【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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大人と子供と星空と

 さて、戻って参りますは、魔理沙さんとのお話。ゆったりと流れる時間も立場変われば、激しい川の流れの様に一瞬でございます。

 

 夏の夜、星を見に行こうと言い出した私の口。それは、きっと願いだったのかもしれません。流星に願うような小さな小さな胸の内。

 満点の星空の下、忘れたくない願いが、そこにはありました。

 

 

 私、韮塚 袖引 願っております。

 

 

 

 

 じわじわとセミが鳴き、夏の暑さ残る風が、背中をねめつけていきます。時は既に夕暮れ。赤色の柔らかい夕陽が人里を覆っておりました。

 魔理沙さんをお誘いしてから数日後。そんな夕焼けを、自宅から眺めております。

 

 何処か懐かしいような夕焼け見て、ぼんやりと思い出すのは過去の記憶。

 まだ人間であった頃の。いえ、私が袖引小僧になる前の誰かの記憶。おぼろげな記憶が、夕焼けの中にぷかりと浮かんでは消えていきました。

 

 

 私が生まれたのは、まだ江戸の世の頃。天上の方の名前なんぞ知りませんし、貧しい家だったのだと思います。貧しい家の生まれ。当時の記憶なんぞもう覚えてなんておりませんが、確かにそんな感じであったかと。

 ぱたんぱたんといった織機の音。農閑期に行われたものでしたっけ。おぼろげながらも残っているのは、そんな断片的なものばかり。もう、遠い過去の事。

 

 ところで、間引き、という言葉はご存知でしょうか? まぁ農業、林業等使われる場面が多い言葉ではございますが、こちら、人間相手にも使われた言葉でございました。

 言い換えるのなら、捨て子という表現になりますね。

 

 生計を立てきれぬ者たちが野や山へ子供を捨て去っていく。今でも時々起こりえる。そんな当たり前の風景。

 当然、犯罪と定められていたようですし。そんな所を見つかってしまえば死罪や罰金はまぬがれません。村社会であれば良くて村八分といった所でしょうか。

 

 しかし悲しいかな、そんな事がたびたび起こっていたのが、昔の事実なのです。

 

 当然、そんなの子供からすればたまったものではありませんよね。信じていた世界が、いきなりすぽんと無くなってしまうのですから。いつだって、置いていかれるのは寂しいものです。

 

 まぁ、要は、お恥ずかしながら、そんな当たり前の内の一人だったのですよ私は。口減らしの為に、山奥へと捨てられてしまう。そんなどこにでもあって誰にも気にされない、哀れな子供。

 こんな小さい身体です。生きていく術など持つわけもなく、自然に飲まれるはずでした。記憶はあっても実感はありませんし、実際野垂れ死んだのかもしれません。

 ただ、ひたすらに寂しかった。ということだけは覚えております。

 そんな思念でも残っていたのか、道行く人の手を引こう引こうという意識の塊が、当時の人間の噂話に乗っかり、いつしか妖怪になっていた。なんて、そんな下らない話です。

 

 けれど、こんな姿になっても人間を憎いとは思いませんでした。というよりも、捨てられてしまった彼女が、いまいち私であった、という現実感も薄いのです。

 私の手元に残っていたのは、寂しさと、人恋しいという記憶だけ。むしろ近寄りたくて、会いたくて。だから人間を好きになるのは必定であったと言えるでしょう。

 

 その後は人里に降りていったり、旅をしたりするのですが……その後は、幻想郷に入った経緯ってどんな……?

 

 

 

 

 そんなとりとめない回想をしておりますと、ガラガラと下の階の戸が開く音がしました。

 

「来ましたか……」

 

 さて、こんな私の過去話なんぞどうでも良い事。ぽいと放り出し本題に。

 そもそも普段からお付き合いしている方たちでも、こういった過去の一つや二つございます。小傘ちゃんであれ、影狼さんであれそんなのを表に出さず生活するのが大人。というものなのでしょう。

 私も大人の女性のはしくれ。それくらい出来なくてどうします。……まぁ、姿形はこんなのでございますが。

 

 さてさて、閑話休題。

 

 魔理沙さんには、夜出かけてもいいようにお父様の説得やら、道具を整えて貰っていたのです。

 窓の外を見ると、時刻は丁度宵の頃。夕陽がそろそろ眠い、と目をこすりだしておりました。

 

「では、行きますか」

 

 そんな独り言呟きつつも、ぱたぱたと階段を降り、一階へ。

 夕陽が玄関に差し込み、明暗の空間をつくっておりました。そんな中、紫色なお洋服召した女の子が一人。とんがった背の高い帽子に、少しふわりとしたお洋服。と、いつもはあまり見ることの無いような装いの女の子が一人。

 帽子をくいと上げると、見えたのはいつもの見慣れたお顔。夕陽に照らされたお顔は、少し恥ずかしい様な、そわそわしている様なそんな表情。

 

「……袖ちゃん。遊びに来たよ」

「えぇ、待ってましたよ。魔理沙さん」

「似合ってる……かな?」

「えぇ、とても似合ってますよ」

「……そっか、良かった」

 

 そんな、はにかむ様に笑いかけて来る魔理沙さんは、いつもと違う格好も相まって、まるで知らない子供のようでした。いえ、認めるべきなのでしょうね。大人びていると。

 

 さて、こちらはこちらで、彼女のいつもとは違う風変わりな格好に、少しどきどきとしつつも一旦家に引っ込み、出掛ける準備等済ませ。いざ出発。 

 では、星を見に行きましょうか。

 

 外へとつながる道を歩いていると、残光が山間からこちらを覗き込むように、ひっそりと光を漏らしておりました。そんな薄暗くも少しワクワクするような時間。魔理沙さんはどう思っているのでしょうね。

 

 

 

 

「──駄目です」

「……あれ?」

 

 

 そんな事を言われ立ち止まるのは、人里門前。目の前には門番さんがびしり、と道を塞いでおります。おかしいですね。いつもなら見て見ぬふりを……あ。

 ぎぎぎと後ろを振り返ると連れが一人。まごう事なき人の子がいらっしゃいました。

 

 そんな連れで、紫なお洋服の方こと魔理沙さん。半目でまたやらかしたな、とでも言いたげな視線を送ってきております。

 魔理沙さんも私とは長い付き合い。どういう時に、どういう事をやらかすかなんてお互いに筒抜けの状態。そして、この状態はあれですね……えぇ、やらかしてますね。

 門番さんと魔理沙さんに睨まれて汗はだらだら。もう暑さが原因だなんていってもいられないようなそんな状態。あわわわわわ、と内心は大慌てでございましたが、とりあえず平面だけでも繕って、門から一旦撤退。

 

「そ、そうですよね。しちゅれいしました!」

「あ、はい」

 

 面食らっている門番さんの返事も待たずに、魔理沙さんの手を引いていきます。すたすたと一旦門から離れると、先程のやり取りで噛んだことを思い出し思わず赤面。ちらりと後ろ見ると、魔理沙さんはくくくくと笑いを必死に噛み殺している様子。

 あんまりにもずっと笑っているもんで余計恥ずかしくなり、魔理沙さんに一言。

 

「もう、笑いすぎですよ!」

「だ、だって、あんまりにも慌ててる……くくくく」

 

 どうやら、魔理沙さん的には大うけする類だったらしく、そこそこ長い間くすくすと笑っておりました。そんな笑顔の似合う魔理沙さん見つめつつも、どうしよかと頭を悩ませておりました。

 人里でも良い事は良いのですが、個人的なお気に入りの場所がございまして。人里からちょっと抜けた先に小高い丘があってですね、木々に囲まれているせいか中々に見つけづらいのです。……たぶん。

 

 まぁ、誰が知っていようが私のお気に入りである事には間違いなしなのです。ですから行きたかったのですが……とそんな事を魔理沙さんに相談した所。

 

「飛べばいいじゃん」

「あ」

 

 

 すっかり忘れていたというか、頭の外にいたといいますか、抜けている思考を指摘されました。いやはや、まさしくまさしくですよね。いつもの手段忘れるとか本当にどうした事でしょう。

 あまりの間抜けさ加減にちょっと沈みかけましたが、それはさておき。よいしょと、魔理沙さんをお姫様抱っこの様に抱え、暮れなずむ空にひとっとび。

 しっかりと抱きつく魔理沙さんは、出逢ったあの頃の様な軽さはもうなく。女の子の細い腕ながらしっかりとした力で私に抱きついて来ておりました。

 本当に大きくなったんだなぁ、なんてしみじみとしておりましたが魔理沙さんが興奮した声を上げた所で思考が戻されました。

 

「おぉぉぉぉ!! 凄い! 凄いな空!!」

 

 あぁ、そういえば人里ではあまり妖怪じみた事なんてしておりませんでしたし、ましてや魔理沙さんの前ではそんな事なんておくびにも出さなかったはずです。だからこそ飛ぶなんて事を忘れていましたし、だからこそこんな親密な仲にもなれたのかもしれません。

 まぁ、それでも妖怪である事を指摘してくるあたり、彼女の情報収集能力は素晴らしいの一言ですが。

 

 おぉぉ、と叫ぶ魔理沙さんの近くでそんな事を思う私。駄目ですね、どうも感傷的になっています。先程の回想が悪かったのか、はたまた別の理由なのか。

 ともかくこれでは駄目だ。と頭をブンブン。思考を追い出すようにしながらも、目的地へと向かっていきました。

 

「気持ちいいなぁ、飛ぶって。こんな感じなんだな」

「えぇ、滅多に味わえないお散歩なので是非味わって下さい」

「……今は、ね」

 

 そんな会話も交えつつ、飛びつつ。彼女も最近含みのある物言いが増えて来ましたし、なんだか……いえ、余計な気分ですよね。

 ふわりふわりと飛んでいるように、ふわりふわりとした私の気分。そんな気持ちを抱えたまま丘へとふわりと着地しました。

 

 夕陽も山間にすっぽりと隠れ、空はもう夜の色。眩くもか細い一番星が輝きだし、これからたくさんの星たちが輝くことを知らせております。

 時刻的には早かった感じですね。そもそも歩いて来る事を想像しておりましたから、仕方ありませんが。

 

 となりには、興奮冷めやらぬ魔理沙さん。何かにまたがる動作やら、深く考え込む姿。最近は魔法の研究もしていると聞きますし、それの関連なのでしょうか。

 まぁ、分からぬことは分からぬ。と持ってきた風呂敷を解き、竹筒と湯飲みを取り出しました。

 

「魔理沙さーん。まだ早いですしお茶にしませんか?」

「お? おぉ、そんなもの持ってきてたのか」

 

 動作取りやめ、とてとて、こちらへやってくる魔理沙さん。ふふふ、今回は考えることよりも私を優先してもらうのです。なんて、そんなよく分からないものに、対抗心をめらめらさせつつも、二人して敷物の上にちょこんと腰を下ろしました。

 なにぶん小さい敷物で、二人分で満員状態ではありますが、こちらの方がなんとなく落ち着く私。あれですかね、狭苦しい方が落ち着く貧乏性的なものなんですかね。

 

 

 そんな取り留めない考えしつつ、取り留めもないお話をする私と魔理沙さん。

 魔理沙さんがおねしょした、だなんて私が言えば、あの時の袖ちゃんは失敗してた、なんて返してくる魔理沙さん。ずっと距離が近かったことも相まって、会話での殴り合いのようになりつつも、どんどんと話題が出て来ます。

 

 一緒に寝た事、虫取りに言った事、ごはんの事。

 

 いくらでも、いくらでも話が出来そうでした。

 

「昔は泣き虫さんだったんですけどねぇ」

「そんな事言ったら袖ちゃんは、いつまでたっても同じだ。変わらない」

「む、成長してないと?」

「だって身長抜いちゃったし」

「ぐ、ぐぬぬぬぬ」

「ふっ、この話題は私の勝ちだな」

 

 

 たくさんの話をして、たくさんの思い出があって、そして、話疲れた頃には、真っ暗な闇の中。

 

 提灯を消して、ぱたんと私たちは倒れ込み、空を見上げました。

 

 視界いっぱいに映るのは、桶を返したような星々の奔流。いくもの煌めきが、競い合う様に私たちを見下ろしておりました。

 お互いの息遣いが聞こえてくるくらいには、静寂した空間。夏の草の匂いが、いつの間にか風景に溶け込んでいきます。

 遠く遠い星の海。手を伸ばしても届かぬことは分かっていますのに、それでも手を伸ばしてしまいます。

 まさしく一寸先は闇がごとし空間。片方の手が、魔理沙さんの手にちょこんと触れあいました。向こうも当然気づいたのか、ピクリと身じろぎしたような気配が伝わってきまます。それでも、今だけはどちらとも手は離さずにお互いの手は重なったまま。

 

「……言葉が出ないな」

 

 隣から聞こえて来る声。

 

「えぇ、本当に」

「こんなにも星って綺麗だったんだな」

「どうです? 私のお気に入りの場所」

「……気に入った」

「……良かったです」

 

 会話も少なく、かといって無言では無く、ぽつりぽつりと交わされる会話。そのやりとりが心地よく、気を抜けば消えてしまいそうなくらいに幸せなひと時でした。

  

 

「星ってさ、燃えてるらしいよ」

 

 

 こーりんから聞いた。と魔理沙さん。魔法の森の近くの、道具屋の店主さんとも仲良くしているようで安心安心。なんて下らない事考えつつ、そーなのかーと感心の一言。

 

「へぇ、燃えてるから綺麗に光るんですねぇ」

「……魔法ってさ、個人のイメージが大事なんだって」

「魔法?」

 

 いきなりの魔法の話題。しかしながら何となく来る事は予想出来ていました。香霖堂にて、魔法を学んでいるという話もされていましたし、修行しにいきたいとも前々から言っておりました。

 

「そう、魔法。私さ、ただ漠然と今までやって来てたんだけどさ。何となくこーりんの言ってること理解できたよ」

 

 教え方下手なんだよなぁ。と愚痴をこぼす魔理沙さん。でもその声は楽しそうで、何かに熱中している時の声でした。

 

 

「……魔理沙さんが成長できたのなら、私は嬉しいですよ」

「あのね、袖ちゃん」

 

 魔理沙さんが何かを言いたそうに、こちらの手を強く握りました。無意識の行動なのかもしれません。しかしながら、私はどちらでも良いと握り返します。

 

 なんとなく予測がついてしまうのです。何を言おうとしているのか、私に何を伝えたいのか……お互い、長い付き合いですから。

 彼女の言わんとしている事、彼女がやろうとしている事。これから何が起きるのか、私は予知めいた実感がありました。

 

「近頃、家出するっていったら……怒るかな?」

 

 ──あぁ、やはり、やはりこの話題。何か大切なものが手のひらから去っていってしまうような感覚。どこかで嫌という程に味わったようなこの感覚。

 それを近頃、ずっと感じていたからこそ、私もここへと誘ったはずです。だからこそ、私は此処へ来たのでしょう。修行しにいきたいと言っていたその日から、いや、もっと前からかもしれません。漠然とした不安はいつでも付きまとって来ていたのでした。

 

 きっと、止めれば思いとどまってくれるのでしょう。私が一言、一言でも何か言う事が出来たのなら。きっと魔理沙さんは普通の女の子として歩むかもしれません。

 けれど、私の身体は、私の口はそれを良しとはしませんでした。まるで何かに動かされるが如く、口を開いてしまいます。

 

「怒りはしませんよ。それが魔理沙さんの道であるのなら、上手く行くように祈るだけです」

「そっか……良かった」

 

 彼女は何かを……いえ、家出を決心したかのように言葉を繰り返しておりました。私の言葉を受けて。

 周囲が真っ暗で本当に良かったと、心底思います。今なら、泣きそうな表情を見られる心配もありませんでしたから。

 

 本当は、いかないで、ずっと人里に居て欲しいと伝えたかったのです。いつか感じた不安が目の当たりになってしまったのですから。けれど、ポロリとこぼれた言葉は別の言葉。もう、止める事は出来ないのでしょう。

 

 だから、今だけはせめて一緒に星を見ていられるように、この涙が伝わらぬように祈るだけでした。

 

 星を見て、流れる流星と共に涙も流し、あとは、言葉を伝えるだけ。

 

「魔理沙さん。これだけは約束してください。どんな事があっても絶対にあきらめないで下さいね。きっと何処かに活路は眠っていますから」

「……約束する」

「そうですか、良かったです」

 

 

 さて、と寝転んでいた身体を起こします。つられて魔理沙さんも起き上がる。月光に照らされた彼女はしっかりと自分の足で立っています。

 そんな姿をみて、自然に笑顔が浮かび、目頭が熱くなります。

 

「……帰りましょうか?」

 

 決して気取られぬように、決してばれぬように精一杯取り繕って、荷物をまとめます。

 

 そして、また、飛び上がり人里へ向かっていきました。道中お互いに口数は少なく、月が見守る中、空を滑って人里へ。

 

 ふわりと、着地。そして魔理沙さんを降ろします。

 

「今日はありがとな」

「えぇ、どういたしまして。ところで、家出の日程は?」

 

 日程を聞くのもおかしな話ではありますが、聞かずにはいられない。そうすると魔理沙さんもおかしかったのか、少し笑い、こう返しました。

 

「まだ、正確には決まってない」

「何処に行くとかも?」

「それは決まってる」

 

 正確に決まってないと返され、少し心配になりました。しかし取り越し苦労だったようで、きちんと目的地を決めている様子。

 

「それは……何処ですか?」

「聞いても、止めない?」

「……それは」

 

 なんともズルい返しを覚えられたものです。これでは聞くに聞けないではありませんか。聞きたい気持ちをぐっとこらえ、別の方向から聞いていきます。

 

「そこは遠いのですか?」

「うん。しばらく会えないかも」

「そこは、本当に行きたい場所ですか?」

「……決めたんだ。もう」

「そこは……魔理沙さんが、元気にやっていけますか?」

「……分からない」

 

 

 もう、雫が落ちぬようにするので精一杯。聞けば聞くほどに、遠い場所へと離れていくのが分かってしまいます。

 けれど、けれど泣くなんて事は出来ません。私は大人ですし、泣いてしまえばきっと心残りをつくってしまいます。だからこそ、私は精一杯に見送るのです。

 魔理沙さんの手をしっかりと握りました。

 

「大丈夫、大丈夫ですよ、魔理沙さん。あなたならきっと上手くやれます。だから、不安にならないで。決めたのなら、前を向いて歩くだけですよ」

「袖ちゃん……ありがと、う」

 

 深く帽子を被った魔理沙さん。その下の表情は見えません。けれども何処か懐かしいその声は、変わっていない部分もあるのだな。と実感させられるもので。

 あぁ、本当にたくさんの事があったな、と思いださせてくれるものでもありました。

 

 

 さて、そんな別れの挨拶も済み、では、各々の帰り道を行きましょうかといった所で、魔理沙さんは質問を投げかけてきました。

 

「あのさ、袖ちゃん。流れ星に何かお願いした?」

「流れ星ですか?」

「そうそう」

 

 別れ際に、そんな迷信も信じている可愛いらしい一面を見せてくれる魔理沙さん。本当に変わっていないなぁ、なんて微笑みつつも、正直に今の願いを答える事にしました。

 

「魔理沙さんと、ずっとお友達でいられますようにってお願いしましたよ?」

「──っ。……袖ちゃん、ズルい」

「大人はズルいものですよ? そちらは?」

「……言うの止めた!」

 

 照れたのかそうでないのか、帽子でまた顔を隠す魔理沙さん。そんな態度も愛らしいものですが、願いは明かされない様子。

 当然抗議の声を上げました。

 

「えー魔理沙さんズルいですよ」

「子供だってズルいんだぜ? ……という訳だ袖ちゃん。バイバイ」

 

 そして、その言葉を置いていくようにして駆けていく魔理沙さん。その足は速く、声を返す前に言ってしまいました。

 

「ばいばい、魔理沙さん」

 

 またね、と言ったのはいつだったか。そんな事ばかり思い出してしまいます。

 しかしながら、人は成長していくもの。彼女が歩きだしたのなら背中を押してあげるのは、大人の役目です。だから、流れる涙も、震える声も、きっときっと何かの間違いなのでしょう。

 

 寂しくなんて、無い筈なのです。

 

 誰かが、流した涙も、上げた声も、闇へと溶けて消えていきました。暗闇は優しく包む様に、ただ受け止めてくれたのでした。

 

 

 

 

 さて、今回はここまでと致しましょう。変わった関係も遠くなった関係も、歩いていくためには仕方のない事。それが経験となり、私たちに糧を与えてくれるのです。

 

 魔理沙さんも、私もまだまだ先はあるのです。ですから彼女は変化を望みましたし、私は不変を望んだのでした。

 しかしながら、変化を望んでいても、変わらぬものだってあります。不変を望んでいても変化は結局受け入れるしかないのです。

 お互いにそれを理解したような、そうでもないようなそんな夜なのでした。

 

 さて、そんな恥ずかしいやら懐かしいやら思い返しながらも、思い出話はこれにてお仕舞い。次は時間が進み成長した魔理沙さんと、そのままの私の場面から。

 

 そんなこんなで、魔理沙さんと私の話は、また少し間が空いたりします。ゆったり茶でもしばきつつ、しばしお待ちくだされば、幸いです。

 

 ではでは、次回も()()続きお楽しみ下さる事を、願っております。 

 

 

 どんな変化もいつかきっと……


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