問題児たちとロクデナシの魔王が異世界から来るそうですよ? 作:慢性睡眠不足
それではどうぞ。
ジン=ラッセルは衰退した”ノーネーム”のリーダーだ。ギフトゲームに参加可能な恩恵を持ち、審判業のためにゲームに参加できない黒ウサギと共に年少のメンバーをまとめながら、衰退するコミュニティの命運を何とか引き伸ばしてきた。
そして今回。コミュニティの再興を目指し、異世界より人類最高のギフトを持つ人材を召喚する。さらにそのうちの1人である十六夜によって、そのための具体的な作戦も立案された。
そのための第一歩として明日のゲームに望むはずだったのだ。
しかしその前に、彼は目の前で笑う魔王を乗り越えなければならないらしい。
「いや、何らや面白い話を耳にはさんでのう。……どこかの衰退コミュニティが”全ての打倒魔王他”を画策しているとか、何とか」
「それは……」
「いやいや、さらにそれがわたしがこれから世話になろうというコミュニティらしいのだから、中々に大変だ。このままではその最初の獲物にされてしまう」
のんびりとした口調で笑いながら、京一郎がジンに言葉を投げかける。床の上に装飾された琴と酒瓶を置いてからの、にこやかな問いかけ。それは疑いようもなく、確認であり最後通告であった。
当然それを肯定すれば、完全にトドメを刺されて再起不能となるノーネームの未来が待っている。
しかし、かといってごまかしが通じる相手ではない。なにせ箱庭に来て早々に、コミュニティ乗っ取りを臆面もなく言ってのける男なのだ。それも虚勢ではなく、本気で。
ここに来るまでの道中に、黒ウサギから話を聞いてジンはそれを確信していた。詳細はまだ聞いていないものの、あの白夜叉と決闘を望んで、さらには勝ったというのだ。
おまけに”魔王”の名を冠するギフトを所持し、あまつさえ白夜叉相手に完全に優位な交渉まで結んでいる。
同時期に呼び出した問題児達は厄介で、全員が一筋縄ではいかないものたちである。それでも話は通じるし、理解だって出来なくはない。
それは後ろで笑いながら観察している十六夜も同じとジンは見ていた。
だがジンの目の前で笑う青年は違う。完全にジンの理解できない原理で、そして予測しようのない気ままな思惑で動いている。
対応の一つでも誤れば、次の瞬間にはこの屋敷は跡形もなく吹っ飛んでいるかもしれない。そうなってもジンは驚かないだろう。
(そんな爆弾よりも危険な相手と戦えなんて。無理に決まっているじゃないですか!!!)
声にならない叫びを上げつつも、ジンは引くことは出来なかった。ここで一歩でも引くようならもう手は貸してやらない、という十六夜からの視線を後ろに感じていたからだ。
(ど、どうしよう。く、黒ウサギ、助け……?! いや、それはダメだ!)
進退窮まる事態に陥ったジンは、無意識の内に黒ウサギに助けを求めようとして思いとどまった。ここは彼が、衰退したとはいえかつて栄華を誇った”ノーネーム”のリーダーが立たなければならない場面なのだ。
今までのように、あの献身的な少女にすがることは出来ない。その道を選べば、例えこの場は乗り切れたとしても、コミュニティのリーダーとしては失格も同然だ。
そうなれば後ろの少年は何処かに消え、目の前の魔王は嬉々として蹂躙を始めるだろう。
つまりジンは、もう自力でこの状況を乗り切るしかないのである。
「あ、あの。それはですね……」
口では適当な言葉でつくろいながらもジンは頭をフル回転させて事態の打開を図ろうとする。考えるべきは眼前で笑う
(考えろ。どうすれば、この人を倒せるのか。……それが無理なら、どうやって
幼い頭の中から、ジンは京一郎についての情報を片っ端から引っ張り出した。昼間のカフェでの言動と行動。そして黒ウサギから聞いたジンが不在の出来事の数々を。
白夜叉との決闘。その後の報酬。そしてその後で交わされた”恩恵”の扱いに関する契約……。
(? 契約……)
次々と情報を流していく頭の回転を一時停止したジンは、その気になったキーワードを抽出する。
引っかかったのは黒ウサギに”主催者権限”の一部を預けることで、ノーネームがしばらくの間、京一郎の面倒を見るという”契約”だ。それを結ぶに至った理由に考えをめぐらせたジンは、そこに突破口を見つける。
同時になぜ、十六夜が自分に京一郎の相手を任せたのか、その理由も。
(そうか、だから、十六夜さんは……。でも、これならいけるかも)
たった一筋の希望をたどることをジンはもう恐れない。そしてその険しい道への一歩を、ジンは踏み出した。
「いえ、京一郎さん。確かに僕達は”打倒魔王”の活動を始めますが、それでもあなたとは戦いません」
はっきりと口調が変わったジンの様子に、十六夜は笑みを深める。対する京一郎は不思議な表情に顔を差し替えて、ジンへと尋ねた。
「ほう、わたしとは戦わないのか。しかし、それでは”打倒魔王”という看板に偽りがないか?」
「いいえ、そんなことはありません」
京一郎の問いかけにジンは笑って否定する。多少は引きつってしまったが、勢いのまかせて、少年リーダーはその言葉を言い切った。
「だって京一郎さんは”魔王”じゃありませんから」
「ほう? わたしが魔王ではないとは。なかなか面白いことを言う少年だ。箱庭にもその名を冠する恩恵を送られたわたしが、魔王でないとは一体どういうことか?」
ジンのその言葉に京一郎は疑問の声で問い返した、最も内心では、ちゃんとその意味を理解している。しかし、せっかく良い流れに乗っているのだ。まだ少しはその流れを楽しんでもいいだろうと京一郎は思っていた。
そんな京一郎の思惑など関係なく、ジンは表向きはなんでもないように、しかし裏では必死にその根拠をつむぐ。
「確かに僕達のコミュニティは”打倒魔王”を掲げての活動を始める予定です。でもその目標はここ、箱庭の”魔王”のこと。権限を悪用し、格下相手に力を見せ付けては悦を悦に浸っているような不良プレイヤーの話です」
自分のコミュニティを衰退に追い込んだ元凶を、そして箱庭にはびこる災厄をあえてジンは矮小な印象を与えるように言い切った。言外に目の前の人とは違うという意味を込めて。
「ほう、不良プレイヤーか」
「ええ。京一郎さんが元の世界でどんなことをしていたのかも、そしてなんと呼ばれていたとしても関係はありません。この世界ではあなたはただの新人です。たとえ大言壮語を有言実行しようとするような人でも、あの連中とは違います」
黒ウサギに積極的な行使権限を預けているために、京一郎は箱庭の魔王と同じ事はできない。少なくとも期限が過ぎるか、それか別の”主催者権限”を手に入れるかしなければ、京一郎はこの”箱庭の魔王”となる事はないのだ。
「今後は分かりませんが、少なくとも今の時点では、京一郎さんは僕達の活動の標的ではありません」
「ほう? 今の時点では、か……」
「はい、今の時点では」
京一郎の問い返しに、ジンは余裕の振りをしてうなずいて見せた。彼の内心などば当の昔にばれているのだろうが、しかしそれを表に出さなければ、まだこの話は続けられる。
はっきり言って詭弁の類だが、何の問題があろうか。白夜叉の後援や、黒ウサギの献身があったとしても、これでもジンはこの三年間を耐え抜いてきたリーダーなのだ。
この程度の弁を立てられずに、衰退したコミュニティを生き長らせる事などできるわけがない。
そして、その本領が発揮されるのはこれからだった。
「その上で、京一郎さんにお願いがあります」
「ふむ、お願いか。何だ、言ってみるが良い。聞くかどうかは別として、いうだけならば
ここでジンは少しやり方を変える。今まで順調に進んでいた流れを自ら放棄するような行動だ。 同時に後ろで見ていた少年のたじろく気配を、ジンは感じ取った。
このまま進めば安全だろうが、しかしそれは他人に作られた道でしかない。ここで予定外の行動に出てその想定を上回ることで、彼らの思惑を崩す。
すでにジンは冒険を始めているのだ。安全策など今更気にすることもない。どうせなら後ろの彼も引き込んでしまおう。
それが一蓮托生のコミュニティというもの。そのための予行演習といこう。
そんな思惑のまま、ジンは言葉を続けた。
「はい。さっきも言ったように僕達は”打倒魔王”の活動を始めます。ですが、当然標的となった連中も黙ってはいないでしょう。不良プレイヤーとはいえ彼らの力は強大で、中には
「……それはわたしを、番犬代わりに使おうということか?」
ジンのお願いの内容を聞き、京一郎は凄みのある笑みと共に聞き返した。そしてジンの後ろでそれを聞いていた十六夜は、その物言いに顔をしかめる。
今のジンの言葉にあった「僕達」という言葉には、自分も入っていたことに気がついたからだ。それも明らかに強大な魔王と戦うには不足だといったふうに。
(やってくれるじゃねえか、このチビ)
賞賛と憎らしげな視線を送ってくる十六夜の圧力を推進として、ジンはさらに前に出る。
「そんなことは言いません。ただ、京一郎さんの気にいるような相手だったら、手を貸してくれませんかということです。それに半年とはいえ京一郎さんだって、しばらくはここに住むのでしょう。黙っていても向こうからあなたが好きそうな面倒事とか騒動がやってくるんです。こんな素敵な物件は他にないと思いますけど」
「まあ、確かに。ここの箱庭も結構広そうだしのう。当てもなくさまようのも嫌いではないが、まあ罠を張っていると考えれば考慮の余地はあるか。そのエサになろうという酔狂な少年もいるようだし……」
以前にも異界を利用して、降臨した神々を引き寄せるような罠を現世、幽世問わずに多数設置していた京一郎である。時には同属の獲物を目の前で掻っ攫い、追ってきた相手をそのまま異界に引きずり込んでからの
なにやら思惑があるようだが、問題があるならそれごと潰してしまえばいい。京一郎はそう結論付けた。
一方、京一郎の言葉に手ごたえを感じたジンは、内心で手を握った。そしてせっかく手に入れた感触を逃さないように、ジンは言葉を次々と足していく。
「はい。この”ノーネーム”のリーダー、ジン=ラッセルとして、客分である京一郎さんの要望は出来る限り受け入れさせてもらいます。ただ、ご存知のように僕達に余裕と呼べるものはありませんし、これ以上の被害を受けたら、出来ないかもしれません」
彼と交わした契約では面倒を見るということは決まっていても、それ以外は白紙の状態だ。そしてそれは京一郎とノーネームとの間で決められること。まだ加入を保留している十六夜では出来ない。
たとえ偶然と成り行きの結果であろうと、今のノーネームのリーダーはジンであり、その空白を埋めるのは彼にしか出来ないのだ。
「気が向いた時でもいいので、手を貸していただけませんか」
「……まあ、気が向いたなら貸してやろうか。ほかならぬ家主の頼みだしのう」
それは”魔王打倒”を掲げる名無しのコミュニティのリーダー、ジン=ラッセルがきわめて使いにくいとはいえ、強力な鬼札を手に入れたことを意味する言葉だった。
「いやはや、なかなか面白い余興だった。ではわたしはまた上にもどって、月見の続きを楽しむとしよう」
「はい、存分にどうぞ。明日のゲームでは、京一郎さんの手を煩わせませんから。好きなように夜更かしを楽しんでください」
その言葉を背に受け、京一郎は再び窓枠の向こう側に消えた。それを見送った後でジンは床にへたり込む。そのままの姿勢で数分間息と気持ちを整えたジンは、立ち上がると、十六夜のほうを振り向いて言った。
「……どうでしたか、僕の演技は?」
「いや、思った以上だったぜ。俺が審査員なら男優賞ぐらいはやってもいい」
多少はすっきりしない顔で十六夜はジンをそう評価した。つまりは最後まで踊りきれるぐらいは悪くなかったのだとジンは理解すると、そのまま十六夜の顔を睨みつける。
「いくらなんでも酷すぎませんか、十六夜さん。いきなりあんな事に巻き込むなんて。途中で気が付かなかったら、一体どうなっていたことか!」
「いいじゃねえかよ。気がついたんだろ。それに途中でアドリブ暴走させた奴が何、言ってんだ。俺だって驚いたし、あいつだって喜んでたんだぜ。結果オーライってことにしとけ」
その悪びれない十六夜の言葉に今度こそジンはため息をついた。
先ほどまでの京一郎のやり取りは全て互いに承知の上でのやり取り、いうなれば芝居だったということに気がつけたのは、ジンにとっては幸運だった。そうでなければ、そんな事も見抜けない間抜けと見なされ、明日を見ずにジンの希望は儚く消えていたことだろう。
脚本を書いたのは十六夜で、その誘いに乗ってきたのが京一郎。そしてそれに巻き込まれたのがジンである。
十六夜があのガルドの手下にかけた言葉もその一つだ。十六夜が大仰な仕草で話していたのも、勿体ぶってジンを持ち上げたのも、ガルドの手下達だけを相手にしていたのではなかった。
どこかで京一郎が見ていたことに気がついた十六夜が、彼らの一幕までも前座にして、続く本番へと興味を抱かせたに過ぎない。
「まあ、さっきは下手な誘いをかけちまったからな。今度はちょっとは頭をひねったつもりだぜ」
その誘いに応じて、本番を見ようと京一郎はここに来た。そしてその芝居を堪能して帰っていたというだけのことだ。
だが、その最中に交わされた約束は決して絵空事ではない。
あれを現実にするのか、それとも空想のままにしておくのか。それはこれからのジンとノーネームの働きにかかっている。
その時の事を考えたのか、十六夜は笑いながら話し出した。
「どう考えてもアイツを野放しにしとくと危なそうだしな。……つってもおとなしく縛られてくれるタマでもねえだろうし」
「閉じ込めて置けないなら、住処を用意して放しておけ、ですか?」
「おっ、分かってるじゃないか。流石はリーダー様」
この場にいない人物を、猛獣か何かのように十六夜は評して見せた。しかしジンはそれを否定しない。代わりにただ淡々と次の話題に移る。
「はいはい。とりあえず、これで十六夜さんの条件はクリアでいいですね。次は十六夜さんの番ですけど」
「おいおい、まだ明日のゲームがあるだろうが。そっちが駄目なら、俺はコミュニティには参加しない」
「作戦の前提が崩壊するからですか?……まあ飛鳥さんも耀さんもいますし、それに万が一の時には、京一郎さんという鬼札もあります。ガルド相手ならどうにかなるとは思いますけど」
「やはは。随分な自信だな、ジンリーダー。ついさっきまでピーピー喚いていた奴と同じとは思えないぜ」
「あなた達二人に弄ばれれば、僕じゃなくてもこうなりますよ!!」
そんな掛け合いの下で、異世界初日の夜は更けていくのだった。
追い詰められたジン少年のプチ覚醒。なぜ、こうなった?
一応、三年の間にガルドとかのちょっかいを何とかやり過ごしてきたのだから、追い詰められればこれくらいは出来てもおかしくはない……はず。
とはいえノーネームの起死回生をかけた作戦も京一郎にとってはただの余興にすぎません。
あまり話が進んでいませんが、次回から少しテンポアップをします。
次の更新は来週の予定です。