【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

26 / 62
おまたせしました。


鬼と夢だよ 袖引ちゃん

 さてさて、何をお話したものやらと頭を悩ませております。なんといってもあの異変、現在の私にもいまだに刺さるものがございまして、酒の席にて話すのは些か不適格な様な気も致します。

 うーんと、酒でぼやけた頭を捻り、萃香さんに会った事、私のわがままと勘違いで突っかかっていった事、なんだかんだ解決した事等、内容をかいつまんでお話致しました。

 

「ほーそんな事が、しかしまぁ次から次へと話題が絶えませんねぇ。私としては願ったり叶ったりな訳ですが」

「いやー相変わらず苦労してるよね」

「巻き込まれなくてよかった……」

「……」

 

 さらさらと、筆を走らせる射命丸様に、楽し気な影狼さん、ホッと息を吐く蛮奇さんに、心配そうな目で此方を伺う小傘ちゃん。三者三様な反応でございますが、どうやら会話に華を添えることは出来たようで一安心。くい、とお酒を飲み干したところで射命丸様が筆を止め、いつものようにお辞儀をし、別の席で飲んでいる萃香さんの所へ向かっていきました。

 

 鬼さんに絡まれつつも何かを聞き出している天狗さんを遠目から眺めている内に時間が経ち、宴もたけなわとなって参りました。思い思いに解散し始め、それでは、私たちもと立ち上がりますと、なにやら影狼さんが目配せをし、それに頷く二人が目に映りこむ。

 何をしているやらと首を傾げると、楽しそうに上気した顔を近づけ、声を掛けて来る影狼さん。

 

「よし、じゃあ飲みなおしにいこっか?」

「へ? あぁ、もちろんです! 行きましょう!」

 

 顔が近寄り、本当になにするものぞ? とドキドキしておりましたら飲みなおしのお誘いが。若干の間が空いてしまいましたが、もちろんと返事を返します。

 

 そんなこんなで興奮冷めやらぬままに、三人で霧の湖までやって来ました。流石に水辺に近寄るとまだ春ということもあって、ひんやりとした空気が火照っている肌を撫でていきます。草やら水やらの匂いを一杯に吸い込み深呼吸。

 そして、この場所の指定といえば、あの子を呼ぶためのものでしょう。影狼さんは気配り上手だなんてぼんやり思いつつ、今回宴会に参加しなかった子を呼ぶことに致しました。

 

「わかさぎ姫さーん」

 

 声が湖の中に吸い込まれていき、波立つ音だけが帰って来ます。もう寝てるかな? と首を傾げつつ影狼さん達を見遣りますと、各々分からないという仕草。

 そんな仕草を見ている内に、ぷくぷくと湖面に細かい泡が立ち始めました。湖面に浮かんでいる赤み掛かったお天道様が揺らいだかと思うと、ぷは、と顔を出す人魚さん。霧の湖に住むわかさぎ姫さんが顔を出しました。

 わかさぎ姫さん、影狼さんに紹介してもらったのが交流の始まりですが、今や紅魔館に服などを届けに行く時などに湖を通るが故に、出逢う回数が格段に上がりまして、今までも仲は悪くありませんでしたが、一転して仲がいいと言える関係までに交流が深くなっております。

 

 しかしながら整った顔立ちはご機嫌斜めの様相を呈しており、眉を潜めております。身体上の問題ゆえに、宴会に行けなかったことに拗ねているようで、つんとした態度で出迎えてくれました。

 

「あら、私を置いていった裏切り者さんたちじゃない? こんな哀れなお魚さんを笑いにきたのかしら?」

「あはは、ごめんてこれ持って帰って来たから許してよー」

 

 と、持ち帰って来た酒瓶を掲げてみせる影狼さん。更には小傘ちゃんもそれに乗っかり、笹の葉にくるんで来たおつまみを披露しました。

 

「聞いて驚け、見て驚け、こんなのもあるよ!」

 

 そして、蛮奇さんは私の肩をがしりと掴み、ぐいぐいと、わかさぎ姫の方へ押していきました。

 

「ついでに話の種も確保したわ」

「確保されましたー」

 

 そんなやり取りをしていましたら、とうとうわかさぎ姫も吹き出して、宴会のやり直しとなりました。先程っまでの出来事や、最近の事とまた話始め、くすくす笑いが起きていきます。そんなまったりとした時間を味わいながらも時間は刻々と流れていき、遂には夕焼け。そろそろ話疲れ、しんみりし始めました。

 その雰囲気を感じとったのか、影狼さんはさて、と話題を切り出します。

 

「袖ちゃん。何か話して無い事あるんじゃないの?」

「へ?」

「いや、だって隠し事してるよね?」

 

 いきなりな槍玉に首を傾げますと、首だけ飛ばして、わかさぎ姫に耳打ちをする蛮奇さんの姿。何を吹き込まれたのかぽんと手を打ち、にやりとするわかさぎ姫。

 

「袖ちゃん、また何かやらかしたんだって?」

 

 そんな言葉を言われ、はっと気が付きます。もしかして話を端折ったことがばれているのではないかと、恐る恐る影狼さんに顔を向けますと、やはりというか、なんというかはっきりと頷かれ、こう答えられました。

 

「だって袖ちゃん、嘘下手くそだし」

「……え?」

 

 がつんと何かに殴られたような衝撃が走った気がしました。妖怪なのに、びっくりとか主に主食にしている私が嘘が下手……? いやいや、まさかと蛮奇さんとわかさぎ姫の方へ向きますが、うんうんと、頷かれてしまう始末。 

 もはや泣きそうになりながらも、最後の良心こと小傘ちゃんの方へ顔を向けますが、あはは、と困った顔が私に残酷な事実を突きつけておりました。

 

「そ、そんな……」

 

 まさしく、ガーンと音が鳴りそうな衝撃を受けた私は、膝を突き、地面に四つん這いになりました。えぇ、もうしばらく立ち直れそうにありません。

 そんな態度お構い無しに、影狼さんは先程の異変についてせっついて来る始末。落ち込む暇などなく立ち上がりますが、どう話したものかと顔を見渡します。

 見えるのは付き合いの長い顔ばかり、影狼さん、蛮奇さん、わかさぎ姫さん、そして小傘ちゃん。最後に小傘ちゃんに向けた視線が交錯すると、心配そうな顔で小傘ちゃんが声を掛けて来ました。

 

「あの、袖ちゃん……」

「いいんですよ小傘ちゃん。きちんとお話しますから」

 

 小傘ちゃんの目を見て踏ん切りがつきました。きっちり何があったのか語りましょう。

 

「では、あまり面白くはないかもしれませんが……」

 

 そう切り出し、私は何があったのか余す事無く話し始めます。

 

 

 

 さて、これからお話するのは私の勘違いから始まった、少し苦い思い出となります。

 そんな大層な事でも無いかもしれませんが、とにかくもって、この異変は私にとっていささか話しづらい、そんなものでありまして。

 

 いやはや、鬼の方というのは苛烈も苛烈。戦闘も言葉も痛い所ばかりでございますね。痛くて苦い、そんな大人な風味で良ければ、お聞きくださいませ。

 

 

 

 さてさて、冬の異変も終わり今の様に皆さん宴会にて大はしゃぎ。私も宴会に参加したり休んだりと思い思いの時を過ごしていたころにございます。宴会も五日過ぎ、十日過ぎ、と皆様まだまだお盛んな様子。

 そんな中私はのんびりとお茶を啜っている最中でございます。

 

 私、韮塚袖引 ひと段落しております。

 

 

 季節外れ気味の桜咲き、皆様騒ぎ立て、囃し立て、大変元気なご様子で幻想郷中をにぎわせております。宴会に次ぐ宴会。皆様飲んで騒いで、大騒ぎ。

 私もよし飲むぞと勢い込み参加しておりましたが、ぐびぐびと飲み続け、食べ続け、とやっておりましたが、足腰が立たなくなる程に骨抜きになりまして、遂には脱落し、こうして店内でお茶を啜っている訳です。

 そんな、ちびちびお茶を啜っている現状ではございますが、それでも身体は自然と宴会に参加してしまいたくなるのですから、春の陽気というものは実に恐ろしいものでございます。

 

 春うららかな陽気を眺めつつも、ズルズルとお茶をしばいておりましたが、どうにもこうにも身体がうずうずとし始めてきてしまいまして、自宅でゆっくりという気分にはなりません。たんぽぽの綿毛が如くふわふわと心が落ち着かないのです。

 

 落ち着かないとあれば、出掛けるしかありません。浮ついた心を落ち着かせるためにも、散歩でも致しましょうといつもが如く戸締りをし、ぱたぱたと出かけました。

 

 遅咲きの桜咲き誇れば心もウキウキとし始め、自然とお酒の方へ方へと吸い寄せられます。しかしながら、人間様の宴会に割って入る事など、絶対に出来ることではなく、結局フラフラと博麗神社の方へと向かってしまったのでした。

 

 

 まぁ、そんな行動が間違いの始まりでございましたが、今嘆いても仕方の無い事です。

 

 とてとて歩けば、当然人にだって出くわします。人里を抜ければ鬼にだって……へ? 

 突然とんでも無い者を見たような気がする私は急制動。くるりと振り向けば、道の端でプカプカと浮かびながら瓢箪を煽っている方を見つけてしまいました。

 私程に小さい体に、立派な角。おとぎ話で出てくるような鬼の特徴をお持ちになった少女が、なんと本当にいらっしゃいました。

 まぁ、見ての通り妖怪なのでしょうが、鬼と言えば姿を暗ましまして幾星霜。まさか鬼だなんて思いもよりません。妖怪さんがここまで来てしまったのだな、のような感想でございました。

 

 いっその事見なかったことに。なんてことも過りましたが、ここは人里のすぐ近く。万が一があっては、一大事とその少女に近づき……といった所で足が止まりました。止まって、しまいました。

 なにやら嫌な予感といいますか、ぞくりとしたものが背筋をぞわぞわと這っていきまして、ぴたりと私の足を縫い付けます。まさか、まさかと脳裏に描き続けていた一つの可能性が、じわりじわりと脳を焦がしていきました。

 

 しかし、しかしながらここで見過ごすわけにもいかないでしょう。なんといっても、ここは人里の目と鼻の先。この妖怪さんを見過ごすには、些か無理がある距離でございます。迸る悪寒なんのその、えいやと勇気を振り絞り話掛けました。

 

「あの!」

 

 しかしながら、瓢箪を持った少女は宙に浮かびつつ、瓢箪を煽るのみ。ひょっとして聞こえてないのかと先程よりも大声で呼び掛けます。

 

「あの!!!」

「それ、私に言ってる?」

 

 瓢箪をゆっくりと降ろし、こちらをみる妖怪さん。その表情は面白そうなやつが来たぞ、といった体でこちらに顔を向けました。

 そんな不敵な態度をとりつつも、少女は頭の角を揺らします。こちらを不審がる事も、まじまじと見ることも無い。興味がない訳では無いのでしょうが、こちらの様相に関しては全くの無関心。経験上、こういった無関心さはとんでもない強者の可能性が高いのです。なぜなら、こちらを気にする必要がない位に強いのであれば、そういった動作は不要ですから。

 

 そんな強大な存在が、人里近くにいる。そんな考えたくもない想像を脳裏に浮かべつつ、質問を……といったところで、対面の少女さんが頭をガシガシと掻きぼそりと呟きます。

 

「しかしまぁ、私も油断したね。こんなちんけなのに発見されちゃったよ」

「ち、ちんけ……」

 

 

 いきなりなご挨拶でありますが、事実が事実なだけに反論もできません。少し凹みながらも問いかけます。

 

「あの、こちらで何を……?」

「少なくともあんたに用は無いよ。だってあんた、自分の事すら良く分かっていない小物じゃないか」

「……っ!?」

 

 本当に興味無さげに、目の前の方はそう言い放ちました。最近の封印やらの関係や、色々と思う所が次々と浮かび上がり、二の句が継げなくなります。

 絶句していると、さらに角の生えた妖怪は言葉を発しました。

 

「あんたは自分の事を騙してる。しかも自分ではそれに気づいていない。いや、気づいていない振りかな? 宴会でも、人里でもあんたの居場所なんて本当はどこにも無い。あんたはそう言う存在」

 

 飾り気のない言葉、虚飾も、虚構もない言葉がまっすぐに私の胸へと突き刺さりました。口を何度かパクパクとさせ、やっとの思いで言葉を絞り出します。

 

「……ずいぶんとずけずけと物を言う方ですね。えぇ、分かっていますとも、私が知らない何かがあるという事も、私から何か抜け落ちているということも。ですが、騙しているとは心外ですね」

「いんや、騙してる。あんたの顔は嘘を吐いてる顔だ。そんでもって私は鬼。嘘が大っ嫌いなのさ!!」

「鬼……やはりあなたは」

「そう、私こそは鬼なり。分かったらとっとと退くといいよ。私はこの先に用があるんだ」

 

 やはり、狙いは人里と、冷や水を浴びせられた感覚に陥ります。守護する人達もいることにはいますが、この鬼さんが人里に到達してしまえば、軽く蹴散らされてしまうでしょう。そうなる前に止める必要があります。

 

「……駄目です。行かせません」

「あ?」

 

 

 勇気を振り絞り、鬼の前に立ちはだかりました。どうしても、どうしてもこれは譲れません。

 そんな態度に、額に手を当ていかにも呆れたといった風体の鬼さん。

 

「おいおい、喧嘩を売る相手を間違えてないかい? 私、手加減しないよ?」

「……」

「あっそ、じゃああの世で後悔するといいよ」

 

 その言葉が聞こえて来るか否か、暴風ともいえる様な風を纏わせながら一瞬にして、私に肉薄してきました。そして、小ぶりな拳が、山に見える程の威圧感を放ちながら私目掛けて飛んできます。

 この戦いにおいて、私はたった二つ良い事がありました。……それは、あまりにも力の差があり過ぎて勝負に発展しないといった事でした。そして、手を抜かない事による力の差の拡大。

 人は蚊を潰す時に、全力で拳を振るう事は無いでしょう。もし振るったとしても、蚊は拳が発生する風によって何処かへと飛ばされるだけです。

 

 端的にいうと、それと同じことが起こりました。強大過ぎる力の余波が先に私の身体を巻き上げ、遠くへと飛ばしてしまいました。

 容赦のない暴風が私の身体を巻き上げ、大きく吹き飛ばしました。なんとか地面に着地できたものの、あまりの力の差に私は愕然とし、向こうは納得いかないといった表情で此方に視線を送ります。

 

「挑むからには多少なりとも覚えがあるもんだと思ったけど、そんな実力で私に挑んだ訳?」

 

 そんな簡単な問い掛けにすら、答える余裕はありません。冷や汗が止めどなく流れ、本能が警鐘をけたたましく鳴らす。このままでは、死ぬと、紙吹雪の様にバラバラにされると、ありありとその光景が浮かんできます。

 しかしながら、絶対に引けません。引いてはいけないのです。だって後ろには人里があって、気づいているのは私一人。私がやらねばなりません。カチカチと恐怖で歯を鳴らし、震える身体を抱きすくめながら対峙し直します。

 そんな様子を理解したのか、向こうさんの訝しむ目は、やがて呆れたという目つきに変わり、はぁ、とため息を一つ漏らしました。

 

「あー、分かったよ、分かった。弾幕ごっこにしようか? そっちの方が対等だし、何より潰すのに苦労しなくていいや」

「弾幕……ごっこ」

「知ってるだろう? あんたの様な小物でもちょっとは勝ち目がある遊びさ」

「……えぇ、もちろん、もちろん知っていますよ」

 

 勝ち目が全く見えない状態からの降ってわいた様な幸運。諦めて貰うためにも、話に乗る以外の選択肢はありませんでした。

 ──ですが、地力の差はあまりにも大きく、私の力では虚しく地に墜落するのが関の山でございました。

 

 覚えているのは、高密度の弾幕をやっとの思いで潜り抜け、ギリギリ触れられるといったところで、もう私は満身創痍。

 対して向こうは、全くの無傷といった状態でありました。何とかして一矢報いたかったのですが、右手が掠めたところで堕ちていき、去って行こうとする背中が、薄れゆく意識のまにまに見えた事位です。

 

 

 

 そうして私は、ある夢を見たのです。私の原点であり、未だに私の中で燻っている思い出したくないようなそうでないような、ちょっとだけ辛い記憶。

 私が人里に、こんなにも温かい場所に居ていいのかと時折鎌首をもたげる、或る記憶。例えば紅い霧の時に慧音先生の所に泊まった時も、誰かと楽しく遊んでいる、ふとした瞬間にも。

 

 時折、心に暗い影を落としてくる。そんな過去の夢を。

 

 

 

 夕焼け。

 

 燃えるような、全てが終わってしまうような、闇が近づいてくることを示す赤。

 

 闇を孕んだ残光が街道を照らしていました。

 

「──って!!」

 

 誰かが叫ぶ。

 その声は少女の物。まだ、幼いと言っても間違いではないその風貌、幼い顔は悲嘆に染まっております。

 

「待って!!」

 

 ……馬鹿な子ですね。

 その人は、待ちも止まりもしませんよ。

 

「待ってよぉ!! ねぇ!!」

 

 泣き声は夕闇へと掻き消されていきます。

 悲鳴にも似たそれが向かう先には母とおぼしき女の背中。

 

 届いている筈の距離なのに、聞こえている筈の距離なのに、その人は振り向きも、立ち止まりもせずに早足で去ろうとしています。

 

 当然、幼い少女も必死で追いかけます。

 しかし、その手が何かを掴むことはありません。

 躓き、転びながらも彼女は叫びました。

 

「何で!? どうして!!! お母さん!!!」

 

 

 その声を最後に視界が反転し、自分は暗闇の中に放り出されました。 

 

 

 突如として浮遊感が消え、地面に激突し、ぼろぼろになった感覚とともに目を覚まします。

 

 「──っは! はぁ……はぁ……」

 

 懐かしい光景が脳裏を駆け巡りました。もう薄れ、忘れられ、幻想となった、ただの幻。きっと走馬灯とかいうものなのでしょうが、今はゆったりと思い出している暇すらありませんでした。

 わたしは、笑う膝をどうにか抑えつつ再び立ち上がろうとしました。しかし、もう力なんて入らずに地面べしゃりと突っ伏すばかり、それでも尚、諦められません。

 

 だって、目の前には鬼がいて、人間様達を、人達を脅かそうとしてる。どんなに、どんなにこの記憶が私の中で影を落としていようと、この人間様への思いは、きっと本物なのですから。

 能力を使い、ぐいと鬼を引っ張ります。全力を込めて、止まってと願うように。ぼろぼろにすり切れた着物が懐かしい光景と重なります。

 

 

「知って、ますか……袖引小僧は、ですね。寂しいから袖を引くんです……消えそうな私に気づく人がいて欲しいからっ!! 貴女を、人里……には行かせ、ませんっ!」

「お前……」

「一人なんて寂しい、じゃないですか……置いていく、なんて……言わないで下さいよ」

 

 意識も途切れ途切れのまま、私は能力を発動し続けました。もう相手がどうなっているかも分からないまま必死に。

 置いていかれるのも、人間が悲しむのもやっぱり辛いのです。ですから、どうか止まって欲しい。そう、願い続けました。

 

 

 もう、能力も切れ、体力も完全に無くなってしまいます。外界からの情報は遮断されていき視界が黒に染まっていきました。

 

 そんな途切れ途切れ視界の中で最後に見えたのは、星のような何かと、何処か懐かしい声でした。

 

 

 

 

 結局、目が冷めたのも全てが終わってからの事。いつの間にか自宅に居て、いつの間にか布団に寝かされていたのでした。

 そしてなぜか咲夜さんが看病をしていて、かなり驚いたものです。貴女がここまで運んだんですか? と聞きますと笑顔でやんわりと否定され、その後クスクス笑いながらこう告げたのでした。

 

「何処かの、素直になれない子の差し金よ」

 

 首を傾げますと擦り傷やら何やらが痛み、いたたたと声を上げてしまいました。その所作が気に入ったのか更に笑ってしまう咲夜さん。そんな笑顔を見ていたら、また眠くなり眠りに落ちたのでした。

 

 

 そんなこんなで鬼さんとの邂逅は終わり。長くなってしまいます故にここで一旦区切りといたします。

 

 全てを忘れて夢の中、せめて今だけは、あの夢ともおさらばしたいものですね。

 

 

 ではでは、これにて一旦一区切り。次回も()()続きお楽しみ下さる事を、願っております




萃香がこんな態度なのは、萃夢想の萃香を、元にしているからでもあります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。