言い訳等々致しません。
本当に、待って下さった読者の皆様ありがとうございます!
夏の夜に、夜闇の声。鈴虫すらも鳴き止むような夜深く。潜むような息遣いばかりが私の耳に聞こえます。
潜んで、隠れて夜の淵。
隠れたものを探すように、いくばくかの人数が竹林に集まって来ていたようです。だんだんと夜が深くなる深夜過ぎ。朝を待てなくなった方たちが夜を暴きにやってまいりました。
竹林がちょっとざわめけば、真相もひょっこり出てくることでしょう。今回はいつものよりもちょっと騒がしい様子。
さて、そんな中。私は寝ぼけた頭でおはようございます、なんて呑気に呟いている最中。
何処か遠い、それこそ月までの距離のような遠い夢。そんなものを見つつ今回も始まります。
「誰って、袖ちゃんじゃない?」
「え? ……あぁ、そう……でした」
ポロリと溢してしまった言葉に反応する影狼さん。あっけらかんとしたその返答には、いささかの疑問もありそうにありません。
質問はさらっと流し、いきなり倒れてびっくりしたよーなんてけらけら笑う影狼さん。どうやらこの夜に充満する妖気にあてられたと思っているようで、すっ、と水を下さいました。
水を受け取り、一心地。若干の気分の悪さも、水とともに飲み下します。
果たして、この夜のせいなのでしょうか? 倒れてしまった事も、このいつもとは違う力も、いつしかの夢も……と、そんな感じで少しばかり考えに耽っている私を見て、くいと影狼さんが覗き込んできました。
「袖ちゃん? まだ具合悪いなら送るよ?」
「あぁ、いえ、大丈夫です。それよりも行かなくては……」
影狼さんの無事を確認しましたし、次は妹紅さんですね。
もう体の方は大丈夫みたいですし、おいとまを告げましょう。なんて考えていたら、慌てて影狼さんが止めに入ってきました。
「ちょっと!? どこ行くつもり? その感じ、帰るって感じじゃないよね?」
「えぇ、ちょっと妹紅さんの所に」
「はぁ? 後にしなさいよ。今、どんな状況だか分ってるよね?」
「だからこそ行くんでしょう? 心配ですから」
「いやいや、さっき倒れたばっかりなんだよ?」
そんな感じで押し問答。あーでもない、こーでもない。私はもちろん妹紅さんが心配ですし、このまま帰る訳にもいきません。
私とて強情な自覚はございますが、影狼さんもなかなかのもの。ぜったいにダメ! と抑え付けようとしてきます。心配からの行動なのは分かっておりますが、こちらもこちらとて引く訳にいかぬ訳でして。
押し合いへし合い。言葉上ではございますが、しのぎを削り合いどちらとも引かぬ大決戦。……結局、どちらも疲れ果て、絞り出した答えが発されました。
「……もう、一緒に行きましょうか?」
「そうね……疲れたわ……」
お互いぐだぐだになりながらも出した、この折衷案。妹紅さんの様子を確かめたい、という意見と、私が心配という影狼さんの意見の半ばくらい。いえ、どちらかと言えば私の方が優勢ですけども!
ともかくとしてお互いの意見がまとまる形となりました。お互いに我が強く一歩も引かぬ、このやり取り。なかなか疲れるものでございました。
幻想郷に住む者同士らしいといえば、それらしいですが。
さて、口喧嘩一件落着。しかしながら未だに落ちぬ空の月。そんな夜深くに二人して外へ踏み出します。どこかで騒がしい、音が竹を伝わってやって来ます。
耳が良い影狼さんは、どこかで光ったり、争ってる気配がする度に、ぴくんぴくんと二つの立派な狼耳を跳ねさせます。
「やっぱり、大勢ここに来てるのね……帰ろうかしら?」
「いやいや!? ここで帰られると、それはそれで心配になります!」
流石に影狼さんの家を出て、もうそれなりに来てしまいました。
竹林全体がお祭り騒ぎな今、ここで一人で帰ってしまわれると非常に危険といいますか、とても心配なんです。しかしながら私は、まだ会えてない妹紅さんも心配ですし……と、そんな旨を伝えると、影狼さんはため息一つ。更にちょっと責めるような目線をこちらに向けてきました。
「……はぁ。意外と欲張りだよねぇ、袖ちゃん」
「む、そんな事……ありますけど」
「自覚あるだけマシねー」
そこまで言うと、くすりと微笑む影狼さん。月明りがその微笑みを映し出し、整った顔がより一層魅力的に浮かび上がります。その態度に呼応するかのように尻尾が嬉しそうに跳ねました。
「まぁ、良いわ。最後まで付き合ってあげる。袖ちゃん一人じゃ心配だしね」
一歩、先へと影狼さんは影を躍らせます。すかーとの裾が跳ね、ぴょんと着地。
「ほら、早く行くよ?」
「あ……はい!」
こうして、月明りの下に異変に加わる二人組の妖怪が誕生したのでした。
「で、ここどこ……?」
「えぇ……」
さて、閑話休題いたしまして、ここは竹林なのですがどうやら術が掛かっている様子で、こちらに住んでいる影狼さんもこの有様。
何者かが何かを隠したがっているかの様。まさしく迷いの竹林という名前に、ふさわしい事になっているようでございます。
そんな中、呑気に私たちは進行中。私にはそのような術は感じられませんし、目的地は決まっております。まぁ、迷うことはありません。ふっ、久々に大活躍の予感ですっ!
月が空に浮かび、足元を照らしております。ふと、月を見上げてしまうと、また何処かに連れていかれてしまいそうな気がします。なるべく見ないように、見ないようにと気を付けつつ草履を鳴らしておりました。
何処かで断続的に続く戦闘音。誰かは分かりませんが、あちこちから音は響いていて相当の人数が入り込んでいると思われます。
影狼さんも影狼さんで音の出所が分かるのか、先ほどからそっちはダメ、別の道に。と上手い事戦闘を避けつつ進んでいる次第。
誰かの息遣い、誰かの戦闘音を近くに聞きながら息を殺し、ひっそりと進んでおりました。そんなこともあってか、夏の夜という事も相まって汗がじわりと滲み、おのずと無言で歩を進めております。
遠回りしつつも、じわじわと近づく妹紅さんの家。あともう少しといったところで、影狼さんがくいっと私の肩に手を掛けて引っ張りました。そのまま竹藪に飛び込む私達。
いきなりの事態に目を白黒とさせていると、耳元でこそこそと声が掛けられます。
「誰かこっちに来るよ」
「……誰だか分かりますか?」
「分かんない。けど、かなり力あるかも」
そんな会話を密着しつつも、ひそひそと交わしております。
しばらくすると、小さな人影が一人。紅い服に宝石の羽根。あどけない顔立ちながらも整ったお顔。見知ったそのお顔はまごう事無き、フラン様でございました。
思わず飛び出そうとすると、手を引かれ、影狼さんに止められます。何をするかと振り向けば、後ろでフラン様の声。
「あれー? おかしいな、確かにこの辺に袖ちゃん居る気がするんだけどなー?」
クルクルと、辺りを見回すフラン様。そこからは何の悪意も感じられません。
やっぱり安全じゃないか、なんて視線をおくりました。しかし、影狼さんは、もはや涙目交じりで首をブンブンと振っております。
フラン様は首を回し、影狼さんは首を振り、私は首を傾げる。そんな事態になりつつも影狼さんの態度信じ、もう一度潜みます。すると、フラン様がぶつぶつと何か呟いているのが聞こえました。
「さっきも誰かと居た……ダメ。袖ちゃんは私のなんだから」
ぞわり、と毛が逆立ちます。はっ、と息をのみ、もう一度よく観察する私。すると、どうしてここまで気が付かなかったのかといった変わり様でございました。
フラン様は少し虚ろな目といいますか、覗き込んでしまったら深淵へと落ちてしまいそうなそんな目つき。どう見ても尋常ではありません。しかも標的は私の様です。ぞわぞわと背筋に何かが昇っていくようなそんな感覚。
変に力が有り余っているからか、普段よりも危機感といいますか、危機察知能力が落ちているようでございます。影狼さんが引き留めていなければ、危うく様子の怪しいフラン様の前に躍り出る所でした。
鴨が葱を背負って来るが如く飛び出てしまっては、何が起きたか分かったものではありません。一寸先は闇なんて言葉もございますが、これは影狼さんに感謝してもしきれませんね。えぇ。
え? なんでこんなに口が回るか? 当然、余裕からではございません。とりあえず頭の中だけでも話していないと余裕が保てないといいますか、なんでこんなことになっているかが分からない以上、いえ、大方あの月が原因なのでしょうが、何故私なのでしょうか?
なんて事も考えている暇も無く、ひたすらに影と同化する事に努めます。影と同化するなんて、むしろフラン様をはじめとした吸血鬼の得意分野。そんな得手とする相手にひたすら息をのむ、二人組。
そろそろ息苦しくなってきたぞ、といった所で、フラン様はぼそりと呟きます。
「うーん、いないなぁ? 別の場所かな?」
どうやら、別の場所に検討をつけたようで、ばさりと宝石の羽を広げます。
ほっと、胸を撫で下し、やっとこの緊張から解放されるのかと安心します。そんな安心を確たるものにせんと、固唾を飲んで見守ります。
──すると、表情に影を落とした表情が一つ。何故かフラン様もこちらに目を向けておりました。……光の無い、虚ろな目を。
「なんて言うとでも思った?」
ニタリ、なんて表現が正しいのでしょうか。欠けた月のように口を釣り上げたフラン様。そのまま手を掲げ、何かを握り込むような動作をしはじめました。
「まずっ──」
「かくれんぼはお仕舞いだよ」
──目の前で竹が弾けました。
走る、飛ぶ。とにかくもって逃げ出す最中。やはり得意分野で挑むのは無理があったようで、しっかりばっちり吸血鬼さんに見つかっておりました。
飛び散る竹の欠片と、その奥に見えるフラン様の恐怖しか感じない笑顔。あの構図はしばらく夢に見そうでございます。なんて思いつつも必死の形相で逃げる私と、影狼さん。すたこらさっさと逃げておりますが相手が相手。困ったことに私達二人では逃げ切れそうにありません。
ちらりと後ろを見ると、もうすぐそこ。
更に横に目をやると、影狼さんの姿。もともと巻き込んでしまったのは私が原因。影狼さんには何も関係が無いのです。
ならばいっそ、ここで。そんな事を考え、腹を括ります。現状なら何とか話合いくらいまでは持っていけるのではないでしょうか? このあふれ出る力を使いこなせば……なんとか。
もう一度、隣を見て、やっぱり決意を固めました。大事な友人ですからね。
「影狼さん」
「何!? 喋ってる余裕無いんだけど!?」
「先に行って下さい」
そんな言葉を掛け、私は。──足を止めました。
「ちょっ!? 何やってるの!?」
「いえ、こちらで何とかしてみますので」
「何とかって……あぁ、もう!!」
こちらの様子を見て、影狼さんも急制動。こちらに向かって叫びました。
「そんな事してると置いてっちゃうよ! いいの!?」
「えぇ、どうぞお先に」
「……」
「早くっ!」
ちょっとどころか、かなり怖いのですが、ともかくとして影狼さんを巻き込むのは避けねばなりません。
逃げ出しそうになる足をどうにか抑え、先へ先へと促しました。
そんな私を見て何か言いたそうにした後、影狼さんはまた駆け出しました。
……これでいいんです。これは間違っていない筈。二人で一緒に逃げるより、私が盾になったほうが影狼さん的にも良いはずなんです。
そんな事を考える私。ほんのりと心が痛いような気もしますが、それは気の迷いの筈。
その心すらも、すぱりと切り替える。フラン様がやってくるその数秒だけでも、と準備をする私。
ここも誰かが戦った後のようで、弾幕ごっこの痕跡が残っている場所でございました。故に、色々と落ちています。私とて、何も無しで挑むわけではありません。……まぁ、そもそも争いにならなければいいのですが。
さて、そんな足掻きをやっておりましたら、やってまいりましたフラン様。
今のお月様のように目をギラギラさせながら、得物を見つけたように口を釣り上げて。
「袖ちゃん、みぃつけた」
「えぇ、こんばんは。いい夜ですね」
「うん! 袖ちゃんに会えたもの。飛び出してきて良かったわ」
「レミリア様はいないんですか?」
「ううん? いるよ? お姉様は好きになさいって、私を一人にしてくれたの」
今の会話ではおかしいと感じる所はありません。しかし、フラン様の目がきょろきょろと誰かを探しているのが伝わってきます。
なるべく、その話題に触れぬように会話をする私。恐らくですがその話題こそ触れてはならぬ導火線であり、その会話さえ避けていれば……なんて思っておりました。
ただ、フラン様は聡いお方。私に流される事無くきっちりと聞いてきました。
「ねぇ? もう一人は何処に行ったの?」
「そんな方い……」
「嘘は嫌い」
逸らすなんて私に出来る訳もなく、とぼけようにもすぱりと切り捨てられる。ぐっ、と言葉に詰まるとフラン様は追い打ちを掛けて来ます。
「ねぇ、答えて。袖ちゃんには何もしないよ?」
「……どうしてそんな事を聞くのですか?」
やっと絞りだせたのがこんな問い。これが爆発の原因になると分かっていても、つい、言葉に出してしまいました。
その問いを出した瞬間にフラン様は固まり、そして、怖がる様に震え出しました。
「どうして? だって、袖ちゃんが私以外の知らない人と話してるんだよ?」
「……それが?」
「だって、だってその人と私。比べられたら……怖い。怖い。ヤダ。ねぇ、袖ちゃん。私、私。私はフランだよね?」
「落ち着いてください。貴女はフラン様ですよ」
「でも……でも、袖ちゃんに嫌われたら私は私で無くなっちゃう。そしたら私はまたあの部屋に戻るしか……」
500年。それはどれ程のものなのでしょうか? 私よりも更に果て無い時間。彼女はずっとあの場所に閉じこもっていたのです。
彼女の世界は限りなく狭いのでしょう。それは脆く崩れそうな硝子細工のように繊細なもの。そんな綺麗な世界に私が介入する事で、新たな刺激を与えてしまいました。
最近フラン様はお外に出ることも多くなり、自分だけの世界から、他人が介在する世界にその繊細な世界を晒してしまった。その際に、他人が自分の世界を破壊する可能性に気づいてしまったのかもしれません。
それは、破壊に関連する能力を持つ、フラン様だからこそ強く感じてしまうのでしょう。繋がりは脆く、とても壊れやすいという事に。
そして、私に近い容姿。魂は入れ物に引っ張られます。そんな子供っぽい独占欲が重なりあい、現状のような状態になっているのかもしれません。
もしくは、空に浮かぶ月のせいなのかもしれません。そのどれかなのか、あるいは全てが混ざったのか、私には分からない事です。
けれど、これは、これだからこそ。私が何とかしなければならないのかもしれません。引っ張りだしたのなら、世界を見せてしまったのなら、最後まで誠実に向かい合いましょう。それがきっとフラン様への「友情」の筈。
私が腹をくくっている間に、フラン様は更に激化しておりました。
頭を掻きむしり、帽子をぐちゃぐちゃにしながらも彼女は慟哭します。
「誰かに盗られるのは嫌。袖ちゃんが居なくなったら私じゃ無くなる! 私は、私で居たいの!!!」
「フラン様、私は貴女から離れませんよ」
「嘘、嘘だっ!! 多くのものが消えた! 多くのものが壊れた! 今更信じる事なんて出来るものかっ!!」
「それでも──」
「五月蠅い。五月蠅い五月蠅い五月蠅い、うるさいっ!!」
「フランさ……っく!?」
ついに爆発したフラン様が乱暴に放った弾幕。それを自分でも驚くような速度で反応し、飛び退きます。地面が飛び散り、土くれがパラパラと顔の端に当たりました。
フラン様は話を聞く事はない、といった態度で、やたらめったらに弾幕を放ちます。竹林に光の雨が降り注ぎ、私の逃げ場を塞ごうと、うなりを上げて襲い掛かってきました。
そんな弾幕に美しさは介在せず、ただ乱暴に放たれたもの。しかしながら、そんな感情をむき出しにした弾幕が、私にはとても、とても輝いて見えたのです。
まぁ、じっくりと見ることが出来たのはその一瞬。一瞬過ぎ去れば、鬼の様な弾幕が降り注ぐだけの事。経験と勘、時には跳ね上がった身体能力を駆使しつつ、転がりつつも躱していきます。
着ている着物が泥だらけになりつつも、ひたすらに避ける事に専念します。反撃する余裕があったか? と聞かれると微妙なところですが、狙いが無かったわけでもありません。
ひたすらに、ごろごろと地面を転がるようにみっともなく避け続けると、フラン様は焦れたように声を荒げます。
「ねぇ、降参しなよ。私の眷属になれば許してあげる。そんな無駄な事してないでさぁ!!」
「それは……出来ません!」
「いいから私のものになってよ。そうすればお姉様も喜ぶわ。咲夜もきっと……」
「フラン様、それは駄目です。それは……」
「きっと私も楽しいわ。紅魔館でいっしょに暮らしましょうよ?」
「フラン様!!」
普段なら避けられないような苛烈な攻撃を避け続け、気づいたら開けた場所に。今現在五体満足でいることに気づき、ますます自分の力に驚きます。そして、その奥に潜む「何か」の片鱗が苛烈になっていく状況に応じて呼び覚まされていく。そんな感覚がずっと私についてまわっておりました。
そんな変化などまったく知らぬフラン様。ついに彼女は、私の態度が受け入れられないとばかりにかぶりを振ります。
「どうして、どうしてよ! なんで出来ないの? なんでダメなの? 私を外に引っ張り出して、でも、私をずっと見てくれなくてっ!! 頑張ったのに! 私、頑張ったのにっ!!」
「……フラン様はご立派です。あの部屋から出て、今こうして自分の足でここにいる。それは私では到底できない事。あなたの様な方と友人でいる。それは私にとっても嬉しい事」
「だったら──」
この受け答えに、ぱっと顔を輝かせるフラン様。
誰にも、自分でさえも受け入れられなかった彼女。私の言葉は心地よく響くのかもしれません。
けれど……けれど、言わねばなりません。この一言はフラン様を傷付けることでしょう。それでも、私越しに世界を見るのはきっと間違っていて、私無しには見えない世界は、閉じこもっていた部屋と変わりは無いのでしょう。
フラン様が自分の道を歩んでいく為にも、「私」というものは切り離さなければなりません。
……だからこそ。そうだからこそ、ざっと足を踏みしめ、くるりと向き直りました。そして、しっかりとフラン様を見据えます。
大きな満月を背負う、
本当はもう分かっているのでしょうね。彼女は私よりもずっと賢く、ずっと強い。
そんな彼女を、フラン様を、私の友人を
紅く、未完成で、そして、とても美しいお月様に向けて、私はこの言葉を投げつけました。
「それでもっ、私はあなただけのものじゃないんです!!」
「──っ!?」
はっきりと、そしてどこまでも届くように。私は、フラン様を拒絶しました。
そんな答えに、一瞬だけ優しい表情を浮かべるフラン様。けれど、それは本当に一瞬の出来事。彼女はじわりと涙を浮かべ、くしゃりと顔を歪めます。
「……分かった。分からない。分かった。分からないっ!。分からない分からない分からない。分からない。分からないっ!! ぜんぜん分からない!! 袖ちゃんの言うことなんて全然分かんないっ!!」
「フラン様……それでも私は、あなたを信じます」
「っ!? ……嫌い。袖ちゃんなんて大っ嫌い!! 壊れろ! 壊れろ! 壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ。壊れちゃえっ!!」
そして、フラン様は、私に向けて──
破壊の能力を行使したのでした。
さて、多くは語りません。後はフラン様とぶつかるだけ。心も、身体もあけすけにして、いざ挑まんフラン様!
………どうみても無事に済みそうにないのが、悲しいですが。
ではでは、次回も