しばらくこのペースが続くと思われます。どうか気楽にお待ちください。
宵闇に月。しかもフルムーンであれば私の領域。
……なんだけどね。気に入らないわね。この月、私の好みでは無いわ。
まぁ、けれどいい機会か。
私は、口角を釣り上げる。
少しだけ、時計の針を進めましょうか。あの子も、我が妹も、このままではいられないでしょうに。
月を手中に収める様に、私は手を伸ばす。
──さて、私の程度の能力。どう、使おうかしら?
と、いう事で今回は私の目線。
楽しんで貰えたら嬉しいわ。……なんてね。
私、レミリア・スカーレット 見守ってるわ。
発端は些細な事だった。ただ、私の従者が連れてきた、小さな妖怪。ちょっと人間の香りがしたから最初は朝ごはんと思ったのよね、あの子。
本当に道端の小石程度の存在感。たしか、服を作らせる為に呼んでいたはず。
その日は霊夢に負けて、人間にちょっと興味が沸いた。だから似たような生活をしてみようと、早起きした日。
早起きは三文の得なんて言うらしいけれど、なかなかにことわざというものは侮れない。その日は、そんな気まぐれからスタートした日。
私は運命に干渉出来る。元々は何となくで使っていたこの能力だけど、幻想郷だと能力は自己申告制。これからは運命を操る程度の能力と定める事にした。
だから、運命を多少なりとも自由に出来る能力上なんとなく行動するというのは、私にとって良い方向に転がる行動であるの。
何となくで行動する日は、何かが起こる日。その何かというのは分からないけれど、良い事であるのは確か。
予想出来無い事を楽しむのは私の楽しみでもある訳だけど……
けれど、まさかこんなちっぽけな存在が、あの子の在り方を変えるなんて思って無かった。
出会って、妖力を放出して、びっくりさせるもとい、気絶させる位に妖力で圧力をかける。そんなちょっかいを掛けて、ついでに目の前の運命を覗いてみた。ここまでは何となく。
そんな何となくで、一瞬にして寝ぼけていた頭が醒めることになった。
運命とは未来予知のような側面もある。星の数以上にある運命の糸から輝けるものを見つけ、手繰り寄せる。
すると、ある光景が私の中に浮かんでしまったのだ。495年閉じこもっているあの子と遊ぶ、目の前の妖怪の姿。寝ぼけているのかと思った。勘違いかと思った。そんな予感を感じさせてくれるような存在では無かった。
けれど、見てしまったものは確かだ。誰に言われたわけでは無く、この私が見たのだ。信じる他無いだろう。
さらにその自信を補強するように、彼女は私の威圧を受けきる事が出来た。それが偶然だったとしても奇跡だったにせよ、試してみる価値は大いにある。元手は無料のチップだ、賭けてみるのも面白い。心の中でそうごちる。
賭ける胴元は、この紅魔館の地下奥深くに引きこもる我が妹、フランドール。
あの子は狂っている。正確には狂ってしまったのだ。自分の力を制御しきれずに、フランは破壊の限りを尽くした。
それはそれでいい。私たちは吸血鬼であり悪魔だ、壊して満足するならそれでいい。ただ、あの子は優しすぎる。結局彼女は自身の能力を嫌って引きこもり、自分自身を壊してしまった。
いままで私が何も手を打たなかったわけではない。ただ、彼女が求めているものは、私の手の中に無かった。それだけの事。
フランを部屋から引っ張り出すのは、救うとはニュアンスが違う。フランは助けて欲しいわけではない。自信が欲しいのだ。
だからこそフランを再び立ち上がらせる。フランの欠片を再構成できる人材が必要だったのだ。
だから魔理沙が侵入するのも放っておいた。人間ならば、なんて打算もあった。
失敗は恐れていない、元から壊れているのだから失敗する心配はない。だから何度でも違う可能性をぶつけて試すだけ。今回もその一つだ。
私は、何を利用してもフランをもう一度外へ連れ出したい。
利用出来る物は全て使う。何と言われようと、何と思われようと、私は構わない。ただ、私は自分の目的のためだけに周囲を使う。それだけだ。
──そう。私は彼女を、袖引を利用出来るかも? としか考えていなかった。だからこそ強引にでも傘下に加えようとしたし、専属なんて言葉も使った。
別にこいつがどうなろうと、どうでも良かったのだ。本当に、どうでも。
だからこそ、あの結果には驚きを隠せなかった。まさか本当に生きて帰ってくるとは……ボロボロになりながらも、彼女は見事にフランをあの部屋から引っ張り出したのだ。
あの日から、私の彼女を見る目も少しだけ変化する。少なくとも一妖怪では無く、袖引個人として見る様になる。
遊びに来た時もからかったりと、以前に比べかなり接するようになった。
彼女は面白い。何かと話題に困らないし、考え方もかなり特殊だ。少なくとも普通の妖怪であれば、あのような人間に寄った考え方はしない筈。
何故? と思わない訳じゃない。私から見ても、何か問題を抱えているのは一目瞭然。手助けはやぶさかではない。だけど、別に彼女の秘密を暴くことが全てでは無いわ。それに彼女は……きっと暴かれる事を望んでいない。そんな気がする。
助けてあげたいけれど手が出せないなんて、とこぞの妹と一緒ね。全く、困ったものだわ。
さて、困った困ったなんて思案している内に、時は進む。
うちの妹も外に興味を持ち、条件付きではあるけれど、外に出る様になった。妖精やら美鈴と夕暮れから遊び始める。そんな日々。そんな宝石のような日々が戻って来たのだ。
そして、たまに遊びに来る客たち。霊夢、魔理沙、袖引。その他の連中にも少しづつ話して、関わっていくフラン。たどたどしいその様子は、ひな鳥のようで微笑ましい。
ただ、時折、フランの執着が普通のそれとは違うことに気が付く。普通なんて唾棄すべき基準などどうでもいいけれど、私たちと比べても少々特定のものに執着しすぎる。
刷り込み……と言う程に幼くはないだろうけど、いままで触れてきた刺激が少なかったのも事実。多少の執着は多めに見よう。という方針だった。
そして、いつしか執着の相手、袖引の事をせがむ様になった。
袖引はあれはあれでトラブルメーカーというか、トラブルに巻き込まれるきらいがある。そこから色んなのと関わるのだから、彼女の胆力も褒めてあげたいくらい。
だけども、ちょっとは我が家の妹様の事情も考慮して欲しい所。……まぁ、彼女は自分に鈍感だから無理だとは思うけどね。
あまりにも色んな人物と関わるものだから、フランも自分と比べてしまったのだろうな。ずっと引きこもっていたフランには、自分を確立させるという事はあまりにも辛い試練。自分と他人の優劣、それを自覚し、受け入れるのは辛いことだ。
けれど、絶対に必要な事でもある。……紆余曲折あれど、いい方向に進んでいるのだろう。
そんなフランを意図せずして導くようなことをしているのは、袖引なのであって、歪んだ道に引き込むのもまた袖引なんだよねぇ。
本当に困ったものだよ袖引は。助かる気がないのに、周りを助けてしまう。自分は信じられないのに、周りを信じきってしまう。間抜けと言ってやりたいけど、それすらもきっと気づかない。……気づかないふりなのかね、あれは。
彼女自身の存在含めて、危ういバランスの上にいるって一体どれくらいが気づいてるのかしらね。
そんなバランスの上に、フランも預けないといけないなんて気が滅入る。
まぁ、向こうにも借りはあるけど、こっちにだって貸しはある。最近の宴会の件、未来の担保みたいなものだけど、それはそれでつり合いが取れているはず。フランの問題を良かれ悪けれ解決できるのは袖引だけであるし、任せるしかないのも事実。
だからこそ、私はこの異変に乗じてフランを連れ出すことにした。月があまりにも強く輝くこの夜に。
ハッピーエンドを待ち望む程に、私は少女ではない。きっと待っているのはフランにとってのビターエンドであるし、袖引にとってもいい結果にはならない筈。
けれど、あの子たちは子供なのだ。大人になろうとしているフランと、大人であろうとしている袖引。双方に子供ならば喧嘩は起きる物だ。二人には頑張って貰うしかない。……おそらく袖引の方が頑張る事になるだろうけども、うちの妹を袖にするのだ。それくらいはやって貰わないと姉として立つ瀬がない。
さて、フランを連れて夜の淵。眩しすぎる月を横目に竹林へと飛び立った。……何故か咲夜もついてきたけど、まぁいいや。
出掛けるついでにこのふざけた異変の首謀者を潰して、一石二鳥といきたい所だけども……さて。
夜へと飛び立つ。まんまるの月が私たちを見ている。随分と魔力を秘めた月だ。小さい妖怪や、私たちのような夜の妖怪には色々な意味でたまらない。
ちら、とフランを見ると、目を爛爛と輝かせそわそわしている。……私の妹ならもう少し落ち着いて欲しい所だけど、まぁいいとしようか。
ほどなくして竹林に辿り着く。静かではあるけれど、そろそろ一斉に騒がしくなりそうな嵐の前の静けさのような雰囲気。実に物騒で結構。
私の目的は二つ。まずは最優先で高確率で頭を突っ込んでいるであろう袖引を、フランに会わせる事。予測の域だけど間違いなく彼女は頭を突っ込む。私の能力では無く勘みたいなものだけど……外れていたら外れているで面白いけどね。
もう一つ、それはフランと袖引の逢瀬を邪魔されない事。邪魔されれば、また歪みが生まれる。だからこそこちらは失敗出来ない。二人をきっちりと対話させる。私のやる事でもあるわね。
異変の黒幕? そんなものはついでよ、ついで。
さて、いないことは無いだろうけども、一応保険はかけておきたい。運命を手繰り、場所を手探り。
ちょっと時間はかかったものの、ようやく袖引の後ろ姿を意図的にフランに見せる事に成功した。
袖引を見つけ、喜ぶフラン。その表情は本当に少女のような可憐さで、私を微笑ませる。
……きっと、この笑顔も歪むのだろうな。ただ、これはきっと必要な事。
だから私は、フランを止める事はしない。
少しだけ、ほんの一息の間を置いて、私は言葉を発した。
「フラン、好きになさい」
「うん、ありがとう。お姉さま」
その一言で、ぱっと笑顔になりフランは飛び立っていく。ある意味まっすぐでいい子なのだけどね……子供らしいまっすぐさも、時には恐ろしいものね。
「よろしかったのですか?」
なんて、咲夜が聞いてくる。
「まぁ、最初から決めていた事だしね。それより咲夜」
「はい」
「これから狼に喧嘩を売るんだけど、勝ってくれるかしら?」
「嫌ですわ」
あっさりとした即答に思わず聞き返してしまう。
「は?」
「狼は毛皮にするのが大変なんですもの」
「あぁ……そう」
なんか気が抜けてしまったけど、いつものことだ、気にしないでおこう。
さて、私は私で異変の黒幕を倒す前にやらねばならない事がある。
子供の喧嘩に大人が割り込むのは無粋というもの。邪魔が入らないようにするのは私の役割だ。
まずは目星をつけていた辺りで待ち構える、これは時間との競争でもあるからな。せっかちにはなれない。
しばらくすると暗闇に紛れて疾駆する人狼の姿を見る。咲夜も気づいたようで、銀のナイフを取り出していた。
さて、先回りしようかね。地を駆ける狼モドキの行く手を遮るように、私は急スピードで接近し、目の前へと降り立つ。
「残念だけど、それは通せないわね」
目の前の人狼は驚いた表情を見せ、立ち止まる。だが、すぐに表情を戻し、私たちを無視するように駆け抜けようとした。
「咲夜」
「はい」
即答の声とともに、銀のナイフが目の前の人狼に殺到し、刃を突き立てる。
銀のナイフは退魔の印。西洋のモンスターとしても登場するワーウルフならば、実に効果的だ。
そんなものが刺さろうものなら、大怪我は必至。実際に目の前の狼は悲鳴を上げていた。
「あがっ……ぐうぅぅ」
これで下がってくれるなら良し、諦めてくれるならわざわざ殺す必要も無い。……がそうは簡単に事が運んでくれるなら私の能力はお払い箱だろう。
目の前の彼女は、ぐぐぐと踏みとどまり、噛みしめる様にこう呟いた。
「袖ちゃんを……助けるんだ」
初めからなんとなく分かってはいたが、やはりこの人狼も袖引の知り合いで、彼女に感化されたのだろう。……ここまでくると、笑える影響力だな彼女は。
影響を受けたのがもう一人。うちの従者は少しだけ表情を揺らがせる。
「袖引さんを、助ける……?」
咲夜は勝手についてきただけだし、特に何も伝えてない。ただ、推測は出来るだろう。誰のせいで袖引が危機に陥っているかなんて、火を見るより明らかのはず。
咲夜の視線がこちらと人狼の間で一瞬だけ揺れ、こちらの表情を見ると直ぐに元に戻す。一瞬で判断する判断力を持ち合わせるよく出来た従者だ。ちょっとご褒美でもあげようかしら。
そんな事を考えている間に、戦闘が再開された。私としては、時間稼ぎさえ出来てしまえばどちらでもいいのだけど、咲夜も、お相手さんもやる気だ。
しかし、本当に袖引は罪な子だね。あ、咲夜が銀のナイフをしまった。袖引の知り合いだからって、手を抜くなんてご褒美は無しね。
コチコチと時間は進む。フランと袖引の二人の事を心配していない訳じゃない。フランがやり過ぎることだってあり得るし、袖引がミスする事だってある。運命を操れるといっても、生死を完全に操れるわけではない。ただ、望む結果に近しい結果を引き寄せる事が出来るだけ。だから私は上手く行く事を祈るしかない……引き寄せる、か。上手くやってくれてるといいわね。
物思いに耽っている内に、戦闘は咲夜が有利に推し進めていた。
そもそも相手の人狼は走り抜ける事を目的としていて、こっちは時間稼ぎが主だ。まぁ、あの子が負けるってあんまり想像してないけれど、想像通りってのもつまらないものよねぇ。
何度もナイフを避け損ねボロボロになった人狼が気合を発する様に叫ぶ。
「どいてっ、どけぇっっ!!!」
「気持ちは分かるけど落ち着きなさい」
「くっ、時間がないのにっ!」
「時間は無限よ。有限だけどね」
えらく余裕な表情の咲夜。あいつ、私が絡んでるから安心してるな。鋭いわねぇ……
ナイフも、頭もキレキレな我が従者。そんな従者に焦れた様に、人狼は大きく息を吸い込む。
あ、まずいねこれ。
そして、咲夜も止めに入ったが牽制に臆することなく、人狼はおよそ人の声ではない鳴き声を、びりびりと夜空へ響かせた。簡単に言うと遠吠え。格好も行動も破れかぶれであったけど、心配事が一つ増えた。
誰か反応しそう、という事。特に袖引が反応してしまったら目も当てられない。聞こえてないのを祈るだけね。
そして、お相手さんはついに駆け抜ける事を諦めたのか、本格的に応戦し始めた。がむしゃらなんて言葉が合うかもしれない。それくらい必死に喰らいつく。
咲夜もだんだんと余裕が無くなってきているようで、軽口が減り苦言を呈す。
「どうしてそこまで、袖引さんをっ……」
「知らないわよっ、あんな馬鹿!! 馬鹿だから私が助けるの。悪い!?」
人狼の気丈な返し。切羽詰まりながらも、無茶苦茶に反撃する。どこかの妖怪を思い出しそうなスタイルね。見ていてしみじみそう思う。類は友を呼ぶ……よねぇ。
咲夜も咲夜で、少し顔を歪めながら応戦。流石に妖怪の本気はしんどそうね。それでも勝つだろうけど。
私はそんな二人の対戦をこのまま眺めるつもりであったけど、耳が、第六感が、能力が動く気配を捉える。
この戦いの行方がちょっと気になるといえば気になるなるけども、優先順位は間違えられない。何となくの声に従って私はこの場所を離れる。
「さくやー、その子お任せするわー」
「お嬢様?」
「ちょっと、散歩」
「朝ごはんまでにっ……帰ってきてくださいね」
狼の攻撃をすんでの所で受けきりつつ、律義に軽口を返す瀟洒なメイド。そんな頭上に浮かぶ満月みたいな完璧な従者を残し、私は羽を広げ、飛び立った。
能力が見せた光景。竹林の奥深く、あばら家のような家。そこに向かうべきなのだろうな。能力と勘を信じひたすらに飛ぶ。
すると、向かう途中で白髪を風に靡かせ、走る人影が一つ。それを見逃すはずも無く、私は声を掛ける。
「おはよう、いい夜ね」
「こんばんわ、刺激的な夜だな」
「あら? こんな夜は嫌い?」
「一応聞いておくけど、さっきの遠吠えはお前さんかい?」
「そうよ、ぎゃおー」
そう答えると、ふーんと興味がなくなったかのように視線を向けて来る白髪頭。信じろというほうがおかしいけれど、少しは信じるなりアクションが欲しかったわね。
「あっそ、ならいいや。行っていいよ」
「なら駄目なのよ。ここは通さない」
おそらくこいつが、二人の邪魔する可能性のある人物かねぇ。怪しいし。
「通さないなら大人しく帰るよ、ただ気に食わないからお前は倒すけど」
「話が早くて助かるわ。とっとと終わらせましょ」
「はっ、とっととね。お子ちゃまはせっかちね」
「あら、これでも500歳なんだけど?」
「私は1000歳超えてるさ」
そう言い放つ彼女。その言葉は嘘では無いだろう。この幻想郷には見た目で左右されない人物がごまんといる。その中の一人という訳だ。
しかし1000歳か、さぞかし老獪だろうね。そんな風に多少驚いたものの、引くことは無い。二人の邪魔は絶対にさせない。それが姉としてのプライドだ。
「ずいぶんとババァね。血なら新鮮なほうが良かったんだけど」
「口の利き方には気を付けなお嬢ちゃん。火傷するよ」
そんな言葉から口火が切られる。
切ったと同時に、目の前を埋め尽くす炎が私目掛けて殺到する。
私はそれを──
さて、こんなところでいったんお仕舞い。まぁ、次回まで待って頂戴。
紅茶でも飲んで一息つきたいところね。……あなたもどう?
熱々に熱するのも炎なの。使い道って大事よね。
ではでは、次回も
じゃあ、お疲れ様。
ご感想等々お待ちしております。
毎度、読んでくださりありがとうございます。