【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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長らくお待たせ致しました。

ノロノロと完結まで頑張ります


Stage4 魔法使いのコンティニュー

『追いついたぜ』

 

 ずっと言えなかった言葉を吐いた。

 

『待ってました』

 

 既にボロボロの彼女はそれでも微笑む。

 

『楽しい時間にしましょう』

 

 そして遊びに行った時の様に彼女は──

 

 

 私、霧雨魔理沙 『追いかけているぜ』

 

 

 道端の小石を蹴り上げる。いきなりの事に慌てるようにてんてん、と跳ねては草むらへと逃げ込む。何の空虚感か、ともかく腹いせに空を蹴った。

 戻るにも戻れなくて、影を辿ろうにも既にそこは遠かった。結局振り返ることすらせずに立ち止まっては歯噛みする。思わず溢れそうになる涙を飲み込んだ。

 

 

「なんだよ、関係無いなんて」

 

 喧嘩別れした時のことを思い出していた。

 彼女が悩んでいる事は分かっていた。その中身も薄々と。だからこそ力になれると思っていた。異変をいくつか解決し、妖怪とも神とも対等に渡り合える私だから。

 でも違った。そうじゃなかった。

 

 じりじりとした長い夕焼け。冬の名残と、春の儚さが同居した日暮刻。立ち並ぶのぼりを眺める。そろそろ店じまいをしようか悩む人々や、帰らず済むと大言を吐きながらもう一つと徳利を頼む声。騒然たる状況を横目に早足で通り過ぎる。

 目指すは里の外れ、最近は二の足を踏んでは結局足を運ぶことを辞めていた呉服屋。

 「しばらくお休みします」と書かれた貼紙を見て、自分の勘が冴えていることに眉を潜めた。

 

「………そうだよな」

 

 やっぱり、と呟くと空を仰いだ。心が落ち着かないのは、足元の影がいつもよりも長いせいだ。

 だから、これは関係のない話。霊夢が解決するだろうし、そうすれば私は気まずい思いはしなくて済む。

 それでいい。それがいい。

 

 いつだってそうだった。彼女は勝手に決めてはいつの間にか先にいる。

 ずっと見てきた。背丈を追い抜いたときに喜んでくれた時も、家を出るって決めたときも、彼女は背中を押してくれた。そして、異変を解決した時もいつも彼女は分かってるように頷いてくれては気を回す。ずっとだ。ずっと私は背中を見てきた。

 ようやく並び立てるってところに来たと思っていたら、彼女は居なくなると抜かす。

 

『邪魔したな』

 

 歯痒くて歯痒くて堪らない。ふざけるなと言って揺すってやりたい。手を伸ばしてくれれば、こっちを頼りさえすれば今ならなんだってしてやるのに。

 

「馬鹿、か………」

 

 あのとき、そう言えれば何かが変わったのかもしれない。意味がないことは分かっているのに後悔は止まらない。

 結局、どこにもどうにもならない事を悟ってはため息を漏らす。

 

 

「ねぇ……あのとき助けてって言ってさえくれれば」

 

 結局は分かっている。分かっているんだ。けれど、もうどうにもならない。

 雁字搦めになって動けなくなって、ついには舌打ちだけが漏れる。くそ、と悪態をついても返事は来ない。

 

 背を向けようとしたところで誰かの気配に足を止めた。

 

「──袖ちゃんは外出中だよ。魔理沙」

 

 追いかけないの、と空から声が降って来た。その方向を睨みつけると、宙に浮かぶ金色の吸血鬼。

 

「……用があったわけじゃない」

「嘘つき」

 

 即答に眉を潜める。

 

「知ってるよ、喧嘩した事も──」

 

 フランが話し始める、私の愚かさを透かすように。

 ──あぁ、そうだ。

 

『まだ、まだ……そんなに頼りないのか』

 

 嘘を吐いた。喧嘩もした。あの時も、今も。

 

 ──わかってる、わかってるんだよ。もう嫌という程に。

 

 けれど、あの否定が怖かった。私の伸ばした手をもう一度振り払われるのが怖かった。何処かへ行ってしまうのだって怖い。でも、私は……この手が空を切ることを何よりも恐れている。

 

 フランの問いにそっけなく返していく。

 

「私はもう、諦めたんだ」

 

 感情のない声を出したかった。それだけ。少し震えたかもしれない。

 目の前にいるフランドールは何も気にせずに喚きたてる。

 

「知らないわよ、諦めることなんて出来ないわ」

「私は──っ!?」

 

 人の気持ちは知ってか知らずか、ずけずけと踏み込んできた彼女に思わず声を荒げた。

 まだ荒げられる気力があった事に驚いているとついには向こうが痺れを切らした。

 

「知らないわ、本当に……袖ちゃんの気持ちも魔理沙の気持ちも知らないわよっ!」

 

 溢れ出した感情の行き場を示すように、夕陽が彼女の目元を光らせる。

 

「二人共勝手で、私に何にも言わないでっ!! 知らないっ、知らないよっ!」

 

 奥歯をぎり、と噛みしめる。そのまま黙っていたかった。そのまま無視できるものならしたかった。

 でも、身体は、心は、そうはならなかった。

 

「あぁ、もうっ!! 私だって!!」

 

 無気力でいられるならそうしたい、けれどどうにもならない気持ちがぐるぐると渦巻いていて気持ちが悪い。

 その気持ちを発散するべく、投げてきたコインを拾いあげ宙へと放る。

 

 私が彼女にぶちまけるように光弾を放った事で、弾けるように戦いが始まった。

 しかし、不意打ち気味の高速弾を彼女はあっさりと避ける。

 

「まったく。今ので倒すつもりだったんだけどな」

 

 瞠目したフランが慌てたように叫ぶ。

 

「時間が無いの! 止まってよ魔理沙!」

「はっ、そうかよ! どうせ霊夢辺りが解決するだろうよ」

 

 自嘲気味に笑い飛ばす。言い聞かせたかった。きっと──

 激しい反撃をかいくぐり、互いに火花を散らす。

 

「それじゃ駄目! 袖ちゃんがっ!!」

 

 誰かがやる。私がやらなくたっていい。そう言って欲しかった。

 あの時の払われた手の感触がまだ残っている。 

 

「助けたかったんだよっ! 私だって!!」

 

 あの悲しい表情も、影の掛かった思いも、全部、全部っ!!

 

「私だって、最初に手を伸ばしたさ! けど、袖ちゃんそれを蹴った!」

 

 激情のままにスペルカードを切る。

 

「いいじゃないか、一回くらいは参加しなくたって! 霊夢も早苗もいるだろ!」

 

 のべつまくなしに喚く。

 

「私じゃなかっただけだ。今回救うのは、救いたいのが私じゃなかっただけだ」

 

 本当に言い聞かせたかったのは……私だったから。

 

 

「──嘘吐き」

 

 フランが炎剣を現出させ、弾幕と共に一蹴した。

 

「嘘吐き。そんなことちっとも思ってないでしょ!」

 

 思わず動きが止まる。見上げると真っ直ぐに見つめる双眸があった。

 その目は悲しさをたたえていて、それが彼女と重なった。

 

「自分に言い聞かせてるの……止めようよ」

 

 ズキン、と言葉が胸に突き刺さる。

 

「私が何にも出来ないのは知ってた。お姉様も分かってて行かせてくれた」

 

 まるで血でも吐くように、悔しくて悔しくて堪らないといったように彼女は訴える。

 

「魔理沙が諦めないでよ……どうにかできる魔理沙が諦めないでよっ!! それくらいで……一回拒絶されたくらいで諦めるなら代わってよ!! 何もしないなら代わってよ!! 私が全部やる。私が全部やるからぁ……」

 

 真っ赤な瞳から滴が零れる。

 それは今の私には無くて、彼女にだけあるもの。

 

「魔理沙のっ………ばかぁ!!!」

 

 だからこそ、この言葉は重く、辛くて、そして何よりも真っ直ぐに伝わって来た。

 

「……馬鹿、か」

「勝手に決めて、勝手に諦めて……」

 

 夕焼けを眺めて思い出す。悲しげな表情を浮かべて笑う彼女を。

 あの日の訣別も同じだった。彼女が勝手に決めて、こっちも勝手に援けたくて。

 

「いつの間にか、同じ事してたな」

 

 わかったよ、と呟いて空へと浮かび上がる。

 本当は向こうがどうあったって構わない。私が決めるべき事だったのに。

 

 ──私は、袖ちゃんとこれからも生きていきたいから。

 

「コンティニューだ、フラン」

 

 そうして笑いかけると、戻ったね、とフランもへにゃりと笑う。

 

「うん、袖ちゃんによろしくね」

 

 相当無理していたのか、そのまま力なく日陰に隠れて手を振ってくれている。

 それを尻目に彼女の居そうな方角にアタリをつける。向かう先は異変の首謀者。それをぶっ飛ばして、皆笑顔で宴会を迎える。それだけだ。

 ようやくらしくなってきたと、自身に活を入れつつ箒の速度を上げる。人里ののぼりもどんどん遠ざかる。

 

 夕陽が強い。影が色濃くなっていく。どんどんと落ち続ける斜陽へ走っていく。

 不安はある。妖怪だってあやふやな存在だ。あやふやな存在の境界がおかしくなる。それはどれだけ危険な事なのかわからない。

 

 どんな結末であっても、私は見届けたい。涙はきっとその後でもいいはずだ。

 

 星を見せてくれた人がいる。背中を押してくれた人がいる。

 背が伸びて追い越しても、いたずらしてもずっと笑って怒ってくれた人がいる。

 ずっとずっと泣いていた人がいる。私はそれに全然気づくことは無くて、気づいた時にはもうこんなにも手遅れ一歩前だ。後悔も悔しさもある。

 

 だから全速力でいかなければならない。真っ先に駆けてこの夕焼けに一番星を灯すんだ。 

 

 彼女は妖怪でも神でも、そんなのは関係ない。

 彼女は袖ちゃんで、ちょっと抜けていて。それでいて、いつも優しい私の大切な友達だから。

 

 

 

 ──箒星が薄暗くなった道を駆けていく。

   真っ直ぐに、脇目も振らず。落日の袂へと。もう一度繋ぐ為に。

 

 

 

 

 

 

 もうすぐ帰れる気がした。そろそろ一番星が見れるかな。

 伸びた影に捕まる前に、僕が僕で無くなる前に。

 ふと、影を見る。少し笑っている気がした。




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