歳神様は狼さん!   作:イニシャルY.Y

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2、歳神様と書き初め

初詣で水雲神社を訪れる人も減り、神社には寂寥感が見え始めた。のは気のせいで今日は、狼さんと書き初めをしに来た。決して宿題だからするのではなく狼さんからの呼び出しできたのだ。手に書道セットを持ち歩き、秘密基地のような場所へ向かった。

一見、私の部屋くらいの普通さに見えたその部屋は実は神様の寝床らしい。よく分からないけれどとにかく一般の人が使っているような部屋だった。

「狼さーん?何処ですかー?」

ドアを開けて見ても誰もいなかったので呼んでみたものの、物音一つしなかった。

「おう、きたか!」

「う、うわぁ!」

後から耳元で大声を挙げられて思わず驚いた。

「なんや?そんな驚かんでええがな」

「部屋で座っててくださいよ」

「すまんすまん。呼びかけられたんでなぁ」

高らかに笑いながら目の前の座布団へと座った。その隣に私も座る。

大きなテーブルが置かれており埃一つなかった。意識して吸ってみると空気がすごく綺麗だと肌が感じた。

「なんやそれは?」

指を指してきた所に目を向けると書道セットだったので説明する様に答えた。

「書道セットですよ?書き初めをすると言われたので持ってきました。」

すると、狼さんは呆れ顔になった。

「こっちで用意しとるのになんで持ってくるんや」

「えっいやいるかなと思って」

「まぁええわ、そこ置いとき。立派なもん持って来たるわ」

そう言って部屋から出ていくと同時に入ってきた。

「はやっ!」

「そうか?そこに置いてあったもんをとっただけやけどなぁ」

一瞬、瞬間移動したかと驚いたけれどそういう事ならと納得した。

 

※※※※

 

慣れた手つきで狼さんはすぐに準備した。

「ほな、天照狼でいこか」

「狼さんの名前書くんですか?」

「そうや?なんなら水無月神奈(みなづきかんな)でいこか?」

「名前書くのは確定なんだ......」

結局天照狼という字を書くことにした。私は正座したけれど狼さんは胡座をかいていた。

「照らすゆう字難しいなぁ。くっついてしまったわ」

「どれですか?............えっ」

「どうや?下手やろ?」

少し絶句。

「天(あま)もはじめの二画の太さが難しいですね」

「そうやな。どうしても最後の払いに神経使うわ」

「まぁ、本来は喋りながら書くものでもないですけどね」

そういえば、小学生の頃は心を整えて静かに書いていた気がする。先生がいなくなると男子は騒ぎまくって墨だらけになっていたけど。今思えば楽しかったなぁ。

「小筆でまた、天照狼書かなあかんやんけ」

「じゃあ、名前以外で良かったじゃないですか」

「......そうや!初めからそうしとけばよかったんや!」

「今更ですか!」

変な所だけなんだかドジな狼さん。 そんな人と話してて楽しくなってくるのはなんでだろう。必然的?それとも────。

「筆が止まっとるで?」

気付けば最後の狼の字の所に大量の点を打っていた。自信作だったので少し衝撃を受けた。

「勿体ないやんけ。どれ、貸してみ」

筆を渡すと、狼さんは点を打ったところを再びなぞった。すると、消しゴムで消すように消えていき、狼の最後の払いが綺麗に整えられた。

「夏帆ちゃんを治した時もそうですけど、どうやってしてるんです?それ」

夏帆ちゃんが天照狼さん(イケメン)を見て鼻血を出して倒れたとき、狼さんは夏帆ちゃんの口にキスをした。そしたら、夏帆ちゃんは何も無かったかのように起き上がったのだ。

「ああこれか?神様やからなぁ俺は。なんでもできるんや!」

凄いだろーと自慢して来たけどよく分からなかった。

「どういう原理でそうなるんです?」

「イメージやと思うで?あとは神様っていうランクが必要やな!ハッハッハ!」

犬歯が見えるほど大きな笑い声を立て笑った。少し調子に乗りすぎだと思って筆でなぞる。

「なっ!神様に墨を付けるとは何事や!」

その直後、狼さんの筆が私の鼻をなぞった。

「神様は仕返ししないんですよー!」

えいっともう一度頬を黒く染め上げる。そしておでこに、そして自慢げの尻尾に、そして首に。

気付けば部屋中墨汁が飛び散っていて、直すのが大変だった。けれど、それ以上に心がワクワクしていた。

 

※※※※

 

「そんじゃあ、本題の書き初めについて話すわな」

「狼先生よろしくお願いしまーす」

「誰が先生じゃ!神様やから教えとんねん。最近の若者はどうも知識不足やからなぁ」

知識を捻り出すように、狼さんは目を瞑り下を向いていた。腕を組んでえーとなぁ......と続く。

「書き初めは年が明けて初めて毛筆や絵を書く行事や」

「じゃあ鼻に書いたのも立派な書き初めですか?」

「阿呆ォ!あれは単なる悪戯や!」

狼さんは私の前に手を差し出して人差し指と親指で輪を作りおでこをコツンとデコピンした。

「イテテテ......」

「黙って聞いとれぇい。普通は昨日(一月二日)書くんやけどな。書き初めの別名は 吉書(きっしょ)、試筆(しひつ)、初硯(はつすずり)、筆始(ふではじめ)や。名前だけわかったらええ。深い意味は自主学や。 」

「吉書、試筆、初硯、筆始。でいいですか?」

適度にメモを取り確認する。

「そうや。物覚えはなかなかええやないか」

「そうですか?」

褒められたーと心の中で喜んだ。

「本来、俺(歳神様)に供えられる水......若水(わかみず)っちゅうやつなんやけどそれで墨を摺り、恵方に向かって詩歌を書く習慣があったんや。今は墨汁っちゅう簡単で無礼なもんが作られとるけどな!」

「最後の方なんだか愚痴に聞こえますよー」

「おっとすまんすまん。昔は儀式でしおったんやけど江戸時代くらいに庶民へ広がるようになったわ。書き初めで書いたもんは左義長で燃やすんや。左義長が分からんかったら左義長イコールとんどで覚えたらええ。」

胡座を解いて右の膝を立てた状態で話は続いた。

「燃やした時に高く舞い上がれば字が上達すると言われとる。逆をいえばすぐ下落ちたら下手になるんや」

「マイナス面もあるんですね」

「いいや、逆はないで?ただ、理屈を言ったまでや。そないせな書き初めする人が減るからな」

じゃあ言わなければいいのに、と思いながら取り敢えずそれもメモに取った。

「他には?」

「以上や」

「へっ?」

「へっ?じゃないわ。終わりやっちゅうねん」

そう言うと狼さんは立ち上がってどこかへ行ってしまった。狼先生ありがとうございました!って言おうとしたのにタイミングを逃してしまった!。と、悔しくなっているうちに狼さんが水を持って来た。

「なんで水なんですか?」

「阿呆!若水じゃ!大切に飲めよ」

陶器に入れられた若水を一口。

「若水って美味しいんですね。流石特別な水だ」

「ただの水道水やで」

「......えっ!?でもさっき若水って」

「神棚(かみだな)に供える水であって元々特別でもないんやで?」

「そんなこと早く言ってくださいよ!」

「言ったと思うねんけど......。やっぱりイメージっちゅうのも怖いもんやなぁ。意識するだけで味が変わるとか末恐ろしいわ」

そうか、若水イコール特別な水という思い込みが味を変えていたのか!と心の中で思った。再び飲んでみると、ただの水の味だった。

「ほな、書き初め再開しよか」

「まだやるんですか?」

「まだ完成してないやろーが!」

その後、何十枚と繰り返し失敗し、挙げ句の果て時間が来て帰ることになった。

 

 

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