↑月↓日
この世には自分そっくりな奴が他に三人はいるというが、まさかガチ情報だったとは。
人相を訪ねる時に誰々似とか、そんなチャチな話じゃねぇ。
まさか幼い頃に生き別れた姉妹とか、そんな漫画みたいな展開がある訳がない。
――フェイト……っ。
そう思っていた時期が、私にもありました。
まさかのガチな生き別れた姉妹だった件について。
詳しい事情とかは聞けず仕舞いだったが、あながち間違ってはいないだろう。
見た目の身長こそ逆だが、どうやら小さくて喧しい方が姉。
先日俺を襲撃した、背が高くて根暗っぽいのが妹みたい。
ややこしいので、この日記ではパツキン姉とパツキン妹という風に呼称しようと思う次第。
突然のパツキン妹の登場だったが、どうやら今回は敵意はないらしい。
先日俺に襲い掛かったこと、斧を直してくれたこと、拾った石をくれたこと。
そんな感じのことについて、礼を言いたくて俺のこと探してたんだって。
というかオイ、パツキン妹は貰ったとかほざいてるけど、何自分の物にしちゃってんの。
あの石拾い物だから、俺ってば言ったよね交番に届けてって。
そのことについて指摘しようとするが、ぺこりと謝った後、パツキン妹はダッシュで離脱。
同伴していたのか、遠くで見覚えのあるお姉様と合流し、そのまま帰って行っちゃった。
去り際にお姉様にギロリと睨まれた、マジで死にたい。
猫耳お姉様に匹敵する我儘ボディに加え、橙色というトンデモ色な髪から覗く犬耳。
是非ともお近づきになりたかったのに、どうやら運命の女神は俺のことが大嫌いなようだ。
絶対そいつお子様だぜ、俺のイメージする慈愛に満ちた大人なお姉様はそんなことしません。
落ち込む俺だったが、状況は落ち込むことを許してはくれない。
パツキン姉は何度もパツキン妹や犬耳お姉様に声を掛けるが、死んだ彼女の声は届かず。
我慢できずに泣き出すパツキン姉を抱き締めながら、猫耳お姉様も揃って涙を流す。
おいそこ替われパツキン姉――なんてことは思うだけで口には出さない。
かといって、俺は二人に何かを語り掛けることもせずに、そのまま帰宅する流れに。
背中に突き刺さる、何か言いたげなナッパ父の視線に気付かぬ振りをし、決して振り返らずに。
◆ ◇ ◆ ◇
Α月Β日
パツキン姉と猫耳お姉様が姿を見せなくなった。
それは同時に、度重なるストーカー被害に遭わずに済むことを意味する。
ドッキリみたいに声を掛けられることもなければ、授業中に隣で騒ぎ出すこともない。
お蔭で、今日は久方ぶりに学校で熟睡することが出来た。
俺が在学しているのは普通の公立校、小学校の授業なんざ聞かなくても大体分かる。
人生イージーモード、久方ぶりに自分が転生者であることを実感した瞬間だったね。
時間の経過とともに圧を増していく、ナッパ父の視線がなければ最高だっただろう。
嫌だよ俺は、パツキン姉妹のいざこざに関わるのは。
確かに、俺はナッパ父に手を貸した。
でもそれは、ナッパや家族達がナッパ父のことを強く望み、ナッパ父もまたそれを望んだから。
今回の場合、接触を図りたいと望んでいるのはパツキン姉や猫耳お姉様だけ。
パツキン妹は彼女等が見えないのだから確かめようがないが、忘れたいのかもしれないから。
もしパツキン妹が姉や猫耳お姉様という死を乗り越え、今を生きているとしたら。
俺の介入は、せっかく乗り越えた死と向き合うという辛い結果を生むだけではないのか。
だからこそ俺は関わりたくない、お節介の結果で生じる余計な重荷を背負いたくないから。
そんな感じにグダグダと言い訳を綴り終え、本日の日記は終了の流れに。
いつの間にか習慣化した日記だが、今後は特段語るような内容もなくなるだろう。
話題作りには尽きないパツキン姉は、もう居なくなってしまったのだから。
◆ ◇ ◆ ◇
X月Y日
宇宙船に拉致られた。
何を言っているのか分からないと思うが、俺だって分からないのだ。
今だって、こうして文章に起こすことで状況を整理しようと思っているくらいなのだから。
なので、順を追って今日の出来事を振り返って行こうと思う次第なり。
アレはそう、気分転換に散歩に出かけた時のことだった。
行先は俺のベストプレイス、そこへ行く途中に海鳴臨海公園で潮風に当たるのが何時もの流れ。
だが、今日は違った。
気付いたら壁みたいなものを通過し、その先にあったのはこの世ならざる光景だった。
具体的に言うと、黄色の槍が降ってきたり、ピンクの巨大光線が海を割ったり。
頬を抓り、木に頭を打ち付け、それでも変わらず繰り広げられる光景に現実逃避を敢行。
そんな俺に神様がお怒りになったのか、空からぴかっと紫電が――
そして、気付いたら此処にいた。
さながらアニメで見た宇宙戦艦のような内装、そこにポツンと俺とナッパ父の二人。
正直、あのまま俺達二人だったらパニックなっていたと思う、というかなった。
それが、日記を書けるほどまでに落ち着いたのは、親切な幽霊に出会ったからで。
ナッパ父に比肩する超イケメンだから物凄く借りを作りたくなかったが状況が状況だった。
という訳で、空いてる倉庫に身を隠し、現状に至っている訳。
ナッパ父は超イケメン幽霊と一緒に船内を偵察中につき、オイドンは独りぼっちです。
状況整理のために始めた日記だが、存外精神を落ち着けるという意味でも効果テキメン。
何もせずにいると色々と余計なこと考えちゃうしね、見つかったら実験されるとか。
その時はナッパ父と憑依合体しよう、俺達マブダチだから苦楽とか共にしなきゃだし。
――此処から先の内容は、後日改めて記したものだ。
血相を変えて、隠れていた部屋にナッパ父と超イケメン幽霊がやって来て。
事情を話す暇も惜しむと言った風に、訳も分からぬまま先へと促され。
辿り着いたのは、宇宙船の指令室といった感じの開けた空間。
そこには何故か、ナッパやパツキン妹、犬耳お姉さん、他にもたくさん。
そして、メインモニターらしき場所に向かって叫ぶ、聞き覚えのある二つの声。
涙を流すパツキン姉と、そんな彼女を後ろから抱き締める猫耳お姉様の姿があって。
◆ ◇ ◆ ◇
「失った命の代わりにはならなかった。造りものの命は、所詮造りものに過ぎないの」
それは、一人の女性が漏らした心の内だった。
「アリシアはもっと優しく笑ってくれた」
プレシアは優しい女性だった。
それ以上に、一生懸命な女性だった。
失ってしまった、たった一人の愛娘であるアリシアを生き返らせようとするくらいに。
「我儘も言ったけど、私の言うことをとてもよく聞いてくれた」
だから、壊れてしまった。
アリシアを生き返らせたいがために、己の全てを捧げたからこそ。
生まれた娘の姿がアリシアと瓜二つで、だけど中身はフェイトという全くの別人で。
「アリシアはいつでも私に優しかった」
アリシアの死を乗り越え、フェイトを愛す。
そんな未来は、しかしプレシアにはあってはならない未来だった。
死を乗り越えるとは、死を受け入れるということ。
自分の所為でアリシアを死なせてしまったのに、どうして自分だけが幸せになれよう。
その結果が、もう一人の娘の存在を否定するということになったとしても。
「――良いことを教えてあげるわ、フェイト」
プレシアは気付かない。
誰にも見られず、誰にも聞かれず、それでも必死に叫び続ける愛娘の声に。
プレシアは気付かない。
死を乗り越え、生まれた娘と一緒に幸せを掴んでほしいと願う、使い魔の切なる願いに。
「あなたを造りだしてから今まで、私はあなたのことが……――」
生者と死者。
両者を隔てる境界は不可侵にして絶対。
あの世とこの世は決して交わらないというのが、あるべき不変の摂理なのだから。
「――――」
だからこそ、存在するのかもしれない。
シャーマンと呼ばれる、不変の摂理を捻じ曲げる奇跡の体現者が。
「あんた達の未練、オイラが晴らしてやろうか?」
安っぽい、縁日で売られているようなお面を被った、恐らくは少年だろう子供。
彼はメインモニターでも、なのはやフェイト達でも、かといってリンディやエイミィでもなく。
何もない空間へ、まるで誰かがそこにいるかのように、語り掛けていた。
「えっ……いつの、間に……?」
「……キミは、一体」
予期せぬ来訪者に、皆を代表してユーノとクロノが少年に問い掛ける。
「オイラはシャーマン。あの世とこの世を結ぶ者だ」
その言葉と共に、何もない掌を真っすぐ突き出した。
「――
そして、奇跡は起こる。
「憑依合体」
その言葉にどのような意味があるのか、分かる者はこの場に誰一人としていない。
にも拘らず、声を掛けることが躊躇われるのは、この場にいる誰もが感じ取ったからだ。
目に見える変化は何もないのに、劇的と呼べる、彼の纏う雰囲気の変化を。
そんな中、渦中の彼は胸に掌を当て俯いたまま、しかし徐々にフルフルと体を震わせていき。
勢いよく顔を上げ、メインモニターに映るプレシアを睨み付けて、
「ママの……ばかぁああああああああああっ!!」
力の限り、怒鳴り散らした。
「バカチン! アホウ! 研究オタのマッドサイエンティスト! 私、ずっと見てたんだからね! ママがフェイトに酷いことしてたの! ずっとずっと! ず~っと! 私は見てたんだから!」
子供の癇癪。
それ以上でもそれ以下でもない、思いの丈を考えなしにぶつける様子はまさにそれだ。
誰もが少年の言動の変化に戸惑う中、唯一別の反応を示す者がいた。
「…………う、そ……そん、な……っ!!」
プレシアは、食い入るよう見詰める。
容姿は一緒でも中身が異なるフェイトと真逆、姿形は別人でも言動が瓜二つな彼へ。
「あ……りし、あ――」
「ママなんか知らない! 口なんて聞いてやるもんか! 悪いことするママなんて大嫌い!」
その言葉は、一度だって動かせなかったプレシアの心を激しく揺さぶった。
記憶の中にある、聞き分けの良い優しい彼女とは掛け離れたものなのに。
少年の拒絶の叫びに、後ろへとよろめいたプレシアの背を支えたのは保存液で満たされた容器。
そこに浮かぶ、二度と目を開けることのない愛娘を茫然と見遣る。
否定したいのに、あり得る訳がないのに、アリシアは此処にいる筈なのに。
こちらを睨む少年の言葉が、アリシアのものではないと断ずることができなくて。
「アリシア・テスタロッサ、除霊モード」
そして、次の変化もまた、劇的なものだった。
「んで、もういっちょだ。――
幼く刺々しかった雰囲気が、大人びた柔らかなものへ。
両手を胸の前で組み、知らん顔をしていた姿勢を解き、お面越しでも分かる微笑を浮かべる。
「プレシア、私からもいいですか?」
「…………リニス、なの……?」
「はい、かつて貴女の使い魔だった、あのリニスです。本当に久しぶりですね。アレからまた随分と痩せたんじゃないですか? 本当に、貴女は無理ばかりする人なんですから」
反応を示したのは、プレシアだけではない。
今まで事の成り行きを見守っていたフェイトとアルフもまた、驚きを隠せずにいた。
研究で忙しいプレシアに代わり、二人の親代わりになってくれた優しい山猫の使い魔の姿が。
背格好の違う少年に重なるようにして、静かに佇んでいるような気がした。
「……死んだ私が多くを語るつもりはありません。でも、これだけは言わせてください」
茫然と立ち尽くすフェイトを、あんぐりを大口を開けて固まっているアルフを一瞥した後。
そんな彼女達の様子を頬を緩ませ、嬉しくて堪らないと、そんな声音のままに。
「フェイトは間違いなく貴女の娘です。無茶ばかりするところなんか、そっくりじゃないですか」
三度、空気が変貌を遂げる。
「ふぃ……リニス、除霊モード。そろそろ頭冷えたかガキンチョ……あーはいはい、おたくは立派なレディでしたね、オイラが悪うござんした。という訳で……もう一回、憑依合体」
リニスからアリシアへ。
仕組みは理解できずとも、この場にいる誰もがそのことを察した。
「…………」
「……その、アリシア――」
「ごめんなさい、は?」
先程まで宿っていた狂気が鳴りを潜め、プレシアの双眸に浮かぶのは戸惑い。
そして、その中には確かな愛情の色が見え隠れしていた。
「ママ、私に言ったもん。悪いことしたらごめんなさいって。私よりも先に、フェイトに言うことがあるでしょ?」
急に話題に出され、フェイトはオロオロと少年とプレシアを交互に見遣った。
対し、少年もプレシアを睨み、プレシアはといえば少年ともフェイトととも目を合わそうとしない。
場が沈黙で満たされ、大の大人であるプレシアが叱られる様を傍観する。
「…………」
「……なら、先に私の方がごめんなさいする」
「え……?」
戸惑いの声をプレシアが漏らした直後、少年は勢いよく頭を下げた。
「ママ、ごめんなさい!」
言葉は、続く。
「ママよりも先に死んじゃって! ママを悲しませて! 本当にゴメンなさい!」
「ち、ちがっ……あなたは何も悪くない!? 悪くないの! アリシアが悪く思う必要なんて少しだってない! あなたを死なせてしまったのは、私が……っ、全部全部、私の所為――」
「そして、ありがとう!」
「…………なんで……なんで、ありがとう、なんて……」
お面を被っていたって分かった。
顔を上げた少年の表情に浮かぶのが、子供らしい無邪気な笑顔であることに。
「だってママ、私との約束を覚えててくれたから!」
「……やく、そく?」
「うん、約束! 私、ママに言ったよね! 妹が欲しいって、ママに!」
「…………ぁ」
感謝の言葉は続く。
今まで伝えられなかったものを全て、残さず伝えるために。
「すっごく嬉しかったんだよ? だって、こんな良い子が私の妹になってくれたんだから!」
トコトコとフェイトの隣に並び立ち、少年は力の限り抱き締める。
妹だから、家族だから、唯一無二の存在だから。
一番の宝物を自慢するように、少年はフェイトを抱き締めたままプレシアに笑い掛ける。
「だから、ありがとうって言いたかったの! ママ、フェイトを生んでくれてありがとう!」
プレシアは何も言わない。
代わりに零れたのは、瞳から流れ出る涙だった。
「フェイト! 今までママを支えてくれてありがとう! それと、これからもそうしてくれると、アリシアお姉ちゃんはとっても嬉しいです!」
フェイトは何も言わない。
言葉の代わりに、空いた距離を埋めるように、少年を力一杯抱き締め返す。
少しだけ背の高い少年の首筋へ顔を摺り寄せ、言葉の代わりに涙を零す。
「アルフも! ママもフェイトも無茶ばっかりする似た者親子だから、力づくでもいいから止めてあげてね! 大丈夫です! 私が許可するんだから反論なんて聞かなくていいのです!」
アルフは何も言わない。
代わりに、少年とフェイトを包み込むように、両手で抱き締める。
だけど、それだけでは足りないと言わんばかりに。
大粒の涙が絶えることなく両目から溢れ、少年とフェイトの頭上に降り続ける。
「えへへ……やっと、言えた……ずっと、ずっと……言いたかったの……」
お面が原因でくぐもって聞こえていた少年の声が、徐々に震え出す。
「やっぱり、家族が仲良くないのって、嫌だな」
お面の隙間から、涙がこぼれ続ける。
「ママも、フェイトも、アルフも……みんなみんな……ずっと仲良しで、いて欲しいな」
答えは、帰ってこない。
代わりに、やせ細った両手が少年を、フェイトを、アルフを、優しく、絶対に離すものかと。
時の庭園からアースラへ転移したプレシアが、彼女達をまとめて抱き締める。
保存液に浮かぶ娘の亡骸を放置し、見ず知らずの少年を、存在を否定し続けてきた愛娘達を。
過去ではなく、今を、これから先の未来に今、プレシアは初めて向き合った。
「ごめんね」
不細工な懺悔だった。
喋るどころか、喉が引き攣り、まともに舌を動かすことも叶わない。
「ごめんね、フェイト。ごめんね、アルフ。ごめんね、アリシア。ごめんね、リニス」
それでも、プレシアの伝えたかった想いだけは、確かに伝わったから。
「ダメなお母さんで、ごめんね……っ」
そこから先は、言葉にならなかった。
プレシアも、フェイトも、アルフも、少年も、何も言えず、黙って抱き合い続けた。
互いの存在を、ぬくもりを確かめるように。
失ってしまった家族の時間を取り戻すように。
それは、奇跡の光景。
あの世とこの世という、本来ならば決して交わらない境界が消えた瞬間。
それを成したのは、一人の少年だった。
――彼はシャーマン。あの世とこの世を結び、死者の届かぬ想いを生者に届ける者なり。
◆ ◇ ◆ ◇
「見つけた……!!」
文字通り、彼女は天から降ってきた。
「此処であったが百年目! 今日こそは話を聞かせてもらいます! 貴方には聞かなければならないことが山ほどあるんですから!」
豊かな金髪に、意志の強さを伺わせる赤の瞳。
黒の軍服に身を包む、宙に浮かぶ美女の視線の先に、彼はいた。
「さあ! 大人しく投降してください!」
古びた日記帳に目を落としていた彼は、被っていたヘッドフォンを外して右向き左向き。
誰も居ないことに首を傾げ、ふと上を向いた時、初めて彼女の存在を認知し。
へにゃっと顔を綻ばせ、ゆるい挙動で片手を上げる。
「よぉ、パツキン妹」
「――フェイトだよ!?」
パツキン妹――もとい、フェイト・テスタロッサは激怒した。
一度や二度の話ではない、まともに名前を呼ばれたのは何時の頃だったか。
グラマラスな大人の肢体に似つかわしくない、子供染みた挙動に、瞳に浮かぶのは涙。
うーっと威嚇するフェイトの隣に、彼女は苦笑と共に並び浮かぶ。
「まぁまぁ、フェイトちゃん。パツキン云々なんて呼び名はいつものことじゃない」
艶やかな茶髪を二つに結わえ、純白の戦闘着に身を包んだ、フェイトにも引けを取らぬ美女。
そんな彼女を一瞥した彼は、すぐに視線を元の古びた日記帳に落とす。
「なんだ、ナッパか」
「なぁ! のぉ! はぁ! なのはだよっ!? いい加減名前で呼んでよお願いだからぁ!!」
彼女はナッパ――もとい、高町なのは。
そして、木乃伊取りが木乃伊になった瞬間でもあった。
「後で相手してやるからもちっと待てよ。懐かしいもんを見付けて今読んでるとこなんだから」
依然として手にした日記帳に、彼は視線を落したまま。
あくまでも、どんな時でもマイペース。
そんな空気に充てられたのか、結局彼女達が彼に攻撃を仕掛けることはなかった。
「――そっか、あれから十年も経つんか」
パタンと、日記帳を閉じる。
「ナッパに砲撃されて」
「うぐっ……そのことについては……それと私の名前はなのは――」
「パツキン妹に斬り殺されかけて」
「あのっ、それについてはその……あと私フェイトです――」
「もう十年も経つんか……早ぇもんだなぁ……」
うんうんと一人頷く彼は、不意に明後日の方向へ。
「立派になったなぁって、お前あいつ等が今までオイラにしてきた所業の数々知ってて言ってんのか? いやいや、あの娘は私に似て目標に向かって一直線で周りが見えなくなるからって……あんたもこの十年ですっかり母親面が板についたもんだな。それが親ってもんだって? あんた達は単純に娘に甘すぎるとオイラは思うんよ。娘が非行に走るんなら止めるのが親ってもん……オイラにも非がある? オイラの何処に非があると? オイラは特に何も……なんでそこで呆れ顔になるのかちょっとばかし問いただしたいんだけど」
何もない空間に、まるで誰かがそこにいるかのように。
何も知らない者が見れば、ただの奇行と捉える彼の行動。
「やっぱり……お父さん、だよね?」
でも、彼女達は違った。
「母さん……」
彼の腰から吊られた無数の位牌。
そのうちの二つに、それぞれがじっと目を向ける。
言いたいことがあるのに、あり過ぎてどれから話せばいいのか分からない。
そんな風に葛藤する彼女達を見上げる彼はといえば、
「うぇっへっへ」
ただユルく笑うだけ。
「仮に此処にお前等の父ちゃん母ちゃんがいて、オイラがそいつ等を目で見て言葉を交わすことができて、二人との仲介者に成れたとして。オイラはもうそんなことはしねぇよ。奇跡は一度だけ。死は乗り越えるもの。何時までも死んじまった奴等に未練を残してるんじゃ、そいつ等が安心して成仏できなくなっちまうじゃねぇか」
霊が見える彼にとって、死とは永遠の別れとはなりえない。
だから、彼には理解できない。
残された者が、死んでしまった者へ抱く、様々な想いの丈が。
そして、誰にも理解もされない。
この世で唯一、霊が見え、転生者でもある彼が抱える心の葛藤が。
「だから……今日も逃げさせてもらうぞ」
交渉は決裂。
PT事件から始まり、この十年繰り返され続けてきた問答は終わりを迎え。
武器を構える彼女達に習い、彼もまた己の武器を手に取った。
「憑依合体――――シュテル・ザ・デストラクター in ルシフェリオン」
一つは魔杖。
色こそ異なるも、造詣はなのはが持つデバイスと瓜二つ。
「憑依合体――――レヴィ・ザ・スラッシャー in バルフィニカス」
一つは戦斧。
フェイトが持つデバイスを鏡映しにしたかのような。
「憑依合体――――ロード・ディアーチェ in 紫天の書 in ユーリ・エーベルヴァイン」
一つは魔導書。
PT事件の後に起きた闇の書事件、その中核を担った書と酷似したもの。
「やるぞ、お前等」
なのはやフェイト達から見れば、それはただの魔杖であり、戦斧であり、魔導書。
だが、シャーマンである彼の視点では、その様相は大きく異なる。
両手に持つ魔杖と戦斧からは、それぞれ赤と青の光が噴き出す。
背中から鴉のような翼が三対六翼、それらを揺らめく巨大な二つの炎翼が包み込む。
彼女達とはとある事件で交流を持ち、紆余曲折を経て彼の持ち霊となることを選んだ。
「霊が見える奴に悪い奴はいねぇ」
臨戦態勢に入り、戦いの火蓋が切られようとしている。
そんな中、相も変わらずユルい顔のまま、
「つまり、霊が見えねぇお前等は悪い奴ってことになる。だから、従う訳にはいかんのよ」
そんな、訳も分からぬ持論を持ち出し、一方的に彼女達を非難した彼は、
「それにオイラ――
言ってはならない決定的なセリフをブチかましてしまう。
「……フェイトちゃん」
「……うん、なのは」
ぶちっ――何かが切れる音が戦場に響く。
「「彼とおはなししなくちゃ」」
瞬間、彼女達は弾けた。
無数のビットが出現したり、突然痴女と化したり。
具体的な描写は省くが、彼女達のただならぬ雰囲気に呑まれ、彼の額から冷や汗が一筋。
「お、おう……なんか知らんが怒らせちまったみたいだな」
彼は一つ、勘違いをしていた。
彼女達が自分に固執するのは、シャーマンとしての能力を利用するためだと。
しかし、真実は違う。
彼女達はシャーマンの能力を利用する気もなく、そもそもが必要としてすらいない。
既に死者と、大切な家族との死を乗り越えているのだから。
ではなぜ、こうして十年間も一途に彼へと挑んでいくのか。
年上好きであり、ガキンチョは対象外だと常々語っている彼には一生分かり得ないことだろう。
「んじゃ、もうひとふんばりするとすっか」
でも、それも無理からぬことなのだ。
彼はシャーマン、あの世とこの世を結ぶ者。
幼少期の出来事があり、他人と距離を置き続けてきた彼には一人も友と呼べる存在がいない。
よって、彼の間違いを指摘する者はおろか、相談相手すらこの世にはいないのだから。
言わば――彼は生粋のぼっちなのである。
今更のように気付いたんだが、作者は俺達の戦いはこれからだというラストが好きなのかもしれない。
そんなコメントから始まる、最終話での作者の後書きです。
本作誕生について、最初に語ったように≪The MOVIE 1st≫と≪シャーマンキング≫を呼んだのが切欠。
そして、本作が微妙に中途半端なのは、作者が次回作を視聴していないから。
ですが、恐らく視聴しても続きは書かないと思います。
一応構想とか練ったけど、仮にも他の作品執筆している身なので続きを期待した方はごうかご勘弁を。
それでは、最後になりますが、此処まで本作に目を通してくれた読者の皆さん、感謝感激。
ご愛読ありがとうございました。
では、また何時か何処かで。