【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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諸君、私はポンコツ少女が好きだ!
諸君、私はポンコツ少女が好きだ!
諸君、私はポンコツ少女が大好きだ!

残念属性よ、世界に広まれ

修正し、投稿し直させて頂きました。


夕焼けに佇むその店は

 人里を少し外れた所に、その店は建っている。

 

「韮袖呉服屋」と書かれた看板を掲げるその店は、寂れており少なくとも商売をしている様には感じられない。

 その店は、少女一人が営んでいる。話を伺うと明らかに人の子では無いそうな。

 

 

 時刻は既に夕暮れ。赤く揺らめく陽光は、妖しさを含みながら道を薄暗く照らしていた。

 季節は初夏、ひぐらしの声が鳴り響き、一人で歩くにはいささか心細い。

 そんな道に、帰路を急ぐ男が一人。

 

 その男、人里の反物屋ではございますが、近くの野原に薬草が取れると噂を聞きつけ、これはいても立ってもいられない。と野原を探し回る。

 はっ、と気がつけば日も傾き、既に妖怪が目を覚まし始める時刻。これはいけない、とばかりに帰路を急いでいる。

 せっせ、せっせと帰路一路、日は長くなったといえど、暗くなってしまえば妖怪が幅を利かせ始める時間。心の中で念仏を唱えつつもたったか、たったかと急ぎ足で駆けていきました。

 人里に入り一心地。妖怪の腹の中に収まる危険は去り、ひと安心。汗を吸った着物はベタベタと身体にまとわりついてきましたが、それすらも気に掛けず、心を落ち着けておりました。

 帰ったら湯を張った桶に飛び込みたいなどと思いつつも、普段通らない道故にキョロキョロと見回しながら歩いておった所、何故だか、心惹かれる店が一軒。

 何やらグイグイとした引力を感じつつも、近寄ってみますと、その看板は韮袖呉服屋と刻まれており、何やら呉服屋の様子。

 当然、反物屋を営んでおる者としては興味も沸くもの。その男は、フラフラと店に吸い込まれて行く様にその店に入って行きました。

 

 「いらっしゃい」

 

 鈴が転がる様な声と共に、奥から現れたのは、肩まで伸びた黒髪を持ち、狢の毛皮を肩にのせ、着物を纏った背丈の小さい少女。

 里で元気に遊び回っていても可笑しくは無いくらいの少女は首を傾げる。

 

「何か御用ですかい?」 

 

 無礼とも取れるその態度は、少女の愛らしい外見と相まって、何故だか男の耳に心地よく響く。

 そんな声に癒されつつも、思ったよりも小さい少女が出てきた事に、拍子抜けしつつ男は返した。

 

「あ、あぁ、何故だかここが気になってしまってね」

 

 入ってしまった理由も分からないままに、男はキョロキョロと商品に目を遣っている。 

 丁寧に折り畳まれた素朴ながらも、小綺麗な商品を見て思わず、ほぅ、と感嘆の息が漏れる。

 その感嘆を聞きつけたのか、少女は何やら嬉しそうに口元を吊り上げ聞き返す。

 

「へぇ、こんな寂れた店に?」

「確かに外見は寂れているが、商品は中々じゃないか」

 

 その男、布関連の仕事に就いておるだけあって、目利きは中々の男であった。夕日が差し込む薄暗い店内で反物を検分していきつつ、素直に評価を下す。

 そして今まで何故、この店を知らなかったのだろうと首を捻る。この道に入ってから、はや三十年。商人としては脂が乗っかってきて、更に上を目指そうかと言う頃。

 当然、そんな頃に出会ってしまった、この妖しい魅力を放つ店をそのまま見過ごす訳にもいかなかった。

 まるで、この店に呑み込まれたかの様にせっせと、商品を見ていく男。いくらだろうかと値踏みをしつつも、袂にある財布と相談し、脳内のそろばんを弾く。

 男は皮算用をしつつも、しめしめ掘り出し物を見つけたぞ、とばかりにニンマリと口を緩ませる。

 

 そんな男の言葉や態度に、少女は愉快そうに破顔する。慇懃な言葉遣いを放り出しにしたままではあるが、可愛らしさを伴って話していく。

 

「おや、お兄さん上手だねぇ。よぉし、その口達者に負けて今回ばかりは、うちの子達に色を付けようじゃあないか」

 

 素直に嬉しそうにしつつも、折角入って来た客を逃すまいと、商談に入る前口上。その言葉はやたらと堂に入っており、小さき少女の影に老成した空気を滲ませていた。

 その言葉を聞き、男は、やけに大人びた少女だなと違和感を覚える。しかし、最近の子はませているなと自分の中で納得させつつ、返答する。

 

「ハハハ、お嬢ちゃん、君はまこと商売上手と見える。もしかして君が店主なのかい?」

 

 男は冗談混じりに大人びているな、と遠回しに少女を誉める。

 その男の言葉に、ぴたりと、お薦めの商品を弄っていた少女も動きを止め、振り向いた。

 

「これは驚いた。もしかして君は人間の目利きもやっているのかい?」

 

 と、瞠目し、言葉を投げ返す。

 面白いことを言う子だな、と少女の言葉に笑いつつ、男は店の奥をしきりに見遣りながら言葉を続ける。

 

「馬鹿言っちゃあいけないよ、オレがやるのは布の目利きだけさぁ。さて、店主はいるかい?」

 

 少女の言葉を戯れと受けとり、男は店主を待ち望む。

 目の前にいる少女が店主だとは露とも思わず、男は商談がしたいと少女をせっつく。

 そんな男の態度が気にくわなかったのか、少女は少し目を細め、語勢を少し強めて言う。

 

「さては、信じていないな? 君が信じた様に見えたのは冗談か。きっと目利きもさほどでは無いだろう」

 

 少量の怒りを孕んだ様な響きで少女は言い返す。しかし、小僧時代に怒鳴り声を浴びせられ続けた男にとっては、自分の娘程の少女が怒った所で効果は薄い。それどころか、横柄な態度は男の癪に触った。

 イライラを抑えつつも、男は、幼子をしかりつけるように命令する。

 

「いいから、君は店主を出しなさい!」

 

 怒声を浴びせられた少女は、プルプルと震え始める。

 さらに、男は追撃するように呟く。

 

「全く、どうなっているんだこの店は」

 

 その言葉が耳に入ったようで、震えていた身体はぴたりと止まり、もう堪らんとばかりに少女は怒鳴りだす。

 

「この私が店主だ!」

「いい加減にしたまえ!!」

 

 男もついには堪忍袋の緒が切れたようで怒鳴り返し、踵を返す。

 

「店主が居ないなら居ないと言いたまえ! こんな餓鬼を店番に据える店主も店主だ! 二度と来るか! こんな店!!」

 

 と、乱暴に言葉を吐き捨て出ていってしまう。

 

 ぽつりと店内に残された少女は、悪びれた様子も無くフンとふんぞり返っていたそうな。

 

 後日、ワイワイガヤガヤと猥雑な酒場の中、その男が酒の肴にその店の話をすると、友人は心当たりがあるようで頷きながらも、酒を煽る。

 

「あぁ、そりゃあ韮塚のんとこの呉服屋だ」

「韮塚だぁ?」

 

 酔って気も大きくした男が大声で聞き返す。

 男の友、少し愉快そうにしながらも、周りが騒がしい酒場でも聞こえる程度に声をひそめ、笑いながら男に問いかける。

 

「お前さんよ、夕暮れの帰り道に何となく腕を引かれているって体験、無いかい?」

 

 いきなり、夕暮れの話に変わった事に怪訝な顔をしながらも、そんな噂があったなと思いつつ男は返す。

 

「あ、あぁ、ありゃあ妖怪の仕業って話じゃねぇか」

 

 その友人はニヤニヤとした顔を此方に向けるだけで、返答しない。

 焦れた男は先をせっつくように友人に問う。

 

「なんでぇ、そんな話を?」

 

 話が飛躍し過ぎだろと、男は言う。

 ついには友人はアハハハと笑いだし、真相を明かした。

 

「何てことはねぇ、その妖怪こそがお前が怒らせたという少女だ」

 

 男、それを聞くとたちまち顔面蒼白になり、酒をひっくり返したそうな。

 

 それからしばらく男は、夕暮れに帰る時は決まって袖を結んで急いで帰るようになったとさ。

 

 

 

──時は遡り、舞台は再び韮袖呉服屋

 

 着物を振り乱し、畳の上でじたばたする幼女が一人。

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!! 私の馬鹿! 私の馬鹿!

 なんで人間を前にすると喧嘩腰になるんだ! 人間と仲良くしたいだけなのにぃぃぃ。 

 なんだよ人間の目利きって、馬鹿か! あたしゃ馬鹿か! 途中まではいい雰囲気だったじゃないか!!

 うぅぅ……そんなんだから袖を引くだけで挨拶出来ないんだ……

 なんだよ、袖を引くだけって、逃げんなよ私……

 あぁ……人間と仲良くしたい…」

 

 そんな声が夕焼け空に響いていましたとさ。

 

 この話は、人間に対し超コミュ障な妖怪が人間と、どうにか仲良くしようと試みる奮闘記である!

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