【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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すいませんお待たせしました。しばらく投稿ペースが不安定かもしれません。


頑張ってるよ 影狼ちゃん

 ──走る、走る。

 地面を踏みしめ、草を掻き分けて。

 ギリリと奥歯が鳴った。

 

 このぶつけようの無い気持ちも、情けないと自戒する気持ちも、全てをかなぐり捨てて疾走っていた。

 

 

 「袖ちゃん……」

 

 今ほどに、人型になっているのが恨めしいと思ったことも無い。四足ならきっと、もっと早く走れるだろうから。

 

 

「……っく!!」

 

 スピードを上げる。今はただ、あそこに向かって走るだけだ。

 早く、もっと早く……尻尾も、足も千切れたって構うものか。

 

 飛ぶよりも早く、走るよりも早く。今よりも早く動けないことが恨めしい。

 

 

 という訳で狼らしく、いろいろ噛みしめ走ってます。

 

 ではでは、あの子に倣いまして私も一つ。

 

 私、今泉 影狼。頑張ってます。

 

 

 さわさわと、竹林に風が吹き抜ける。その度に強い月光を浴びた影たちが元気に踊っていた。

 

 大きなお月様だなとは思っていた。異変かどうかと言われたら間違いなく異変の部類。

 けれど私には関係の無い事。空が紅かろうが、冬が終わらないとしてもいつも通り静観、静観。私に出来る事なんてたかが知れてるし、そもそも、調子が良い今の状態を維持できるのは僥倖ですらあった。

 

 唯一迷惑なのは、満月の目下。現在、生命力やら妖力やらがぐんと向上している。……まぁ、あれね。一言で言うと、毛並みが色々と凄い事になっているのよね。

 

 まったくこればっかりは面倒ねと、ばさりと服を脱ぐ。わいるどな感じに脱ぎ散らかす服。月の光と相まって、ちょっとだけ天の羽衣を連想したりしなかったり。

 そもそも狼であったし、裸の方が自然なぐらい……なんだけど、見られたい訳ではないから。そこの所は大いに注意して欲しい。

 

 さて、毛の処理するぞーなんて意気込む私。こんな夜に誰かが来るわけでも無し。障子だけ閉め、暗がりの中、気になる所を念入りに。

 なんてちまちま処理していたら、こっちにやって来る気配をぴくん、と耳が捉えた。まっすぐにこっちに向かって来る誰か。しかも、しかもだ、よりによって結構速い。

 もちろん、そんなスピードの相手に服を着る余裕なんてない。こんなギラギラ輝く夜に来る奴なんて決まってる。厄介事を持ち込んで来る奴に違いないのだ。

 そんな名無しの権兵衛の対処方は一つ。いないように見せかければいいのだ。すなわち居留守である。

 

 気配を殺し、いざ誰かが乗り込んで来てもいい様に、と一応戦闘用意。……ぜったいに来ませんように、本当に来ないで。なんて、念仏を唱えたい位だったのは秘密。

 

 心の準備をしている内に、やってきてしまった訪問者。緊張の一瞬。ピンと張った糸が私の本能を呼び起こす。静かに静かに、いなくなるのを待つつもりだった。しかし、まさかここに来るはずの無い声が聞こえて来て動転しちゃったのだ。

 

「影狼さん。韮塚なんですけど、入っていいですか?」

 

 一瞬、耳を疑った。何かいる、と感じてしまう程にこの状況は異質だった。いや、だってあれだよ。ここ私の家で迷いの竹林なんだよ? なのに何で、人里在住の彼女がいるのか不思議でしかないでしょ?

 ……ごほん。ともかくとしてちょっと怪しさは否めない。

 

 けれど、子供っぽい高い声は間違いなく彼女のもの。自慢の耳もそう捉えてる。

 じゃあ、どうするか。なんて、冷静に考えるタイプなら良かったのだけど。しかして私はそうではなかった。

 耳が捉えて、袖ちゃんと判断するや否や、咄嗟に反応してしまう私。長々と居留守に関して言っていた私は何処へ行ったとばかりに、即答でした。もうなんかピンと張った糸とか、だるんだるんも同然だった。

 

 

「袖ちゃん!? なんで!? あ、待って待って今はダメだから!」

 

 驚きと一緒に静止の言葉を入れられたのは、ギリギリでファインプレーだった。うん、ファインプレーだった。……焦って転ばなければ。

 

 飛び跳ねるように立ち上がります。

 服を脱ぎ散らかしていたのに気づきます。

 そのまま勢い余ってすとんと転びます。

 

 きゃっ、とか言っていた気がする。

 

 ……なんで区切り区切りなのかって? 恥ずかしいからだ。

 私の悲鳴に反応して、袖ちゃんが反応。

 

「影狼さん!? どうしました!? 入りますからね!?」

 

 ……やっぱり、服を脱いだりするときは、きちんと畳んだりしよう。そうしないと、裸を見られたりしちゃうらしいよ。うん。

 止める間もなく、ドタドタと入って来る袖ちゃん。そしてすぐにご対面と相成った。

 一瞬にして固まる時間。私も袖ちゃんもぴたりと固まる。そうして、長い時間が……経たないうちに私は事態を認識。

 とりあえずとばかりに、近くにあった服を掴み自身を隠す。

 女同士だし、普段ならまだ耐えられたが、今回は事情が違う。もう色々と気になる事だらけなのに、見られてる。

 しかもだ、まだおそらく生えて無さそうな体つきの子に。顔から火が出るんじゃないか、って位に恥ずかしくなる。ともかくもって追い出さなくてはと、渾身の力をもって叫んだ。あとついでに物とか投げてた。そこら辺にあるものなんて服くらいだったので、服をポイポイ投げてた。

 

「とりあえず、出てけーーーー!!」

 

 それはもう、竹林に響きそうなそんな声。いや、響かれたらそれはそれで困るのだけど。ともかくとして袖ちゃんは、謝罪の言葉とともに、風の様に外へ飛び出していった。これで一安心、なのかな?

 

 いや、そんなことよりもだ。

 

「うぅ、見られた。よね?」

 

 正直言って見られたくないのが本音だった。この姿は私の乙女尺度的にだいぶ……そのあれだ。無い。ありえないと言ってもいいだろう。その位のものを見られたとあって、ちょっとだけ凹む私。

 しかも、そこそこの親交を持つ袖ちゃん相手。いつもはからかう立場にいる私としては、この際に仕返しされたりとかしたら。とか考えてしまう。いや、本人がそんな事しないのは百も承知だけど。けど、やっぱり心配。

 

 そんな悶々としつつ着替えていると、だんだんと恥ずかしさと、怒りが勝って来るようになる。

 衣装も変われば心も変わる。我ながらに忙しいと思いつつも、変化する人狼としてはそれも当然なのかもと投げやり思考。

 くるくると心変えつつ、着替え終わる。結局、開き直りやらなんやら色々と済ませたら、ちょっと怒ってます位の気持ちに落ち着いた。不思議なものねー

 

 さて、袖ちゃん呼び戻してお説教。弁明を聞くと、何やら私が心配で来てくれたらしい。何よ、ちょっと嬉しいじゃない。

 そんな気持ちを隠すようにからかいつつ、とりあえずもってひと段落。やっぱりこれって異変だよね? と話を異変に切り替える。袖ちゃんもはいと答え、やっぱりと確信に至る。

 

「私もどうもおかしいと思ったんだよねー。妙に竹林が騒がしいし」

 

 やたらと調子はいいし、さっきから何かおかしな気配は感じている。そんな警戒をしていると袖ちゃんが質問してくる。

 

「やっぱり影狼さんも、満月の影響受けてます?」

「ん? まぁそうねーそれなりに元気はあるわ」

「やはり、この月は危険ですね……人里は大丈夫でしょうか」

 

 

 しかし、この子も変な子だ。私みたいな妖怪を心配したと思ったら、次は人間の心配をする。私には無い考え方というか、たぶん同じく人里に住む蛮奇ちゃんもそんな事考えないだろう。

 初めは何だっけ、確か蛮奇ちゃんとの一杯やるときに一緒にいたんだっけ? 見ていて面白い子だし、わりと仲良くもなった。まぁ、向こうがどう思っているかはさておき、私はこの子は結構好きな方だ。なんか変に意地っ張りで、でも周りは見えている。

 見た目通りなんだけど、見た目通りじゃない。ある意味妖怪らしい子。

 だから、余計に気になってしまった。私とは違う考え方、何を考えているのだろうという疑問。何のこともない質問を飛ばしてみた。

 

「ねぇ、何でそこまでして人間の味方なの? 別に、このくらいどうでも良くない?」

「……え?」

「いや、だってさ。これ私達が元気になる異変じゃない? 袖ちゃんが必死になる理由が分からないんだけど」

 

 酷く驚いた顔を浮かべる袖ちゃん。まるで、人里を守るのが、人間を庇護するのが、当たり前だと言わんばかりの態度に私も驚かされる。

 さて、その返答はというと、返って来なかった。袖ちゃんがぱたりと倒れてしまったのだ。

 

 そんな倒れ込む瞬間。目の前の袖ちゃんが一瞬だけ、別の存在に見えてしまった。目の色が変わるというべきか、そんな感じ。そんなの一瞬の出来事だったし気のせいかもしれない。けれど、竹林の様子もおかしいし何かが袖ちゃんの身に起きてるのかも? なんて考える。

 

 けど、まぁ、いいか。別にそこまで深い仲でもない訳だし。と自分を納得させる。そもそも幻想郷は誰が何をしていようと、どんな存在なのかも自由な所。別にちょっと怖かったとかじゃない。うん。

 

 とりあえず。布団でも敷いて寝かせておけば勝手に目が覚めるでしょ。と布団を用意しつつ、見た目幼女な妖怪さんを転がしておいた。

 

 一刻、二刻、三刻と、時間は進むも、袖ちゃんが起きる気配もない。そしておかしいのは月だけでは無いと私も気づき始める。

 

 月が動かないのだ、夜が止まってる。どこの大妖怪さんがやらかしたのか、どこぞの愉快犯が起こしたのかは知らないけれど大層な事だ。……正直、困る。

 直接的に困る事は無いのだけど、いつ寝て良いか、とか、起きたら夜とか寝た気がしないよね。とかそんな事を考える。

 

「うぇぇ、地味に嫌だ」

 

 ぽそりと、声が漏れる。

 困る事は困るけれど、そんな程度。あとは……

 

 ちらりと袖ちゃんを見る、まだ寝てる幼女さん。そんな幼女さんが言っていた人里の影響か。蛮奇ちゃんいるし心配じゃないと言えば嘘になるんだけど。うーん。

 正直大丈夫でしょ、という感じは否めない。あそこには寺子屋の教師さんやら色々いるし。あれ? でも、そこな和服ちゃんも守ってたんだっけ? 腕もってかれたとか聞いた気がする。こわいわー。

 そんな守りがこっち来ていいんだろうか? たぶん本人に、そんな考えはないだろうけど。

 

 さて、そろそろ起こしてあげますかーと、ゆさゆさ揺する。小さい彼女はううん、と唸るとぽそりと呟いた。

 

「……ていかないで……」

「え?」

 

 思わず聞き返してしまった。「置いていかないで」彼女が発した言葉は、ほんの少し私の胸に波紋を作る。

 ニホンオオカミの私、いなくなる仲間たち。いつの間にか私も忘れられていて……いや、今はあんまり関係はないか。と頭を振る。

 誰にだって、言いたくない事の一つや二つあるものだし、それについての追及はしない。言わないなら余計にね。……ただ、もし、本当にヤバいのだったら怖いからって理由も、なくもない……触らぬ神に祟りなし。

 ただ、今までよりはずっと目の前の子に興味が沸いたのは、紛れもない事実だったり。

 

「さて……おーい、そろそろ起きなよー朝だよ? 夜だけど」

「……あと、ちょっと」

 

 珍しく子供っぽいというか、ワガママを言う彼女。子供っぽい身なりに反して、ワガママを聞いたのって、初かもしれない。そんな事思いつつも、額やらなんやら確認。とりあえず異常はないようなので一安心。

 もう一度起こすと、本当に寝起きが弱いのか、のそのそ布団から這い出る袖引ちゃん。すこしぼーっとした後、私に問いかけてきた。

 

「影狼さん私は誰ですか?」

 

 ……ここまで寝起きに弱いとは。

 

 さて、寝起きの色々やり終わり、そろそろ送り返そうかなーとか思う私。送り狼安全バージョンである。安心安全、ついでに健全。

 すると何を思ったのか袖引ちゃんは、大丈夫だ。とか言いつつ何故か違う方を見ている。もう、あからさまに帰る感じじゃない。むしろ、ずんずん奥へと進んでいきそうな雰囲気すらあった。

 慌てて引き留める私。先程倒れたばかりなのに流石に無理はさせられない。そんなこんなで、あーでもこうでもと言い争い。ただ、この子尋常じゃない程強情だった。ワガママ聞いたことないとか、嘘かもしれない。

 

 そして、言い争うことそこそこ。ついに、私、陥落。

 諦めたというか諦めさせられたというか、ともかくもって、折れさせるのに非常に苦労が要りそうだったのだ。結局、一緒に行くという事で、決着がついてしまった。……なんかもう、すっごい疲れた。

 

 論争も終わり、心も決める。まぁ、二人なら大丈夫でしょ。と心を決め一歩外へ。いざ異変解決。

 

 外に出て、外の空気を吸う。

 澄んだ空気だ、気持ちが引き締まっていく感じがする。

 後ろからは小さい足音。そんな頼り無さそうな音を聞く。

 ちょっと勝手かもしれないけど、おねーさん頑張っちゃうぞーって気合も入るものだ。

 

 なんだかんだ強情な妖怪さん。そんな彼女のワガママに付き合ってあげるのも、たまにはいいのかもしれない。

 

「ほら、早く行くよ?」

 

 そんな風に竹林へと踏み出したのでした。

 

 

 ただ、一緒に行くとは言ったものの、正直不安がない訳じゃない。さっきから私の耳に、凄い音が聞こえてくるんだもの。

 この音はたぶん弾幕。この音源は間違いなく私達よりも強い。そんな感じで聞き分けてる。

 生きていく為の知恵と言うべきか、私たちはこういう生き抜く術を持っている……筈なんだけど。

 不安要素がもう一つ。隣のロリっ子はさっきから一直線に行こうとしてる。私が止めて無ければ、火中の栗を全部拾う勢いで突撃してるのだ。

 普段からこうでなかっただけに、やっぱり今夜は異常だ。倒れるわ、何か行動が変と、おかしい事に隙が無い。触れるのが怖いというか、触れる余裕が無かっただけに何も触れずにいるのだけど……ちらりと袖ちゃんを見遣る。

 今回は変な術でもかかっているのか、私が道を見失い、袖ちゃんが案内する。というよく分からない事態。

 そんな事態なだけに、袖ちゃんも気合が入ってる。すでに自信満々と言った表情に、こっちの心配も知らないで、と思わずため息を吐きたくなる。

 ……後々やらかしそうで怖い。

 

 そんな予感はすぐに的中した。遠回り、遠回りと目的地の妹紅さんの家に近づいている。はずだった。物凄い何かが、接近してきていたのを感じとった私は、袖ちゃんを茂みへと引っ張り込んだ。

 誰か来るよ、なんて警告をするものの、いまいちピンと来てない感じの幼女様。本当にどうしちゃったのかと思いつつも、茂みから様子を伺う。

 

 すると、金髪で顔立ちが整っていて、背丈が袖ちゃんと同じ位の子が空から舞い降りてきた。だが、決して可愛らしいなんて表現が似合う状態では無かった。目は虚ろだし、何かを探している風でもあった。……一瞬だけ目があった気がするけど気のせいだよね?

 さて、そんなヤバそうな妖怪なんて相手にするはずもなく、とっとと逃げ去る予定だった。だったのだが、袖ちゃんが飛び出そうという素振りが見え、この時ばかりは流石に心臓が飛び出るか、と思ってしまう。

 声も上げられぬままに、もう泣きそうな位の勢いで袖ちゃんをグイグイ止める。すると呼応するかのように向こうの金髪ちゃんが声を上げた。

 

「あれー? おかしいな、確かにこの辺に袖ちゃん居る気がするんだけどなー」

 

 まさかのご指名。こんな子とも交流があるとか、どんだけ交流広いの!? と思わざるを得ない。

 そんなびっくりどっきりな袖引ちゃんも、流石に異常な事態に気づいたようで、気を引き締めたみたい。 

 出会ったものはしょうがない。と、こっそりこっそりとやり過ごす気だったのだが、それもご破算。元より気づかれていたようで、目の前の藪が吹き飛び、あっけなく逃げ出す羽目になった。

 

 バタバタ逃げ出す私たち。流石にまずいとは感じていたけれど逃げ切れる算段だった。一瞬だけでも振り切ったのか相手の姿は見えないし、私も袖ちゃんも逃げること、引くことに関しては一家言ある。うん、大丈夫。そんなことを自分に言い聞かせつつ走っていた。

 本当は分かっていたのかもしれない。たぶん逃げ切れない。相手は藪を一瞬で吹き飛ばせるような、とんでもない力を持つ妖怪。

 私も、袖ちゃんも、もしかしたら……と、心に影ができる。

 

 だからだろう。隣で足を止める音が聞こえて、ドキリとしてしまったのは。袖ちゃんは私の心を見透かしたように足を止める。

 これで逃げ切れる。なんて心の安堵をかき消すように、ばっ、と振り返り大声をあげる。

 

「ちょっ!? 何やってるの!?」

 

 暗闇に慣れた目には、ふっと微笑む袖ちゃんが映る。

 

「いえ、こちらで何とかしてみますので」

 

 ──やめてよ。一人で逃げたくなっちゃうじゃない。

 

「何とかって……あぁ、もう!!」

 

 ──お願いだから怖いって言って。逃げたいって言ってよ。

 

 そんな思い込めつつ言葉を続ける。

 

「そんな事してると置いてっちゃうよ!! いいの!?」

 

 

 けれど、返ってきたのはとても残酷で、とても優しい言葉だった。

 袖ちゃんは、まるで列の順番でも譲るような気安さで微笑む。

 

「えぇ、どうぞお先に」 

「…………」

 

 何も言えなくなる。こんな小さい子を、こんな優しい子を置いて私は逃げるのか。

 逡巡する私に彼女は檄を飛ばす。

 

「早くっ!!」

 

 結局、私はその言葉に弾かれるように駆け出した。……駆け出してしまった。

 

 

 

 草が踏み荒らされる。大地に爪を立てる。

 こんなに私は速く走れるんだ。逃げ切れない訳がない。逃げ切れた。逃げきれたんだ。

 悔しさが、無念が心を覆っていく。弱い二人だけど、頑張ればきっと……逃げ切れたはずなんだ。

 

 ぶつけようの無い思いが言葉になる。それは、あの子を罵倒する事で、心を補完しようという自己防衛本能。

 

「あの子、馬鹿でしょ!」

 

 自然と足が早まる。逃げるためのものだ。

 

「ほんとっ馬鹿っ!」

 

 足が忙しくなる。これは逃げるためだ。

 

「なんで、あの子はもうっ!」

 

 次第にスピードを上げていく、もはや四つ足になってしまいたいと思ってしまう程。これは逃げる……違う。

 

「もう、もう……あぁ、もう本当にっ!」

 

 だって、彼女はいつだって真剣で。自分よりも周りを優先して。本当に損しかしないような性格をしているけれど。

 

「だって……私、そういうの嫌いじゃない」 

 

 いつも、あんなに真剣なのに、あんなに頑張っているのに、上手くいかないのも嫌いじゃないから。何度も失敗して、立ち上がる。その度に真正面から頑張ろうとするのは嫌いじゃないから。だから……

 

「助けなきゃ……」

 

 ──友達は大切に、しないとね。

 

「くっ!!」

 

 けれど、引き返さない。もともと向かっていた方向に舵を切る。だって私は強く無いから。悔しいけれど、奥歯が砕けそうなくらいに歯がゆいけれど。

 私は、強くない。

 だから、あくまで可能性の高い方に賭けるんだ。もしかしたら居ないかもしれない、助けてくれないかもしれない。彼女は同じ地域に住むってだけ。どうなるかは分からない。だからなるべく早く、絶対に速く。地を駆ける。

 

 

「袖ちゃんを……あの馬鹿を助けるんだっ!!」

 

 

 地を強く蹴る。目指すは藤原妹紅の家。彼女なら、妖怪ハンターもやっていた彼女なら何とかしてくれる。そんな一縷の望みに賭け、駆け出した。

 

 ……けれど、一度逃げ出した私を、神様は見逃してくれなかった。

 

 

「残念だけど、それは通せないわね」

 

 

 ──無慈悲に、紅い月が天から舞い降りてきた。

 私の行方を、阻むように。

 

 

 

 

 というわけで今回はここまで。

 

 次回も見てくれると嬉しいです。

 

 ではでは、次回も()()続きお楽しみ下さる事を、祈ってます。




ちょっと最近疲れ気味ですので、感想などをお待ちしております。
面白かったなど、一言でも救われます。

では、申し訳ありませんがしばらくお待ち下さい。

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