問題児たちとロクデナシの魔王が異世界から来るそうですよ?   作:慢性睡眠不足

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二話目になります。


魔王と問題児と

「ええい、わざわざ着替えたのに水浸しだと! ここでは招待した相手はまず水に叩き込むという風習でもあるのか」

 

 地面に叩き付けられる代わりに湖に入水した京一郎はそう文句を言いながらもすぐに近くの岸へと向かう。岸辺へ上陸するのと時を同じくして他の三人と一匹が後を追うように高い水柱を上げた。

 

「信じられない! いきなり投げ出すなんて」

 

「全くだぜ。お陰で一張羅が台無しじゃねえか」

 

「……三毛猫、大丈夫?」

 

「にゃにゃ。にゃにゃにゃー。(お、溺れる。お嬢助けてくだせー。)」

 

 荒い招待方法に口々に不満を漏らしながらも三人と一匹は京一郎と同じように岸辺に上がって来る。一方、そんな彼らをしり目に裾や袖を絞った京一郎は、水際から大分離れた乾いた場所を適当に選ぶと周辺に転がっている石を拾い上げてはそこに並べていく。

 瞬く間に完成したのは一方向にだけ口が開いた円状の石組みであった。

 

「まあ、いいわ。ところで私の名前は久遠 飛鳥よ。そこのあなたは?」

 

 ドレスの裾を絞りながら自分の周囲を見回した少女は同じ不満を持つもの同士の交流を選んだのか、名乗りとともに少女へと話しかけた。

その間にも京一郎は、また周囲を歩いて木切れや枝などを集めている。なるべく大きく、それでいてしっかりと乾燥したものを選別しては、先程組んだ石積みの内へとほいほい投入していく。

 

「私は春日部 耀」

 

「そう。それでそっちの野蛮そうなあなたは」

 

 濡れそぼった猫を抱いた少女が答え、飛鳥と名乗った少女が今度は残った男子に質問の先を向ける間、京一郎は充分な木切れを溜め込んだ即席の竈の前に座り込むと、魔術を使って火種を灯した。

 

「……逆廻十六夜だ。危険だから用法をしっかり守ってしっかりと取り扱ってくれ」

 

「ええ、取り扱い説明書をくれるなら、お好み通りにしてあげる」

 

 そんなやり取りに背を向けたまま、京一郎は葉の切れ端や小枝などを使って種火を大きく燃やしてから、組み上げた木材へと移した。やがてパチパチと音を立てて石組みの中で火が燃え上がり、周囲に熱を振りまいていく。

 

「……ところで、さっきから我関せずと一人で野営を楽しんでいるあなたは誰?」

 

 飛鳥が京一郎へと質問の矛先を向ける。一方の京一郎は脱いだジャケットを熱風に当てつつ、視線は揺れる炎を捉えたままで答えた。

 

「うん、わたしか。わたしは空鳴 京一郎だ。まあ、よろしくといっておこうか」

 

 言葉とは裏腹に三人については気にも留めていない。そんな京一郎の態度に飛鳥はどうしたものかと呆れ顔だった。

 

 代わりに行動を起こしたのは耀と名乗った少女だ。彼女は三毛猫を抱えて京一郎の元に来るなり言った。

 

「私も火に当たらせてもらっていい? この子も乾かしたい」

 

「別にかまわんぞ。好きに当たれ」

 

 おずおずとした口調の割にはなかなか大胆な頼みだったが、京一郎は特に悩むでもなく許可を出した。この程度の頼みを断るほど彼は狭量ではない。

 

「……ありがとう」

 

 許可を得た耀は炎を挟んで京一郎の反対側に腰を下ろすと、三毛猫と一緒になって濡れた体を乾かし始めた。 

 

「おっ、じゃあ俺も当たらせてもらうか」

 

「そうね。ええと京一郎さん。私もいいかしら?」

 

 耀の後に続いて他の二人も火の側までやってくる。気温は低くないとはいえ湖の水温はそれなりに冷たく、また濡れた衣服も体温を奪っていく。なにより濡れたままでいるのは気持ちがよくない。

 そのため、まだ互いもよく知らないもの同士が燃え盛る火床に集まるといった奇妙な時間が訪れた。

 

 

 

 その四者の様子を少し離れた茂みより観察者がいた。岸辺と森との境界に紛れ込むように身を潜めているのは肩や腿を大胆にさらした少女である。その頭頂部にはウサギの耳が生えており、彼女の感情に合わせてぴょこぴょこと動いていた。

 

(……ふーむ、あれが人類最高のギフトの持ち主たちですか。私たちの現状を変えてくれるかもしれない人たちとの触れ込みでしたが……。しかし予定では三人のはずだったのですが、1人増えていませんかねえ)

 

 火を囲み、談笑を始めた彼らの様子を彼女、黒ウサギは少し首を傾げながらも観察を続ける。この彼女こそが彼らをこの地へ誘った張本人であり、つまりは四人を空高く放り出して湖にダイブさせた原因でもあった。

 わざわざ異世界から彼らを呼び寄せたのは黒ウサギの事情によるものだが、見たところ一筋縄ではいかないもの達のようだ。

 

(うーん。おそらくあの三人が目的の人達なのでしょうが、見たところどなたもかなりの問題児のようですね。予定外の男の人についてはまだ何ともいえませんが……)

 

 呼び寄せるはずの三人がかなりの難物だろうというのは盗み聞きした岸辺でのやり取りから黒ウサギは何となく予想をしていた。しかしそれに加わらず、ひたすらマイペースに即席の竈を作って火を起こした青年についてはどう判断するべきだろうかと考える。

 

(とにかく、崖っぷちの私達のコミュニティを立て直す人材であるかどうか。もう少しここで様子を見ることにしましょう)

 

 観察続行を決意する黒ウサギ。しかし彼女が呼び出した問題児達はそうそう甘くはなかった。

 

「……ったく。いったいどこのどいつが呼び出してくれやがったんだか」

 

「そうね……いいかげん招待の理由も聞きたいことだし」

 

「じゃあ、あそこで隠れているやつに聞いてみるか」

 

 その一言と共に明るい髪をヘッドフォンで押さえつけた少年、十六夜が黒ウサギの隠れている茂みへと視線を向けた。ほぼ同時に二人の少女も同じ方向を見る。

 なお残る1人は相変わらず火の勢いと手に持つジャケットの乾き具合しか見ていなかった。

 

「あら、あなたも気がついていたの?」

 

「やはは、そういうそっちのおまえもか」

 

「風上に立たれたらいやでも分かる」

 

「用があるならそのうちに出てくるであろう。……しかし少々待たせすぎか」

 

 口々に黒ウサギのことを話題にする四人の様子に観念した黒ウサギは茂みを出ようとする。

 

「あはは。い、いやですね。ウサギは……」

 

 言い訳をしながらも立ち上がったその瞬間、黒ウサギの顔のすぐ側を何かが高速で横切っていった。その何かが消えていった数秒後、黒ウサギの背後の森で木々が砕かれ、倒れる音が連続して響く。

 

(な、何ですか今のは。危うく頭が石榴になるところで……)

 

 顔の横を掠めていった死の気配に黒ウサギは半腰の姿勢で固まった。その隙を見逃さず十六夜が強襲をかける。

 初動を封じられた黒ウサギに逃れる術はない。あっさりと捕縛された黒ウサギはそのまま四人の前に引きずり出される。

 愛想笑いでなんとか場を和ませようとした黒ウサギだが、そんな誤魔化しが一癖も二癖もある問題児達三人に通じるはずもなかった。残る京一郎は相変わらずのマイペースで我関せずといった態度をとっているため助けなどない。

 

 引きずりまわされ、耳をつかまれ、いじり倒され、丸焼きにされそうになりかけ、彼女がようやく本題にはいったのは小一時間も過ぎた頃だった。

 

 

 

「あっ、ありえないですよ! 話を聞いてもらうだけで一時間とか」

 

 いいようにもてあそばれ、盛大に時間を無駄にさせられた黒ウサギは抗議の声を上げる。しかしそんなものが問題児達に通る訳もなかった。

 

「「「うるさい、いいからさっさと説明しろ!」」」

 

 逆に脅しつけられてしまう始末である。少々怯みながらも気を取り直した黒ウサギは仕切り直して言った。

 

「うう、では改めて。あえて定型文で言わせていただきますが……ようこそ、皆様! この箱庭の世界へ!」

 

 その言葉を始まりに気持ちを切り替えた彼女はこの箱庭と名づけられた世界の説明を語っていく。こみゅにてぃなどの聞きなれない言葉なども混じっていたが、要は徒党を組んで用意されたり、開催されたりする遊戯に挑戦し、報酬を得るのと常とする世界らしい。

つまりは遊戯による競い合いを基本とした世界のようだと京一郎は理解した。

 

(神仏修羅とは心惹かれるものがあるが、集団に属さねば参加できぬとは、……面倒だのう)

 

 自身の性格と過去の行状を省みてもこの点が一番問題になりそうだと京一郎は考える。黒ウサギの話では彼女の所属する集団に参加するようにと薦めているが、場合によってはかなり面白い事態になることだろう。

 

 そんなことをきつらつらと考えながら京一郎が黒ウサギの話を聞いていると、不意に十六夜がそれを遮って発言した。

 

「なあ、黒ウサギ。俺の聞きたいことは一つだ。この世界は……面白いか?」

 

 真剣な表情で発せられたその言葉に京一郎は少し関心を示した。未知への期待の他にもてあました退屈が伺えるその言葉はどうやら他の二人も同じらしい。

 

(ほう、彼らにとって現世とは退屈でつまらぬものだったのか。……わたしには到底そうは思えなかったが)

 

 退屈とは京一郎にとっては最も縁のない言葉だ。気まぐれに降臨する神との闘争や癖しかない同属の魔王たちとの交流、息もつかせぬほど勢いで代わっていく現世に奇妙奇天烈で多種多様な異界。退屈を感じる暇などあるはずが無い。

 

 仮にそれらがが無くとも京一郎は気にしなかっただろう。面白くないのならば面白くすればいい。それも大々的に多勢を巻き込んだものならなお良しだ。それが彼の基本的な姿勢なのだから。

 

 はた迷惑ともいえる京一郎の考えなど露知らず、黒ウサギは満面の笑みでもって十六夜の質問に対し、誇らしげに答えた。

 

「はい!面白いこと請け合いです」

 

(まあ、駄目なら駄目で主催者という神仏その他を片っ端から狩っていけばいいだけのことよ)

 

 黒ウサギの返答にそんな物騒な考えを思い浮かべた京一郎だったが、その代わりに口にでたのは別の言葉だった。

 

「……まあ、期待させてもらおうかの」

 

 

 

 その後、黒ウサギの案内で落下中に見た天幕に覆われた広大な街、箱庭都市へと一行は向かうことになった。その道中には異世界らしく見慣れないものが多数あり、珍品奇品に慣れているはずの京一郎の目をも飽きさせない。

 しばし和やかな会話が続いていたが、ふと飛鳥が京一郎へと問いかけてきた。

 

「ところで京一郎さん。ちょっと思い出したのだけれど。さっき空から落ちてくるときに途中で服装が替わったりしていなかったかしら」

 

「あっ、そういえば私も見た。早着替え? でも替えの服はどうしたの?」

 

 どうやら耀もその疑問を持っていたようでじっとした視線を京一郎へと向ける。その腕の中の猫も主人に習って京一郎を伺った。

 

「ふむ。魔術を知らんのか。さっきのあれは手元に物を呼び寄せたりする『召喚』の魔術だが。旅中、荷物が少なくなって身軽になれる術よ」

 

 特に隠す気も無く京一郎は答えた。まあ現世ならともかく、この奇怪なものだらけの異世界にいるのだから、別に話してしまっても問題はないだろう。

 

(まあ、文句をいいそうな連中はもういないのだが……)

 

 少し過去に思いを馳せつつ答えた京一郎の言葉に飛鳥は驚き、耀は目を輝かせた。

 

「え、魔術! そんなものがあるの?」

 

「すごい! 魔術師さん? もしかしてもっとすごい事とかできるの?」

 

 詰め寄る二人に笑いながら京一郎は訂正を加える。

 

「いや。多少かじった程度でたいした術は使えんよ。あまり熱心に覚えようとしたこともないしの」

 

 同属には「魔術師の王」という大層な異名を持つものもおり、混同されて何度かそう呼ばれたこともあるが、少なくとも京一郎が使えるのは初歩的な術がいくつかである。一番うまく使えるのが先の『召喚』の術といえばその腕前は容易に察せられるだろう。

 

 それを知って少女二人は露骨にがっかりした。ふと京一郎が前を見ればどうやら先導の黒ウサギも同じ心境なのか、頭の耳が少したれていた。

 

(ほお、なにかあるのか)

 

 そんな出来事を交えつつ、しばらく歩いていくと一行の目にようやく都市の門が見えてきた。どうやら惑わしの術がかかっていたようで見ためよりも遠い距離にあったようだ。

 

「さあ、ここが都市の入り口ですよ」

 

 黒ウサギに続いて都市に入ると頭上の天幕が急に見えなくなる。どうやら日光に弱い種族のために張られているというこの天幕は、内側からだと透けて見えるようになっているようだ。

 

「もしかして吸血鬼なんてものいるのかしら?」

 

「ええ、いますよ」

 

 飛鳥の疑問もあっさり肯定する黒ウサギ。なるほどさすがは神仏修羅の遊び場といったところか。

 

 

 

 門を抜けた後、黒ウサギは一行を噴水の沸く広場まで案内した。そしてそこで待っていた十を幾ばくか過ぎた程度の少年を見つけると近寄って声をかける。

 

「ジン坊ちゃまー。皆様をお連れしましたよー」

 

 黒ウサギの呼びかけにすぐさま反応したジンと呼ばれた少年は幼さの残る顔に笑顔を浮かべると黒ウサギに答えた。

 

「ありがとう、黒ウサギ。彼女達二人が僕達のコミュニティを救ってくれるかもしれない人材なんだね」

 

「はい、ジン坊ちゃま。この二人が……、二人?」

 

 ジン少年の言葉に意気揚々と返す黒ウサギであったがその途中でいぶかしげな反応に変わる。慌てて振り返った彼女の目に移ったのは少女二人のみ。さらに周囲を見回すとのんきな顔で露店をのぞいている京一郎を発見した。しかしヘッドホンをつけた不敵な少年の姿はどこにもみえない。

 その事実に顔を引きつらせながら、黒ウサギは少女達へと問いかけた。

 

「あ、あの。もう1人の少年を知りませんか?ヘッドホンをかけた目つきの悪いいかにも問題児といった少年は?」

 

「ああ。彼なら世界の果てを見てくるとか言って途中でどこかへ言ったわよ」

 

「なっ!何で、教えてくれなかったんですか!」

 

「「聞かれなかったから」」

 

「う、嘘です。面倒くさかっただけでしょう」

 

 黒ウサギと少女二人のやり取りにジン少年は慌てて口を挟んだ。

 

「た、大変です。箱庭の外には幻獣達が放し飼いにされていて……」

 

「あら。じゃあもう終りなの、彼」

 

「……始まる前にゲームオーバー。なかなか斬新」

 

 慌てるジン少年と黒ウサギだが、他の面々は気にもしない。結局怒りに燃える黒ウサギが髪を桃色に染め上げ、連れ戻してくるといって飛び出していった。

 

「……箱庭のウサギは随分と高く跳べるのね」

 

「彼女達は箱庭創設者に使えていた一族ですから。様々な特権を有しているんです」

 

 あっという間に見えなくなった黒ウサギに飛鳥が感心するとジン少年が説明をする。

 

「ふーむ、単なる露出好きの変態ではなかったのか」

 

 京一郎の呟きを少々顔を引きつらせながらも無視したジン少年に飛鳥が尋ねた。

 

「ところで、この後はどうするの?」

 

「え、えーとそれは……」

 

 問われるも少年は言葉に詰まった。段取りは黒ウサギに任せていたためにこの不測の事態にはすぐには対応できなかったのだ。

それを見た飛鳥が助け舟を出し、一行は広場に面したカフェにて少年の話を聞くことになった。

 

 

 

 入り口に六本傷の旗が掲げられた喫茶店はなかなかに繁盛していた。外に並べられた席についた一行の元にやってきたのは頭と尻尾に猫の特徴を持つ女性店員だ。どうやら頭上の猫耳は飾りではないらしく、耀の抱いていた三毛猫の注文までしっかりと聞き取った。

 

「あなたもこの子の言うことが分かるの?」

 

 それを知った耀が驚きの声を上げる。どうやら彼女も猫の言葉が分かるらしい。彼女の話では猫以外にも動物の言葉を聞き取れるという。それが彼女の恩恵(ギフト)らしくジン少年は興奮した。

 次に飛鳥にも恩恵についての話が振られたが、なぜか彼女は歯切れの悪い口調で言葉を濁す。それを察したジン少年が京一郎を見て、話の矛先を変えようとしたとき、外より横槍が入った。

 

「おやおや? 誰かと思ったら名無しの権兵衛、そのリーダーのジン=ラッセル君ではありませんか」

 

 嘲りの感情を隠そうともせずに声をかけてきたのはピチピチのタキシードを着た大柄な男だった。その彼の姿を見るや否やジンは顔をしかめる。その様子からその男が歓迎されざる相手だということが京一郎たちには分かった。さらにふと京一郎が周囲を見回すと、店内の客や広場を行く人もそそくさと去っていく様子が写る。

 男はこの地区で勢力を誇るコミュニティであるフォレス・ガロのリーダー、ガルドと名乗ったがどうやら人気も人望も今一つのようだ。

 

(ほう、これはもしかして使えるかもしれん。うまくやれば問題も片付く)

 

 そう思い京一郎は密かに笑った。その視線の先ではガルドがジンの属するノーネームなるコミュニティの内情を津々浦々に語っていく。

 

 何でもこの東地区最大の勢力を誇っていたのは昔の話。とある魔王に目をつけられたために名もコミュニティの誇りを示す旗も全て奪われ今は見る影も無いという。今回京一郎たちを呼んだのも壊滅状態のコミュニティを復興させるためだとか。

 内情を暴露され、歯を食いしばって耐えるジンを尻目にガルドは京一郎たちに向き直ると言った。

 

「どうです、皆さん。我がフォレス・ガロに入るというのは?」

 

「ちょっと、それは」

 

 横から新戦力候補を引き抜こうとするガルドにジンは慌てて抗議の声を上げた。しかしすぐに彼の不甲斐なさを詰るガルドの一喝によって黙らされた。

 

「さて、いかがですかな? お嬢さん方。我がフォレス・ガロに加入するという話は」

 

「必要ないわ。私はノーネームで間に合っているもの」

 

 少年リーダーを黙らせてから一転、紳士然としてにこやかに話しかけてきたガルドに、しかし飛鳥は一言で切って捨てた。地位も名誉も全てを捨ててこの世界にやってきたという彼女にとって、たかが小範囲を一つ収めただけで鼻高々な小物には興味がない。

 

 ノーネームへの加入を表明した彼女に、友達を作りにきたという耀も同調し、参加を決めた。苦々しげなガルドとは逆にジン少年は歓喜の表情を浮かべる。

 

 女子二人に拒絶されたガルドは今度は京一郎へと矛先を変えた。

 

「やれやれ、物分りの悪いお嬢さんたちだ。そこのあなたはどうですかな? 最底辺の名無しで使いつぶされるか、それとも私の手を取って明るい未来をつかむか」

 

 ガルドの言葉にジン少年はすがるような表情で京一郎を見た。コミュニティの復興を目指す彼にとっては起死回生となるかもしれない人材たちだ。1人でも欠ければ目標達成は難しくなる。

 すでに手伝うことを決めた少女二人も京一郎の答えを待つ。一同の視線の中、京一郎は己の意見を表明した。

 

「ふむ、まあ別にかまわんぞ。条件はあるが、それさえ飲んでくれれば入ってもかまわん」

 

 空気も読まず堂々と言い放った京一郎の言葉にガルドは勝ち誇った笑みを浮かべ、ノーネームの三人は愕然とした表情で固まった。すぐに再起動をした面々が京一郎へと詰問を開始する。

 

「ちょ、ちょっと何よ、あなた! ここまでの流れでそう言うの」

 

「流れなど関係あるまい。わたしはわたしの思うようにするだけよ」

 

「本当のいいの? こんな駄目そうな人のところに入るなんて」

 

「別に問題はないな。むしろやりやすいくて助かる」

 

「あ、あの。考え直してくれませんか? コミュニティの復興のためにもあなたは是非とも必要なんです!」

 

「すまんが、少年よ。君のやろうとすることを応援はするが、それだけだ。別段君のコミュニティの過去にも栄光にも興味はないしな」

 

 あっさりとした返答で三人を撃沈していく京一郎の様を見て、ガルドは先ほどの意趣返しとばかりに笑った。

 

「ハハハ、流石にあなたは見る目があったみたいですな。ええ、歓迎しますよ」

 

「ま、まだです。さっき加入には条件があるって言いましたよね? それを受け入れたら僕達のところに来てくれますか?」

 

 必死に食い下がろうとする少年にしかし京一郎は平然として答えた。

 

「まあ、条件を受け入れてくれるならばどちらでも構わんが。……しかし少年よ。おそらく君のところでは無理だろうな」

 

 その返答にジンは固まった。日々の生活にもことをかくノーネームの現状を思い出したのだ。ただでさえギリギリな状況下で彼の満足する条件を満たせる可能性は恐ろしく低い。それでも一縷の望みをかけて引かないジンに対し、ガルドは嘲りの言葉をかけた。

 

「はっ、名無し風情は引っ込んでな。それで京一郎さん。その条件とは何だ? 金か、女か? なーに、俺たちはこの地区一番のコミュニティだ。何でも遠慮なく言ってくれ」

 

 軽蔑と不快の視線をさしてくる飛鳥と耀から京一郎をかばうようにテーブルに身を乗り出したガルドは続きの言葉を促した。

 

「何、そう難しくは無い。わたしの求める条件はただ一つ」

 

 一呼吸おいて一同の注目を集めた京一郎はその条件を口にした。

 

「コミュニティの名に旗。それに所有する人材に財産、利権。その他一切合財すべて頂こう」

 

 あくまで穏やかな口調のままそう言い放った京一郎の顔に浮かぶ笑みはまさに魔王そのものだった。

 

 




魔王=ロクデナシ。これを意識しつつ問題児側の展開にどうやってすりあわせていこうかと考えるのはおもったより大変。

原作とちょくちょく台詞が変わっているのは単に私の力不足なだけです。
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