【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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お待たせいたしました。みんな大好き小傘ちゃんのターンだよ。


うつろう花の異変と、過去のお話 傘

 ──時期はそう……晴れた日だった。

 

 

 私、多々良 小傘 出会いました。

 

 

 

「傘、入る?」

 

 雨の中で立ち止まる子に声を掛ける。その子は何処か迷っていて、どこにも行く当てがないようで、私は彼女を抱きかかえる。

 時期は花の異変の最中。わかさぎ姫ちゃんからこっちの方に行ったと聞いて、急いで駆けつけたらずぶ濡れの袖ちゃんを発見したの。

 

「帰ろうか、袖ちゃん」

 

 そう言って私は彼女を家へと運んで行った。

 

 

 ざぶざぶと降る雨は止みそうになくて、泥は撥ねる。背負った身体からじんわりとした温かさと、湿った感触が伝わって来る。

 安心して寝ちゃったみたい。まるで子供……子供なんだよね。

 

「ねぇ、覚えてる……?」

 

 答えのない、返事のない袖ちゃんに向かって問いかける。

 

「こうやったのは初めてじゃないんだよ?」

 

 今の袖ちゃんも好きだし、もちろん親友。けど私は、彼女によく似たもう一人も、とても大切に思っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして」

 

 最初の言葉はよく覚えてる。素直に元気そんな感じを受ける子。腰まで髪を伸ばし、子供のように小さくて、でもしっかりと地に足を付けた印象を受けたその子。彼女は自分で名乗るのもなんですけど、なんて言いながら袖様と名乗っていたの。

 

 それが私と、彼女の出会い。

 

 この頃の私も別に、今と変わってはいない。人間を驚かして、楽しんで、それだけ。今とあんまりは変わらない。けど、彼女と出会って変化したこともあるの。

 

 それは人間への見方。

 

 付喪神である私は、紆余曲折あれど結局のところ忘れ捨てられ、ここにいる。なんだかんだ使われる側の私としては少し複雑な思いがあったのは確かなのだ。そんな複雑な思いを抱えたままにこの場所に辿り着いて、流されるように人を驚かせていた。私は妖怪だったしそれでいいとも思っていた。

 

 そんな時に彼女が現れたんだ。

 

 ねぇ、覚えてる? なんて言っても忘れているのは分かっている。それでも目の前にいる子に時々言いたくなるのだ。

 初めはあなた、家がなくて私の家に泊っていたんだよ。

 

 出会ったのは唐突で、それだけじゃ印象には残らなかったのだろう。けど、神様だったことも相まってか何となく色々と聞いてしまった。

 曰く、挨拶周りの途中だったこと。しばらく博麗の巫女に厄介になっていたけど、お暇してきたので当てがない事。そして泊まる所もないので野宿予定な事。

 

 野宿なのかーなんて思って、艶やかな長い髪を見てしまいこう思う。もったいないなーなんて。そう思う程に綺麗な髪の毛で、それが土に汚れるのもなんか嫌だった。

 なので、ついぽろっと、うちに泊まる? なんて誘いの声を出してしまった。

 そしたら、袖様。表情にはあんまり出ていなかったけど、目をきらきらとさせて深々とお辞儀。

 

「いいのっ……じゃない。では、今日からお世話になります」

 

 そんなこんなでちょっと我が家が狭くなった。その代わりにちょっと暖かくもなった。

 後から聞いた所、長い間神様っぽい喋り方をしていなかったせいで、素が出やすかったとかなんとか。そんな言い訳じみた事を言っていたのでクスクスと笑ってしまった。

 

 

 さて、泊めることになったこの神様。意外や意外にもなんでもこなす。家事からお裁縫までなんでもこなしていたので、なんでも出来るねなんて、驚いて聞いてみた。

 すると、元々治めていたところが神様を勘違いしていて、なんでも頼んで来るからなんでも出来るようになっていたとか言っている。

 

 そんなことを聞くたびに袖様は、それに関する思い出話を語っていた。やれ、ここが細かかったとか、神様なのに駄目出しを貰っていたとか。そんな人とのふれあいをとても大切に、とても大切そうに語っていたのをよく覚えてる。

 

 あぁ、この子は人間が好きなんだな、って嫌が応でも分かる程に、愛が溢れていた。

 

 そんな姿に、毎回毎回私はこう返す。

 

「まるで袖様は、人間に恋してるみたいだよね」

「えぇ、恋してるわね。なんなら失恋したら、この髪の毛をばっさりいってもいい位」

「わっちがそのためのハサミ、用意しておくよ」

 

 多々良の姓を貰っていた私は、家事ならぬ鍛冶の才能があった。鉄を鍛えて形にする。それがわりと楽しくて一人でこそこそと色々とやっていたのだ。

 その過程でハサミとかも取扱っていて、いつか断ち切りハサミとかも欲しいですねーなんて袖様にねだられていた。

 

 

 そんな暮らしを続けていく。

 

 

「小傘ちゃんは人の子は嫌いなの?」

 

 ある日、そんな風に問いかけられたことがある。

 

「うーん、わっちは……どうなんだろ」

 

 嫌い、ではないと思う。けど、捨てられてここに来ている以上複雑だ。

 

「嫌いじゃないのなら、今度お店でも開いてみるといいと思うよ」

「お店?」

 

 そ、お店。と袖様は答える。商売をしているといろんな事が見えてくるから。小傘ちゃんなら鍛冶屋なんてどう? そんな事を事もなげに言ってくる神様。

 時はまだ弾幕ごっこも無い時代。当然、人と妖怪はいがみ合っていたし、恐れられもされていた。そんな中、こんなことを言うのだ。驚いてしまう。

 

「どうしたの、目を丸くして?」

「えーと、だって私妖怪だよ?」

 

 それを聞くと、袖様は目を丸くしてころころと笑う。

 

「わっち、そんな変な事言ったかな?」

「あぁ、えと、ごめんなさい。そういうんじゃないの」

 

 笑い過ぎたのか、彼女は目を擦りながら言う。

 

「妖怪は妖怪でも、小傘ちゃんなら大丈夫です。神様の私が保障します」

 

 なんて、笑いながらそう言ってくるもんだから、わっちもついその気になっちゃう。

 

「じゃあ、いつか私が鍛冶屋やったらお得意様になってね」

「えぇ、その時は、布でも取り扱ってハサミ買ってあげますよ」

 

 そんな会話ばっかりしていた。そんな人間が好きで、私までその気にさせてしまう彼女。そんな彼女が私は大好きだったし、ずっと一緒にいるものだと思っていた。

 

 実際、「泊まる」がいつの間にか「住む」に変わる位はずっといっしょにいた。その間、山の麓の神様達などに会いにいったりと二人で幻想郷を回ったりしていた。けど、なんだかんだと理由をつけて、袖様は決して人里には近づかなかった。

 

 そんなものだろうと思っていたし、彼女の別れ方を聞いたら心の準備もいるよね、なんて思っていた。きっと大丈夫。そんな風に思っていたの。

 

 

 ──けど、結果は違った。

 

 彼女は、ある朝人里に行ってきます。と告げて、そのまま帰ってこなかった。本当にそのままに私の前から姿を消した。

 

 

 朝の袖様の決心を聞いて、じゃあハサミでも用意しておくよ。なんて軽口を叩いて見送った朝。

 

 袖様が少し心配になってきた頃に空を見上げると、黒々とした雲が広がっていく空。なんとなく不安が掻き立って、雨が降ってきそうだからと自分なりの理由をつけて人里へと飛び立った。

 

 傘をもって人里にいってみたが不安が的中し、彼女の姿がない。走って、探して、それでも姿がない事に不安はだんだんと大きくなっていった。

 不安を抱えつつも人里で小さな女の子を見なかったかと、聞いて回る。すると、ふだん見ない小さな女の子なら、声を掛ける暇もなく外へと走って行ってしまったよ。と返答を得て踵を返す。

 

 嫌な予感が付きまとう。じんわりとした空気の中、心当たりを探していた。雨はぽつぽつ、と降り始めていた気がする。

 

 ざぁざぁと雨の降る中、私は彼女を探す。探す場所に詰まった私は、直感に近いような閃きで博麗神社へと寄ってみる。……すると、探し求めていた彼女はいた。私の予想もしない形で。

 

 彼女は、ずぶ濡れになった状態で、結界のようなものの中にいて目を閉じていた。

 

「袖様っ!?」

「──いいえ、もう、その名前は無くなりました」

 

 そう答えたのは、同じく雨に濡れる博麗の巫女。身体を横たえる彼女に何か術を施していて、それが彼女にとって良くないものに見えてしまい、私は吠える。

 

「袖様から離れて!」

「落ち着きなさいよ。……もう、ほぼ終わってる」

「何を……していたの」

 

 はぁ……とため息をつく博麗の巫女。一息、二息入れてから彼女はこう返して来た。

 

「──彼女の、袖様の抹消と、新しい名前の授与」

 

 衝撃的に身体が動く。博麗の巫女の頬を張る。

 

 湿った空気の中、虚しい音が一つ。

 

「彼女を返して」

「……袖様が、そう望んだのよ」

 

 張られたほほを抑える事無く、博麗の巫女は答える。そして彼女は事の顛末を語ってくれた。袖様のこと、人里での事、そして何を望んだかということ。

 

 自然と身体が崩れ落ちる。

 

 後悔は、たぶんある。なんで止めなかったんだろう、とか、一緒に行けば良かったとか。けど、そんな後悔よりもなによりも。彼女が人間を受け入れられなかったことが、なによりも衝撃的だった。

 

 

 雨降る中、袖様は帰ってこなくなったのだ。それもきっと永遠に。

 

 

 

「あなたはどうする」

 

 博麗の巫女はこちらに問う。

 

「忘れさせてあげることも出来るわ」

 

 首を横に振る。

 

「辛いわよ? たぶんこの子は根っこが変わらない」

「それでも……わっちは、私は忘れたくない」

「友達思いなのね」

 

 その返答は無視し、座り込んでしまった時に溢した傘を拾いあげ、袖様だった彼女にかざす。

 

「その子の新しい名前は、韮塚袖引。妖怪よ」

「……袖引」

「そう、出来たてほやほやの子。今日はそっちに連れて帰ってあげて。しばらく混乱していると思うから」

 

 その言葉を背に、袖引を背負う。

 小さな呻き声が耳に届く、それは頼りなくて、本当に彼女と同じ身体から出ているのかが疑問に思ってしまう程。

 

 雨がずっと付きまとう。傘がぱたぱたと音を立てて、私の耳をつんざいていた。

 

 

 

 

 

 家に辿り着き、彼女を寝かせてあげる。とは言っても既に覚醒しかけだったようで、ぼんやりと辺りを見回していた。

 

「ここは……」

 

 やっぱり、何処か怯えていて頼りない。袖様を思うと本当に……いや、違うんだ。だから私はこう言わなければならない。 

 

()()()()()()、私は多々良小傘」

 

 あなたのお名前は? なんて問う。もしかすると、なんて期待も込めて。

 

「私は──」

 

 

 自分で名乗るのもなんですが、彼女が脳裏に過る。

 

「韮塚袖引と申します」

 

 袖様と呼んでください、という答えは返ってこない。どこかで聞いた名前を名乗る子が目の前にいた。姿形もまるで変わらないのに、その子は、自身を韮塚袖引と名乗る。そのことがとても衝撃的で、思わず身が引き裂かれる。

 何かを言おうとして、言えなくて。しばらく固まっていると、彼女のほうから質問が飛んでくる。

 

「あの……何か?」

 

 首を傾げる彼女。その言葉遣いにも、仕草も違和感があって、彼女はもう韮塚袖引になった。それ以上でも、それ以下でもないんだ。そう実感せざるを得なかった。

 

 だからきっと私以上に、袖様を覚えている人はもういなくなる。じゃあ、忘れないように姿形がまったく変わらない彼女を袖様と呼ぶのか。……それも違う。

 

 ──だから。

 

「ううん、違うの」

 

 ──だから、私はこう呼ぼう。彼女を忘れないように、そして、新しい彼女を決して否定しないように。

 

「袖引ちゃんだから、()()()()だね!」

 

 にっこりと笑顔で、こう告げる。執着なのかもしれない。ただ忘れるのが怖かったのかもしれない。もちろん袖引ちゃんが受け入れられない訳じゃない。けど、こうしないと私が前に進めなくて。

 

 だから、彼女は袖ちゃん。

 

 あだ名呼びが妙に気に入ったのか、ちょっと嬉しそうな表情を向けて、そしてまた曇らせる。どうしたのって聞くとぽつり、と袖ちゃんが声を漏らす。

 

「それと……」

 

 袖ちゃんが、申し訳なさそうにこちらに視線を向ける。

 

「ん? 何かな?」

「ハサミはありますか?」

 

 一瞬声が出なかった。口を開いて、ようやく震える声を絞り出す。

 

「……ハサミ?」

「えぇ……()()()()()()()

 

 もうすでにいなくなってしまった彼女が言っていたこと、その一言を思い出す。

 

「なんなら、失恋したら──」

 

 ぽたりと、雫が床に落ちる。それは、頬を伝って二滴、三滴。それを見た袖ちゃんが慌てる。何か失礼な事言いましたかっ!? って。

 

「ううん、違うの」

「そ、それはよかったです。でもそんな状態じゃ──」

「ちょっと待っててね。今、持って来るから」

 

 声を振り切るように、立ち上がる。冗談で用意していたもの、もし帰ってきていたのなら笑いの種にでもしようと思って、しまっていたものを戸棚から取り出す。

 使うなんて思ってなかった。まさか、こんな事になるなんて夢にも思ってなかった。思いたくもなかった。……けど、それが望みなんだよね。

 

 ──あるよ、とってもいいハサミ。

 

 

 どうやら袖ちゃんは謙虚、というよりも何かに怯えているような感じで、なんでも自分でやろうとしてしまうらしい。持ってきたハサミを受け取ろうとする。でもこれだけは譲れない。たとえ袖ちゃんだろうと誰であろうと、これだけは絶対にゆずれないから。

 

 結局私が切るよ。と押し切った。大事な約束だから。たとえ冗談だったとしても、彼女の約束だから。

 

 ──ちょきちょきと、髪を切っていく。

 

「どうして髪を切りたくなったの?」

「なんと言いますか、そうしなければいけない気がして」

 

 そんな会話をしつつ、髪を切っていく。ちょきちょき、ちょきちょき。

 

 小気味いい音を立てながら、もったいないと、あの時思った髪の毛がこぼれ落ちていく。変わっていく彼女を眺めて、思わず視界がぼやけてしまう。

 雨が絶えず降っていて、蝋燭がぼんやりと揺れる。

 

「本当にいなくなったんだね……袖様」

 

 一粒、雨が頬を伝った気がした。

 

 

 

 

 

 髪を切りおわった彼女はまるで別人のよう。本当に幼く感じて、思わず可愛くなったね。なんて言ってしまう。

 

「そんな、勿体無いお言葉ですよ」

「ううん、よく似合ってるよ」

「そ、そうですか……あの、ありがとうございます」

 

 それが、袖ちゃんとの出会い。きっとその後も色々とあって覚えては無いんだろうけど、私は忘れないから。大丈夫だよ、袖様。大丈夫。

 

 

 

 

 

 本当に色々とあった。袖ちゃんは袖ちゃんで巻き込まれる性格してるから、本当にはらはらさせられるし、力が弱くなってる筈なのに、無理はするし。

 まったくまったく、なんて思って見ていたら、いつの間にか彼女よりも袖ちゃんと過ごした日の方が長くなって……思わず笑っちゃうよね。

 なんとも言えない複雑な感情が、いつの間にか変わっていって。友達を思う気持ちになって。

 

 ──だから、助けてあげなくっちゃって思うんだ。

 

 彼女を家に運んで、寝かせて。頬をつんつんとつつく。うんうんと嫌そうな顔をするのは彼女と変わらない。起きたからお風呂を沸かしてあげて。そして、色々と聞いた。

 一緒に住めたのは楽しかったし、やっぱり彼女とも違うな、なんて思ってしまう。けどやっぱり彼女との生活は楽しかったし、色々と整理もついた気がする。

 

 そうして楽しんでいる内にいつの間にか時が過ぎてて、季節は回って袖ちゃんはここから出て行った。

 

 

 

 そして今日、袖ちゃんが再びやって来た。

 

 何かの決意をした彼女は、出逢った頃の頼りない感じを漂わせながらも、自分でしっかりと地面に足をつけていた。つま先だけ大人になった。なんて言ってもいいかもしれない。

 

 また話を聞く。どうやら異変を起こすらしい。

 彼女の口から邪魔しないで、なんて言われたときはしょっくだった。けど、よくよく考えるとこの子は、誰にも必要とされてないなんて考え方が根底にありつつも、お人好ししちゃう性格なのを思い出す。

 

 はぁ、と思わず漏れるため息。

 

 わっちくらい頼ってくれてもいいじゃない。なんて思っていたら、袖ちゃんは袖ちゃんで新しい関係を作っていて、そこにも頼ったらしいと聞いた。

 

「わっちは一番の後回しかぁ……ひどいなぁ」

 

 ふーん、最初に家を貸したのは私なんだけどなーとか思いつつも、ちょっとむくれつつ言う私。結構意地悪な言い方をしているのは分かってる。けど、こうも言わないと気が済まなかった。

 袖ちゃんがいつものごとくしどろもどろ。ちょっと可哀想かなとか思い声を出そうとすると、袖ちゃんからの一撃。

 

「小傘ちゃんが、一番大切でしたから」

 

 その一撃は私の心に沁み込んで、一瞬にして顔を上気させる。

 予想外の攻撃ならぬ口撃を喰らい、よろめく私。ちょっとときめいちゃった。

 

「袖ちゃん……あの、その、ずるいよ?」

「はい……はい?」

 

 んー、本当に分かってないよねこれ。私の意図本当にいつも汲んでくれないよね。なんて思いつつも、呆れはしない。いや、少し呆れてる。だって、この子以前からずっとそうだったし。

 自分への愛情がきっと信じられないんだと思う。誰よりも袖ちゃん自身がきっと、自分の事を好きじゃないから……

 もう少しだけでも袖ちゃんは、袖ちゃん自身のこと好きになってもいいんじゃないかなーとも思う。けど、一番愛して愛されたであろう時期を彼女が知らない。だから彼女は鈍感なんだと思う。

 

 だから、少しでも彼女が袖ちゃんを好きになれるように、素直な言葉を口にする。

 

「ありがとう袖ちゃん。私、うれしいよ」

 

 いつか届けばいいな、なんて思いながら。

 

 

 

 

 閑話休題しての本題。彼女自身が抱える問題について。

 

 それは、袖ちゃんの消滅の危険と、選択肢のお話。心の中では分かってたことだった。あの後、博麗の巫女にも言われていたことだった。こうなるかもしれないって。

 だから、私は私に出来ることをするしかない、するしかないんだけど……

 

 居住まいを正して、袖ちゃんを見る。そして、私の本心から話していく。

 

「私はね、袖ちゃんが消滅だなんて本当は信じたくないの。そしてね、きっとどちらかを選ぼうと袖ちゃんが悩んでいるのもわかるの」

 

 袖ちゃんがどちらを選ぼうと私は味方になるつもりでいる。けど──

 

「……どっちかを選んだら、私の知ってる()()()()()じゃなくなるのも理解してる」

 

 現状の彼女である韮塚袖引は間違いなく居なくなってしまう。その事に私も引っ掛かりを覚える。覚えてしまっていた。

 ずっと疑問だった一つの事。袖様が彼女が帰って来るかもしれないのに、どうしてこんなにも私の気分は浮かないのだろうって。

 結局、この言葉を口にするまで分からなかった。()()()()しか見てなかった私には、袖引ちゃんから目を逸らして来た私には分からなかった。……ひどいのはどっちだ。

 

 口に出してみて、ようやくわかる私の本心。

 

 ──あぁ、私は袖引ちゃんに消えて欲しく無いんだ。

 

 ずっと一緒にいて、馬鹿なことやって、遊んで。今まで一緒に歩いて来たことが泡沫のように浮かんで消える。

 こんなにも大事になっていただなんて気がつかなかった。今までずっと()()()()を見てきて、韮塚袖引ちゃんという子を見ないようにしてきたけど、こんなにも私の中で大きくなっていただんて気がつかなかった。

 

 消えそうになって初めて分かるなんて、私も馬鹿だな。なんて思う。

 目の前の袖ちゃんは親友で、彼女とは違う。だから袖様の袖ちゃんじゃなくて、韮塚袖引の袖ちゃんをちゃんと認めていく。……ううん、違うよね。彼女は彼女。どっちとも袖ちゃんだから、どちらとも彼女だから、私は大事なんだと思う。

 

「本当にどっちもは選べないの?」

 

 なんて聞いてしまう。大事だから、私は袖ちゃんと一緒に居たい。

 けれど、袖ちゃんは静かに首を振る。その仕草が何故かやたらと懐かしくて彼女と重なる。だからだろうか言葉が零れる。そっか、と空気に置いていく言葉を探しながら、思いの丈が零れてしまう。

 

「また、いなくなるのかな……」

 

 それは、彼女の突然のさよならと、目の前の子が重なってしまった結果で。それが袖ちゃんにとって酷い事なのは分かってる。でもこぼれてしまって……泣く権利なんてきっとない筈なのに、もう一つこみあげてくるものがあって。

 

 袖ちゃんが抱きついてくる。

 

「小傘ちゃん、ごめんなさい」

 

 泣いてるのに気づかれてしまったのだろうか。小さい体に腕を回す。

 

「ううん、違うの……違うんだよ、袖ちゃん」

 

 謝るのは私の方で、ずっと彼女を通してでしか見てこなかった私が悪いのであって、彼女は悪くない。そう言いたいのに言葉が出て来なくて。

 

 違うんだよ、袖ちゃん。私が悪いの。

 

 ずっと、そう心の中で呟いていた。

 

 

 

 ひとしきり袖ちゃんの身体に抱きついて、泣いて。私は決心を固める。

 

 ──私は、最期まで彼女の味方でいよう。

 

 もし、もし、私が本当に選ぶのだとしたら、もう一度彼女に会いたい。

 けど、袖ちゃんが違う道を選ぶのならそれでもいい。私はどこまでだって付いていこう。袖ちゃんの事だ。きっと、どんな道を選んでも転んで泣くときもあるだろうし、その度に雨よけになってあげればいい。

 傘だから大したことは出来ないけれど、彼女が望む限りずっとそばにいよう。

 

 晴れの日は笑って、雨の日は雨避けになりましょう。

 風の日はちょっと邪魔かもしれないけれど、一緒ならきっと楽しいだろう。

 雪の日は、一緒に凍えよう。

 槍の日があったら、きっと思い出になる。

 

 

 彼女が歩く道の側で笑いましょう。ずっとずっと永遠に。

 

 

 

 

 これが私の決心。今まで見てこなかったものを彼女と一緒に見に行こう。()()()()と一緒に遊びましょう。

 

 ──()()が望む最後まで。

 

 

 

 

 これが私の決心。異変に参加しても、何が起きても変わらない。例え、巫女だって止めてみせる。袖ちゃんがそう望むのなら。

 

 

 

 夕焼け空を見て思う。曖昧で、誰にも優しいこの時間。──この時間が、続きますようにって。

 

 

 ここまでが私のお話。あとはきっと彼女自身の問題だから。それを近くから見守ろうと思うの。きっと誰よりも私が袖ちゃんの事を好きだから。

 

 最後は彼女に倣ってこう言いましょう。

 

 

 ではでは、次回も()()続きお楽しみ下さる事を、願っております。出来る事なら最後まで。

 

 

 

 

 もし、もしも、袖ちゃんが袖ちゃんのままでいられるとしたら……彼女の現状を、現状のまま助け出せるとしたら。

 

 その役目はきっと妖怪である私ではなく──

 

 




aimerさんのref:rainを少しイメージしたお話。

そして正妻力を見せつけていくのです。

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