【完結】東方袖引記 目指せコミュ障脱却!   作:月見肉団子

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おまたせ致しました。いよいよ大詰めにございます。


Stage6 子供が還る帰り道

 夕暮れに浮かぶ中、二つの影が並び立ちました。

 普通の魔法使いと、異常な袖引小僧。

 

 よく見知った顔なのに、今は違って見える。これが異変の時の魔理沙さんなんですね。なんて、しみじみ思いながら真剣な面立ちを眺めます。これも黒幕の特権でしょうか。

 思えば昔から表情が良く変わる子でした。泣いて、笑って、怒って。いくつもの折り重ねの上にこの今がある。そう思うと気合も入ろうものです。

 せめて、その表情の片隅にでもいたいですから。

 

 さてさて、いよいよもって大詰めにございます。どちらが勝っても幕は引かれる最終局面。泣いても笑ってもきっとこれが最期のお立合い。全てを出して旅立つといたしましょう。

 

 

 私、韮塚 袖引 遊んでいます。

 

 

「追いついたぜ」

 

 この言葉にどれほどの思いを乗せていた事でしょうか。彼女が掛けた言葉を胸中で繰り返しながら、いつものように歓迎の言葉を返します。

 

「えぇ、待ってました」

 

 影が揺れる。いつの間にか超えられていた背丈の大きさ。いつしかのようにまた一つ階段を昇った様なすっきりとした顔。人間様……人の子の成長はいつだって驚くほどに早くて眩しい。

 陽が沈む焦燥感に押されるように、口を開かずともお互いに構えを取りました。長い付き合いです。これまでが分かっていて、この先が分かっている。何が始まるのかも。

 神妙な顔つきのままに、視線が混じり合う。ふっ、と笑みが零れました。

 

 

「楽しい時間にしましょう」

 

 

 そうして私達は遊び始めました。

 夕陽が燃えるように、私達も燃え尽きるまで遊ぶ事でしょう。

 口火を切ったのは私でした。

 機織りの様に、服を紡ぐように、落日の赤に合う弾幕を構築していきます。対して彼女はきらきらと輝かしい弾幕を。光と騒がしさ。それらが闇に反射しぱちぱちと白く輝き、弾けていく。

 私の永さと彼女の刹那が交差しては溶け込んでいく。それはもう格別な時間を確信させるものでした。

 

 こちらから繰り出す弾幕を彼女が躱す。向こうから飛んでくるものを私が捌く。いくつかの応酬をしているうちに、突如、魔理沙さんが口を開きました。

 

「なぁ、袖ちゃん」

「なんでしょうか」

「戸棚のさ、隠してあった煎餅、どこで売ってるんだ?」

「んなっ……また勝手に食べたんですかっ!!」

 

 あれ、お気に入りなんですけどっ、と悲鳴が夕陽にこだましました。

 

「置いてあったなら食べるぜ」

「隠してたって自分で言ってるじゃないですかっ! 高いんですよあれ!!」

「あーあー、回避に忙しくてきこえなーい」

 

 くるくる回転しながら華麗に回避しては、あることないこと吐きまわる彼女。ぐるぐるとよく回る口にこちらも乗せられ、思わず目が吊り上がる。

 怒り心頭、急沸騰と弾幕の密度を濃くしていきます。

 

「うわ、本当に怒ってる? 怖い怖い。おっかないぜ」

「こ……このぉ! ちょこまかと避けない!」

 

 それでも難なく避けていく彼女を見て、怒る私。そして、いつともなく二人で吹き出しました。

 

「くくく……」

「ぷっ……ふふふ」

 

 

 あはは、と声が重なる。哄笑が空へと吸い込まれました。

 お互いが笑いをこらえられないかの様に、指を差しあい笑い合う。

 

「なんだよその顔、随分と膨らむんだな」

「そっちこそ、いっつもそうやって私をからかうんですから」

 

 魔理沙さんの癖、私に何かしでかしたときや謝りたいときなんかは、いつだってそうやって気を逸らす。

 いつもはこちらも意地になっておりますが、今日は趣旨返し。

 

「気にしてませんよ。あの時の事」

「……いきなりだな」

「むしろ、あの時の私は酷かったですね」

 

 夕暮れの訣別。駆け出していった背中を見送った日。あの日ほど自分の性分を恨んだ日はありませんでした。彼女の駆け出す背中を見送った事を何度後悔した事か。もう少し、傷付けない方法だってありました。……ただ、もう遅すぎるだけのこと。

 だから、ここでしっかりと清算をしておきたい。そんな心づもりでした。

  

 ──ごめんなさい。

 

 そう言うと、魔理沙さんも困った様に頭を掻く。

 

「あー、もう。先に言うつもりだったんだけどなぁ」

「ふふふ、そうやって言いづらい事があると、すぐにからかうのは分かってますからね。先回りです」

 

 すると逆に今度は向こうがふくれっ面。機嫌の損ね合いもなんだか懐かしさすら覚えます。

 唇を尖らせて彼女は言う。

 

「そうやっていつもいつも先回りだ」

 

 くすくすと笑うと、両頬の餅は更にこんがり。随分と美味しそうにふくれるものです。

 いつまでたっても子供扱いは良くないのはわかりますが、そう見てしまうのもまた見てきたものの性。どうしたって贔屓はしてしまいますし、からかいたくだってなります。

 ふくれっ面がしぼむ頃、彼女は夕焼けよりも頬を赤くさせながら、ぽそりと呟きました。

 

「そっちの事情も考えずに焦ってた」

 

 悪かったと、頭を下げる彼女。

 そんな頭を撫でてもあげたくなるのが人情というものではございますが、何分ここは遊び事の真っ最中。ぐっとこらえ真剣に事を進めねばなりません。

 

「いいんですよ。……そろそろ再開しましょうか」

 

 きらきらと輝かしい日々も、何もかもが今は過去に。風が全てを置き去りにしてくれます。

 袖靡かせて、帽子はためいて。掠めて焦げた匂いも、汗が滲んで張り付いた髪も、きらきらと輝くように思い出になっていきます。

 弾幕を放ち合いながら、色んな戯言を言い、下らない事で笑い合う。それが楽しくて楽しくてついつい時間を忘れそうになってしまいます。そこまで時間なんて無いというのに。

 ひとしきり笑って、ひとしきり騒ぎあって波が引いたように落ち着いてきた頃。魔理沙さんが切り出しました。

 

「もっと変わったと思ってた」

「何がです?」

「袖ちゃんがさ。こんな異変まで起こして」

「変わらない為に頑張ってますからね」

 

 既に袖引小僧の枠から外れかかって世の理の淵にいる私。神も妖怪もどちらかを選べば、おそらく決定的に変わってしまう何か、忘れてしまう何かが捨てられなかったから、こうしているのですから。

 半透明になった腕がちらちらと視界に入ってきます。悲しいかな、欲張りさんは受け入れてくれない様子。

 それでも、後悔はきっともう無いのだから。

 

 それの様子を見た魔理沙さんは帽子を抑えつけ、光の波をくぐり抜け、また一つ言葉を発します。

 

「なぁ、私が勝ったらどっちか受け入れるのか?」

「そうですねぇ……どっちがいいでしょうか」

 

 とぼける私に、彼女はかっと目を見開く。すぐさま箒を急発進させ、突進してきました。

 反応しきれずにいると、距離を詰めて来ては胸倉をむんずと掴まれる。彼女の香りも憤りも間近に来て、睨みつける二つの瞳。

 息巻く彼女がそこにはいました。真っ直ぐな感情が突き刺さる。

 

「真剣に、だ。袖ちゃんはどうしたい!」

 

 どうしたいかなんて決まってます。それをする為にこれを起こしたのですから。

 それでも真っ直ぐに向かってきた感情を、鬼気迫る表情を、ものともせずに言い返す私。

 

「私はこのままがいいです」

「消えるとしても……か?」

 

 はっと彼女の表情を見ると、双眸には光るもの。堪えるような表情を見るのはいつだって辛い事。

 でも、もう今更変えられないから。変わる事なんて赦されないから。手も足も刻々と消滅しているのだから。

 にべもなく私は答えます。

 

「消えるとしても、です」

「そうか……そんなところまで変わらないか」

「ええ、それくらい大事なんですよ私は」

 

 ぱっ、と離しては突き飛ばされる。ここは譲れないのは既に分かっていたこと。冷淡でもなんでもここは譲れない。

 だって、その為だけに私はここにいる。みんなに頼んで最後までわがままを言って。もうこれ以上は、充分。

 そうして距離を取ると固まる魔理沙さん。流石に突き放されたのは辛かったでしょうか。

 じっと眺めていると、彼女は小刻みに震え出して、いきなり息を胸いっぱいに溜め込みました。そして。

 

「ばぁぁぁぁぁぁぁかっっっ!!」

 

 きぃんと甲高い音が耳を突き抜けました。ぐわんぐわんと頭が揺れる。やまびこでも帰ってきそうな反響の中、夕暮れに大音声は消えていきました。

 思わず耳を塞いで目を白黒させていると、今一度、息を取り込んでは口を開く。

 

 

「もう一度言ってやる。馬鹿っ!!」

「な……なっ」

「それはみんな悲しいからこうなってるんだろっ!! いい加減に周りを見ろっ!」

 

 涙を浮かべてさえ訴えかける言葉。周りがどんな思いで。なんて、言われなくてもわかっているから。

 だからこそ、かえって私はめらめらと燃え上がる。

 

「いいじゃないですかっ! わがまま言ったって! 分かってますよっそんなことっ!!」

 

 私なんて、と卑下するには、あまりにもみんなが優しすぎました。目を逸らすには、大きすぎるくらいに沢山もらってしまいました。

 それでも、それだからこそ。口角泡を飛ばす。

 

「けど、どうしようもないじゃないですかっ!! 私はこのままでいたいんですからっ!」

「私がなんとかするっ! なんとでもしてやるっ!! 袖ちゃんがこのままでもいられるようにしてやるからっ!!」

 

 駄々をこねるように、かぶりを振って彼女は叫ぶ。

 昔の泣き虫だったままに強かった彼女。それを彷彿とさせるような彼女の訴え。

 全てを受け入れて慰めだってしたくなります。けれどそれはもう無理な言葉だから。

 その言葉は今更というには遅すぎて、けれど、暖かくて、涙が出る程に嬉しくて。無理だと分かっていてもすがりたくなるような魅力に溢れていました。

 だからこそ、拒絶するにはもったいなくて、返す言葉が見つからなくて。

 

「私に勝ってからいいなさいっ!!」

「じゃあ、私が勝ったら今度こそ私を頼るんだなっ!? 私が」

 

 どれだけ突き放しても、必死に伸ばしてくる魔理沙さんの手。必死の決意が伝わって来る。

 

 けれど、それを掴むことはありません。あの時もそして今もやっぱり、私は掴めないまま。伸ばしても、伸ばしても届かなかったから。どれだけ頑張っても繋がれなかったから。

 今までずっとひた隠しにしてきた言葉。最後の最後まで隠しておこうと思っていた。奥底の私が溢れ出す。

 

「それでも、私は怖いんですよっ!!」

 

 ──待って、待ってよぉ!!

 

 失い続けてきたから。

 

 ──ごめんね、また絶対戻って来るから。

 

 無くし続けてきたから。

 

 ──どうか、神の力を封印してください。

 

 諦めてきたから。

 

 

 この小さすぎる手からこぼれていくのを、ただ泣いて眺めるしかなかったから。

 

 それでも残ったものが、こんなにも暖かくて大切だから。

 どうかどうか、これ以上のものを私から奪わないで欲しいと、ぎゅっと抱え続けてきた手放せないものだから。

 私はこれだけは譲れない。譲れないから今ここにいる。

 

 最後まで隠しておこうと思っていた本音。それが零れて止まらない。そんな様子に魔理沙さんも静かに首を振る。

 もう既に、引き返せない所まで来てしまいました。

 

 互いに譲れない平行線。意見をぶつけあっても曲げられない以上、やる事は一つ。

 

 夕陽を背に、今一度向かい合う。

 

「楽しい時間はそろそろ終わりにしましょう」

「最初からそのつもりだぜ袖ちゃん」

 

 睨み合い、ぶつけあいながら言葉を交わす。

 本当に、本当に最後の。私達の時間。

 

「さぁ、カーテンコールだ。そろそろ夜が待ち遠しいぜ」

「夕陽も沈まぬ薄暮刻。もう後には引けませんよっ!!」

 

 長くなった髪も、端のほつれた袖も引き連れて、金色の空に身を投げ出しました。

 

 時が止まる。とはこういった感覚なのでしょう。音が聞こえなくなり、全ての弾幕が止まって見える。次に何が向かって来るのか逃さず把握できてしまう。

 冷水を浴びせたかのようにひんやりとした全身と、つま先まで把握出来る感覚。その二つが重なって、全ての空間を支配しました。

 右、上、下方、背後、くるくると変わる着弾地点を身をよじり、回転し、または相殺して、全ての弾幕を捌いていきます。

 花火のようなもの、金平糖のようなもの、妙な臭いを放つもの。全てが私の手の平の上で叩き落とされていくのでした。

 すれ違う刹那、交錯した目線は随分と苦しそうで、向こうがぎりぎりを強いられているのは間違いなし。

 

 ここに来てまさかまさかの大覚醒。神と妖怪、ずれていた力が重なった完全に重なった感覚。爆発的な能力を生かし、ひたすらに戦場を跳ね回りました。

 速さも弾幕も一段階上がった私を見て、魔理沙さんも思わず声がもれました。

 

「更に強くなるのかよっ!! くそっ、たまんないなっ!」

「出し惜しみはありませんからねっ!」

 

 言葉に嘘なし、一切の貯蓄はなし、私はスペルカードを切りました。

 

──スペルカード 影符『背高のっぽの影法師』

 

 引き伸ばした自身の影が立ち上がり弾幕を放つ。遠隔操作のスペルカード。

 私の影からも光弾が放たれると、察知するや否や、すぐさまに身を翻し距離を取る魔理沙さん。

 しかし、今日の私は一味違う。すぐに二本目の矢を放ちました。

 

「一息もつかせませんよっ!」

「げっ!?」

 

 なんと魔理沙さんの影もまた立ちあがり、弾幕を放ちはじめる始末。

 これには彼女も大層驚いたようで、服も髪も掠めてやっとの思いで躱していきました。

 私含めて三方向の包囲網。ぐいぐいと迫る影になすすべなしや、と思いきや、何かを思いついたのか、表情がさっと変わる彼女。

 にやけ顔のまま夕陽に向かって上昇していく。すぐさま追いかけつつ、何を……と考えているとはっ、と気づく。

 

「まさかっ!!」

「影は、光の正面には出来ないよなぁ!!」

 

 これで標的が絞られたな、とニヤリ、と帽子を抑え八卦炉を構える彼女。

 その右手には臨界まで溜め込まれた力が今か今かと放たれる瞬間を待っているかのよう。

 

「全力で、いっくぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 眩い光が視界を覆う。放たれたのは極太の凶悪光線。全てを吞み込まんと影ごと搔き消して迫って来る。

 

 

──スペルカード 魔砲『マスタースパーク』

 

 

 彼女の意思かと言わんばかりに、真っ直ぐにこちらへ向かってくる魔理沙さんの全力。

 影も弾幕も全てを照らし出し、打ち消していきました。それを避けられるわけもなく、目の前にして立ち竦む。

 

「とはいえ……」

 

 妹紅さん、影狼さん、蛮奇さん、わかさぎ姫さん、小傘ちゃん、フランさん、そして萃香さんが作ってくれた今だから。こうやって遊べる時間を作ってもらえているのだから。

 

「私も私で、絶対にっ、負けたくないんですよっ!!」

 

 袂から千切れた袖を宙に放る。かつて神だった頃のお供え物と同じもの。くるくると回転し、花のような形を形成しました。それが神力を持って障害を阻む。

 

──スペルカード 『逢魔が時のスリーブドロワー』

 

 極太の光線が信仰の印に直撃しました。全てを吹き飛ばさんとする衝撃、激しい爆発音が、うねりと熱を持って辺りに拡散されました。

 光を散らし、想いが衝突しあい喰い合っていく。どちらとも一歩も引かない大接戦。 

 かつて、私を形成したものが再び還ってきて、そしてここで守ってくれている。

 一歩も引けないからこそ、それが少し懐かしくて、当時の村人たちの顔が思い浮かぶようでした。

 

 力と力、それが衝突しあい徐々に消滅していく。

 彼女のスペルカードは消えていき、私の防壁もまた消えていきました。

 もうもうと立ち込める煙の中、私は、無傷で立っておりました。全力を受けきり、そして、なおもまだ気力も余力もある。

 

「これで魔理沙さんの切り札は……っ!」

 

 勝った、と確信し、覆う煙を払い、空を仰ぎ見る。

 少なからず落胆した魔理沙さんが見れる。そう確信しておりました。

 しかし、沈みかけた夕空を背負う魔理沙さんはそんな状況でも笑みを絶やさない。

 

 にぃ、と口角を上げて彼女は高らかに声を張る。

 

「違うぜ袖ちゃんっ!! 本当に()()()()()()のはっ!!」

 

 

 天高く、そのスペルカードを掲げました。

 

 

「こいつ、だっ!!」

 

 

 彼女の切り札(スペルカード)が放たれました。

 

 藍と紅が混じり合った空に、輝くものが一つ、二つ。

 

 

「あ……」

 

 どんなものでも避けられると思ってました。どんなものでも受けきれると思ってました。

 実際、今の私だったら可能だったでしょう。

 

 それでも、()()に思わず見とれてしまって、私は思わず手を下ろす。

 

 

 

──スペルカード 魔符『スターダストレヴァリエ』

 

 

 

 暮れなずむ夕焼けの空に浮かぶ、一番星。

 それは異変の終わりを指し示すもの。

 

 

──星を見に行きませんか?

 あの時の満天の空を描く、彼女の思い。

 それが今、私の薄暗がりな空を切り裂いていく。

 

 光が散らばって、星が夕焼けと混ざり合う。それはとてもとても綺麗な彼女の願い。

 

 星が昇ったら子供たちは帰らねばなりません。どんなに駄々をこねても、今日の遊びはおしまいだから。

 泣いても、笑っていても、またね、と手を振らねばなりません。

 

 これで『わがまま』はおしまい。

 

 感嘆の声が自然と漏れ出しました。

 

「あぁ、こんなにも……」

 

 いくつ一緒に歳を重ねた事でしょうか。

 麦わら帽子を被っていた頃から、今の今まで。どれだけ、私を見上げて、追い越していったのでしょうか。

 

「大きく、なっていたんですね」

 

 ふっ、と全身の力が抜けて、私は墜落したのでした。

 

 夕暮れが終わっていく。残照は消えゆき、掴んでいた空の時間が元に戻る。

 幻想郷はまた正しい時間を刻むのでしょう。

 空が割れるように流れていって、満天の星空が傷付いた時間を癒すようにゆったりと照らし出します。

 

 

 楽しい時間はすぐに終わるものです。どれだけ引き伸ばしてもそれはきっと変わらない。

 永遠に続くとすら思えた、魔理沙さんと私の遊びはこれで終わり。

 

 あとは、それぞれの場所に帰っていくだけ。全てが元に戻っていく事でしょう。時間も、空も、そして皆も。

 あとは、存在してはいけないものだけが消えるだけ。

 

 

 

 そうして、夜の帳が落ちて。短く儚い夕焼けは消えていく。

 

 幻想郷の空を引き留めた異変は、これにて幕引きとなりました。

 

 

 

 ──そして私も、透けた手足と、急激に消えていく力を感じ取っていたのでした。




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