問題児たちとロクデナシの魔王が異世界から来るそうですよ? 作:慢性睡眠不足
前話の見直しや、推敲などで予想外に時間を取られたためです。ごめんなさい。
とりあえずどうぞ。
主を失った異形の森が霧散し、ゲームの終了を告げると同時に黒ウサギは駆け出していた。自慢の耳で耀の負傷を知っていた黒ウサギは、大急ぎで彼女を抱えてノーネームの工房へと跳んでいく。
軌跡に強風を残して見えなくなった黒ウサギを見て、十六夜は獰猛に笑った。隣のジンの説明によれば、耀を癒すことの出来る工房の治療用ギフトも、扱いが難しいために彼女にしか扱えないのだという。
「やっぱりアイツは面白いな。俺並には程遠いも、”ノーネーム”の中じゃ明らかに別格だ」
”箱庭の貴族”と謳われるウサギ達。容姿端麗にして、強靭不屈。幾つもの特権を持ち、万人に寵愛される存在。
それが何故没落した”ノーネーム”に献身の全てを捧げているのか。その興味が十六夜がノーネームに関わる理由の一つになっていた。
そしてもう一つの理由はというと、現在は居住地の跡で装飾された琴を片手に何やら旋律を奏でている。
その演奏を耳にして十六夜は呟いた。
「意外と上手いな」
「そうですね。恩恵というほどではないですが。……でも、何で演奏しているんでしょう?」
「さあな。もしかしたらあの虎を悼んでいるのかもしれないぜ」
「……ないですね。それだけは絶対にないです。それぐらいは僕にも分かります」
ジンに対してはそう言ったものの、十六夜はその理由について、ある程度の見当をつけていた。
(同じような装飾を持つ剣と弓、それに琴か。少しずれているのは気になるが、もし予想通りだとすると……。アイツ、かなりロクでもないことやってるじゃねえか!)
予想通りならば、止めるべきだろう。しかし確証はない。そんな十六夜の内心を感じ取ったのか、不意に京一郎が視線を彼へと向けてくる。
そのままにやりと笑ってみせる青年に十六夜は遊ばれていると感じた。
身体能力で言えば、十六夜の方があの自称魔王よりも遥かに上だろう。また隠し玉を使えば、決して倒せない相手ではないとも解っている。
しかし一方で直接戦ったら勝てないだろうという、奇妙な確信があった。
(恩恵とか、力とか、そんなものじゃねえ。アイツの強さはそれに拠らないもんだ。それは白夜叉との戦いを見ていれば良く分かる……)
あの一戦で、十六夜が引いたのは白夜叉との隔絶した力の差を見せ付けられたからだ。だが京一郎はそれを知っていても、何の気負いもなしに決闘を望んだ。
力では自分よりも劣るであろう青年が、自分が戦うことを諦めた白夜叉と戦い勝利してみせる。まるで理不尽とも言うべき戦いぶりで、圧倒的なはずの力の差を乗り越えていく自称・魔王。
生まれつき強大な力を持っていた十六夜では決して真似できないその強さもまた、彼の関心の一つだった。
とはいえ、こちらは黒ウサギよりも遥かに難敵のようだが……。
(ま、いいか。そのほうがやりがいがあるってもんだ)
しばらくは観察させてもらおう。そう自分の興味に一区切りつけたところで、十六夜は今後のための行動を始める。
まずは”フォレス・ガロ”の後始末に取り掛かるとしよう。
ゲーム終了後、間もなくして”フォレス・ガロ”には解散命令が出た。ガルドという頭を失い、またその悪行が階層支配者の知るところとなったコミュニティの行く末としては当然だっただろう。
追い出された居留地へと集ってきたその関係者達は、人質の件を知って嘆き、悲しんでいる。またこの近辺で最大のコミュニティの喪失による今後の勢力変化と、今後は自分達も名も旗もない”ノーネーム”の下に治められるかもしれないという未来に不安を抱いていた。
そんな彼らに向かって十六夜はジンの名を使って”フォレス・ガロ”に奪われていた”名”と”旗印”の返還を宣言する。
その意を汲んでいるジンもまた、返還の際にはしっかりと印象付けることを忘れない。
全ての返還が終わったところで、十六夜は改めて奪われた”名”と”旗印”を取り戻したのがジン=ラッセルであることと、彼率いる”ノーネーム”が”打倒魔王”を目的に掲げて活動していく事を強調した。
「覚えておいてほしい。俺達は”ジン=ラッセル率いるノーネーム”だと。魔王から奪われた”名”と”旗”を取り戻すその日まで、彼を応援してほしい」
普段の十六夜に似合わないその演説は、続くジンの決意を示した言葉と共に衆人から歓声をもって迎えられる。
それは”ノーネーム”再興へ向けての、最初の一歩でもあった。
後始末を終えて本拠へと帰還した一行は耀の見舞いへと赴いた。その後十六夜は黒ウサギにジンと結んだ条件を明らかにする。
かつての仲間が景品に出されるゲームへ十六夜が参加すると聞き、喜び勇んでその申請へと向かった黒ウサギであったが、間もなく泣きそうな顔と共に帰ってきた。
「ゲームが延期?」
「はい。……申請に行った先で知りました。このまま中止の線もあるそうです」
どうやら他に巨額の買い手がついてしまったらしい。そう告げた黒ウサギは自慢のウサ耳を萎れさせ、口惜しそうに落ち込んだ。十六夜もまた肩透かしをくらったようにソファーへと寝そべる。
今回のゲームは”サウザント・アイズ”主催ではなく、その傘下のコミュニティ”ペルセウス”が取り仕切っているという。そのため直轄幹部である白夜叉でもどうにもならないようだ。
彼らと同じ談話室でお茶を飲んでいた京一郎も、当然その会話を耳にしていた。話題の元・魔王にはいささかの興味があったのだが、どうやら今回は縁がなかったらしい。
手に持った装飾琴の弦を弾くと同時に、京一郎はその件を頭からあっさりと追いやった。十六夜も次の機会を待つと決めたが、近しい仲間であった黒ウサギにとっては、運が悪かったという言葉でそう簡単に飲み込めはしない。
落ち込んでいる黒ウサギの様子を見かねたのか、十六夜が話を変える。
「ところで黒ウサギ。その仲間ってやつはどんな奴なんだ」
「そうですね。……一言で言えばスーパープラチナブランドの超美人さんです。指を通すと絹糸みたいに手触りが良くて、湯浴みの時に濡れた髪が星の光でキラキラするのです。元魔王仲間で、艶やかな黒髪が特徴の和風美人、虚姫さまとコミュニティの人気を二分していたほどのお方でした」
「へえ? よくわからんが、見ごたえがありそうだな」
十六夜の合いの手を受け、さらに黒ウサギはその件の人物について語ってゆく。
曰く、思慮深くて優しい。曰く、後輩としてよく可愛がってもらった。曰く、かつて参加したとあるコミュニティ主催の美人コンテストでは、元魔王仲間と共にぶっちぎりで一位、二位を獲得したとか。
どこまで本当かは不明だが、どうやら慕っていたのは嘘ではないらしい。ようやく過去の思い出から現実に戻ってきた黒ウサギは、ため息混じりに呟く。
「近くにいるなら、せめて一度だけでもお話したかったのですが……」
「おや、嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
答えがないはずのその言葉に、窓の外から返事が返ってきた。はっと黒ウサギが見たその場所には、にこやかに笑う金髪の少女が浮かんでいる。
「レ、レティシア様!?」
「様はよせ、黒ウサギ。今の私は他人に所有される身分だ」
慌てて黒ウサギが開けた窓より部屋に入ってきた彼女は、やんわりと訂正を加えた。
金の髪をリボンで結び、紅いレジャージャケットに拘束具に似たロングスカートを身に着けた少女は黒ウサギの先輩というには幼すぎる外見をしている。
しかし三年ぶりの再会にもかかわらず、今の立場と状況を理解したその言葉は、確かに年長者の思慮深さを備えており、またかつての後輩に対する優しさの感情が込められていた。
「すぐにお茶を用意するので、お待ちください」
「ふむ。黒ウサギ。ついでにわたしのお代わりも頼もうか」
「はいっ。すぐにお持ちします」
窓からの訪問を詫びる少女との久しぶりの再会がよほど嬉しかったのだろう。小躍りするようなステップで黒ウサギはもてなしの用意をするために談話室を出て行く。
その際にお代わりを頼んだ京一郎への返事にも、跳ねるような明るさが感じられた。
その間、金髪の訪問者は十六夜と黒ウサギについて歓談をしている。戻ってきた黒ウサギへ十六夜が不意打ちの褒め言葉を決めて赤くさせ、その様子を見たレティシアがからかう。
「そ、それで。レティシア様は、どのようなご用件でこちらに?」
慌てた黒ウサギは、話題を変える意味もあってか彼女の訪問の目的を尋ねた。現リーダーであるジンを介さない内密の話をしにきたのかと暗に問う黒ウサギに対し、レティシアは苦笑しながら首を振る。
「用件というほどのものじゃない。新生コミュニティががどの程度の力を持っているか、それを見に来たんだ。……ジンに会いたくないのは合わせる顔がないからだよ。お前達の仲間を傷つける結果になってしまったからな」
「ほう。昼間のゲームの影にいたのは、やはりお主だったか」
窓の外にいたときから京一郎はその存在を感知していた。それが昼間のゲームで感じられた力と同一のものだということも。
特に邪魔に感じなかったため捨て置いたのだが、どうやらその選択は正しかったようだ。
ゲームへの介入や危険を冒して古巣へ来訪した目的は、昔の仲間達が再興に向けて動き出したのを知って、それを為せるかどうか確認をしにきたのだという。
それには白夜叉も一枚噛んでいるようだ。珍しく彼女が下層に来ていたのもそのためだったのだと、遅まきながら黒ウサギは気がついた。
「それで、その結果は?」
そういった事情を知り、判断を問う黒ウサギだが、対するレティシアは難しい顔をして応えた。
「さて、ガルド程度では当て馬にもならなかったし、ゲームに参加した彼女達はまだまだ青い果実で判断に困る。話を聞く限り、そこの御仁ならどうにかやれそうではあるが……」
「期待はしないでもらおうか。そのつもりは毛頭ない」
「だろうな。噂どおりの人物だ。……さて、私はなんと言葉をかければいいのか」
自分でも理解できない胸の内に苦笑するレティシアに対し、十六夜は呆れたように笑う。
「違うね。アンタは古巣の仲間が今後、自立した組織としてやっていける姿を見て、安心したかっただけだろ?」
「……ああ、そうかもしれないな」
十六夜の指摘に首肯するレティシア。しかしその目的はまだ果たされていない。そんな彼女に十六夜は、軽薄な口調で提案する。
「その不安、払う方法が一つあるぜ」
魔王に対抗できる人材かどうか、自分自身で試せばいい。そう提案する十六夜にレティシアは一瞬、唖然とするも、すぐに弾けた笑いと共にそれを受け入れる。
「ふむ。ならばその前にわたしも一つだけ聞いておきたいことがあるのだが……」
京一郎が口を開いたのは、力試しで二人が合意した直後であった。
「なんだ?」
「何か?」
元魔王との対決に水を差されたためか、少し不満げな十六夜を無視した京一郎は、疑問の表情を浮かべるレティシアに対して問いかける。
「いや、今の内に聞いておこうかと思っての。……お主はこのコミュニティを壊滅させた魔王について何か知っておらんか?」
「あ、あの。なぜ今のタイミングでそれを聞くのでしょうか」
いきなりの問いに困惑した黒ウサギだが、京一郎はそっけなく答えを返した。
「何、たいしたことではない。今、聞かねば機会を逃しそうだからのう。……それで、何か知っていることはないか?」
黒ウサギの疑問をとぼけた顔で流し、京一郎は改めてレティシアへと尋ねた。問われたレティシアはというと、意図が分からず困惑していたが、やがて躊躇いがちに話し出す。
「……すまない。私もほとんど知らないのだ」
最も返ってきた答えは京一郎の期待したものではなかった。どうやら隠しているというわけでもない。
それを確認した京一郎はもうこの場に用はないとばかりに、琴を抱えて部屋の外へと歩きだす。
「あ、あの京一郎様。一体どちらへ」
「いや、これ以上はわたしの関わる問題でもなさそうだしな。用件もすんだことだし、後は好きにやるといい」
黒ウサギの問いかけに、京一郎は何の気もなしに答える。それはすでに元魔王だという彼女への興味がない事を伺わせる口調だ。
そのまま、部屋を出ようとした京一郎は、しかし思い直したのか一度振り返って部屋の中へと声をかける。
「ああ、そうだ。一応、礼の代わりに言っておこうか。……せいぜい手加減して望むといい」
「あん?」
「はい?」
「……」
奇妙な言葉を最後に、京一郎はゆうゆうと談話室を出ていく。その後に残されたのは、二つの疑念と一つの沈黙であった。
箱庭のギフトゲームが恩恵という手札を駆使して競い合うものなら、カンピオーネは手札に頼らず、ゲームそのものをひっくり返してでも勝利を目指す。
今のところ違いはそんな感じかなと考えております。
あとさりげなくオリキャラの投入。名前はもしかしたら変えるかもしれません。
次の話も同日に投稿です。