346プロダクション異世界事業部   作:クレイジーピンクペッパー

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第二話

 数十分歩いただろうか、何事もなく街へ着いた。何事もなくてよかったと心から思う。クソみたいな会社の常務を守って死ぬなんて御免だ。せめてアイドルを守って死なせてくれ。

 街は――見慣れない外観だ。様相は明るく、全体がどことなくお洒落。人もかなり密集し、たくさんの店が賑わっている。

 て言うか何だ、ここの住人の服装は。

「なんと!今日はハロウィンか何かでしょうか!事務所に戻って衣装を取ってきますか!?」

 日野の言う様に、ほぼ全員が仮装めいた格好だ。冒険者風の服、戦士、盗賊、魔女、悪魔、お姫様、その他色々。でもチープな見た目ではなく、もっと優雅と言うか、品がある雰囲気をしている。

 可愛い物からクールな物、アバンギャルドな物まで、見ていれば種類に暇がない。

 しかし女だけの様だ。見比べると、男は質素な服を着ている。

「ふむ。磨けば光る灰被りがゴロゴロいるな。とりあえず二手に分かれて情報収取だ。日暮れ時にまたここで落ち合おう。君、美少女が居たら勧誘するのを忘れるな」

 何言ってんだ、このプロデュースお化けは。見知らぬ土地でスカウトもクソもないわ。

 もしかしたら、少佐は混乱しているのかもしれない。プライドを保つためにあえて高圧的に振る舞っている可能性が……ないか。元からアレだった。

「財前、二宮、私と来い」

「いいわ。この豚と居るより有益そうね」

「あぁ。プロデューサー、次に会う時は、お互い別の自分かも知れないね。シンセカイと僕と君の関係が、不明瞭だった存在を内包する物にしてくれる。僕は其れが望ましい結果になる事を祈っているよ」

「おい、二人とも行っちまったぞ」

「え?あっ」

 意味不明な事を抜かしていた二宮は、離れていく少佐と財前の後を慌てて追った。あの子は語彙力があるのかないのか、頭が良いのか悪いのか良くわかんねぇな。

「飛鳥ちゃんは面白い子ですね!私好きですよ!!」

「さて、私達は美味しいお酒が飲めるお店を探しましょうか。ふふ、冗談です」

 ボンバーヘッドとカリスマアル中が残ったか。正直、財前二宮コンビよりはマシだ。あっちは俺の言う事を聞いてくれそうにない。

 さぁ、どうするかな。

 

 

「――うーん、あなた達ぃ、珍しい格好してるねぇ。ん、でも嗅いだ事ある匂いもする~ハスハス~」

 

 

 肩を突かれたので振り返ると、見覚えのある顔があった。

 ウチに所属しているアイドル、一ノ瀬志希だ。

 まさかの人物に、俺達三人は硬直する。もしかして後をつけて来たのか?いや、それだったら最初から立候補してる。その前に、コイツ事務所にいなかった様な……。

 一ノ瀬は周りの住人と同じような仮装をして、街に溶け込んでいる。恰好だけ見れば舞台袖に居るアイドルだ。

 錬金術師の様な恰好をしているが……そう言えばこんな衣装着る企画あったな。

「ねぇねぇ、それって普通の服?それとも「魔衣」?もし後者なら――逮捕しなくっちゃ」

「あれ?一ノ瀬さん!何故ここに!!」

「んん~?どうして私の名前知ってるの?」

 一ノ瀬は大袈裟に首をかしげる。が、警戒する様に少し距離を取った。

「志希ちゃん、失踪が得意だものね。退屈で付いてきちゃった?」

「んん?う~ん、志希にゃん、わかんな~い。とりあえずー、怪しいから逮捕っ」

 一ノ瀬は懐から何かを取り出した。何かの液体が入った試験管だ。

 それを突然俺達の下に投げつける。

 ――試験官が割れると煙が一気に充満した。

「うわっぷ!火事!火事だ!!ファイヤアアアアアア!!!」

「日野うるせぇ!おい一ノ瀬、何だこれ!」

 三人して慌てたが、すぐに煙は晴れる。

 先ほど見ていた街の風景に、黒い線が縦に何本も入っている。一瞬目がおかしくなったと思ったが、見渡してそれは間違いとわかる。

――いつのまにか、俺たちは鉄格子のなかに取り込まれていた。

「お?うお!おおおお!なんですかこれは!!」

「あら、檻?いつの間に……」

 な、なんだ!どうなってる!

 突然現れた檻に俺達は隔離されてしまう。いくら力を入れてもビクともしない。一ノ瀬は猛獣を観賞するように俺を覗き込んだ。

「にゃはは、そこでちょーっと大人しくしててね」

 一ノ瀬は話が通じない。演技じゃなくて、本気で俺達を知らない振る舞いだ。この突然現れた鉄格子も意味不明。きっとここは、俺たちが居た世界じゃない。

 見知らぬ土地で、俺達を忘れたアイドルに、魔法みたいな物で拘束される。この異常事態はちょっとヤバい気がして来た。

「プロデューサーさん、聞いてください」

 高垣が真剣な顔で俺を見つめる。

 なんだ、何か思いついたか。さすが高垣、冷静で助かる。

「檻の中なんて、こおりごり。ふふ、かなり完成度が高い気がします」

 大分ヤバイ気がして来た。

 体当たりしても蹴っても鉄格子は全く動じない。

 くそ――後は、美城だ。プロデュースおばさんの一刻も早い登場を願うしかない。

 

 

 少佐!早くご帰還下さい、部下が大変な目に遭いそうです!

 

 


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