【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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大変お待たせ致しました。

色々としていたらいつの間にか時間が過ぎ、日付過ぎ。急いでモチベーション持ち直し書きました。 




諦めないよ 袖引ちゃん

 

 パラパラと散る紙吹雪。月は雲から顔を出し、こちらを覗き込んでおります。

 空中に浮かぶフラン様の姿。吸血鬼に影はございませんが、いくばくか大きく見えるような気もします。

 

 ところで、霊夢さんや魔理沙さんをはじめとした人間様の方々が、どう弾幕ごっこに興じているか分かりますでしょうか。

 私たち妖怪やら神やらは力も強く、ある程度の耐久力もございます。ですがですが、人間様はそうもいかない。敵側が打ち出す弾幕に力を含み過ぎていたら、最悪死に至ります。毬やら、お手玉なげているのではないのですから当然とも言えますが。

 まぁ、全て避けてしまえばいいのですが、そうともいかないのが弾幕ごっこというもの。避け損ねることもございます。そんな中、暗黙の了解と致しまして、いくつか「身代わり」を持つことを許されています。

 時折、弾幕ごっこの最中にぴちゅーんなんて音が聞こえますが、身代わりが壊れる音だとかそうで無いとか。

 

 そんな身代わりですが、私も拾っていたのです。こそこそ準備をしている最中に、恐らく霊夢さんが使っていただろうお札をかき集めてそれっぽく力を込めました。そのお蔭でフラン様の能力にも、一度は耐えられたようですね。……本当に、成功してよかったです。

 まぁ、成功しなければ、この紙吹雪と一緒に散っていただけのことですが。

 

 

 そんな訳で、命の危機をそれっぽくで回避した所から始まります。

 

 私、韮塚 袖引 説得してます。

 

 

 

 

 さてさて、何故だか長かったような気も致しますが、再びもってフラン様との対峙でございます。

 そこには聞くも涙、語るも涙な展開がございました。

 

 ガラス細工を散りばめたような弾幕駆け抜け、上がった身体能力による回避の数々。流石に自分でも驚くような身のこなしに、フラン様も大層驚いておりました。

 身体能力が向上するとこうも違うのか、という驚きと、もう一つの違和感を感じつつ弾幕ごっこは繰り広げられました。えぇ、凄かったです。凄かったんです。

 

 ……あのですね。何が言いたいのかといいますと。えぇ、結果的には勝ちました。間違いなく勝ちだと言えるでしょう。フラン様が負けたーとおっしゃっている以上は。

 確かに至近距離で弾幕を叩き込み墜落させることには成功しました。しかし、しかし、こちらはぼろきれのようになり、向こうはほぼ無傷。といいますかご自慢の再生力の高さ故に、きれいさっぱり傷が消えておりました。……私の苦労って。

 

 まぁまぁ、そんなことはいいんです。気になるのは明らかにこちらを殺す気であったフラン様が、弾幕ごっこを始めると同時に、ふっと殺気を消してしまったこと。びりびりと感じていたものがすっと消え、困惑するばかり。

 それはそれでいいことですが、なぜなんでしょうか……私、ちょっとばかり威勢よく啖呵切っただけに、恥ずかしいようなそうでないような。

 

 

 さて、そんな事お構い無しに現実へと戻りましょう。

 遊び終わった後に、体力を使い果たし地べたへと身を投げ出す私。そして楽しそうに私を覗き込む顔が一つ。月に重なるように向けられるその表情は、どこか凄くすっきりしたようなものでございました。

 

「袖ちゃん強くなったね! 修行でもしたの?」

「月の魔力ですかね? 理由は分かりませんがとても調子がいいですから……ぜんぜん敵わなかったですが」

「いいじゃない。あれは間違いなく袖ちゃんの勝ちなんだから」

 

 ちょっと恨めしい目線を送る私。それに対し一応負けた側でございますのに、フラン様は大満足。といった表情で、むふーと胸を張っております。

 

 

「確かに勝ちと言えば勝ちですが……もう一回やれと言われても無理ですよ」

 

 

 そう言うと、くすくすと笑いだすフラン様。それもそうね。と楽しそうに言われました。

 

「まぁ、でも勝ちは勝ち。私も手を抜いた訳じゃないわ。袖ちゃんがそれ以上に強かっただけ」

 

 あの弾幕を抜けてきたときはどうしようかと思ったわ。なんて、楽しそうに語るフラン様。その一言と表情は何処か、大人びているお姉さまを彷彿とさせるものでありました。

 なにがあったのかは知りませんが、とにかく落ち着いたと分かり、私は少しだけほっとしたのでした。……弾幕ごっこしただけですので、何が起きたのかさっぱりですが。

 

 時は過ぎ、されど月は動きません。そんな動きを忘れたお月様をぼーっと眺めてみても、先程の変な感覚は起こりません。さてさて、なんだったのかと思いつつも今は私の事は後回し。

 さて、とばかりにへばっていた身体に鞭を打ち、身体を起こしました。影狼さんも探さねばなりませんし妹紅さんにも会わねばなりません。

 やることは山のように積み上がっております。私の事など気になどしてられないでしょう。

 

 

 立ち上がる私と、それに反応するフラン様。事情を話しますと、

 

「面白そうだからついていくわ」

 

 とのこと。そんなこんなで心強い妹様と一緒に仲間探しを始めました。

 ──とはいえ、広いといえど広大と言えるほどにはに広いわけではありません。この辺かなと、てくてく歩いていると音が聞こえてきました。

 

「まだ、まだよ。まだ終わってないっ!」

「──っ、しつこい!」

 

 影狼さんの声と、聞いたことのあるどなたかの声。聞こえて来る音に耳を傾けますと、なにやら争っている様子。とりあえず止めに掛からねばと声をあげようとすると、フラン様の声と重なりました。

 

「影狼さん!」

「……咲夜?」

 

 そんな声に反応したのか、必死の形相のお二人がぐるんとこっちに顔を向けました。とりあえずはこれで止まってくれると安堵しかけたところで、お二人の口から図ったようにこの言葉が飛び出しました。

 

「「うるさいっ!!」」

 

 こんな邪険な態度を取られては、私も怒りのあまり黙り込んでしまうのも仕方ないと言えるでしょう。えぇ、怒りましたとも。あやうく腰を抜かしかけたとか、思わずフラン様の後ろに隠れてしまったとか、そんな事はありませんでしたし、決して怖かったとかそういうのでもありません。ありませんからねっ!

 

 ともかくとして、偶然……偶然かつ仕方なくフラン様の後ろに位置するようになってしまった訳です。そんな私を見てフラン様はケラケラ笑いつつ、咲夜さんにもう一度声をかけました。

 

「咲夜、私だよ。私」

「……あれ、妹様?」

 

 臨戦態勢からちょっとだけ態度が和らぐ咲夜さん。それに釣られて、影狼さんもこちらを見ました。それからフラン様の姿を認めると、目をはっと見開き、それからへなへなと地面に座り込んでしまいました。

 そんな態度を見て慌てて近づく私。大丈夫ですか、と声を掛けようとすると悲嘆に暮れた声がボソッと聞こえて来ました。

 

「そう、袖ちゃんはもう……」

「あのー」

「私をかばって……」

「……影狼さん?」

「惜しい子を……失くしたわ」

 

 なんだか、独自の世界に入っているようでしたので、とんとん、と優しく肩を叩きました。

 

「私、生きてますよ?」

「へ? ……うわっ幽霊!?」

「失礼なっ! 今は違います!」

「いくらなんでも化けて出るの早すぎじゃない? 相変わらずせっかちさんね」

「いやあの、ですから……」

「あ、でも今まで通りじゃないのか……やっぱり寂しい」 

「いーきーてーまーす!!」

「……へ?」

 

 

 手足をばたばたとさせ、生きていると主張する私。なんだかとっても滑稽な感じも致しますが、あんな別れ方をしたためかちょっと気恥ずかしい。そんなわけで少し大袈裟に振舞っている次第でございます。

 そういった訳で影狼さんも大袈裟に振舞っていると思っていたのですが、どうやら本当に私が化けて出たのと思っていたようでございます。まつ毛の長い目をぱちくりさせた後、私の頬やら、肩やらを触り感触を確かめ、あれ、触れる。と呟いておりました。

 すわ、これで信じてもらえたかと思ってほっと胸を撫で下していると、不意にがばっと重みが身体全体に伝わってきました。

 突然抱つかれた状態で目を白黒させる私。すると影狼さんが、こう言いました。

 

「馬鹿、ほんっと馬鹿!」

「あれ……えぇぇぇ?」

 

 ……あれ、なぜでしょう? どちらも生きておりますし、私頑張りましたし、褒められるとかちょっと期待していたんですが。実際には影狼さんから出るのは、こんな言葉。私が少しばかり驚くのも無理はないでしょう。

 ぎゅっと抱きしめられるのは嫌いではないのですが、影狼さんは大層怒っている様子。何が気に障ってしまったのかは分かりませんが、地獄の裁判の沙汰のように次の言葉を震えて待ちました。

 

 抱きしめる状態から少し離れ、目と目を合わせる影狼さんと私。影狼さんの目には少しばかり涙が滲んでおり、そこまで怒らせてしまったかと、どきりとしてしまいます。

 そして、影狼さんが、口を開きました。

 

「心配……したんだからね」

「……心配?」

 

 誰が、何を、心配していたのでしょうか? まさか私が心配される訳でもないでしょう。私めにそんな価値はありません。何度も捨てられてしまうような私に、そんなものは必要無いでしょう?

 

 もう一度抱きしめられる私。その温もりが酷く遠いものに思えてしまって、少しばかり身じろぎをしてしまいます。

 そう言えば似たような事を上白沢様に言われていたな。と、ふと思い出しました。

 あの時は、言いつけを守らなかったから怒られていたのと思っておりましたが、もしかしたら違ったのかもしれません。しかしまぁ、あれですね。私程度の妖怪なんぞ、何処にでもいるでしょうに。

 

 そんな事を思う私、けれど、理解は出来ずとも影狼さんの気持ちは伝わってきて、その温もりはやっぱり私には拒否できなくて、つい甘えてしまいます。弱く、本当に弱くですが、抱きしめ返しました。

 

 後ろで、妹様抑えて、抑えて、とか聞こえた気もしましたが、きっと気のせいでございましょう。

 

 抱きしめあっていると、不意に竹林がざわめきだしました。今度は何でしょうと、辺りを影狼さんと見渡しているといきなり近くに、ずどん、と人影が突っ込んで来ました。

 それは地面に抉れた跡を刻みながらも、すぐに立ち上がります。激しい争いでもしていたのか、ずいぶんとほこりやら傷やらが目立っておりましたが、長い白髪に見覚えのある服装。つい声を上げてしまいました。

 

「妹紅さん!?」

「こほっ、こほっ──ん?……袖ちゃんと、今泉……だっけ? ……なんで抱き合ってるの?」

 

 そんな事を言われ、顔を見合わせる私たち。影狼さんがみるみる赤面しておりました。そんな中、飛び出してくる影がもう一つ。

 

「あら、袖引じゃない。生きてたのね」 

「あ、お姉さま!」

 

 レミリア様の登場と共に、私と影狼さんの間に割って入り声をあげるフラン様。なんだか場が混乱してきました。土煙をあげつつ地面に突っ込んだ妹紅さん。それを追いかけるように出てきたレミリア様。何故か睨みあうフラン様と影狼さん。とりあえずお二人は、なんだかその様子が怖いのでそっとしておくことに。そんな光景をちょっと楽しそうというか、期待した表情で見守る咲夜さん。

 あまりにも急展開でございましたので、ともかくとして一番近い、妹紅さんに話を聞くことにいたしました。

 

「あの? そんなにぼろぼろになって、何をしているんです?」

「いや、それは袖ちゃんも人に言えたことじゃないだろう」

「私はまぁ、あれです。……成り行きといいますか」

「じゃあ、私もそれと──」

「殺し合いしてたのよ」

 

 妹紅さんが答えようとした言葉に被せるように、楽しそうにレミリア様が答えました。それに対し舌打ちをする妹紅さん。その態度からどうやら本当のようで、場が凍り付きました。

 にらみ合いをやめた影狼さんは状況を飲み込めず目をぱちくりさせておりますし、フラン様はレミリア様に何やってるのよ、みたいな目を向けております。咲夜さんは……レミリア様に対し、また始まったみたいなやれやれとした表情を。──そして私は、すっと目を細めて妹紅さんを見据えました。

 

「殺し合い……ですか? 妹紅さん」

「そうよ、袖引。私達今まで幾度となく死んだの。私も、そこのモンペもね」

 

 怒気を孕む私の声。さらに追い打ちを掛けるようにレミリア様が言葉を継ぎ足し。さらにむかっ腹が立ってしまいます。しかし、仕方無い事でしょう。だって、知り合いの()()()が殺し合いをしていると聞いたのです。怒らない訳にはいきません。

 そんな私の態度に、露骨に嫌そうな顔を浮かべる妹紅さん。

 

「袖ちゃんには関係ない」

「妹紅さん、こっちを見て言ってください」

「……うるさいな」

「妹紅さん!」

「だから、袖ちゃんは関係ないって。あいつと私の問題だから」

 

 そういって、拒絶しもう一度レミリア様の方へと行こうとする妹紅さん。レミリア様に止めてもらおうと視線を向けると面白がっているのか、さらに戦意を煽ろうとするレミリア様。そんな態度にも腹が立ち、ともかくとして妹紅さんの前へと立ちふさがりました。

 

「どいてよ」

「退きません」

「……どけってば」

「嫌です。妹紅さんが傷つくところなんて見たくないです」

「……どけ」

「どうしてそこまで、自分を傷つけようとするんですか。あなたは人間でし──」

「っ!? そういう所が!!」

 

 こんどは妹紅さんが私の声を遮りました。嫌そうな顔が、怒りの表情へと変貌します。けれど、こちらも既に茹っている状態。そうそうに引きません。

 妹紅さんは大きく息を吸い込み、吐き出しました。

 

「これが最後だ。……どけ」

「絶対に嫌です。人間様の傷つくところなんてみたくありません」

 

 たとえ実力差があろうともこれは譲れません。絶対にこれだけは。

 きっと、見つめかえすと、ふぅ、ともう一度妹紅はため息。そして、顔をふっと上げると、向こうさんはぷつんと切れた様子で怒気を発しました。

 

「おまえの、そういう所が、大っ嫌いなんだ!! なんだよ、なんで、なんで私の前に立つ! なんで諦めようとしたことを諦めさせてくれないっ! いいんだよ、私はもうすでにこっち側なんだよっ!」

「よくありませんっ! 私はそういう人の子も見捨てたくはないんです!」

「このっ……邪魔なんだよっ!」

「退きません、退きませんからねっ!」

 

 もう、何もかも目に入りません。周りの止めようとする声も、誰かの楽しそうな表情も全て。目に入るのは少し迷ってしまった女の子が一人。これを助けずして何が私でしょう。ぼろぼろになった袖をまくり、今一度の臨戦態勢。

 

「……いいよ、だったら、燃やしてやる。私の前に二度と現れないようにっ! 失せろよ、妖怪もどき!」

 

 そして、妹紅さんがまるで江戸の富士か、浅間かとばかりに噴火する姿を捉え、身体を瞬時に動かしました。

 

 この夜、満月を浴びた私。それはいくつかの気づきをもたらしました。その内の一つ。フラン様と弾幕ごっこをやっていた時に気づいたことがございました。あるいはもっと前より意識せずに使っていたのかもしれませんが。

 私、死に直結しそうなものが感覚的になんとなく分かるみたいです。死ぬかもしれないといった瞬間の予想がかなり早いというべきでしょうか。

 身体能力が上がるとともに、霞んでいた感覚が戻ってきたといいますか、手足の感覚がつかめてきたといいますか、ともかくとして、少しばかり自分の能力が把握しきれていなかったことが明らかになりました。

 

 おそらく一回目のフラン様の弾幕ごっこや、萃香様との戦闘でもそうだったのでしょう。あの理不尽な暴力の塊とやりあって五体満足でいられたのは、死に対して私が少しばかり鋭敏だったからでしょう。

 逆に死に直結しないようなルーミアさんの攻撃とかは感覚が働かないようで、してやられていましたが……

 しかし、そんな死に対する能力なんてどこで身に着けたのでしょうか? ……ふと、満月を見上げたときにみた光景がよみがえりそうになりましたが、咄嗟に頭を振って打ち消しました。 

 

 ともかくといたしまして、そんな感覚が鋭敏に働く今夜。頭に血が上った妹紅さん相手に、互角にやりあえております。

 妹紅さんは私を直接的に狙うことが多く、そのほとんどが即死級。本来ですと涙目ではすまない事になりそうですが、今夜は問題ありません。むしろこういうほうが避けやすく助かる始末。

 即死級の攻撃で攻める妹紅さんに対し、私も私で攻めあぐねる。常に炎が舞い、火の壁が立ちふさがる。そんな中、避ける事で精一杯の私はどうにかして突破口を見つけようとしますが、中々に埒が空かない。

 

「どうしました? ぜんぜん当たりませんよ?」

「ちょろちょろとっ……」

 

 お互いに、血を昇らせ、血を滾らせぎゅんぎゅんと竹林を飛び回ります。

 

 しばらく撃ち合った後、ふと、思いつき、竹を触りつつ飛び回りました。点々と竹を触って能力の発動を狙います。そして、最適な時期を見計らって竹を思い切り引っ張り、ばっと離しました。当然竹はしなり、唸りを上げて妹紅さんに突っ込みました。力が上がっていて、思ったよりも強力になってしまった竹の攻撃。それを受けて軽石のように吹き飛ぶ妹紅さん。

 やり過ぎたかと、急停止し駆け寄ろうとすると、吹き飛んだ妹紅さんは、むくりと立ち上がりました。その行動がやたらと無機質で近寄る足が止まる私。そんな私を見たからか、あるいはぼろぼろになった自分を確認したからか、彼女は口の端から血を垂らしつつ嗤いました。

 

「見てよ袖ちゃん。さっきのを受けてもまだ立ち上がれる人間がいると思う?」

「それは……」

「やっぱりさ、私は違うんだよ。……もう、いいよ」

 

 そう、力なくぽつり吐き出すと、ふっと顔を逸らした妹紅さん。その光景が胸がぐいと締め付けられるかのごとく、とても悲しくて、苦しくて、つい、私は踏み込んでしまいます。

 

「よく……ないです。絶対に、よくありません!」

「私は袖ちゃんとは違う。諦めさせてよ……頼むからさ。頼むよ……」

 

 それは、長い間苦しんだ彼女だからこそ出た、悠久の悲しみを内包した言葉。まさしく絞り出したかのような言葉に、止まってしまう私の言葉。

 このまま続いても、もう……という考えがふわりと脳裏を過ります。このまま続いてもきっと私の我儘なだけでしょう。けれど一方で、だからといって自分から傷つくのは絶対に違う、という考えもあり逡巡する私。

 お互いに立ち止まったままに、固まってしまいます。月も雲も、知らんぷりを決めたが如く上空でただ揺れるのみ。私と、妹紅さんだけが、動けず固まっていました。

 

「袖引」

 

 そんな中、ふと、だれかが私の名前を呼びました。それは、永遠を知りつつも打破できると確信を込めた声。

 その声にひっぱり出される様に、過去に同じ声で言われたことががふと蘇りました。

 

『そんなの好きにしなさいよ、いちいち人間に伺いを立てていたらやってられないわ』

 

 その声に背中を押されます。私を変えた一つの言葉。それに支えられるように、ふっと口の端が上がりました。

 ……そうですよね。妖怪が人間に迷惑がられるのも、煙たがれるのも、当然のことでした。だって私は妖怪で、彼女は「人間」なのですから。

 

 だから私は、自分の考えを押し通すことに致しました。引くのではなく、押す。ある意味私らしくもない選択でございますが、これもまた悪くはない。きっといつかそう思えるように、今はこれが正しい道であることを信じて、私は妹紅さんにこう答えたのです。

 

「それでも私は……諦めが悪いんですよ。妹紅さん」

 

 

 さて、そんなこんなで竹藪の中のお話もまとまりつつございます。

 

 雲が晴れるように晴れる能力と、皆さんの動き。

 今宵の月のように変わらぬ考えと、満ち欠けのように変わる考え。

 

 そんなものを包みつつも異変の巻物は出来上がっていくのでございました。

 

 さてさて、そんなところで今回おしまい。

 

 

 ではでは、次回も()()続きお楽しみ下さる事を、願っております。




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