問題児たちとロクデナシの魔王が異世界から来るそうですよ?   作:慢性睡眠不足

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すいません。前回よりも一ヶ月以上の日が開いてしまいました。執筆時間が取れなかった上に、何度も書き直したせいで時間がかかったためです。

とりあえず今回もひどい展開ですが、どうそご容赦を。


元魔王の行方と英雄との会談

 結局、その後も京一郎の姿は見つからなかった。時間を惜しんだ事もあり、黒ウサギは十六夜と飛鳥の二人だけを供に、白夜叉の元ヘと向かう。

 

「……一体、どこに行ってしまったのでしょう。京一郎様は……」

 

 とはいえやはり気がかりなのか、その道中でも幾度となく黒ウサギはため息をもらしていた。

 

 問題行動の多い自称・魔王が姿を隠し、一体何を企んでいるのか。そんな不安が彼女の心中を脅かしているのだ。

 

「黒ウサギでも、居場所は分からないのか?」

 

「はい。おそらく何らかの力を使って意図的に隠れているのでしょう。そうでなければ、私の耳に引っかからないはずがありません」

 

 同行する十六夜の疑問にも、黒ウサギは暗い顔で答える。箱庭の中枢へとつながり、ゲームの進行を余すところなく把握できる高性能なウサ耳をもってしても、その所在すら掴ませてくれない。

 

「……意外と多才なんだな、アイツ」

 

「そういえば、魔術も使えるのよね。本人はたいした腕じゃないって言ってたけど、どこまで本当なんだか……」

 

 黒ウサギの答えに、十六夜は呆れたように呟いた。隣にいた飛鳥もまた、すでに遠くに感じる昨日の出来事を思い返す。

 

 今も残ったノーネームの仲間達が捜索を続けているが、これでは向こうから出てこない限り、発見は期待できないだろう。

 

 力試しの前に興味を無くしたように退場していった京一郎だが、姿を消したタイミングを考えれば、レティシアと”ペルセウス”の件に絡んでないとも限らない。

 それとも別に厄介事の芽を見つけて、今はそれを熱心に育てようとしている最中か……。

 

「どちらにしろ、頭が痛いことには変わりませんが……」

 

 どうしても楽観的な未来を描けず、黒ウサギは何度目かの重いため息をつく。そんな苦労性の彼女を見かねたのか、飛鳥が優しい顔で言葉をかけた。

 

「……ねえ、黒ウサギ。気になるのは分かるけど、いない人のことを考えても仕方ないわ。今は、その吸血鬼さんを助ける事に集中しましょう」

 

「そ、そうですね!? 今はレティシア様を取り戻すことを優先しなければ!」

 

 飛鳥の励ましを受け、ようやく黒ウサギも気持ちを切り替えることに成功した。

 

 京一郎の事も気にかかるが、それよりも今はレティシアの問題に集中するべきなのだ。うかうかしていれば、あの吸血鬼の姫は箱庭の外へと連れ出されてしまう。

 天幕の護りがなく、太陽の光が容赦なく降り注ぐ外の世界は、吸血鬼にとっては灼熱の地獄に等しい。そんな場所に送られてしまえば、二度と再会は望めない。

 

 決意と共に先刻の怒りと憤りを思い出した黒ウサギは、その勢いを借りて目的地である”サウザント・アイズ”の支店へ乗り込んでいく。

 

「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです」

 

 門前で一行を出迎えたのは昨日の無愛想な女店員だった。怒り心頭の黒ウサギとの相性は控えめに言っても最悪だが、幸い今回は面倒な問答もなく店内へと招き入れられる。

 

 案内された先で待っていたのは、疲れた顔をした白夜叉と、苛立ちを募らせた亜麻色の髪を持つ見知らぬ1人の若い男だ。

 

 蛇皮の上着を羽織るこの若い男こそが、現”ペルセウス”のリーダー、ルイオスである。

 

 到着した”ノーネーム”一行を不機嫌な顔で出迎えたルイオスだが、黒ウサギの姿を認めると、途端に歓声を上げる。

 

「おおっ?! どんな奴が来るのかと思っていたら、ウサギじゃん! うわー実物初めて見た。つーか、随分エロい格好をしてるな。……ねー君、ウチのコミュニティに来いよ。三色首輪付きで可愛がってあげるぜ」

 

 先ほどまでの不機嫌な雰囲気をきれいさっぱりと消し、地の性格を完全にさらしたルイオスは積極的に下心丸出しの誘いをかけ始めた。

 

 その好色な視線から黒ウサギを守るように、飛鳥もまた前に出て対抗を始める。

 

「先に断っておくけど、この美脚は私達のものよ」

 

「そうですそうです! 黒ウサギの脚は、って違いますよ飛鳥さん!!」

 

「そうだぜお嬢様。この美脚は既に俺のものだ」

 

「そうですそうですこの脚はもう黙らっしゃい!!」

 

 問題児二人による所有宣言に対する黒ウサギの抗議をよそに、話は思わぬ方向へと転がっていった。

 ついには白夜叉までもが参加して進んでいく掛け合いから弾き出され、最初はあっけに取られていたルイオスだったが、やがて唐突に笑い出した。

 

「あっはははははははは! えっ、何? 君らって芸人コミュニティなの? なら全員でウチにおいでよ。全員まとめて面倒見てやるからさ。勿論、そこのウサギはベットでだけど」

 

 よほど黒ウサギが気に入ったのか、その後もルイオスのしつこい勧誘は続いた。対する黒ウサギは嫌悪感と共に拒絶しつつ、なんとか話を本題へと進める事に成功する。

 

「――”ペルセウス”から受けた無礼行為は以上です。ご理解いただけましたか?」

 

 ルイオスの好色な視線に耐えながら、事情を語り終えた黒ウサギは、白夜叉へ確認を取った。

 

「う、うむ。所有物である吸血鬼が身勝手に敷地に侵入して荒らしたことと、それを捕獲する際における数々の暴挙と暴言。確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日」

 

「結構です。我等の怒りはそれでは収まりません。この屈辱は両コミュニティの決闘をもって決着をつけるべきかと」

 

 謝罪で穏便に事を収めるのではなく、あくまでも直接対決を黒ウサギは望んだ。勝利によってレティシアの身柄を取り戻す事を狙ってのことである。

 そのために一部の事実を捏造し、さらに白夜叉にもゲームの仲介を求める。

 

「いやだ。そもそも何で僕達がそんな事をしなけりゃいけないのさ?」

 

 しかし不機嫌な顔に戻っていたルイオスは、その要求をにべもなく断った。まるで自分に非はないとばかりのその言い方に、かえって黒ウサギの方が困惑する。

 

 しかし続くルイオスの言葉によって、場はさらなる混乱へと叩きこまれた。

 

「それよりあの吸血鬼を確保しているのは君達だろ。いつまでもいい加減なことを言ってないでさ。そっちこそ早くウチの所有物を返してよ?」

 

「……はい?」

 

 思いも寄らなかった言葉に、今度こそ黒ウサギの思考は完全に停止した。数秒後に何とか再起動を果たすが、しかし混乱に飲まれたまま、黒ウサギはルイオスへと叫んだ。

 

「い、いい加減!? 返す!? な、何を言っているのですか、あなたは!?」

 

 慌てる愛玩動物の様子がよほどおかしかったのか、ルイオスは一時その顔をだらしなく緩ませる。しかし口調はあくまで冷たいままで、黒ウサギを責め立てていった。

 

「ふーん、あくまでとぼける気なんだ? あの吸血鬼が君達のところに逃げ込んだは分かっているし、それを追っていったはずのうちの連中も行方不明なんだけど。……まさかそれもとぼける気じゃないよね?」

 

「ゆ、行方不明?! う、嘘です! 確かに彼らはレティシア様を石化して、そのまま……」

 

「えー、温厚篤実なウサギの言葉とは思えないな。……なら何でまだ彼らは帰ってこないんだい。実は元仲間にすがられた君が、やっちゃって隠しているんじゃないの?」

 

「そ、そんなことはありません!……いえ、確かにやろうとはしましたが、でもそれは十六夜さんに止められて」

 

 吸血鬼を匿い、その追跡に当たっていた”ペルセウス”の構成員にも手を出したのではないかと疑うルイオスに、必死で抗弁しようとする黒ウサギ。

 しかし未遂とはいえ一時はそれを実行しかけたせいだろうか。その反論にはやや勢いが欠けていた。

 

「……ねえ、何かおかしくない?」

 

「いや、明らかにおかしいだろ。しらばっくれているのか。それともコイツの仲間じゃなかったか……」

 

 ここまで黒ウサギに任せて事態の成り行きを見守っていた飛鳥と十六夜だが、流石にこの展開には疑問をおぼえた。

 それは白夜叉も同じなのか、一度両者の言い分を整理しようと介入する。

 

「どうも、話が食い違っておる気がするな。……黒ウサギよ。その吸血鬼を石化して連中は本当に”ペルセウス”の構成員だったのか?」

 

「はい、間違いありません! 旗印も確認しましたし、彼ら自身もそう言ってました」

 

「ふーん。なら何で帰ってこないのかな? そこのウサギの話を信じるなら、君達はみすみす逃したって言ってるけど。……実はそんな事実は全くなくて、全部自作自演の作り話とか?」

 

「そ、そんな!?  私達は嘘などついては……。第一、数々の暴挙を誤魔化すために嘘をついているのはそちらではないのですか!」

 

 受けてもいない被害を捏造した黒ウサギと、所有物の執着を断つために、古巣であるノーネームを荒らすように部下に指示していたルイオス。

 互いに後ろめたい行為を裏に抱えているせいか、両者の言い分は完全には立たず、かといって引くこともできない。

 

 その結果、話は不毛な水掛け論の様相を見せ始める。

 

「……なんなら、ちゃんと調査してみる。でも困るのはそっちだと思うけど……」

 

「…………」

 

 しかし何時までも続きそうな議論に飽きたのか、ルイオスは穏やかな脅迫へと手法を転じた。暗に脱走の手引きをした白夜叉の関与を持ち出し、ソレを追求されたくなければ、負けを認めて所有物を引き渡せ、と迫ったのだ。

 

 だが身に覚えのない黒ウサギが、それを受け入れられるわけがない。沈黙する以外に方法がない黒ウサギに対して、ルイオスはやれやれとばかりに肩をすくめてみせる。

 

「ちょっと往生際が悪くないかなー。そもそもあの吸血鬼とは最初から通じていたんだろう? 何せ仇敵に恩恵を差し出して、仮初の自由を得た上で逃亡した先が君達のところなんだからさ。そんな犠牲を払ってでも駆けつけようとした仲間を見捨てるなんて事、慈愛の化身であるウサギが出来るわけないしね」

 

「……な、なんですって。恩恵を差し出した? それは本当なのですか!?」

 

 そんな黒ウサギをさらに追い立てるべく、ルイオスはさらなる事実を明かしていく。レティシアの弱体化の原因が自分達にあると知らされ、黒ウサギの顔が蒼白に変わった。

 

「あれれ? 知らないふりをしているのか、それとも本当に知らないのかな。……まあ、どっちでもいいや。とにかく、取引は一週間後に迫っているんだ。はやく出してくれない? ああでも、もし君が僕に一生従属するなら、それでもいいよ」

 

「なっ……!?」

 

 にやにや笑ってルイオスが持ち出した代案に、黒ウサギは絶句する。これには流石に黙っていられなかった飛鳥が怒鳴り声を上げるが、ルイオスはさらに黒ウサギの献身ぶりを種にしてその代案を受けるように迫った。

 

 見かねた飛鳥が、”威光”の力でもってその口を封じようとする。だが流石は英雄の名を継ぐものだけあるのか、ルイオスはそれに抗して見せた。

 さらに顕現させた鎌で飛鳥への無礼打ちを実行しようとするルイオスと、それを阻む十六夜によって一気に場が緊迫する。

 

「ええい、やめんか戯け共! 話し合いで解決出来ぬのなら門前に放り出すぞ!」

 

 見かねた白夜叉が一喝したその時、部屋の外より声がかかった。

 

「……オーナー、”ノーネーム”のお連れ様が到着なされました。……そ、その。ギフトの買取りをお願いしたいとの事なのですが……」

 

 困惑を隠せない声は、あの無愛想な店員のものだ。その珍しい態度を訝しく思いながら、白夜叉は来訪者の名前を尋ねる。

 

「昨日もいらした方で、あとオーナーに貸しがある者だとおっしゃっていましたが……」

 

((((……まさか))))

 

 店員の答えに、1人を除くその場の全員が嫌な予感を覚えた。

 

 

 

 

 

「おや、皆ここに来ていたのか。これは奇遇だ」

 

 混乱した場を仕切りなおすため、その場の一同は別の部屋へと案内された。そこで茶菓子をのんびりと頂いていたのは、先刻から行方知れずだった空鳴 京一郎である。

 

「……嘘ですよね? 分かって言ってるんですよね!? 皆探していたのを知っていたんですよね! 今まで何をしていたのか、今すぐキリキリ吐いてください、さあ!!」

 

「はは、何やら物騒な顔になっているぞ、黒ウサギ。まあ、少し1人になってのんびりしておっただけよ」

 

「そんな適当な返答で誤魔化されるわけがないでしょう! いいからとっとと吐いてください、今すぐに!!」

 

 のんきな再会のあいさつをしてくる京一郎へ、般若の表情で黒ウサギは尋問を開始する。しかし対する京一郎はのらりくらりと、まともに返答する気がないようだ。

 先ほどの件もあり、まだ本調子でない黒ウサギを軽くあしらった京一郎は、白夜叉へと話しかける。

 

「何やら大変なようだが、少しいいか?」

 

「駄目といっても聞く気はないだろう、お主。……それで? 一体、何用だ」

 

 胡乱な目で尋ねる白夜叉に、京一郎は笑って用件を口にする。

 

「いや先ほど珍しい石像を手に入れてな。是非とも、お主に買い取ってもらおうかと」

 

「……石像?」

 

 京一郎の言葉に全員が嫌な予感をますます強める。恐る恐るその詳細を尋ねたのは、意識を引き戻された黒ウサギだ。

 

「あ、あの。それはどんな石像なのでしょうか?……もしかして若い女性の、それも吸血鬼の像とか、言い出しませんよね?」 

 

 問いの否定を望みながらも尋ねる彼女の口調は、しかし悲壮そのものだった。

 

「いや、男性の像だが。それも勇ましい戦士の像だな」

 

 そのため、想像とは違った答えが返ってきたことで、黒ウサギたちはほっと安堵した。ただし十六夜だけは、依然として厳しい目を京一郎へと向けたままだ。

 

「……それで、どのようなものなのだ?」

 

「うむ。では、見てもらうとしよう」

 

 白夜叉の言葉に応え、京一郎は『召喚』の魔術を使って、その石像を呼び寄せた。

 

 一同の囲む長机の脇に呼び出されたのは、確かに京一郎の言葉通り勇ましい男性の石像だった。

 騎士に似た甲冑を身につけ、いざ戦いへと望もうとしている戦士の像である。

 

 ――そしてその石像には、ゴーゴンの首の意匠がしっかりと存在していた。

 

「?! お、お前、それはっ!!」

 

「アウトぉおおおおおおおおおお!!!」

 

 自分の部下のなれの果てを見つけたルイオスの言葉を遮って、黒ウサギが絶叫する。同時にこれ以上の問題発生を封じるべく、勢いよく下手人へと飛び掛った。

 

 愛玩動物失格な顔で襲い掛かってきた少女を、京一郎はあっさりと手刀で迎撃する。額を打たれて悶絶する少女の呻きにも耳を貸さず、京一郎は涼しげな顔で像を手に入れた経緯を語りだした。

 

「少し外を散歩しておったら妙にコソコソしておる奴らを見つけてな。姿を隠しておるし、怪しいと思って呼び止めたら、逃げようとしたので……」

 

「逃げようとしたので……?」

 

「うむ、異界に引き込んでやった。そうしたら襲い掛かってきたので、こちらも遠慮なく攻撃をしたのだ。その内、石化とかいう面白いギフトを使ってきたのでな。それを奪って逆に石にしてやったら、なかなかに見事な石像になっての」

 

「……それで? これ幸いとばかりに売りにきたの?」

 

「そうなるな。ちょうど使える資金もほしかったところであったし」

 

「……もう何処からツッコめばいいのか、分からんのう」

 

 呆れた飛鳥の言葉を肯定して京一郎は頷いた。それから頭を抱えている白夜叉へと向き直ると、悪い笑顔を浮かべて話しかける。

 

「……さて。今も言ったとおり何やら”サウザント・アイズ”などと戯言を口走っていた連中の成れの果てだ。白夜叉よ。お主はこれにいくら出す?」

 

「……お主、知っておるな!? 知ってて言っておるな!!」

 

 京一郎の意図を察した白夜叉が叫びをあげる。

 

 この石像は混迷真っ最中の”ノーネーム”と”ペルセウス”の問題の争点の成れの果てであり、また有力な証拠であり、証人でもある。

 

 つまりこれを抑えれば、偽証も事実の捏造も思いのまま。こじれた問題を良い様に決着させることが出来る。

 

 取引相手に白夜叉を選んだのは、一方の当事者であるノーネームにはそのため資金がないから……ではなく、単にこの階層支配者を巻き込むためだ。

 裏でコソコソせず、堂々とこの問題に関わらせてやろう。そんな意図を匂わせつつ、あくまでも外見上は穏やかに、京一郎はとぼけてみせた。

 

「ははは、何を根拠に。……それで買うのか、買わぬのか? 買わぬのならば、別のところにもっていくだけだが……」

 

 白夜叉の怒りの声をのんびりとした口調で受け流した京一郎は、決断を迫る。しかし当然その場には、それを黙って見ている訳にいかない人物が居た。

 

「おい、ちょっと待て?! 勝手に人のところのメンバーを売ろうとするな!…てゆうか、お前か!? お前なのか? あの吸血鬼を確保している奴は?」

 

「吸血鬼? ああ、そういえばどこか見覚えのある像があったような、なかったような。はてさて? どうであったか……」

 

「とにかく、その像も吸血鬼も僕のものだ。早く返せ!」

 

 焦るルイオスの抗議をのん気な返答で受け流しながら、京一郎は白夜叉へと問いかける。

 

「……白夜叉よ。誰だ? この情けない面をした奴は」

 

「お主が捕まえて石にした奴らの親玉だが……。一体どうするつもりなのだ?」

 

「ふむ?」

 

 自分に噛み付いてくる人物の正体を聞いて、数瞬思案する京一郎。だが答えはすぐに出たらしい。

 

「……まあ、関係はないか。管理が悪い前の持ち主のことなど気にする必要もなかろう。ところで白夜叉よ。全部で百体ほどあるのだが、いくら出す?」

 

 間抜けは無視して白夜叉に石像を売りつける事を優先したのだろう。京一郎はそのまま売買交渉を進める。

 

「っ!? いい加減しろよ!!」

 

 もう言葉では埒があかないと思ったのか、怒りの声を上げたルイオスは先ほどと同じように鎌を顕現させると、それを京一郎へと突きつけた。

 今度ばかりは十六夜もかばおうとはしない。流石に無視は出来なかった京一郎も、眼前に突きつけられたその鈍い刃をちらりとだけ見やった。

 

 しかしすぐに視線を白夜叉へと戻し、代わりにワザとらしい仕草で袖の袂から何かを落とす。

 

「おっと、手が滑った」

 

 ついでに付け足された棒読みの言葉と共に長机の上に転がり出たのは、石像と思しきものの一部であった。

 

「……なんじゃ、これは?」

 

「えっと、石像の……手首よね? 欠けているけど」

 

「!!! お、おい!? ちょっと待て!! これは……」

 

「? ええっ!?……ああああああああああっ!!!」

 

 それが大きくゴツゴツした男性のものではなく、丸みを帯びた小さい女性のものだと判別した瞬間、二ヶ所で男女の絶叫が上がる。

 その二人、黒ウサギとルイオスの頭の中には、粉々に砕かれた吸血鬼の末路が浮かんでいた。

 

 涙混じりの悲鳴を上げながら、黒ウサギは破片に飛びつくと、それを抱えたままその場に崩れ落ちる。一方のルイオスは、殺意の視線と共に鎌を振り上げ、京一郎へと襲い掛かろうとしていた。

 

 さりげなく手近にあった騎士像を盾にしつつ、京一郎は言葉を続ける。

 

「ふむ。何を勘違いしているかは知らぬが、それは元々”ノーネーム”にあった石像の一部だぞ?」

 

 その言葉を聞いた黒ウサギははっと顔を上げ、ルイオスもまた目を見開いて武器を握る力を抜いた。

 まだ混乱から言葉を発せない二人の気持ちを代弁するように、飛鳥が呆れた口調で京一郎へと問いかける。

 

「随分な引っ掛けね? 分かってやってるんでしょうけど、悪趣味だわ」

 

「ははは。話も聞かずに勝手に勘違いをしたのはそちらだ。わたしに言われても困るぞ」

 

「っ! ふざけるなよ。何処までコケにすれば……」

 

 安心のせいか、まだ体に力が戻らない黒ウサギとは違い、激しい怒りを糧にしたルイオスは殺意に満ちた表情で京一郎へと詰め寄った。

 しかし続く魔王の言葉により、再びその動きは止められてしまう。

 

「まあ、今回は違ったが。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「くっ!? この……」

 

「!!! そ、そんな……」

 

 にやりとした悪い笑顔と共に出されたその言葉に、黒ウサギとルイオスは背筋を凍らせた。

 

 件の吸血鬼は今も手の中にあり、下手な動きを見せればそれを砕いてもかまわない。そう言外に告げる京一郎を前に、ルイオスと黒ウサギはそろって蒼白になった。

 奇しくもそれは、先ほどルイオスが黒ウサギに仕掛けた手法に近しい。

 

 迂闊な言葉を封じられ、しかし体の内側に怒りと不満の感情を煮えたぎらせたルイオスは、せめてもの抵抗として京一郎を鬼のような形相で睨みつけた。

 純粋な殺意を向けてくる英雄の顔を満足そうに見た京一郎は、再びにやりと笑う。

 

「……なにやら不満がありそうだな?」

 

「!? 当たり前だ!!」

 

「ふむ。……ならば、ゲームで決めるとしようか?」

 

「「「はあっ!?」」」

 

 突然の提案に、困惑と驚愕の混じった叫びが複数上がる。その反応を楽しむかのように、京一郎は言葉を続けた。

 

「この箱庭では、ギフトゲームは絶対だと聞く。ならばその流儀に従い、今回の揉め事もゲームで決着をつければ問題はなかろう?」

 

 

 




とりあえずここまで。

なんとも卑劣なり京一郎。いくらなんでも外道過ぎないか?

あと気がつくと、原作に比べて随分アグレッシブになっている黒ウサギ。一方の問題児達は比較対象のせいで、随分とまともに見える気がします。

こちらはあくまでも気がするだけですけど……。




次話も連続で投稿しています。

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