問題児たちとロクデナシの魔王が異世界から来るそうですよ?   作:慢性睡眠不足

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というわけで連続投稿です。

ようやくこれからペルセウス戦へと思いきや、まだまだ先が長い。


魔王の異界と英雄の騎士

 十六夜の提案に端を発する力試しは、中庭に場所を移して行われた。両者が全開の攻撃を一度ずつ打ち合い、それを受けきるというシンプルな勝負の最中に、黒ウサギは京一郎が残した言葉の意味を理解する。

 

「レ、レティシア様!? そのギフトカードは」

 

 天の位置を確保したレティシアが取り出したギフトカードを見て、黒ウサギは蒼白な顔で叫ぶ。それを退けたレティシアは、赤と金と黒のコントラストに彩られたカードから投擲用のランスを発現させると、地上の十六夜へ向かって全力で投じた。

 

「ハァア!!!」

 

「カッ!――しゃらくせえ」

 

 反動で生じ衝撃が視認できるほどの波紋を広げる強烈な一撃。――しかし十六夜はそれをただ()()()()()

 

「「―は……!??」」

 

 素っ頓狂な声を上げるレティシアと黒ウサギ。目の前で行われた冗談のような光景に思わず現実を疑う二人だが、しかしただの一撃で鉄塊と化したランスは、容赦なく天で呆ける彼女の元へ第三宇宙速度に匹敵する速さとなって戻ってくる。

 

(ま、まずい)

 

 即座にその攻撃を受けられないと悟ったものの、しかし今のレティシアには馬鹿馬鹿しい速度で迫る凶弾を退ける術を持ってはいなかった。

 

「――レティシア様!!」

 

 覚悟を決めた彼女を救ったのは飛び出した黒ウサギだ。彼女は鉄塊を払い落とすと、金髪の少女からギフトカードをさらい、抗議の声を無視してそれを検める。

 

「ギフトネーム・”純潔の吸血姫(ロード・オブ・ヴァンパイア)”――やっぱり鬼種のギフトは残っているものの、神格が残っていない」

 

 震える声で向き直る黒ウサギの視線から、サッとレティシアは目を反らす。その二人へ歩み寄った十六夜は白けたような顔で尋ねた。

 

「なんだよ。元・魔王様のギフトって吸血鬼のギフトしか残ってねえの?」

 

「……はい。武具は残してあるようですが、自身に宿る恩恵は……」

 

 それを聞いた十六夜は盛大に舌打ちする。弱りきった状態で相手にされたことが不満だったのだ。

 

「ハッ。アイツの言っていたのはこの事か。道理であっさりと出ていった訳だ。他人に所有されたらギフトまで奪われるのかよ」

 

 十六夜のその言葉は黒ウサギによってすぐに訂正される。武具などの顕現しているギフトなどとは違い、体に宿る”恩恵”は隷属した相手の同意がなければ奪うことは出来ないのだと。

 

 それはつまりレディシアが望んでギフトを差し出したことを意味している。その理由を視線で問う二人だが、かつての魔王は何度も躊躇いながらもその訳を話さずにうつむいてしまう。

 

 とりあえず本拠へ戻ろう十六夜の提案は、同意を得られたものの、結局実行されることはなかった。

 屋敷に戻ろうとしたところで、三人へ向けて遠方から褐色の光が放たれたのだ。

 

「あの光……ゴーゴンの威光!? まずい、見つかった!」

 

 直前で気がついたレティシアは他の二人をかばってその光を浴びる。途端にその全身が石像へと変わった。

 さらに光に続き、今度は翼の生えた靴を装着した騎士風の男達が大挙して飛来した。

 

「いたぞ! 吸血鬼は石化させた! すぐに捕縛しろ!」

 

 石となって横たわるレティシアの周りに降りてきた彼らは”ペルセウス”の構成員であり、逃げ出した所有物を追ってここまでやってきたのだ。

 

 それを認めた黒ウサギは、十六夜を本拠に引っ張り込むと、扉の間からその様子を見守る。石にされた仲間の安否が気になるとはいえ、彼らは”サウザント・アイズ”の幹部を務めるコミュニティ。万が一にも揉め事を起こすわけにはいかない。

 

 だが彼らの会話の中に、彼女は聞き逃せない一言を拾ってしまう。

 

「箱庭の外ですって!?」

 

 レティシアの取引先が箱庭の外であることを知り、黒ウサギは彼らに走り寄って抗議の言葉を上げる。

 

 箱庭創始者の眷属であるウサギが”箱庭の貴族”と称されるように、箱庭の世界でのみ太陽の光を受けられるヴァンパイアは”箱庭の騎士”を称される。

 

 その彼らを箱庭の外へと連れ出すのはどういうことかと問い質そうとする黒ウサギだが、彼らの反応は冷ややかなものだった。

 

「我らが首領が取り決めた交渉だ。部外者は黙っていろ」

 

 突き放す言葉と共に、彼らは石像を伴って空へと上がる。そこには百を超える軍勢が本拠の空を占有していた。

 

 本拠への不当な侵入はコミュニティに対する明確な侮辱行為であり、さらに信頼が命の商業コミュニティにとっては暴挙に等しい。おまけにその非礼を詫びる一言すらない。

 

 明らかに”ノーネーム”を見下した行為に激昂する黒ウサギだが、”ペルセウス”の男達はそれすらも鼻で笑う。

 

「ふん。こんな下層に本拠を構えるコミュニティに礼を尽くしては我らの旗に傷がつく。身の程を知れ”名無し”風情が」

 

 さらに遠慮なく投下された燃料により、ついに黒ウサギの堪忍袋が爆発した。その怒りすらも嘲笑する”ペルセウス”の面々を睨みつけた彼女は、物騒な笑顔と共に行動を起こす。

 

「あ、ありえない。……ええ、ありえないですよ。天真爛漫にして温厚篤実、献身の象徴とまで言われた”月の兎”をこれほどまで起こさせるなんて……」

 

 淡い緋色に変幻させた髪を天へと高く舞い上がらせ、周囲を圧する力を解放した黒ウサギは、高く掲げた右手に光り輝く槍を顕現させた。

 

 雷鳴のような爆音を周囲に響かせるその槍を見て、”ペルセウス”の騎士たちに動揺が走る。

 

「雷鳴と共に現れるギフト……ま、まさかインドラの武具!? そんな話はルイオス様から聞いていないぞ」

 

「本物のはずがない! どうせ我らと同じレプリカだ!」

 

 そんな彼ら自身の身で真贋を確かめさせるべく、黒ウサギは必殺の槍を天に向かって打ち出そうとした。

 

「てい」

 

「フギャ!」

 

 それを止めたのは十六夜だ。投擲の直前でウサ耳を後ろに引っ張られたことにより、槍は黒ウサギの手からすっぽ抜け、明後日の方向へと飛んでいく。

 

 天幕に着弾して広範囲に雷鳴が走る空の下で、何度も耳を引っ張られた黒ウサギは抗議するが、その間に本拠の上にいた軍勢は姿を消していた。

 

 黒ウサギに敵わないと見るや否や、彼らは不可視のギフトを用いてその場より離脱したのだ。

 

 残された黒ウサギは十六夜の言葉に従い、詳しい事情を知ってそうな白夜叉に話を聞きに行こうとする。

 

 キナ臭いという十六夜の警告を受けた黒ウサギ達は仲間をつれて行こうと本拠へ戻った。飛鳥の承諾は得られたものの、負傷した耀とその看病を申し出たジンは残ることになる。

 

 そしてなぜか京一郎の姿は、見つからなかった。

 

 

 

「な、なんだここは……」

 

 眼前に広がる廃墟を前にして、”ペルセウス”の騎士の1人は呟いた。

 

 最下層の”ノーネーム”に逃げこんだ所有品を追って来た彼らは、多少のトラブルにあったものの無事目標を回収に成功。そのまま速やかに本拠へと帰還するはずだった。

 

 だが”ノーネーム”の敷地を出る直前、どこからか響いた弦の音を聞く。同時にあと少しまで迫っていた外の世界が急速に遠ざかり、気がつけば百に近い軍勢は廃墟の群れの真ん中へと放り出されていたのだ。

 

「……ここは異界か?」

 

「誰かのゲーム盤に巻き込まれたのか?」

 

「いや、侵入者を逃さないためのトラップではないか」

 

 とはいえ彼らは五桁の外門に本拠を構えるコミュニティの構成員だ。すぐさまこの不可思議な現象を受け入れ、対処しようと動き出そうとした。

 

「とりあえず半数はこの場に残って待機だ。取り戻した商品を守れ。残りは何班かに別れて脱出路を…」

 

「いやはや、中々大量に獲物がかかったものだ。残念ながら小物ばかりのようだが……」

 

 軍を率いるリーダーが出した指示に重ねられるように、別の声が響く。騎士達がその方向を見れば、いつの間にか1人の青年が朽ちた廃墟の一つに腰掛けていた。

 

「誰だ!? これは貴様の仕業か?」

 

「うむ、その通り。忍び込んだネズミを見つけてな。最初は見逃そうと思ったが、面白い玩具をもっているようなので、この場に招待したのだ」

 

 リーダーの問いかけに、その青年――京一郎は笑って肯定した。それを耳にした何人かの騎士達が、嘲笑と共に言葉の矢を放つ。

 

「ふん。”名無し”の関係者か。邪魔をするとはいい度胸だ」

 

「我らを”ペルセウス”と知っての狼藉だろうな」

 

「まあいい。身の程知らずの行動を、すぐに後悔させてやろう」

 

 口々に好戦的な言葉を並べる”ペルセウス”の軍勢は、この異界に引き込んだ元凶である京一郎を包囲する。

 

 相手はたった一人、対してこちらは百に届く軍勢である。さらに最下層の”ノーネーム”の関係者とくれば、礼節を引っ張り出す必要も感じない。

 

 天を駆ける騎士達を背景に軍勢のリーダーは、京一郎へと最後の通告を突きつける。

 

「貴様を相手にしている時間などないのだ。今すぐに我等を元の場所に戻せ。そうすれば見逃してやろう。……それともこの百の軍勢によって屍をさらすことを選ぶか?」

 

「何、気遣いは無用だ。招かれざる客だが、わたしも一応出迎えの準備はしていたのでな」

 

 開放か、死かを迫る騎士の長へそう答えた京一郎は、サッと右手を振るった。途端に廃墟郡から、無数の異形の者たちが突如として這い出てくる。

 

 最も数が多いのは三メートルほどの体格を持つ小型の異形で、それが数百体ほど。さらに他にも八メートルほどの体格を持つ中型の異形が数十体ほど混じっていた。

 

 全て頭に角を生やした異形の群れが、瞬く間に自分達を目指して集まってくる様を見て、騎士達に戦慄がはしる。

 

「何っ!? 鬼の軍勢だと……」

 

「なんだ、この数は! こちらの数倍はいるぞ……」

 

「ええい、我等は英雄の名を継ぐコミュニティだ! この程度の相手に一々怯えるな。総員、高度を取れ。そうすれば地に這いずる奴らなぞ……」

 

「おっと。せっかくのもてなしだ。遠慮せずに受け取るがいい」

 

 異形を避けて高度を取ろうとする軍勢に京一郎はそう声をかける。同時にその手に握られた琴の弦が数度鳴らされるや否や、まるで天井があるかのように騎士達は一定の高度より上にいけなくなった。

 

「なっ……!? 貴様、一体何をした!?」

 

「何、大したことではない。()()()()()()()()()()()

 

 どれだけ靴に生えた翼を羽ばたかせようとも、高さ十メートルを超えられない軍勢に対し、京一郎は軽い口調で答える。

 それから、左手を突き上げた京一郎は笑顔と共に騎士達へと言い放った。

 

「では、もてなしの時間だ。精々楽しむがいい」

 

 その言葉と共に京一郎は左手を一気に振り下ろす。同時に上空で風か渦巻き、圧力となって空でもがく彼らを上から強烈に打撃した。

 

「うわあぁあああああ」

 

 悲鳴をあげて地に叩きつけられる軍勢へと、鬼達は一斉に襲い掛かっていく。

 

 

 

 やがてその地には鬼以外に動くもののいなくなった。その唯一の例外である京一郎は宴の跡地にてのんびりと呟く。

 

「ふむ。偽者らしいが、中々よく出来ている。これは思わぬ拾い物だったか」

 

 その手には傷のついた兜が握られていた。多少凹みが目立つが、それでも不可視の能力には問題がないらしい。

 

 ある程度検分したところで、所々赤黒い汚れが付着しているそれを戦利品の山へ放り投げる。それから京一郎は、その山の脇に置かれた石像へと近づいた。

 

 さすがは英雄なの名を継ぐコミュニティの騎士達というべきか。あの激戦の最中でも見事に吸血鬼の石像を守り通したらしい。その表面には傷の一つも見当たらない。

 

「さて、これはどうしたものか」

 

 黒ウサギ達と”ペルセウス”の対面の場に居合わせなかった京一郎だが、その間の出来事は足元においてある琴を通じて把握していた。

 

 剣と弓より支配権を引き継いだこの琴を持っていれば、この”ノーネーム”の敷地を含む空間を支配する他に、その中で起きる出来事を、まるで見ているかのように把握することが出来る。

 

 そのためこの石像があの吸血鬼の成れの果てであることも、黒ウサギが神格の付与されたギフトを明後日の方向へ飛ばしたことも、白夜叉から詳しい事情を聞きに行こうという動きも京一郎は知っていた。

 

 今のように異界の展開も可能だが、土地自体が死んでいるため長期間の維持は出来ない。現に今も徐々にこの異界は収縮を始めている。今は京一郎自身の力で補っているものの、そう長くは持たないだろう。

 一応別の場所で安定した異界を確保しているため、騎士達から得た戦利品の置き場所に困ることはないが。

 

 京一郎を探しまわっている向こうの様子から意識を戻すと、異界の主は今後の行動について考え始める。

 

「このまま、これを”ノーネーム”の連中に渡すというのは……詰まらないか。とはいってもあの”ペルセウス”とかいう連中に届けてやるのも面倒くさい。さてさて、どうしたものやら」

 

 少し前ならば、京一郎もこの元魔王に興味を抱いていた。しかし先の談話室で会った時に、思ったほどの力を感じ取れないことから、すでに関心は消えていた。

 件の魔王についても知らなかった以上、京一郎にはもうこの石像に執着する理由はない。

 

「……ふむ。しかしまだエサとしてならば使い道はあるか」

 

 やがて考えをまとめた京一郎は、にやりと笑うと石像へ向かって声をかける。

 

「では、景品らしく役に立ってもらおうか。のう、元・魔王よ」

 

 

 




とりあえずここまで。

黒ウサギから得た調査許可とジンと結んだ契約を都合よく解釈した結果、ノーネームの敷地は全て京一郎の支配下におさまりました。

ついでに故ガルドさんのところもすでに異界が作成済み。こちらは倉庫として使われる模様。

京一郎の異界は現世とは切り離した空間の生成なので、その場所に行ったとしても基本的には気がつけません。霊脈の流れとかを辿れれば発見できますが……。

それと異界にあった廃墟群は、ノーネーム居住地にあったものを勝手に持っていったものです。


それと第二の権能も以下に置いておきます。



”百鬼夜行”

京一郎、第二の権能。大国主を倒した後、現世に帰れずしばらく幽世を彷徨っていた京一郎がとある鬼神(羅刹天と思われるが、詳細は不明)より簒奪する。

第一の権能の項でも述べたように、非常に泥臭い戦いの果てに勝利を得た。

その力は万物を異形の鬼と変え、使役するというもの。生み出される鬼は元になったものに宿る力と、京一郎が注ぎ込む呪力の多寡によってサイズや力が変わる。

ただし対象が大きければ大きいほど、変化のために時間はかかり、必要な呪力も増大する。そのため大型の鬼を呼び出したい時には、小型の鬼を融合させる形で誕生させたほうが強力であり、呪力の消費も少ない。

生み出された鬼は生命力が高く、非常に頑強な体を持つ。とはいえ小鬼程度ならば、それなりに腕の立つ術者ならば討伐可能。中大型に関しても達人クラスならば(長期間かかるとはいえ)、打倒することが出来る。

生物も鬼へと転じさせることは可能だが、精神力が強くなければ生きた人形状態になるために、京一郎の配下でもその数は少ない。
またその場合だと主である京一郎の支配も跳ね除ける事があり、基本的には無機物などから鬼を生み出している。

霊装などから生み出すと、その力を宿した鬼が誕生するらしい。

一応元に戻すこともできるが、実は再度鬼化させたり支配を維持したりすることも可能だったりする。



とりあえず第二の権能はこんな所。結構使い勝手のいい権能ですが、どちらかというと他の権能と併用、あるいは補助として使われることが多いようです。



とりあえず今回はここまで。次回はまた来週になりそうです。




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