「神奈。七草粥(ななくさがゆ)を食べようやないか」
「そうですね」
「そうですね!」
「そうです......ねぇ」
同じ言葉を三回言ったんじゃなくて現在四人いるのです。机を取り囲むように狼さん、私、夏帆ちゃん、そして新たに連れてきた有本舞香(ありもとまいか)ちゃんが座っています。緊張しながらも四人は七草粥を頬張る。なぜ緊張しているか。それは────
「かっ辛(から)っゴホッゴホッ!」
「夏帆ちゃんに来たか......」
......四人はロシアンルーレットをしていたからです。
※※※※
────時は遡って。
「本当にあの時のイケメンに会えるの!?」
「そのイケメンが狼さんで合ってるなら会えるよ?」
イケメンに目がない夏帆ちゃんは、会えると聞いてなのか服もかなり高価なものを着ていた。
「私のようなクズが行ってもいいんですか?」
隣から声をかけてきたのは一年中ネガティブな考えを持つ眼鏡少女の有本舞香ちゃん。首元はしっかりマフラーで覆っていて私たち以外にはなかなか心を開かない。
「自分をクズって言わないの。舞香ちゃんも可愛いんだからもっと自信もって!」
「う、うん」
今日は七草粥を食べに、狼さんの部屋へと向かった。友達の二人も連れて行っていいと言ってくれたのでこうして二人に声をかけたわけだ。夏帆ちゃんは初詣の時に一度見ていたので是非行きたいとの一点張りだった。舞香ちゃんは私がついてるなら......となんとか来てくれた。
「入りまーす」
「おぅ!やっと来たか。なんや友達可愛ええやんか」
「どこ見てるんですか!────って夏帆ちゃぁぁん!」
鼻血を出して倒れてしまったようだ。狼さんの所まで夏帆ちゃんを持ってきて治してもらった。
「あれ?私......今倒れたような気が......ってあ!イケメン!」
「おっと。流石にループはやめてくれへんか?ちょっと神力(じんりき)で押さえとくで?」
夏帆ちゃんのおでこに人差し指をつけると仄かに光出した。
「ああ。イケメンに触れられた......もう死んでもいい!」
「死んじゃダメだよ!」
「あれ?鼻血出てない?」
「毎回倒れてもたら困るからなぁ。抑えとんや」
「あ、ありがとうございます!」
という事でようやく落ち着いたので本題の七草粥の方に移る。
もう狼さんの方で作っていてテーブルに四人分が並べられた。
「こんなかに鷹の爪っちゅう唐辛子が入ってるからロシアンルーレットしようや」
「えっ!?何でそんな手の込んだことを......」
「大して七草粥についてはいうことがないんねや。もう知ってる人も多いからなぁ」
「イケメンに作ってもらった七草粥ハアハア」
「夏帆ちゃん興奮しすぎだよ......」
「俺みたいなのがイケメン何(なん)か?世の中俺以外にいっぱいおるで?」
「獣耳(けもみみ)最高ですよハアハア」
夏帆ちゃんが新しい物に目覚めてしまった瞬間だった。
「と、唐辛子......そ、そうかこれで死ねるんだね」
「舞香ちゃん、ネガティブオーラ全開にしすぎだよ!唐辛子で死ねないって!」
「何かと神奈の友達は個性溢れとるなぁ」
顎に手を当て狼さんはニヤニヤと笑っていた。
※※※※
────再び現実。
「み、水をー!」
「夏帆ちゃん、はい、水」
流れるように水がすぐなくなり夏帆ちゃんはふぅと息を吐いた。
「これ絶対鷹の爪じゃない気がする......」
「鷹の爪?ちゃうちゃう。もしかして言い間違えたか?夏帆に入れたんはタバスコや」
まさかの一言に夏帆ちゃんは危うく吐き出しそうになった。
「タバスコだったら死ねますかね?」
「なんや?死にたいんか?」
「舞香ちゃん暗い話しないでよ!」
「死ねるんですか!?」
予想以上に舞香ちゃんは別の意味で怖かった。狼さんはその言葉を聞くとよっしゃ、と言って舞香ちゃんのおでこに手を翳した。その途端に舞香ちゃんは崩れ落ちるように眠りに落ちた。
「何したんですか!?」
「ちょっとした臨死体験や。怖いもんやないで?ちょっとした旅行や」
怪しすぎるその行為に心がふらついた。もしかしたらと思って焦りが出た時、あっさりと帰ってきた。
「うぅーん」
「舞香ちゃん大丈夫!?」
「うん。楽しかったよ。閻魔大王にも会ってきたよー」
ふわふわとした空気で起きてきてなんだか安心した。
「閻魔大王に会(お)うたんか。めっちゃ運ええやん」
「そ、そうですか......?えへへ」
初めて舞香ちゃんが笑った気がした。そう、今迄笑った顔なんて見たこと無かった。
「笑顔かわええやんけ」
「ほ、褒めてもらったの初めてです......」
すると、舞香ちゃんの瞳に涙が溢れた。そして、肩をさするも本題からずれていることを悟った。
「七草粥の話からずれてません?」
「そうやな。ハッハッハ!」
腰に手を当て高笑いをすると、座布団に座った。
「この七草粥は春の七草や餅とかを入れとんや。春の七草ってわかるか? セリ、ナズナ、ハハコグサ、コハコベ、コオニタビラコ、カブ、ダイコン(大根)や。 」
カブと大根は何回も聞いたことあるけれどほかが聞き取れなかった。
「セリ、ナズナ、カブ、ダイコン、コハコベ、あとなんです?」
「コオニタビラコとハハコグサや。」
書く速度に合わせて狼さんは喋ってくれた。
「七草粥は 一年の無病息災を願って食べられるんや。祝膳や祝酒で弱った胃を休める為とも言われてるんや。祝膳(いわいぜん)っちゅうのは簡単に言うと豪華な料理のことや。祝酒(いわいざけ)は文字通りめでたいことを祝って飲む酒のことや」
説明しろと言われたらなかなか説明出来ない。そんな細そうな単語まで詳しく言ってくれるので学校の先生と違って分かりやすかった。夏帆ちゃんと舞香ちゃんもなんだかんだでメモを取り出して書いていた。
「他には?」
「終わりや」
「ですよねー」
「他に質問ないか?」
「あのぉ?腹筋見せてもらっていいですか?ハアハア」
イケメン好きの夏帆ちゃんはもう狼さんにメロメロだった。
「ええぞ」
「えっちょっ!待ってください心の準備が!」
「ハアハア」
「どんなんだろう......」
バサッと服をあげた瞬間、抑えていた夏帆ちゃんの鼻血が噴出したのは言うまでもない。