ねぇ……なんで。
なんでこうなっちゃうのかな。
私はただ、ただ遊びたいだけなのに。
ぎゅっ、と握り込む。
ぱりん、となにかが割れる音がした。
それはきっと現実への未練。
私は……私 フランドールスカーレットは、壊しました。
初めは、何かが居る。そんな感覚だった。
きっとご飯だろうと、そう思った。ちょっと匂いが変だけど人間の香り。暗い部屋に扉を開けて入って来た誰か。
ただ、前に来た奴は違ったなぁ。とかそんな事を思いつつ話しかける。返答が無ければてきとうに遊んで壊しちゃおう、そんな風に思った。
話しかけると自己紹介が返ってくる。それが少し面白くて、興味が沸いたんだ。
久しぶりの……いや、その前に巫女を名乗る白黒が来てたっけ? 魔理沙っていう人間。結構最近な気もするし、そうでない気もする。動いてるものなんてそうそう見なかったから、何となく印象に残ってる。
その魔理沙とかいうのに口車に乗せられて、確か弾幕ごっこだっけ? 結構楽しかった遊びをやった。遊んだ相手が壊れなかったのも久しぶり。
そんな感じの印象を持っていただけに今回も期待していた。もしかしたらって。
結果としてはそうなったし、そうもならなかった。
彼女、私を怒らせるようなこと言うんだもの。私がどんな気持ちでここにいたのなんて分からないくせに、お外に出ようなんていうんだもの。まったく、困った子だよね。
そろそろ私も怒っちゃうってところで、彼女が怒りだした。曰く、そっちだって小さいだろう。だって。
今思い出しても、おかしいわ。怒るポイントもおかしいし、なにより私を怒る人なんて珍しい。
珍しいというか最近居なかった。そんな物珍しさも相まって、なんか、拍子抜けをしてしまったのを覚えてる。
「驚いた……まさか喧嘩を売られるなんて……魔理沙といい勇気があるのね」
そして、ちょっとムッと来ていたことも忘れて一緒に遊びたくなった。ただ、遊ぶなんて今まで一人でやっていた事だし、何をすればいいのか分からない。
だから、一番慣れている事をやろうと思った。
「お人形遊び。あなたがお人形」
結局、このころの私は一人になりたかったのかもしれない。諦めて、何もかもを手放して。この状況だってそう。もしかしたらずっと一緒に遊べるかもしれない相手を、壊そうとしてる。
「日本人形は遊び道具ではないですよ、婚礼道具です」
向こうが何か言っても私は知らんぷり。
「壊れれば一緒。さぁ、仲良く遊びましょ?」
何もかもを諦めていた。何もかもを放り出していた。
だから、今回も一緒だって、ずっと思ってた。私と関われば全てが壊れる。それでいい。それでよかった。
ふと、最近来た人間の顔が脳裏に浮かんで消える。
──あぁ、私は一人なんだから。早く、早くこの子を壊さなくてはいけない。
捕まえようとして、一歩踏み出す。目の前の妖怪はすんでの所であとずさり。伸ばされた手が空を切る。
避けることが純粋に嬉しい。相手がいることが純粋に楽しい。だから、自然に笑顔が浮かぶ。
「あはっ、避けた避けた」
……けど、こんな楽しい時間はすぐ終わる。また相手してくれる人はいなくなり、私は一人だ。
暗く気分が沈む。どうしようもない事実が眼前に立ちはだかる。
けれど、
だって、生まれもった能力がこうなんだから。
だから、だから私は、はっきりと諦める為に言葉にする。状況を言霊に乗せる。
「私はこれでいいの。ずっと私は一人。私は
なんて、なんて愚かなんだろう。どうしようもなく救いがたくて、つい笑ってしまう。その状況が更におかしくって笑ってしまう。なんでなんだろう、どうしてなんだろう。おかしくって、おかしくって笑ってしまうのに、何処かが痛い。ズキズキと、ズキズキと痛んでしまう。
そんな痛みから目を逸らすように、一気に距離を詰めて、見た目通りの細い首を締め上げた。
「あっ……うぐっ」
苦しそうな声が聞こえて来る。今すぐに壊れそうな声を聞いて、更に笑いが漏れる。
どうしてここまで、笑えてしまうんだろう。あぁ、自分が嫌でたまらない。自分が嫌で、そんな私を受け入れてくれない世界が嫌で、つい感情が爆発する。
「私が遊ぶと、全部壊れちゃう!! ねぇ、なんで!? どうして!? 私はどうしたらいいの!?」
ガクガクと揺さぶっても答えは返って来ない。もう壊れてしまったのか、と失望に似た感情と共に力を抜く。──すると、ほぼ同時に私の身体が宙に浮き、壁へと投げ出された。おそらく最後の足掻きなんだと思う。
──あれ?
けど、そんな力さえも弱々しく、全くもって脅威を感じない。というかなんなのだろう。ここまで力の差があると逆にあやしいくらい。
私が想像したよりも遥かに弱くて、そんなのに私が吹き飛ばされたのもびっくりして、状況を理解する為に頭が冷える。
冷やそうが、横に振ろうが、答えは出ない。世界を知らない私には理解のできない世界。そんなものが目の前に現れて、結局なんだかよくわからなくなった。
「驚いた……全然痛くない」
とりあえず思った感想を口に出すと、向こうはがっかりした様子を見せる。
そんな姿がなんだかちょっと可愛らしくて、何となく安心してしまう。そして、次第に疑念は興味に変わっていく。
……名前、なんだっけ? そうそう、確か袖引だよね。
私は更に思った事を口にしてみる。
「袖引、そんなに弱いのによく生きていられるね!」
お姉さまとか、私の力を見ていると、この子の力は本当に天と地の差ぐらいはある。そんな弱いのに喧嘩を売って来たのだ。興味がついつい沸いてしまう。
そんな私の態度に、ムッと来たみたいで更に袖引は怒り出す。
「なんだとこの野郎!」
そんな姿がおかしくて、また笑い出す私。自然に出てきたこの笑い。それは何処も痛くなくて、心地良かった。
「本当に袖引は面白いわ。そんなに弱いのはうちに居ないもの!」
気持ちよくなって更に話す。楽しい。そう思いつつ、私は話している。
私の言葉にしょんぼりしつつ、袖引は答える。
「それって褒めてくださっているんですか……?」
そんな落ち込む、素振りを見せる彼女。それは、ありのままの姿のようで、私が捨てた幸せのようで、とても眩しく感じる。
その姿に、思ってもみなかった言葉が漏れる。
「少しだけ、羨ましい」
呟いた言葉にはっ、とする私。漏れた言葉に動揺してしまう。なんでこんな言葉が出るのだろう。
自身の言葉に困惑する私。すると、袖引が言葉を返す。
「私もフランドール様の力が羨ましいのです」
え、と言葉が口を突いて出る。
「なんで? こんなのあっても苦労するだけだよ?」
「それはお互い様ですよ。言いたくはありませんが弱いだけでも苦労するものですよ? 例えばですと──」
それから袖引ちゃんは、色んな事を話してくれた。いろんな事を教えてくれた。そして弾幕ごっこして、指切りをして帰っていった。
ずっと閉じていた扉を開けて、袖ちゃんは帰っていく。
その後ろ姿に、私は一抹の寂しさを覚える。
でも、いいんだ。また遊んでくれるって約束したから。
私も、約束通り一歩踏み出してみよう。何かわかるのかもしれない。
もう、ドアは袖ちゃんは開いてくれた。だから、ちょっと頑張ってみようって思ったんだ。
それが、あの子との出会い。
──季節が変わるように、出会いを重ねていく。
私がだんだんと外に出るようになって、風景が変わっていくことに気づく。
そして、私の気持ちも……
話しかけてくれるだけで良かった。
たまに遊びに来てくれるだけで良かった。
顔が見れたならそれでよかった。
でも、次第にもっと、もっと欲しくなっていった。
私は私を抑えられない。うん、ずっと前から分かっている事だよね。
けれど、分かっていても今までは諦めるしかなかった。受け入れているんだ。そう、感じていた。そう感じて閉じこもっていた。
引っ張り出された私。
久しぶりに見る外の世界は暖かかった。眩しくて、とても綺麗で。とても……とても優しかった。
だから私は決めたんだ。私は、努力をするって。
袖ちゃんは私の基準だ。弱くたって生きられる。弱くても強いんだ。その強さが欲しいから、私はわがままを止めた。
──そう、閉じこもる事をやめて待つことにした。
次第に、次第に積もっていく。最近見た真っ白い雪の様に。
次第に、次第に遠くなる。袖ちゃんの声が、袖ちゃんの姿が、ずっと遠い。
白く、白く、凍えながらも私は待つ。
咲夜が袖ちゃんと会ったらしい。一緒に戦ったんだって。……ズルい。
でも、ズルいなんてきっと思っちゃいけないんだ。袖ちゃんならきっとそんな事は言わない。
待たなきゃ。待って声を聞かなきゃ。
桜が咲く。お姉さまは宴会に出掛けるらしい。
袖ちゃんはいるのかな、どんなことをしているんだろう。
会いにきて、くれないのかな?
なんで、会えないんだろう。どうして、こんなにも遠いんだろう。
私はまだわがままなのかな。私よりも会いたい人がいるのかな。待っても待っても、袖ちゃんの影は遠のいてく。
どうしてなんだろう。
このところ、袖ちゃんはうちに来ない。仕方ないよね。仕方ない。
最近忙しいらしい。遊びたいな。遊んで、お話したいな。
まるで砂漠にいるみたいに、心が渇いてる。
降り積もって、渇いて、埃の様にそれはうず高く積み上がる。
そうして、心の中に何かが積み上がり、前が見えなくなってきた頃。あの夜がやってきた。
それは夏の夜。私は、ふらふらと誘われるように外にでる。今夜なら、もしかしたら会えるかもしれない。そういう確信があった。
ふと、空を見上げる。
月を見た。まんまるで大きな月。吸い込まれるように私は──。
パキンと鎖が壊れる様な、我慢していた何かが決壊したような感覚がどこかで私を包む。
視界から月を外す。私は、どうしても、袖ちゃんに会いたくなった。我慢したくても、我慢できない。今まで堪えてきた感情が、堰を超えて溢れ出す。
だから私は、お姉さまに頼り、連れ出してもらった。袖ちゃんに会いたいって。
お姉さまは、少し悩んだような顔を見せたあと、こくりと頷いてくれたんだ。
今夜の空は、やたらと眩しくて、私は帽子を深くかぶる。ずっと月が後ろから見ている様な気がした。
竹藪に入りこみ、少し経つ頃にはもう抑えられる状態じゃなかった。衝動が胸を突く。待ち遠しくて待ち遠しくてたまらない。
だから、それらしい背中を見たときは思わず叫んじゃうかと思った。
お姉さまも許してくれた。だから一直線に飛び出す私。
けど、望んだ再会は、望んだ展開にはならなかった。もう少しで追いつきそうという時に、袖ちゃんに寄り添う誰かの姿を見つける。
今まで感じた事の無い痛みが胸のあたりに奔った。それは部屋に閉じこもっていた時によく感じていた痛みと似ていて、私の足を止めさせる。
頭では分かってた。やっと会えたと思ったのに、誰かといる袖ちゃん。
それはしょうがない事で、袖ちゃんだったら仕方なくて。けれどそれを認めてしまうと、どうしようもなく苦しくなりそうで。
──だから私は、私に理由を求めてしまう。
あぁ、やっぱり、私がいけないから。私が、悪い子だから。
やだ、やだよぉ。なんでよ。なんで、私だけを見てくれないの? なんで私だけに笑ってくれないの、どうして、なんで──
そんな言葉が私を支配する。
やっぱりそれは、どうしようもなく苦しくて、どうしようもなく泣きたくなった。
その気持ちを振り払いたかった。もう、何も考えずに袖ちゃんと一緒に居たかった。だから私は飛び出した。袖ちゃんの目の前に、袖ちゃんを独り占めする為に。
悪い事をしているって実感はあった。けど、止まる気も無かった。だって、そうしないと袖ちゃんはきっと手に入らないから。
邪魔な竹を吹き飛ばすと、逃げ出す袖ちゃんと誰か。
すぐに捕まえられるけど、せっかくの追いかけっこだもん。すぐに捕まえたら勿体ない。だから、追いつかないように追いかける。
そうすると、袖ちゃんだけが立ち止まる。
私だけを選んでくれたような気がして、嬉しくて、つい速度が上がる。
「袖ちゃん、みぃつけた」
けど、もう一人の事を聞いたら、知らないって言おうとする袖ちゃん。袖ちゃんが嘘を吐こうとした。そのことが何よりも私に降りかかる。
あぁ、私から逃がすために残ったんだ、って理解してしまう頭。そんな事を信じたくなくて、何よりも袖ちゃんが私から逃げようとするってことも苦しくて。
だんだん、だんだん私は何をしたいのか分からなくなってくる。
ただ、袖ちゃんに嫌われるのは怖くて、こんな感じにしたかったんじゃないってことは分かってて。でも、誰かと私を比べられたら、私を選ばないだろうという事も分かってて。
だから、会話途中にこんな言葉も吐いてしまう。
「でも……でも、袖ちゃんに嫌われたら私は私で無くなっちゃう。そしたら私はあの部屋に戻るしか……」
私の気持ちはぐちゃぐちゃになって、分かんなくなる。何を言っているのかさえも、何をしているのかさえも。
「誰かに盗られるのは嫌。袖ちゃんが居なくなったら私じゃなくなる! 私は、私でいたいの!!」
私ってなんだろう、袖ちゃんが居なくなったら私は誰になるんだろう。分からない。分からないのは怖い。怖いから答えが欲しかった。
ついに袖ちゃんの言葉すらも、私は信じられなくなる。
怖くて、遠のいていくイメージが果てしなく怖くて。私はついに爆発した。
地面を砕き、魔力の塊が空を埋め尽くす。
怖いのは嫌。だから、私は逃げ回る袖ちゃんに呼びかける。
「ねぇ、降参しなよ。私の眷属になれば許してあげる。そんな無駄なことしてないでさぁ!!」
「それは……出来ません!」
──分かってた。
「いいから私のものになってよ。そうればお姉さまも喜ぶわ。咲夜もきっと……」
「フラン様、それは駄目です。それは……」
──その答えは分かっていたんだ。
「きっと私も楽しいわ。紅魔館で一緒に暮らしましょうよ」
「フラン様!!」
──でもそれは認めたくなくて。
私の慟哭じみた叫びが虚空に吸い込まれる。
それに袖ちゃんが反論して。
分かっていたんだ。
分かってなお、私はそれを夢見ていた。
袖ちゃんは意を決したようにこちらを向く。
──やめて、その言葉は言ってほしくない。認めたくない。
心が叫ぶ。
けれど、袖ちゃんは止まってくれない。
「それでも、私はあなただけのものじゃないんです!!」
分かってた。理解出来ていた。でも、痛くて、悲しくて。認めたくない私が居て。
背後のお月様が、背中を押す。
滅茶苦茶な言葉を吐く。
きっと袖は心配してくれるはずだ。ごめんなさい、って謝ってくれるはずだ。
そんな事を期待していた。
でも、袖ちゃんは厳しかった。厳しくて、優しかった。
フラン様、と私の名前を呼ぶ。他でもない私の名前。
「それでも私は、あなたを信じます」
──違う。私は救いの言葉が欲しかったのに。私はそんな言葉が欲しかったんじゃない。
私は袖ちゃんにあこがれていたかった。袖ちゃんみたいな存在ならずっと届かなくて、いつでも諦められる理由になっていて。
だから、袖ちゃんを理由にして心のどこかで諦めていた。外が怖くて、いつでも諦めていいんだ、って言葉が欲しかった。
けど、袖ちゃんは、袖ちゃんから独立した私を、ずっと見ていてくれた。
それが嬉しくて、だけど真っ直ぐに受け止められなくて、私は自分の痛みを優先して言葉を吐いてしまう。
「……嫌い。袖ちゃんなんて大っ嫌い!! 壊れろ! 壊れろ! 壊れろ壊れろ壊れろ。壊れちゃえっ!」
吐露した心情は激しくて、濁流のように身体を飲み込んでいく。
いつもこうだった。私は最後はこうやって全てを無くしてきた。今回こそはって思うたびに私は諦めてきた。
ごめんね、袖ちゃん。せっかく私を信じてくれたのに。
もう、激情は止まらない。思うがままに暴力の権化を行使する。
袖ちゃんの身体を構成している根幹に狙いを定める。袖ちゃんが何かしようとする前に、私は右手に力を込めた。
──さようなら。私の道しるべ
ぎゅっと目を瞑る。もう、何も見たくなんて無かった。もう、何も失望したくなかった。
そして、私の能力が発動した。
ぱりん、と何かが壊れる。そんな音が耳を突く。
暗闇の明滅と、力が起こした暴風が、顔に嫌という程に吹き付けて来る。目を閉じていても分かってしまう。終わったんだ、と感じてしまう程に、はっきりとした感触が私の手の中に残る。
「ごめんなさい」
誰かに聞こえるはずも無い声を、ぽつり、と呟く。
そして、私は、しでかした事を受け入れる為に、ゆっくりと瞼を開けようとする。
「……フラン様」
聞こえるはずの無い声が聞こえる。この声はきっと私への罰だ。こんなにもこんなにも、優しい声が聴けるはずが無い。
私にそんな言葉を掛けてくれる人は、もう……
視界が開けていく。おぼろげな霞に浮かぶ月夜。見えてきたのは土煙と、何かの破片。
──それと。
「……え?」
「私はまだ、壊れてませんよ?」
それはあの時の様に、私に手を伸ばしてくれた、変わらないあの姿だった。
ぼろぼろで、どうしようもなく頼りなくて。けど、とても強い眼差しがこちらへと向いている。
「さぁ、気の済むまでお相手してあげます。何度だって私が引きずり出しましょう」
あぁ……なんて、優しいんだろう。
ポロリと涙がこぼれる。
手に入らないと、届かないと、もう、終わったものだってあきらめてた。けど、それは私の杞憂で、この子はずっと私の前で、手を出してくれていたんだ。
──大丈夫ですよ。って
どんなに私が壊しても、この子は、袖ちゃんは壊れなかった。こんなにも弱々しいのに、こんなにも頼りないのに。
それは、私がずっと欲しかった証明で、私が勝手に諦めていた可能性だった。私に関わったものは壊れる。その壁を袖ちゃんが壊してくれた。
震える声で私は問いかける。
「……なんで、なんでそこまでしてくれるの?」
「友達だからですよ、フラン様」
すぐに返って来る、袖ちゃんの声。
それは暖かくて、どこか久しぶりに見た外の世界に似ていた。
ずっと、夢見て、諦めて。そんな私を引っ張りあげてくれた子。そんな子が私の目の前に。
今すぐにでも駆け出してお話がしたい。きっと今なら何でも楽しくて──
「さぁ、やりましょうかフラン様。今の私ならいくらでもお相手出来ます」
はっ、とその声で、引き戻される。
今どんな状態で何をしていたかが甦る。……別に私、ちょっと満足してたんだけど。
まぁ、いいよね。そんなところも袖ちゃんらしい。どことなく私に似ていて、けど、私と違って。……あと、人の気持ち読むのがちょっと下手。
あと、やっぱり友達のままじゃ寂しい気がする。確かに袖ちゃんは私のものじゃない。けど、いつか私のものにしてもいい気がする。うん、いいよね!
さて、さっきと違ってあとは遊ぶだけ。けど、向こうは本気みたい。……ちょっと楽しみかも。
さっきから感じていた月の気配はもうない。だから私も全力全開ができるという事。
遊びで、全力。それは、今まで私が出来なかったこと。そんな私の初の相手は目の前に。……なんとかできるよね? 袖ちゃん。
ふっ、と口の端が吊り上がる。私は今、とても楽しい。
えーっと何だっけ、……そうそう確かこんな事を言っていた。
私は、炎の剣を顕現させる。
「なら、徹底的に壊して私のものにする!」
「絶対に止めてみせます。絶対に負けません!」
さて、こんなところで私のお話はおしまい。
まさか、壊す役割は私ではなく、袖ちゃんでした。うんうん、袖ちゃんらしい? よねっ!
全力で遊ぶことに喜びを感じつつ、今夜はここまで!
ではでは、次回も
本当にありがとう。
大好きだよ。
ご感想等お待ちしております。