問題児たちとロクデナシの魔王が異世界から来るそうですよ? 作:慢性睡眠不足
「ふ、ふざけんな! そんな条件飲めるか!」
「な、なんですかそれは! それじゃ身売りしろといっているのと同じじゃないですか!」
京一郎の魔王の如き発言にガルドは激昂し、ジンはうろたえた。聞き耳を立てていた店員や客達も呆然としているが、飛鳥と耀の問題児二人は「その手があったか」とばかりに目を輝かせている。
一方、元凶である京一郎はそんな彼らの様子にも全く無頓着に言葉を続けた。
「いやなに、簡単なこと。要するにわたしは誰かの下につくのが合わんということよ。仮にお主らの一門に入ったとしても二日後には乗っ取りをかけるか、財産奪って独立するかに決まっている。ならば最初から宣言しておいたほうが面倒も少なかろう」
「いや、何言ってるのよ、あなた」
「それにせっかく箱庭とやらにきたのだ。ならばここは己を長とする組織を作って挑まんでどうするというのだ」
京一郎を悩ませていたのはこの箱庭で本格的な遊戯をするにはコミュニティに属する必要があるという事柄だった。しかし一から組織を作ろうにも、右も左も分からない異世界でゼロから作るのは少々面倒だ。ならば今あるものを利用してしまえばいいではないか。
そんな風につらつらと語られていく京一郎の考えに、一同は沈黙した。あまりの大言に呆れたり、正気を疑ったりするもの達の中、1人怒りをあらわにしたのはガルドである。
「……手前ら、いい加減にしろよ。どこまでこの俺をコケにするつもりだ!」
度重なる対応に完全に堪忍袋の緒を切らしたガルドは椅子を蹴り飛ばして立ち上がると、たちまちのうちに本性を表した。
膨れ上がった体によってタキシードが弾けとび、その下は瞬く間に黒い縞模様が浮かぶ強靭な黄色い体毛が現れる。同じく黄と黒に覆われた顔では鋭い牙を見せ付けるように口が大きく開けられ、爛々と輝く目が不届きもの達を見つめている。
紳士の仮面を脱ぎ捨て、虎人、ワータイガーとでも評するべき正体を現したガルドは自身の怒りを表すかのごとく猛々しく咆哮した。
「いや、別にふざけてはおらんぞ? もちろん本気だが?」
店内と広場で悲鳴が上がる中で、威嚇された京一郎は相変わらずの態度のままだった。鋭い牙や爪が自身にむかって振るわれるようというのに、まるで友人に語りかけるかのように平然としている。
「ああ、何が本気だと。あんまり嘗めた口を利くんじゃねえ。いいか! 俺は666問に本拠を構える魔王の……。」
「虎が他の威を借りてどうするのだ。しかしそうか。お主の一門を従えれば、次はそやつらが出てくるのか。ならばそやつらも打ち倒し、配下に従えてくれよう」
今一度、己の一門とその後ろ盾を頼みにその強大さを見せつけようとしたガルドに対し、京一郎はどこまでも穏やかな口調で挑戦的な言葉を語る。
目の前のガルドなぞ気にすまでもない相手だといわんばかりの余裕の態度は、虎人の怒りを解き放つのには十分すぎる力があった。
「ああっ、手前にくれてやるのはこの牙と爪で十分だ。死にな!」
テーブルに突進して自慢の爪と牙を振るおうとするガルドに対し、京一郎はただ手元にあったティースプーンを手に取ると、その先端を向けた。
「はっ! そんなもので……」
「止まりなさい!」
己に向けられたささやかな武器を嘲笑し、自慢の武器を振るおうとするガルドを止めたのは鋭く飛んだ飛鳥の言葉であった。その言葉を聞くや否やまるで全身を縛り付けられたかのようにガルドは動きを止めてしまう。
停止した虎人を睨み付け、飛鳥はさらに制圧の言葉を続ける。
「椅子を元に戻して座りなさい」
「て、てめえ。ふざけるのもいいかげんに……」
するとまるで人形のようにギクシャクとした動きでガルドは蹴倒した椅子を元に戻すと座ってテーブルへとついた。
唯一自由になる口で噛み付こうにも拘束された獣の負け惜しみに耳を貸すものなどいない。
「ふむ、これが飛鳥の恩恵とやらか。一応礼を言っておくべきか」
「……いっそ、放っておいたほうがよかったかしら?」
のんびりとした口調を全く崩さない京一郎に、飛鳥は頭に手を当てて呆れを示す。しかしすぐに気と取り直すと、縛り付けられたように椅子に座るガルドへと視線を向けた。
「まあ、いいわ。この人には聞きたいこともあったし」
「な、なんだと、このアマ」
「っ、黙りなさい!」
ガルドの抗議を飛鳥は一言で黙らせる。どうやら彼女の恩恵は言葉でもって相手を支配する力のようだと京一郎は判断した。呪術に対する耐性が高い京一郎には通じないだろうが、向かいの席で彫像のように固まるガルドには抗えないらしい。
恩恵を使って拘束したガルドに、飛鳥は冷徹な口調で尋問を始める。
彼女の疑問はコミュニティの全権をかけたゲームをガルドがどうやって相手に受けさせたのかであった。ジンの話では滅多に行われるはずの無いゲームを繰り返し行って勢力拡大を可能にしたそのカラクリは何かという質問にガルドは答えを強制される。
「ひ、人質を取った。子供をさらって、ゲームの参加しなきゃそいつらを殺すと」
「そう。それでその人質はどうしたの?」
「……殺した」
引き出されたガルドの自白に一同は沈黙した。皆の目には非道を行ったものへの怒りと軽蔑の感情が宿る。
(やれやれ。見てくれは立派でも中身はとんだ小物であったか。他者の威を頼みとし、あまつさえ畜生の身に落ちるとは。しつけなおすよりも皮を剥いで敷物にでもしたほうが使えそうだの)
京一郎も冷ややかな視線でガルドを見下す。
一通りの尋問を終えた飛鳥はジンへと向き直り、今明かされたガルドの所業が箱庭の法ではどう裁かれるのかを尋ねた。対するジンは法には触れても、裁きを受ける前にこの都市から逃亡をするだろうと暗い表情で答える。
「ふむ、ならばわたしがその一門を掌握した後、そやつを惨たらしく処刑すれば……」
「却下よ、私のほうが先。ねえ、ガルドさん。私達とゲームをしましょう。」
京一郎に先んじて、ガルドの処置決定権を主張した飛鳥はガルドにゲームを持ちかける。
「ふむ、自己満足のみのゲームか。まあいい。せっかくではあるし私も一枚かませてもらおうか」
京一郎は不敵に呟いた。
「なっ、なんでフォレス・ガロのリーダーともめた上に明日ゲームをすることになっているのですかー!」
世界の果てに向かった十六夜をやっとの思いで連れ戻し、ようやく合流を果たした黒ウサギはしかし、自身が不在の間に起こった出来事と明日のゲームの参加を知らされるなり、叫びを上げる。
それから語気も荒く、問題児達を叱責しようとする黒ウサギであったが、問われたほうはどこ吹く風といった感じであった。
「「ムシャクシャしてやった。今は反省している」」
「本気に決まっておろうが。何を興奮しておる」
「黙らっしゃい! この問題児たちが」
形だけの謝罪を口にする少女二人と全く悪びれない青年の主張を叩き落した黒ウサギは頭を抱えた。
問題のゲームの開催は明日。そのための準備の時間は少ない。資金についてはもっての外だ。それでもジンのフォローを受け、とりあえず出来るだけのことはしようと黒ウサギは行動を始める。
「それで? どこに連れて行くんだ?」
先に本拠で待っているというジンと別れ、黒ウサギは再び一行の先に立って歩き始めた。その行き先を尋ねる十六夜に彼女は答える。
「私がお世話になった方がいるサウザント・アイズというコミュニティが出している支店です。とにかく、急いで皆様の恩恵を鑑定してもらおうかと」
そうやって案内されたのは向かいあった女神の旗を掲げた店であった。ちょうど閉店時間なのか、和服に似た服装の店員が暖簾を下ろそうとしているところだ。
「ちょっと待っ、」
「待ちません。明日またご来店ください」
待ったをかけようとする黒ウサギの声を店員はぴしゃりと撥ね退けた。その態度に憤る黒ウサギに対し、済ました顔のまま店員は所属コミュニティの名を問うてくる。
「俺達はノーネームっていうコミュニティだ」
「では、どのノーネームでしょうか?」
十六夜が答えるが店員はさらに聞いてきた。なるほど一件様お断りのように名も旗も持たない有象無象の連中の入店は遠慮してもらう主義なのだろう。ならば話は簡単であると、京一郎は前に進み出て言った。
「うむ。では、ふぉれす・がろというコミュニティではどうだ?」
京一郎の発言に店員は顔をしかめ、黒ウサギは愕然とした表情を向ける。そしてすぐさま京一郎の袖を引っ張り、顔を寄せた彼女は小声で今の発言について問いただそうとした。
(な、何を言っているんですか! 他のコミュニティの名を騙るなんて、バレたらただじゃすみませんよ。は、早く訂正してください!)
(まあ、落ち着け黒ウサギ。どうせゲームの結果関係なく明日にはなくなっているコミュニティだ。少しくらい借りたところで問題は無かろう。飛鳥や耀とは違ってまだわたしはノーネームには入っておらんし、勧誘されている最中であるからな)
実際京一郎は勧誘は受けている。出した条件は蹴られたが。
(何、ここさえ突破してしまえば、後はお主の知り合いとやらに何とかしてもらえばいい。心配するな。ちゃんと旗印とやらもここに用意してある。何せあちこちに飾ってあるから手に入れるのも簡単だったしのう)
(ちょっ、ほんとに、何をやってくれやがるんですかー)
手元からフォレス・ガロの旗を出してみせる京一郎に黒ウサギは頭を抱えた。しかし幸か不幸か店員はしかめっ面を元に戻すと答える。
「申し訳ありませんが、素行のわるいコミュニティの入店もお断りさせていただいております。どうかお引取りを」
「ちっ。あやつめ、この地区では一番の勢力を誇るといっていたくせに使えんではないか」
店員の答えに助かったと黒ウサギが安堵する一方、京一郎はここにいない虎人へ文句を言った。その隙に閉店作業を続けようとする店員に焦る黒ウサギと押し入りを考える他の面々だったが、不意に全員の思惑をぶち壊す声が響く。
「いっやっほー! 久しぶりじゃな、黒ウサギ」
そんな言葉と共に店の奥より飛び出してきたのは白い髪の少女であった。小柄な少女は一直線に黒ウサギの豊満な胸に飛び込みを決めるとその感触を存分に楽しみ始める。
「ほれほれー」
「ちょっと。や、止めてください」
突然の襲撃から何とか逃れようと黒ウサギは少女を引き剥がし乱暴に投げ捨てた。しかしその進路上にいた十六夜が華麗に蹴り返す。
再び飛んでくるその少女から退避しようとした黒ウサギであったが、近くにいた京一郎が面白がって彼女を引きとめて盾とした。
逃げようとしたところを掴まれ、盾として突き出されたために体勢を崩した黒ウサギ。そこへ勢いよく飛んできた少女が激突する。
結果、その勢いに押されて黒ウサギと少女は仲良く、道脇の水路へと落ちるのであった。
黒ウサギの胸に突撃し、店先の騒動をさらに混乱させた少女。どうやらこの少女が黒ウサギの言っていた知り合いらしい。
小柄な体に身につけているのは京一郎が見慣れた和服に似ているが、その裾丈は短く、細く白い足が大胆にさらけ出されている。
店先の騒動がひとまず落ち着いた後、黒ウサギが白夜叉と呼んだ少女は渋る店員を説き伏せて、京一郎たちを店内へと招きいれた。
「あいにく、店のほうは閉めてしまったのでな。私室で勘弁してくれ」
一行が案内されたのは彼女の私室らしい。白髪の小さな主は客人達を招きいれると改めて名乗った。
「さて、では改めて自己紹介でもしておこうかの。私の名は白夜叉。外門55737の外に居を構えるサウザント・アイズの幹部だ。そこの黒ウサギとは……、そうだの何かと手助けしてやる仲だと覚えておいてくれ」
「はいはい、いつもありがとうございます」
白夜叉の言葉に黒ウサギは適当な対応をする。世話になっているという割りにはその態度に改まったところはない。どうやら気安い仲だというのは嘘ではないらしい。
黒ウサギの話では彼女は箱庭の東の秩序を守る階層支配者という存在であるという、京一郎たちと別れている間に十六夜が手に入れた水樹の持ち主だった蛇神も、昔に彼女から恩恵を受けたのだそうだ。
彼女としては問題行動ばかりの連中に釘を刺すべく、白夜叉についてその強さや凄さについて語ったのだろう。しかし筋金入りの問題児達にとっては逆効果であった。
「へえ? ってことはあんたを倒せばこの階層で俺達が最強ってことになるのか」
「そうね、そうゆう事よね」
「……手間が省ける」
戦意あふれる言葉を発する面々に黒ウサギは頭を抱えた。唯一沈黙したままの京一郎もその目には他の問題児と同じような光が宿っている。
「ちょっと! 何を言ってるんですか、この問題児さま達は!」
なんとか抑えようと叫びを上げる黒ウサギの一方で白夜叉は小気味がいいとばかりに笑う。
「はは、私に挑もうとは面白いやつらだのう。しかし……」
一度言葉を切り、その顔に浮かぶ笑みの性質を変化させた東地区最強の階層支配者は言った。
「おんしらが望むのは”挑戦”か、――もしくは”《決闘》”か?」
その瞬間、世界が変わった。
とりあえずここまで。いいところで切れますが、続きは少し手を加えた上で明日投稿する予定です。
補足
京一郎の生まれは20世紀初頭を想定しています。年代的には旧世代の後に続きますが、立ち位置としては新世代の少し上、カンピオーネ十年選手であるアレクやスミスと同じように設定しています。
つまりそこそこ昔風で、その一方で若さを残す程度の口調にしたら、見事に白夜叉と被ってしま
った。そのせいでどっちの台詞か分かりにくい。
他にも色々考えたんですが、魔王らしさを出そうとするとどうしてもいいのが思いつきませんでした。
読みにくいかもしれませんがご容赦ください。