 「お願いします」

 

 正が座ったのを見てから慣れた手つきでコーヒーを入れていく。その間正は店内を見渡していた。店内は落ち着いた雰囲気かなり居心地が良かった。見渡していると店の一角に飾られた写真に視線がひきつけられた。第一飛行戦隊が結成されたときに撮影したものだ。自信満々に『豪勇穴拭』と書かれたマフラーを見せている智子と苦笑いしながらそれを見ている武子。圭子と敏子は笑顔でそして正は引きつった笑いを浮かべているといったモノであった。

 

 

 「懐かしいなぁ、あれから一年ほどか」

 

 「ええ、早いものですね。時間ってものは残酷なもんです」

 

 コーヒーをすすりながらそう答える正。

 

 「そうだなだからこそ時間は大切なのさ。それに今日はただ顔を出しに来たわけではないだろう?」

 

 「ばれましたか」

 

 「ばれるも何も穴拭やフジの奴はたまに顔を出しに来るのにお前は顔を出さなかったからな。それで何かあったんだろうと思ったまでさ」

 

 「やっぱり頭が上がりませんね。欧州の事情についてはご存じで?」

 

 「もちろん知ってる」

 

 欧州では怪異が発生し本格的な戦闘状態になっていた。カールスラントはオストマルクとの間に非常防衛体制を敷き必死の防衛線を行っていた。

 

 「欧州に扶桑軍を派遣することになりましてね。その一員に選ばれたんですよ。もちろん正式な辞令はまだ出てませんけどね」

 

 「やっぱりカールスラントか?」

 

 「まさか。自分は北欧のスオムスに派遣ですよ」

 

 「スオムス?何でそんなところに派遣を?」

 

 「リハビリは終わったんですが、まだ完璧に治ったわけではないんですよね。そんな状態で激戦地に派遣はまずいって上は考えたんでしょうね。だから安全そうなスオムス行きですよ」

 

 そう言って自嘲気味に笑いながら左の袖をめくる正。相変わらず左腕はひどい火傷の跡が残っており黒く焦げているような部分さえあった。喫茶店の中を沈黙が支配する。長い時間が経った時敏子が口を開いた。

 

 

 「無事に帰って来い。帰ってきたら飲みに来なコーヒーをいくらでも飲ませてやる」

 

 「私は簡単には死にませんよ。死ぬならとことんあがいて見せます。それに、この美味いコーヒーをまた飲みたいですからね」

 

 

 

 

 そう言って正は席を立ち外へ出ようとドアノブへ手をかけた。その時見送るためについてきていた敏子が正へ声をかけた。

 

 

 「すまない忘れ物だ」

 

 敏子の声に振り向いた正へ敏子が唇を重ねた。突然のことに正は驚き固まってしまった。

 

 「絶対無事に帰って来いよ。返事はその時でいいからな」

 

 顔を赤らめながら敏子は正へと告げた。正はただただ頷くだけであった。基地へとフラフラと歩きながら戻っていく正の背中を敏子は見えなくなっても見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扶桑海事事変という小雨は止んだ。されども第2次ネウロイ大戦という暴風雨は近づいていた。その暴風雨がどうなるかは誰にも予測はできない。しかし分かることは一つだけ。暴風が止むまでに長い時間がかかるであろうことは誰の目にも明らかであった。

 

 

 

 




今回も読んでくださりありがとうございます。前話の伸びがすごかったんですが一体何が良かったんでしょうか?作者にはわかりません。感想誤字などがありましたら遠慮なくどんどんお願いします。



P.S
一章が終わったので小ネタを書こうと思っております。現在は『もしウィッチーズが家族だったら』を予定していますが読者の皆様からも募集します。見たいものがあれば活動報告までお願い致します。
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