嘘吐きのエレジー   作:箱庭の金木犀

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第1話 『The beginning of a silly puppet show』

「ねぇ、ルリ」

 

「はい?」

 

もう日も沈んだ夕暮れ時だった。

訓練が終わった時に見上げたあの赤い夕焼け空は完全に消え、ほとんど黒に近い紺色の空だったことを覚えている。

仲はさほど良くないが、訓練仲間としては気があった彼女___サナは、食堂から出ていこうとした私を引き止めた。

 

「……ルリは、どの兵団に行くの?」

 

卒業を控えた今期の訓練兵達は、どの兵科を選ぶのかという話題で盛り上がっていた。彼女はその雰囲気に便乗したかったのだろう。

そう察した私は、自分の答えを告げる。

 

「調査兵団に」

 

「え…?」

 

「だから、調査兵団に入ります」

 

私がそう言った途端、彼女は信じられないとでも言いたげに目を見開いた。

私はその反応をそう驚くことなく、じっと見つめる。

 

「なんで…?だってルリ、6位でしょう?憲兵団に入れるのに…」

 

それが普通の選択だよ、と掴んでいた私の手を更に強く握る。

その行動に、一体なんの意味があったのか。私には結局分からないままだ。分からなかったけれど、自分を思いやってくれているのかと思い込んだ私は、心底サナを鬱陶しいと思った。

 

「…サナは、憲兵団に?」

 

「…うん。だって、せっかく上位に入れたし…親も、きっと喜んでくれると思って」

 

上位に入れたから。親が喜ぶから。

相手の決めたことに云々言う趣味は無かったが、その時ほど彼女に失望したことは無かったように思う。

あの訓練は、一体なんのためにやっていたのか、その存在意義さえ理解していないように見えたから。

 

「どうして…調査兵団に入るの?壁の中は安全だし、もう95年も平和だよ。

それ以上求めてたら、きっと長生きなんて…」

 

「サナ」

 

彼女の心配を振り切るかのように、彼女の名前を言う。

その声色はいつもより強く、怯ませるには十分であった。

 

「私は…長生きしたいと思ったことはありません。しかし、壁の外に行きたいとか、人類の誇りになりたいとか、そんな大義名分を持ち合わせてもいません」

 

「…え…?じゃあ…どうして」

 

質問の多い人だと、つくづく思う。そんなことは出会った時から気づいていたし、その性格だから決して仲良くはならないだろうと思っていた。その感は実に当たっている。本当に仲の良い人に、鬱陶しいなんて思うはずがない。それが当たり前であって、私はその規格から外れているのだから。

 

「……さぁ」

 

答えたくなかった。その原動力は自分の過去にあったからだ。自分の付け入る隙を、与えてはいけないと思ったから。

 

「それを私が言ったとして、どうするつもりですか?」

 

「…そ、れは…」

 

口篭る彼女の手を静かに振り払い、私は歩き出した。

もう彼女と接しても何も得られはしない。得られるのは、この胸の内にじわじわと広がる鬱陶しさだけだ、と。

 

やがて食堂の喧騒も薄れ、聴こえるのは静かな風の音のみ。

たなびく雲の隙間から洩れた月の光を受ける。

そこで私は歩くのをやめ、目を閉じた。

 

『調査兵団に入るなんておかしい』

 

それは平和であるからこそ言える言葉でしょうと、私は何度も思った。

でも、この世界は平和なんかじゃない。ずっと前から地獄だ。

幼い頃気付いたそれは私の目の前にずっとあった答えだ。それを見ないフリで誤魔化し、あやふやにしていただけだったのだ。

 

大人達はそれを知った子供に、この狭い鳥籠みたいな地獄で生き続けるしかないという。それしか生き残る術はないのだと、それが最後の手段であったかのように饒舌に語るのだ。

まるでそれを、自分が探し出した答えのように。

 

私は思った。

 

あぁ、なんて愚かなんだろうと。

 

それを信じる純情な子供も、その信念を大事に抱えながら大人になる様も、そう考えるように仕込む大人達も。

人類はいつから、固定概念に囚われなければ生きていけないと思い込み始めたのだろう。実に愚かで、浅はかな行為だと、心底嗤った。

 

そして、そんな人々の様を自分が第三者であるかのように見ていた自分を馬鹿馬鹿しく思った。自分が彼らと違うなんて、誰が証明できるのだろうと。

私も彼らと何ら変わらない、愚かな存在でしかない。

だって彼らと違ったならば、「過去を原動力にしなければ生きられない」なんて下らない固定概念に囚われることもなかったのだから。

そして、その生き方を変えることもしない私は…彼らと同等、それ以上に愚かだ。

 

その幼く愚かな少女のまま、私は人類の誇りへと縋りつく。

彼らの惰性に流されることをやめる決心を抱き、鳥籠から抜け出す兵士(自由の鳥)になるべくして。

 

 

______そうして私…ルリ・リィズは、きっと誰よりも愚かな人間のまま、鳥籠から抜け出した。

 

 

 

 

 




はじめまして、箱庭の金木犀です。
いきなりですが、進撃の巨人、始めました(興奮)
第1話のタイトルは日本語で「愚かな人形劇の始まり」です。
作者は英語が得意ではないので多少間違いはあるでしょうが許して欲しいです…。

このタイトルの由来はいきなり「過去にすがって生きるしかない」と自負しているネガティブ主人公の物語の最初を表しています。や、いきなりネガティブすぎんよ主人公ー。(棒)
シリアスだから…ね?(汗)

という訳で(どういう訳で)始まりました。今回の1話は非常に短いですが、次からは長くするので更新は遅いと思います。
何卒宜しくお願いします。

では最後に、見てくださった方、ありがとうございました!

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