【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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Stage4 吸血鬼のコンティニュー

 暗い部屋の中、私は光を見た。

 一つは強烈で、すべてを壊していくもの。

 一つは優しく、外に引っ張り出してくれたもの。

 

 私はどちらとも手離せないから。

 どちらも大事なものだから。

 

 

 私、フランドール・スカーレット 怒ってるわ 

 

 

 早苗が来て、小傘ちゃんと別れた。

 何も言わなかったのは彼女なりの決意だと思ったから。私も覚悟を決めた。

 

 彼女の力がある限りこの空は夕暮れのままなのに、背後に何かがいる。

 夜が迫ってきている。そう感じてしまっている。

 ぐい、と袖ちゃんを引っ張ってどこまでも飛んでいく。離れないように、離さないように。

 

「フランさん、もう大丈夫ですよ」

 

 止まる私と、静かな表情の袖ちゃん。

 

「もう……人里が見えました」

 

 眼下に広がる夕暮れの町並み。彼女の日常。ここは彼女の始まり、終わりの場所。

 

「本当に、本当にありがとうございました。ここまで引っ張って来てくれて」

 

 ただ、深々とお辞儀をする彼女を見つめている。

 

「今日という日は本当に楽しかった。本当に本当に楽しかったです。一生の、思い出ですね」

 

 夕陽を背負いながら、それはとても儚げで。

 

「もうそろそろお時間ですね。私が私でいるこの境界線。この素敵な時間は終わりになります」

 

 満足げな表情に、声が出せなかった。

 

「ですから、フランさんもここでお別れ」

 

 息を吸って、吐く。

 別れることは分かっていた。私はここでやることがある。

 

「わかった。袖ちゃん。私はここで行くね」

「えぇ、本当にありがとうございました」

「このあとはどうするの?」

「もう、一つだけ行きたいところがあるので。そちらに」

 

 連れていってはくれないの、と言いそうになる。それをぐっと呑み込んで笑顔をつくる。

 

「わかった!」

 

 袖ちゃんが口を開きかけたのを見計らって、口を挟む。

 

「でもね、私はまだ諦めてないよ? 袖ちゃんのことも()()()のことも」

「……ありがとうございます。でも、私は」

「知ってるよ。………知ってる。けど、それでも私は諦めないって決めたから」

 

 柔らかな光の下で私達は向かい合う。

 私のわがまま。好きなことをするから。他人の為に動くこと。これはね、あなたが教えてくれた強さなんだよ?

 

「だからね待っててよ。引っ張り出して、必ず行くから」

 

 

 飛び立つ袖ちゃんを眺めて、くるり、と方向転換。

 無理はしている。日中にいるということが私にとって、吸血鬼にとって、どういうことを意味するかはわかっている。私も同じように時間がない。急がないと。

 向かう先は分かってる。

 

 もし、同じ立場なら、私も同じようにするからだ。

 

 見慣れた風景を突っ切って、空から一直線に目的地へ。もう、迷うことはないから。アイツを説得して、表舞台に引っ張り出す。私がやることはこの一つ。

 

 

 

 今朝のことを思い出した。

 

 出発するまえに、眠そうな目を擦りながらお姉様が語りかけてきた。

 

「フラン、いくの?」

「うん、ここでいかないとずっと後悔しちゃうから」

 

 日光のもとに出ることも、その後しばらくはうごけなくともいい。ただ、黙ってただ待ってるのはもう嫌だったから。

 そう、と何か考え込んだ後、お姉様は言う。

 

「何も出来なくても?」

 

 意地悪な質問だ。そう思う。けどもう決めたから。

 

「私は袖ちゃんの()()だから」

 

 にらみ返してやる。全部撥ね付けてでも彼女の下に向かう。

 しばらく向かい合って、お姉様はため息を一つ。その表情は満足気だった。

 

「好きにしなさいな。袖引にもそう言ったからね」

「ん、行ってくるよ。お姉様」

「待ちなさいな。餞別をあげる」

 

 最後に一つだけ。とお姉様は言う。運命を操る程度の能力を持つお姉様の言葉。

 

 ──アイツを立ち上がらせなさい。それがきっと解決の助けになるわ。フラン。

 

 その言葉を背中に、固く閉ざされた扉を開け放ち、飛び立った。

 

 

 

 

 

 茜色が空にしなだれかかる。切れ切れになった雲が霞んで、藍、紫と混じりあう。

 

 影が長く伸びて、玄関に差し掛かっていた。

 

 一人の影と、そこに降り立った二つ目。

 

「──袖ちゃんは外出中だよ。魔理沙」

 

 

 いつもの場所。いつもの風景。見慣れた彼女の家。

 人里の外れにぽつんと建っている服屋で、私達は向かい合った。

 

「……用があったわけじゃない」

「嘘つき」

 

 目を逸らす彼女をにらみ続ける。

 

「知ってるよ、喧嘩したことも、気になってることも」

「知らないな。誰のことだ?」

「……あっそ」

 

 埒があかないと、ポケットから地面へとコインを落とす。

 ちゃりん、と転がる音。

 

「コインをあげるわ。魔理沙」 

「生憎と私は乞食じゃないんでな。いらないぜ」

「知らないわ。もう使ってしまったもの」

 

 一瞬だけ黙る彼女。期待してなかったといえば嘘じゃない。いつものように飄々と異変に参加して、解決話を持ってきてくれるのを期待していた。

 ──けれど、悲しいことに、それは私の期待だけでしかなかった。

 

「知らないぜ。諦めな。コンテニューは、ない」

 

 そっぽを向く彼女。

 我関せずなら諦められた。完全に腑抜けてしまっているなら、まだ納得できた。けど、この場所にいて、彼女は目を逸らしつづけている。

 逸らした先は、袖ちゃんの家だったから。

 

「異変を起こしてるのが袖ちゃんでも?」

 

 こんな分かり切ってることなんて聞きたくなかった。どう返されるのかもわかるのに、つい口をついて出た。

 

「もう、私は諦めた」

 

 かっ、と目頭が熱くなる。悲しいのだ。どうしようもなく。

 私の扉を開いてくれた人が、こんなことを言うなんて聞きたくなかった。

 声がなるべく震えないようにしても、我慢できていないのが、自分でもわかってしまう。

 

「知らないわよ。諦めることは出来ないわ」

「私は──っ!?」

 

 言葉に詰まる魔理沙。

 

 ──あぁ、本当に。二人みたいに格好よくなんて出来ないよ。

 

 ポロポロと涙が溢れるのが分かる。本当にみっともない。全然格好良くない。

 

「知らないわ。本当に……袖ちゃんの気持ちも、魔理沙の気持ちも知らないわよっ!」

 

 夕焼けに吸い込まれる声。

 

「二人共勝手で、私に何にも言わないでっ!! 知らないっ、知らないよっ!!」

 

 こんな子供みたいな事をいうつもりじゃなかった。ただ冷静に諭して、袖ちゃんを助けてもらえればそれでよかったはずなのに。

 ぼやけて見える視界の中、魔理沙は頭を乱暴に掻き乱していた。 

 

「あぁ、もうっ!! 私だって!!」

 

 そう言いかけて魔理沙は押し黙る。

 無理矢理作り出した沈黙の中、魔理沙は地面へと手を伸ばす。

 

「……いいぜ、拾ってやる。ただ、私が勝ったら、もう諦めてくれ」

 

 そうやって拾ったコインを空中へと放り投げる。

 落ちていくコインはどこか彼女の心境のようで、つい動きが止まる。

 はっ、と気づいたときにはもう魔理沙は構えていた。

 

「待っ──」

「スタートだ」

 

 ちゃりん。と再びコインは、音を鳴らした。

 

 その音を皮切りに、瞬時に身を引く。間一髪、居た場所に光弾が殺到していた。

 距離を取ろうとすると、それを読まれたのか突っ込んでくる。突進をいなし、なんとか間合いを保つと、魔理沙はため息をついた。

 

「まったく。今ので倒すつもりだったんだけどな」

 

 パチュリーの本を盗みにきたときに何度か撃退しているので、お互いに手の内は分かっている。

 けど、そうではなくて。

 

「時間が無いの! 止まってよ魔理沙!」

「はっ、そうかよ! どうせ霊夢辺りが解決するだろうよ」

「それじゃ駄目! 袖ちゃんがっ!!」

「助けたかったんだよっ! 私だって!!」

 

 感情を弾幕に乗せて戦いが続く。

 

「私だって、最初に手を伸ばしたさ! けど、袖ちゃんそれを蹴った!」

 

 一枚目のスペルカードが切れる。

 

「いいじゃないか、一回くらいは参加しなくたって!

霊夢も早苗もいるだろ!」

 

 二枚目を避けきって。

 

「私じゃなかっただけだ。今回救うのは、救いたいのが私じゃなかっただけだ」

 

 宝剣を顕現させて、弾幕を凪ぎ払った。

 

「──嘘吐き」

 

 魔理沙の動きが止まる。

 

「嘘吐き。そんなことちっとも思ってないでしょ!」

 

 こんなところで見つかるわけがない。

 諦めたなんて彼女は言ってたけど、諦めてたらこんなに必死に応戦はしない。

 何よりも──

 

「自分に言い聞かせてるの……止めようよ」

 

 ずっと吐く言葉が自分に向けられていたから。どうにか納得できる理由を探そうと足掻いていたから。

 それが、とても羨ましく見えてしまう。

 

「私が何にも出来ないのは知ってた。お姉様も分かってて行かせてくれた」

 

 それでも私は諦められなかったから。何かしたかったから。いまここにいる。

 

「魔理沙が諦めないでよ……どうにかできる魔理沙が諦めないでよっ!! それくらいで……一回拒絶されたくらいで諦めるなら代わってよ!! 何もしないなら代わってよ!! 私が全部やる。私が全部やるからぁ……」

 

 もう声もかすれてきた。内側に持てるものを吐き出すのも、諦められない願いがあるのも初めてだ。すごく身体が重くて、頭が回らない。

 

 ──今まで諦めていたから。今まではずっと閉じ籠っていたから。

 

「魔理沙のっ………ばかぁ!!!」

 

 諦めの象徴だった扉を壊してくれたのは、魔理沙だったから。悔しくて悔しくて堪らない。

 

「………馬鹿、か」

 

 ぼやける視界の中で、確かにその声が聞こえた。

 

「勝手に決めて、勝手に諦めて……」

 

 空を見て佇む魔理沙が見える。

 

「なぁ、フラン。今の私って情けないかな?」

「うん……すっごくかっこわるい」

「そっか……そうだよな」

 

 彼女は深く帽子をかぶり直す。

 

「いつの間にか、同じことしてたな」

 

 ──わかったよフラン。

 

 口元には不適な笑みが浮かんでいる。

 いつもの魔理沙が帰ってきた。そう感じさせる表情で晴れやかに帽子をあげる。

 

「コンティニューだ。フラン」




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