問題児たちとロクデナシの魔王が異世界から来るそうですよ? 作:慢性睡眠不足
それと何話かサブタイトルを見直しました。
「……これは、一体?」
翌日、指定されたゲーム会場を前にしてジンは呟く。困惑する少年の目の前には鬱蒼と茂る木々の群れ、異形の森が広がっていた。
「舞台区画ではなく、居住区画でゲームを行うと聞いた時から、変だとは思っていましたが……」
ここに来る道中に、昨日のカフェの店員から激励の言葉と共に知らされた情報が正しかったことを知り、黒ウサギも困惑の言葉をもらす。
「……これが普通じゃないの、黒ウサギ?」
「虎のコミュニティだし、別におかしくないだろ?」
「ええ。ゲームの参加者としては好きにはなれない場所でしょうけど……」
一方、問題児達は二人の困惑ぶりに疑問を持っていた。そんな箱庭初心者達へ、黒ウサギはその原因を語っていく。
「いや、おかしいです。本来の”フォレス・ガロ”の本拠は普通の居住区画だったはず。おまけに傘下のコミュニティや同士も全員放り出すなんて絶対に変です。……それにこの木々は」
言葉を途中で切った黒ウサギは近くの木へと手を伸ばした。その触れた枝はまるで生き物のように脈打っている。
「やっぱり――”鬼化”してる? いや、まさか」
言葉と同時にある疑念が黒ウサギの中から湧き上がってくる。しかしそれを確かめる時間は与えられなかった。
「ジン君。ここに”契約書類”が貼ってあるわよ」
飛鳥の声に、一同の視線と注意は門柱に張られた一枚の羊皮紙へと集まる。そこには今回のゲーム内容が綴られていた。
「 ギフトゲーム名”ハンティング”
・プレイヤー一覧 久遠 飛鳥 春日部 耀 ジン=ラッセル 空鳴 京一郎
・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐
・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐が可能。指定武具以外は”契約”によってガルド=ガスパーを傷つけることは不可能。
・敗北条件 降参かプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
・指定武具 ゲームテリトリーにて配置。
宣誓 上記を尊重し、誇りの御旗の下、”ノーネーム”はギフトゲームに参加します
”フォレス・ガロ” 印
」
「ガルドの身をクリア条件に……指定武具で打倒!?」
「こ、これはまずいです!」
内容を確かめジンと黒ウサギは悲鳴のような声を上げた。その反応を共有できない問題児達へ、黒ウサギは動揺を引きずった声で説明する。
「ゲームそのものは単純です。ですが問題はこのルールです。これでは飛鳥さんのギフトで彼を操ることも、耀さんのギフトで傷つけることもできなくなります」
黒ウサギによると、どうやらガルドは自分の身を”恩恵”ではなく”契約”によって守ることで、少女二人のギフトを克服したらしい。
「すいません。僕の落ち度でした。初めに”契約”を結んだ時にルールも決めておけば……」
難度度が跳ね上がったことを知ったジンは自らの過失を悔やんだ。今までギフトゲームに参加してこなかった彼は白紙のゲームに参加することの愚かさを分かっていなかったのだ。
相手は命がけでゲームに挑んできている。紙切れ一枚で楽観的な空気を吹き飛ばされてしまった”ノーネーム”の面々だが、二人ほど例外がいた。
「命がけで五分のゲームに持ち込んだって訳か。観客としてみれば、面白くていいけどな」
「ふむ、なるほど。”契約”にはそんな使い方もあるのか。これは良い事を知った」
ゲームに参加しない十六夜は自分の素直な感想を述べ、対する京一郎はこの手法を早速何かに生かせないかと思案を始める。
「気楽に言ってくれるわね。……条件はかなり厳しいわよ。それに京一郎さんもゲームの参加者よ。あなたの力だって通用しないのでしょう」
「はい。京一郎さまの力が何かは分かりませんが、指定された武具以外では例え神格をもってしてもガルドを傷つけることはできません」
気楽な二人に対し、飛鳥は呟いた。その表情は厳しく、黒ウサギの補足の言葉も耳に入らないかのように”契約書類”を覗き込む。
ゲームの参加を決めたのは彼女だ。その事に責任を感じていることを察した黒ウサギと耀は、その手を握って励ました。
二人の檄によって飛鳥も気持ちを立て直し奮起する。その一方で、参加者であるジンは何とか余裕を取り戻していた。
「なんだ、ジンリーダー。あっさり落ち着いたじゃねえか」
からかうような十六夜の問いかけに対し、ジンは苦笑して答える。
「いえ、確かに動揺しました。でも落ち着いて考えたら、ガルドがどんなゲームを仕掛けてきたとしても、まだ昨日のアレに比べたらマシのような気がして。それに一応とはいえ、鬼札もありますし……」
そういって京一郎の方を見やるジンだが、十六夜はその見解には否定的だった。
「アイツに期待するのは止めとけ。使えればラッキーぐらいに考えておいたほうがいい。年長者の忠告ってやつだ」
「えっ? それはどういう……」
「ふむ。盛り上がっているようだし、そろそろ行かんか?」
ジンの疑問は続く京一郎の言葉と、それに答えた少女二人の意気揚々な返事によってすぐに流されてしまう。
しかし少年がその言葉の意味を理解するのに、そう長い時間はかからなかった。
「では、わたしはこの辺で少し休んでおるので、あとは勝手に頑張るが良い」
そう言って京一郎が、足を止めたのは門に入って数十メートルのところだ。いつものごとく呼び出した神剣をその場に突き刺し、さらにゴザを広げてその上に座り込んだ京一郎は、のん気に取り出したひょうたんに口をつけ始める。
いきなりのくつろぎモードに面食う他の参加者達だが、一度は盛り返した士気を再び下げるその諸行に、すぐさま慌てた声で京一郎を問い詰める。
「ちょ、ちょっと何考えているのよ。ゲームに参加しないつもり」
「……まさかのやる気なし?」
「あ、あの。昨日、気が向いたら手を貸してくれると……」
激しい剣幕で京一郎を攻め立てようとする三人だが、対する京一郎の反応は変わらない。
「あまり気が向かないのだから、しょうがなかろう」
もともと京一郎がこのゲームに応じたのはガルドに報いを受けさせるためではなく、単に箱庭のゲームがどういうものかを知りたかっただけだ。
しかしその目的は、昨日の白夜叉との決闘ですでに果たされている。そのため、京一郎はすでにこのゲームに対しほとんど興味をなくしていた。
ガルド決死のルールと突如出現したという異形の森の事がなければ、あっさりと棄権していたかもしれない。
「昨日の夜に約束したとおりではないか。」
その言葉を盾にまずはジンの口を封じた京一郎は、残る二人へと話しかける。
「せっかくあのガルドが命がけで、二人のギフトを克服して見せたのだ。しかしここでわたしが手を出せば、あっさりと終わってしまう。それでは詰まらんと思わんか?」
「いえ。思わないし、理解もできないのだけれど」
「……もしかして面倒くさくなったの?」
明らかな建前と分かる発言に飛鳥は呆れ、耀はその理由を推察しようとする。しかし京一郎は何の気もなしに言い切った。
「いや。ご丁寧にクリア方法まで明記してくれたゲームだ。はっきり言って簡単すぎる。わたしならこの場に居ながらにしても、このゲームのクリアは可能だ」
「「「はあ!?」」」
「まあ、信じずとも良い。お主たちは別に頑張ってゲームをやればよいだけだ。それまで手を出さんでやろう」
そう言ってごろりと横になる京一郎に、冷たい視線を向ける残る参加者達。いきなり万が一の時の手札が使えなくなったジンはおろおろとするが、飛鳥と耀は逆に戦意を高めることで、何とか京一郎のサボりを利用することにしたようだ。
「行きましょう。要は私たちだけでクリアしてしまえばいいだけよ。元々頼る気もなかったし、ちょうどいいわ」
「……うん。私達だけでも十分、余裕。出番なんてあげない」
やる気なし京一郎に見切りをつけた二人は、まだおろおろするジンを引きずってそのまま森の散策を進めていく。
再開した足音が少し荒いのは、堂々とサボタージュを宣言した京一郎への不満か、それとも知らず知らずの内に客分でしかない青年に頼っていた事への戒めか。
その姿が森の奥に消えていったところで、おもむろに装飾された弓を取り出した京一郎は、不敵に呟いた。
「さて。雑事はあちらに宛がうとして、わたしは仕事に取り掛かろうか」
突然の京一郎のサボタージュにも負けず、残った参加者達は奮闘した。耀の恩恵によってガルドの居場所を捉え、”フォレス・ガロ”の本拠である館に侵入する。
退路の確保にジンを残し、二階に上がった彼女達は、そこで言葉を失った獣と対面した。
「ギ……――GEEEEEYAAAAAaaaaa!!!」
白銀の十字剣を守るように立つガルドの成れの果ての咆哮は、外にいる黒ウサギと暇をもてあましている十六夜の耳にも聞こえていた。
「い、今の凶暴な叫びは……」
「ああ、間違いない。虎のギフトを使った春日部だ」
「あ、成る程。ってそんなわけないでしょう!?」
ボケる十六夜に突っ込みを入れた黒ウサギは、気を取り直して進行中のゲームへと注意を戻す。外からでも大まかなゲームの状況が分かるその素敵耳は、京一郎のサボタージュも、飛鳥とジンを逃がして異形と化したガルドに立ち向かう耀の戦いぶりも掴んでいた。
ゲームの状況が分からず、暇をもてあます十六夜の相手を適度にしながら黒ウサギは、内心ハラハラな状態でゲームを見守る。
かつての旧知の影が見え隠れするこのゲームの公平さを信じ、三人の無事を彼女はただ祈った。
しかし黒ウサギの祈りとは裏腹に、1人を除いて参加者達は追い詰められていた。ジンと飛鳥を先に逃がし、一人でガルドに戦いを挑んだ耀は、指定武具である白銀の十字剣を得ることに成功するも、負傷する。
そのまま敗走して二人と合流したところで崩れ落ちた。
「……か、春日部さん! 大丈夫なの!?」
「大丈夫じゃ……ない。すごく痛い。本気で泣きそうかも」
血まみれの耀の姿に飛鳥は悲鳴を上げて駆け寄る。右腕から流れ出る血は多く、間もなく耀は何かに対する謝罪の言葉を残して意識を失ってしまった。
「ま、まずい。傷そのものよりも出血が! このままだと……!」
出血多量で彼女の命が危ないと、ジンは悲鳴を上げる。だが急いで応急処置をしようとしても、止血のための道具もない。
その未来を想像し、青ざめる二人に声がかかったのはその時だった。
「何やら大変なことになっているな」
そういって森の中から現れたのは剣を肩に担いだ京一郎だ。この状況を見てものんびりしたままの態度を崩さない京一郎に、飛鳥は嫌悪感をにじませた口調でその目的を尋ねた。
「…見ての通り相手をしている暇はないのだけれど、何か用かしら?」
「いや。負傷者も出たことだし、そろそろ音を上げるころかとおもってな」
血まみれで飛鳥に抱えられている耀を前にしても、のほほんとのたまう京一郎。その平然とした様子と、このタイミングで表れたことから、ジンはふと思いついて慌てて尋ねてみる。
「そんなに落ち着いているということは、……もしかして!? 京一郎さん!! あなたはこの怪我を治せるんですか!?」
「いや、そんな力はもっていないが」
「本っ当に、何しに来たのよ、あなた!!」
希望が見つかったかもというジンの言葉をあっさりと否定した京一郎に、今度こそ押さえきれなくなった飛鳥は本気の憤りを叩きつけた。
しかし京一郎はのんびりした口調のままで別の案を口にする。
「確かにわたしにはこの怪我は治せないが、……助けるとはできるぞ」
「えっ、それは本当ですか!?」
「それならそうと早く言いなさい。それで、どんな方法なの?」
その言葉に一度は絶望に叩き落された二人の目が光る。すぐさまその詳細を問う二人に京一郎はその案を語った。
「いやなに。飛鳥は昨日もみたであろう。わたしの生み出した鬼がバラバラになっても復活した様を。そやつも鬼に変えてしまえば、その程度の傷などあっという間に消えるであろうよ」
「……それで、そうなったら元に戻るのかしら?」
京一郎の提案に嫌な予感を覚えた飛鳥は冷たく静かな声で問いただした。果たしてその予感は続く京一郎の言葉によって的中することになる。
「うむ、元に戻すことも一応は可能だ。まあ主であるわたしにある程度束縛されることになるのと、精神力が弱ければ生ける人形状態になるという問題もあるが。……しかしこの場においては問題もでもなかろう?」
「あるに決まっているでしょうが!? 大有りよ!!」
やっぱりという思いと共に飛鳥は叫んだ。ジンも激しく首を横に振ってその案を跳ね除けようとする。しかし京一郎は不思議そうな表情で聞き返した。
「……別にわたしは構わんが。ただそのままだと、耀は死ぬぞ。それとも、他に何か助ける手立てでもあるのか」
その言葉に飛鳥とジンは互いに目を合わせた。京一郎の言うとおりこのまま放置していれば彼女の命は危ない。しかし、かといって意識のない仲間を勝手に生ける人形にするわけにもいかないだろう。
そして勝つ手立てがあるという目の前の男がおとなしくゲームの棄権に賛同してくれるとは思えなかった。
そうなれば残る選択肢は一つしかない。
「……ジン君」
「分かってます。早くこのゲームを終わらせましょう。黒ウサギの助けを借りられれば、彼の案に頼らずとも耀さんを救うことができます」
「ええ、あいつの討伐はわたしが何とかする。あなたは春日部さんを見てあげてて。そこの人が変なことをしないように」
「……分かりました。飛鳥さん。さっきも言ったとおり、今のガルドは吸血鬼になっています。お気をつけて」
言外にガルドの他にこの舞台を整えた介入者の存在をジンは警告した。先ほどのガルドの変貌と広範囲に”鬼化”した木々からの推察である。
さらにジンは、それらを為した第三者に心当たりがあったものの、確証がないため口にはしなかった。
「ええ、10分で決着をつけるわ。……出血、これで止めておいてくれる」
そう言って髪を結んでいた赤いリボンをジンに渡すと、昨日黒ウサギから送られたドレスを翻し、耀が傷を負っても手に入れた銀の十字剣を手に、飛鳥はガルドとの戦いへと向かう。
単独での虎退治を宣言した飛鳥だが、それは決して容易なことではない。さらに時間制限まであるとなれば、その難易度は大きく跳ね上がる。
身体能力では十六夜にも、耀にも飛鳥は劣っている。先ほど耀が二人を逃がしたのも、足手まといだと判断したからだろう。
普段は頼りになるはずの”威光”も、”契約”で守られているガルドには通じないため、真正面からあの獣と戦う無謀さを飛鳥は理解していた。
それを覆すために飛鳥が取った策は火攻めであった。ガルドのいる本拠を燃やし、いぶり出した先で、自身を囮にして標的を誘い込む。
火に追われて住処を飛び出した獣は、木々の合間に通された一本道の先に待つ少女を見つけると、その本能のままに走り出した。すでに理性を失っていたガルドには奇妙に整えられた状況に気がつくことは出来ず、まっしぐらに少女の罠へと落ちていく。
「……今よ、
向かってくるガルドに対し、飛鳥もまた前へと飛び出す。同時にその手に握る銀の十字剣が強く輝き、両脇に並んだ”鬼化”した木々が、飛鳥の一喝に従いガルドに向かって一斉に枝を伸ばし出した。
人を支配するという事を忌まわしく感じていた飛鳥に、昨日黒ウサギが授けた助言。支配という属性を持ちつつも、その方向性を変え”ギフトを支配するギフト”として開花した彼女の恩恵に従い、勢いよく茂った枝は、ガルドを両脇から圧迫して見事に捕らえた。
「GEEEEEYAAAAAaaaaa!!!」
逃げ場を失ったガルドはそれでも何とか拘束を振りはらおうと咆哮を上げて暴れだす。だが最後まで足掻こうとする獣の抵抗も、銀の剣がその眉間を鋭く貫いた事で終りを告げた。
「GeYa……」
「今さら言ってはアレだけど……貴方、虎の姿のほうが素敵だったわ」
断末魔の叫びを上げるガルドが絶命し、飛鳥が皮肉な笑みと共に言葉をかける。それがこのゲームの決着であった。
とりあえずここまで。
敵は身内にこそあり。使えない切り札は切り札ではありません。期待するのはやめましょう。
ちなみに作中で京一郎の言っていたクリア方法は以下の通り。
1、剣の力でゲーム会場を支配下に置き、ガルドの居場所と武具の在り処を突き止める
2、周囲のものを片っ端から鬼に変え、圧倒的な物量でもってガルドを押さえつける
3、動けなくなったところでトドメ
以上、あっさり終わります。ええ、面白くもなんともないですね。
次回はなんとか近日中に上げられそうです