【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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Stage3  虹と風の通り道 ボス

 ──古びた箪笥。中にはハサミがある。

 ──彼女との、思い出がそこにはある。

 

「忘れないよ」

 

 忘れられない。忘れるわけがない。『今』をくれたのは彼女だったから。

 人と私を繋ぐ勇気をくれた、あなただから。

 

 私、多々良 小傘 雨宿りをしています。

 

 ぽつぽつと雨が降っている。快晴の夕暮れにずっーと雨が降っている。それは、私の傘じゃ防げないもので、ただ見ていることしか出来なかった。

 ふと、袖ちゃんの顔が目に入る。寂しそうで、けど晴れやかな面持ち。もう戻る気はないのかな。

 

「──ねぇ、覚えてる?」

「はい? なんでしょう?」

 

 届くと思ってなかった独り言を、袖ちゃんに拾われる。

 

「むぅ、聞いてたの? 袖ちゃん」

「覚えてる? 何か忘れものでもしてましたか?」

「……うん、大事なものをたくさん」

 

 えぇ!? と慌てる袖ちゃんに冗談だよ。と告げて、彼女を見る。

 目に見えて髪が伸びている。それはそう、袖様の力に寄るものなのだろう。懐かしい面影に涙が出そうになる。

 けど、これは彼女の物語だから。

 

 楽しそうな彼女の背中をずっと追っていた。

 

 

 

「──みんな聞いて」

 

 こう言っていたのはフランちゃん。袖ちゃんが色んなところに挨拶にいっているときの事。

 

「これは、袖ちゃんを助けるために必要なことだから」

 

 神でも、妖怪でも、人間でも無い彼女。

 それは倒された時点で、そのどれかに存在が確定してしまうから、逃げ回るよ。ということ。

 

「逃げ回ったら消えちゃうじゃない」

 

 これは影狼ちゃんの声。

 

「そう、でもね。袖ちゃんを袖ちゃんのまま倒して異変を解決出来る人がいるの」

 

 

 ──魔理沙だよ。

 

 

 その名前を聞いたとき、ふっと憑き物が落ちた。

 虚脱を感じるといえば嘘じゃない。救いたかったといえばそれはホントのこと。

 けれど、まだ助かる道があることも嬉しくて、それが私じゃないのが寂しいだけだ。きっとそうに違いない。

 

「霊夢は妖怪としてを確定させようとしてる。早苗辺りはもしかすると何か仕掛けてくるかもしれない」

 

 袖ちゃんを袖ちゃんのまま維持するには、彼女と長く過ごしていて、使命も後ろ楯も勢力図も持っていない人物。

 だから魔理沙が必要なの! そう告げていた。

 

 

 

 

「私がやる。これは誰に譲れない」

 

 妹紅さんが行った。

 

「ここは私に任せておきなさいよ。ばっちり引き受けるから」

 

 そうやって、影狼ちゃんたちは繋いでくれた。

 

 

 私はずっと選択肢の上に立っていた。行くかどうか。

 欲を言えばずっと見ていたい。ずっと終わる瞬間まで側にいたい。けれど、きっとどこかでお別れは来る。

 だって、彼女は変わる前も変わった後も人気者だもの。私は置いていかれる、きっとまた。

 置き傘は忘れ去られる運命なのだから。

 

 もう袖様についてはお別れは終わってる。箪笥の中に確かに残ってるから。

 だからだろうか、早苗が来た時にすとん、と胸の中の何かが落ちる音がしたのは。

 

 ──袖ちゃん。これはあなたを通して『彼女』を見ていた事の罪滅ぼし。

 

 

 言葉もなく私は前に立つ。

 言うべきことはもう終わってるから、彼女には一言だけ告げる。

 

「ここまで、ありがとう」

 

 ちゃんと笑えていればいいけど。そんな事を思いながら私は自分から離れていく。

 

 大丈夫だよ、ちゃんと役割は果たすから。

 

 そんな事を思いながらフランちゃんに目配せする。すると意を汲んでくれたのか、すぐさまに飛び去ってくれた。

 名残惜しそうに早苗が飛び去った方を見ている。

 

 最後の一瞬だけ目が合ってしまった袖ちゃんの表情を思い出すと笑えてしまう。そんな悲しい顔しないで欲しかったな。こっちが笑顔で送ってるのだから、ちゃんと笑って欲しかった。……なんて。

 

「ねぇ、早苗?」

 

 失敗したなぁ、なんて思いながら彼女に語り掛ける。

 夕暮れに色合わせしている瞳が、こちらを向いた。

 

「これからどうするつもり?」

 

 彼女も泣いているなぁ、とか思いながらも話を聞くと、早苗もまた袖ちゃんを助けるつもりらしい。

 やっぱり人気者だ。それが嬉しいのに、何処か心にすきま風が吹いている。

 

 だからかな。とても早苗の言葉が煩わしくて少し苛立ってしまう。

 

「けどね、あなたじゃ無理。ううん、私でも他の人でも」

 

 思えばいつだって失敗ばかりだ。袖様の時も、真実を知って袖ちゃんが傷ついたときも。今回も。何一つ成功していない。

 

「袖ちゃんはね、諦めてる。傷ついて、悩んで、消える事を受け入れてる」

 

 だから、救えるのが私じゃないと知ったから納得してしまったのかな。

 

「妖怪か、神か、袖ちゃんは選ばなかった。ううん、選べなかった。変わることは彼女にとって失うことだから」

 

 私の側でも、あなたの側でもなく消える事を選んだ。変わりたくなかった。それが彼女の答え。

 

「だから、私は私の役割を果たすわ」

 

 あとはこれだけで終わりだと思っていたから。思っていたかったから。

 

 きっと早苗の言葉が深く突き刺さったかもしれない。

 

 

「あなたの役割ってなんなんですかっ!? だって、だったら、袖引さんの側にいてあげたほうが!!」

「──っ!? そんなの……そんなの、わかってるよっ!!!」

 

 声をあげてしまった自分が一番驚いた。こんなのがどこに隠れていたのだろう、と思えるような怒涛の感情が堰を切って溢れだしていく。

 

「私が側に居たくないと本当に思ってるの!? 私が袖ちゃんを助けたいのっ! でも、それは私でも、あなたの役割じゃないのっ!!」

 

 あぁ、そうだった。本当は私が彼女を助けたくて。本当は本当はずっと側に居たくて、だから選んで欲しくって。

 駄々をこねるように、弾幕が空へと散らばって消えていく。決して届かない。

 

「救うのは……私でも、あなたでもないっ!!!」

 

 ずっとずっと悔しかった。力になりたくて。力になれなくて。もどかしい気持ちだけが募って積もって。

 

「──救うのは、袖ちゃんを止められるのはっ!!!」

 

 私は袖ちゃんを──

 

「魔理沙なのっ!!」

 

 

 助けられないから。

 

 

 諦めと共に放たれた弾幕は綺麗じゃなかった。それが目の前に広がって、私の視界を埋め尽くしていく。

 淀んだ雨が広がって、白く白く視界が、未練が消えていって、そして最後には何も無くなる。それでいい。それで──

 

「そんなもので、諦めるんですかっ!!??」

 

 突風が吹き付けて雨雲が取り払われるように。

 声が、奇跡が私の元へ飛び込んでくる。

 

 

 スペルカード「海が割れた日」

 

 

 弾幕が真っ二つに切り裂かれて、彼女の顔が目前に迫った。何故だか泣いていて、その涙のせいで私まで目元が熱くなる。

 

「彼女のことをそんな、そんな簡単にっ!!」

「諦めてなんかっ!! 私は彼女に泣いて欲しく──」

「あなただってっ……あなただって泣いているじゃないですかっ!!」

 

 必死な顔が目の前に飛び込んで、私をはたく。

 

 ──上手く笑えているといいけど。

  

 別れの時、確かにそう思っていた。他人事の様に、まるで他の誰かのように。

 別れてしまうのが、袖ちゃんと自分でないかのように。

 

 ──あぁ、そうだった。

 

 笑ってなんかいない。ずっとずっと泣いていたんだ。

 寂しかった。消えてしまうのが嫌だった。彼女が消えてしまうのが何よりも嫌だった。悲しくて悲しくて仕方ない。

 

「あ……そうだった。そう、だったよね」

 

 頬を伝うものをようやく自覚する。

 

「私は、袖ちゃんとお別れするのが嫌なんだ……」

  

 救うのが誰でもいい。側にいるのが私じゃなくてもいい。ただ、ただ彼女に笑っていて欲しかった。

 

「小傘ちゃん」

 

 そう言ってふにゃり、と笑う顔が透きだったから。

 

 一度流れると、自覚するともう止まらない。止めどない涙がぽろぽろと溢れては頬を伝っていく。

 

「どうして、袖ちゃんの周りは本当にこういうのばっかりなんですかっ!? なんなんですかっ!! 本当にもうっ!!」

 

 早苗がそんなことを言っては、手を差しのべてきた。

 

「私には秘策があるんです。いいですか? そちらの策も、こっちの策も彼女を救える可能性はあるんです!」

「………でも」

「でも、も、だってもありません!! いいですか? 私は巫女です。諏訪神社の巫女です。神の身許である限り何度だって奇跡を起こしてみせますよ!!」

 

 ──だから、信じてください。

 

 押し切られたといえばそうなのだろう。信じてみようという気持ちと足踏みする気持ちがせめぎあっている。

 

 けど、確かに私の雨を割ったのは彼女だから。

 

「……信じて、みようかな」

 

 信じてみるのも悪くない。そう思わせるから。

 弾幕ごっこは美しいと思った方の負け。だから、もう負けている。

 けど、ここでけじめをつけないと、晴れにしていかないといけなかったから。彼女の為に、そして何よりも自身の為に。

 

「──早苗、これが私のラストカードにするね」

「……はいっ!!」

「ちゃんと、避けてねっ!!」

 

 ずっと雨が降っていた。空が晴れていても、彼女の中では止むことはない。

 

「だからね。──届いてっ!」 

 

 ──虹府「オーバー・ザ・レインボー」

 

 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色が空を駆け抜ける。

 夕暮れに浮かぶ色とりどりの弾幕が私たちを包んでいく。正真正銘、全身全霊の一撃。

 

 彼女の泣き姿は目に焼き付いているから。

 あのときは何も出来なかったし、今回もきっと何も出来ないだろう。

 けど、もう迷わない。私の役割はいつだって雨避けだから。

 

 

 泣き止むまで一緒にいるから。

 どこにいってもいい。側にいなくてもいいから。

 

 

 せめて、最後は笑っていて欲しい。そう思うんだ。

 

 

 

 

 晴れ渡った夕焼けに、大きな大きな虹が掛かった。

 

 

 

 

 

 

 すべて裁き切った後に、早苗が降り立つ。

 

「引き分け、ですね」

「……いいの? それで?」

「あんなに綺麗なもの見せられちゃ、文句も出ませんって!」

 

 ぽかんと口を開けた私に笑い掛ける彼女。

 なんだか晴れやかな気分だ。

 

「──さて! まだ追い付けるかもしれませんよ? ってことで行きましょう!!」

「え? え????」

 

 ぐい、と引っ張られたと思ったらもう空にいる。

 本当に強引な風が、私の雨雲をどっかにやっちゃったみたい。今は笑顔すら溢れてる。

 

「いきますよー! 掴まっててくださいね!」

 

 笑い声が響いて夕暮れに消えていく。楽しくて、ワクワクする。間に合うかもしれない。なんとか出来るかもなんて希望もある。

 そんな夕暮れだってあるんだよ? って伝えに行かなくちゃ。

 

 ──待っててね。今度はこっちから側にいっちゃうんだから!

 

 

   

 

 

 

 

 夕陽が強くなる。沈む前の最後の煌めきなのかもしれない。もうすぐ暗闇がやって来る前に急がなきゃ。

 

 虹の掛かった空に背を向けて歩いていく。速度をあげて、ちょっとだけ元気に。

 

 水溜まりに写る顔が、少し笑っていたように思えるから。




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