問題児たちとロクデナシの魔王が異世界から来るそうですよ?   作:慢性睡眠不足

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連続での投稿です。ついでにストックも切れそう。


魔王と試練と決闘と

 一瞬で様々な風景が視界を過ぎ去ったのち、一同は白い世界に立っていた。凍りついた湖とどこまでも白く広がる雪原に鋭く突き立った雪山。それらを見下ろす薄明の暗い空には星のひとつもない。

 目の前の光景に言葉を失った面々に対し、この世界を統べる主は問いかけた。

 

「では今一度名乗りなおそう。私は”白き夜の魔王”、太陽と白夜の星霊、白夜叉。さておんしらが望むのは試練への挑戦か、それとも対等の決闘か?」

 

 凄みのありすぎる笑みを浮かべる白夜叉に反応し、京一郎の体の奥より久しく感じていなかった力と戦いへの高揚感が湧き上がってくる。

 一目で彼女が神或いはそれに匹敵する存在なのだとは感じていたが、まさか星の主精霊などといった大物だとまでは思わなかった。

 

(やれやれ。どうやら長く眠りすぎていたせいで感覚がボケでいたようだのう)

 

 内心で反省する京一郎の隣で、風景を見ていた十六夜が何かに気がついたように言った。

 

「……そうか。白夜と夜叉。あの水平に回る太陽やこの土地はお前を表現しているって事か」

 

「いかにも。この白き湖畔と平野。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ私の持つゲーム盤の一つだ」

 

 十六夜の言葉を肯定した白夜叉がその手を上げると白き雲海が割れ、白光に輝く太陽が顔を出す。

 

 神仏修羅の集うこの箱庭において最強種と名高い”星霊”にして”神霊”。そのあまりにも強大な力を見せ付けた白夜叉は京一郎たちに再び選択を迫った。

 

 

「さて、おんしらの返答は如何に。挑戦であるならば手慰み程度に遊んでやる。――だがしかし決闘を望むのならば話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

 その言葉に飛鳥と耀、そして十六夜すらも即答できずに沈黙した。残った京一郎も自身の思考に没頭中だ。

 しばらくの静寂の後、諦めた様に十六夜が手を上げ降参のポーズを取る。

 

「やれやれ、降参だ」

 

「ふむ? それは決闘ではなく、挑戦を選ぶということかの?」

 

「ああ、今回は黙って()()()()()()()、魔王様」

 

 白夜叉の確認に十六夜は苦笑と共にそれを認める言葉を吐き捨てた。プライドの高い彼にとっては最大限の譲歩なのだろうが、その可愛らしい意地の張り方に白夜叉は腹を抱えて笑う。

 

「くく……、して他の童たちも同じか?」

 

「……ええ。今回は、私も試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

 苦虫を噛み潰したような表情と共に答えを返す飛鳥と耀に満足そうに白夜叉は声を上げる。そして問題児たちの暴挙にはらはらしていた黒ウサギもほっと胸を撫で下ろし……。

 

「では、わたしは決闘でいこうかの」

 

 撫で下ろそうとしたところで告げられた京一郎の言葉に彼女の精神は止まった。白夜叉も笑いを止め、他の三人も驚きもあらわに京一郎へと視線を向ける。一方、注目の的となった本人はしかし至って平静のまま言葉を続けた。

 

「ちょうどいい機会ではあるし、慣らしとしては十分すぎる相手だからの。……おや、皆鳩が豆鉄砲をくらった顔をしておるな。どうかしたのか?」

 

「どうかしているのはあなたです! じ、自分が何を言ったのか分かっているのですかー!」

 

 とぼけた言葉をのたまう京一郎に再起動を果たした黒ウサギの叫びが叩きつけられる。焦りの衝動のままに京一郎の肩をつかんだ彼女はその頭を激しく前後に揺さぶりつつ、一字一句をはっきりと京一郎の耳に叩き込むという器用な業を見せた。

 

「いいですか! よく聞いてください! 確かに白夜叉様が魔王として活動していらっしゃったのは昔の、それも何千年も前のことです。ですが今でもその実力はこの箱庭の東西南北全ての階層で知られています。見た目はポンコツで親父くさい変態幼女かも知れませんが、その実力は紛れも無く本物なんです」

 

「やれやれ、落ち着かんか。黒ウサギよ」

 

 激昂する黒ウサギに揺すられても、穏やかな笑みを崩さないままに京一郎は答えた。そのあまりの平静な態度を不気味に感じ、黒ウサギは手を離すと一歩引き下がる。

 ようやく、激しい頭のシェイクから解放された京一郎は乱れた襟元を直すと、つとうつむいたままの白夜叉を指していった。

 

「よいか、黒ウサギ。よく聞くといい。確かにそこの白夜叉は強い。このゲーム盤といい、太陽を支配するその力といい、わたしよりも遥かに強い力をもっているのは確かであろう。しかし……」

 

 一同の視線を浴びながら、何ともなしに京一郎は決闘を望んだ理由を言い切った。

 

「相手が強いのと、勝負の勝ち負けはまた別の話であろう」

 

「「「いや、それはおかしい!」」」

 

 あまりにも暴論すぎるその京一郎の言葉に黒ウサギをはじめとしたノーネームの面々よりツッコミが入った。しかし京一郎は気にせずに言葉を続ける。

 

「やれやれ。よいか、そもそも相手が強いからといって一々勝負から引いているようでは、勝てる戦いしかしないあのガルドと同じではないか。楽に勝てる相手ばかりと戦っていたところで強くなるなど夢のまた夢。やはり、格上に挑み、それを打ち倒して勝利をもぎっとってこそ強くなれるのだ」

 

 その言葉に試練を選んだ三人の問題児の顔が強張った。意地を張ろうと取り繕おうと、白夜叉の強大な力を恐れ、屈したのは事実。ならば格下に威張りちらし、他の威をかっていたガルドと何が違うのか。そう指摘されたように感じ、三人は沈黙する。

 それを横目に黒ウサギはおそるおそる京一郎へと問いかけた。

 

「ちなみにお尋ねしますが? もし、それで勝てなかったらどうするんです」

 

「その時はその時。自分にそれを成す器量が無かった。ただそれだけのことよ」

 

 あっさりとした京一郎の返答に黒ウサギも絶句した。変わって言葉を発したのは先ほどからうつむいていた白夜叉であった。

 

「……成る程のう。力の差が分からぬ馬鹿者ではなく、分かった上で戦おうとする大馬鹿者であったか」

 

 そのひどく平坦な言葉と共に白夜叉は顔を上げる。そこに浮かんでいたのは先ほどまでの愉悦ではなく、侮られた事に対する魔王の怒りだ。

 

「というわけでわたしは決闘で頼もう。ガチンコ勝負といこうではないか」

 

「よかろう。だが後で後悔しても知らぬぞ? 魔王の恐ろしさをそのふざけた頭に叩き込んでから死ぬといい」

 

 かつて地上と異界に覇をとなえた魔王の挑戦を過去に箱庭を蹂躙した白き魔王は受けてたった。

 

 

 

 

 

「あああー! ど、どうしましょう。三人の問題児でも持て余し気味なのに、最後の1人はそれ以上にぶっとんでいますしー!」

 

 などと嘆く黒ウサギをよそにまずは白夜叉の試練が行われることになった。これは京一郎の、

 

「先に決闘を行って、お主が死んだらあやつらを試せなくなるのではないか。試練とやらを先に行うとよい」

 

 という言葉があったからだ。当然白夜叉はイラッとしたが、この愚か者には何を言っても無駄だろうと諦め、先に三人への試練を行うことを決めた。

 

「ううむ。さて、どうするかのう」

 

 ひとまず苛立ちを押さえ、具体的な試練の内容を考え始めた白夜叉の耳に微かな鳴き声が届いた。

 猫を抱いた耀も、その鳥とも獣とも似つかぬ声を聞いたのか不思議な顔で薄明の空を見回している。

 

「ふむ、あやつか。おんしらを試すには打って付けかもしれんの」

 

 その声をきっかけに試練の内容を決めた白夜叉は、その方向に向かって手招きをする。

 

 その招きに応じて白い山脈の方より参上したのは、鷲の頭と翼に獅子の体を持つ幻獣、グリフォンであった。

 

 このグリフォンと”知恵”、”勇気”、”力”を比べ、その背に跨って山脈を回り、湖畔を一周できるかという試練を白夜叉は課した。向かい合った女神の絵が描かれたカードを掲げ、白夜叉の名前の下にゲームが開催されるのを京一郎は興味深げに見ている。

 

 この試練に挑んだのは耀であった。彼女は自身を賭けてグリフォンに勝負を挑み、見事にクリアを成し遂げる。

 

 グリフォンの力を得て、宙を踏みしめながら皆の前に降り立った耀を祝福の声が迎えた。どうやら獣の言葉が分かる他に、友好の絆としてその力を得るというのが耀の持つ恩恵らしい。

 

 彼女の首から下がっている木彫りのペンダントがそれをもたらしたと聞くと、白夜叉は多いに関心を示した。京一郎も彼女の父から送られたというその奇妙な文様の彫られたペンダントに確かに何かしらの力を感じ取る。

 

「つかぬ事を聞くが、黒ウサギ。恩恵とは道具などによっても得られるのか?」

 

 譲ってほしいと頼む白夜叉とその頼みを断る耀のやり取りを横に流しつつ、京一郎は尋ねた。

 

「ええと、物や込められた恩恵にもよります。ですがあそこまでの物は流石に稀少ですけど……」

 

 その黒ウサギの答えにしばし恩恵を宿した道具などについて考えていた京一郎だったが、やがて思索を打ち切ると、未だペンダントに未練を残す白夜叉へと言った。

 

「ところで、試練とやらも終わったことだし、そろそろ決闘をやらんか?」

 

「……今一度確認しておこうと思ったが、聞くだけ無駄であったか」

 

 頭に手を当て、呆れたように声を出した白夜叉は京一郎より離れて立つ。そして慌てる黒ウサギに向かって言った。

 

「下がっておれよ、皆のもの。これからこの愚か者に身の程を教えてやるのでな」

 

「ちょ、ちょっと待ってください白夜叉様! もう一度、よく考えさせて……」

 

「おいおい。本人がやるっていってんだ。野暮な事は止めとけよ」

 

 まだ諦めずに決闘を止めさせようとする黒ウサギを面白がった口調の十六夜が引きずって下がった。他の少女二人もお手並みを拝見とばかりに観客に回る。

 

 それを見届けた白夜叉は先の試練と同じように双女神の絵が描かれたカードを取り出し、ゲームの設定を行う。

 

「ギフトゲーム名 魔王の挑戦   参加プレイヤー 空鳴 京一郎

 

 クリア条件 己の持てる力をぶつけ合い、示せ

 

 勝利条件 ホストマスターの降参及び戦闘不能

 

 敗北条件 プレイヤーの降参及び戦闘不能

 

 宣誓 上記の内容を尊重し、誇りと御旗を賭けてホストマスターの名の下、ゲームを開催します。

 

 サウザント・アイズ 印」

 

 虚空より現れた羊皮紙に記されたゲーム内容を確認した白夜叉は京一郎へ向き直ると言った。

 

「これでかまわんな。お主が望んだことじゃ。もう取り消しはきかぬ。じゃが、もしお主が勝ったら私の出来る領分においてじゃが、好きにせい」

 

「それでは、お主が死んだときにはわたしは何ももらえんではないか」

 

「ええい、まだ言うか! 私よりもまずは己の心配をするがよい」

 

 この期に及んでもそんな事をのたまう京一郎に白夜叉は処置なしとばかりに首を振った。しかしすぐに気持ちを切り替え、その表情を一変させる。

 同時に目前の敵を無慈悲に打ち倒し、叩きのめす魔王の力がその小柄な体から放たれ始めた。

 

 ふわりと宙に浮かんだ白夜叉に合わせ、白き大地は揺れ、薄明の空に轟音が響き、水平の太陽がその輝きを増していく。

 

「ではゲームを始めるとしよう。しつこいかも知れんが、おそらく最後になるであろうから、名乗りを上げておくぞ。――私は太陽と白夜の星霊、白夜叉。白き魔王の力をその身に刻み、浅はかな己の選択を悔い改めるがよい」

 

 まだ一端とはいえ、開放されたその力に黒ウサギはコミュニティが壊滅した災厄の時を思い出し、他の問題児三人も思わず数歩後ずさった。

 

 それに気がつき、舌打ちする十六夜だが、それでも下がった歩を元に戻すことは出来ない。

 

(これが魔王の力ってやつか。まだ始まってもいないのにこれ程とはな。……だが、アイツは)

 

 十六夜の視線は最も近くで白き魔王の威容を見せ付けられているはずの京一郎に向けられていた。圧倒されるどころか、位置が変わらないままに涼しげな顔で笑うその姿に少女達三人も驚きをあらわにする。

 

 いや変化はあった。強大な魔王を前に笑う京一郎の顔には先ほどまでは抑え込まれていた獰猛さがはっきりと出ている。

 

「ふははは! 久しぶりだな、この威、この殺気! やはり闘いとはこうでなくては」

 

「お主、何を言っておる?」

 

 感情を開放し、ついに高らかな笑いを上げだした京一郎にさしもの白夜叉も訝しげな声で問いかけた。

 だがその言葉すら聞いていないかのように笑い続ける京一郎はそのまま手を一振りして『召喚』の魔術を行使する。

 

 すぐさま手元に呼び出されたのは一振りの大剣であった。刃渡り1メートルを越すその両刃の剣は、しかしその剣身や柄などに不思議な輝きを持つ大小の珠が埋め込まれ、また柄尻や鍔先には色鮮やかな組み紐の束や連なりの鈴が飾られている。

 

 一見しても戦闘向きではない。しかし白夜叉はその剣より強力な力を感じ取り、警戒もあらわに京一郎に問いかけた。

 

「お主、まさかそれは神器か? なにやら強い力を感じるぞ。戦闘用ではなさそうだが、一体それをどこで手に入れた? 何をするつもりなのだ?」

 

「何、気にするな。すぐに分かる。それより名乗りを受けたのだから、こちらも相応に返さねばな」

 

 問いかけを笑って流した京一郎は呼び出した大剣の切っ先を下に向けると、勢いよく雪原に突き刺した。さらに刺さった剣の柄尻に手を当て何事かを呟く。

 すると突如として剣を中心に雪が融け、顔を出した茶色い土から生えた緑の芽が成長しながら周囲を覆っていく。

 

 瞬く間に視界を白から緑へと塗り替えられていくその光景に一同が絶句する中、京一郎は高らかに、そして挑むように宣言した。

 

「くく、現世では『カンピオーネ』、『羅刹王』、『落とし子』などと呼ばれていたわたしだが、ここ箱庭の世界ならばやはりこの名乗りがふさわしいか。聞け、ものどもよ! 我が名は空鳴 京一郎。異界を統べし魔王なり! さあ、楽しい、楽しい殺し合いといこうではないか!」

 

 

 

 




白夜叉の決闘を受けるかどうかで少し悩みましたが状況を原作の魔王に置き換えてみるとすんなり決まりました。

あくまでも私の想定ですが、

いきなり決闘開始が三人

なんだかんだで決闘になるが二人

もしかしたら戦いが避けられるかもしれないけどやっぱり戦いそうなのが二人。

……どうやら受けないという選択肢はなさそうです。今度はどうやって生かそうかという問題が発生しましたが。



補足

京一郎と他の魔王との関係性を簡潔に


ヴォバン公爵「見つけしだい即座に抹殺だ」

羅豪教主「居場所が分かったらすぐに教えるのです。私自らその息の根を止めに参ります」

アイーシャ夫人「楽しい人ですよー。何度か旅を一緒にしていました。また誘いにいこうかしら?」


大体こんな感じ。

ついでに他の魔王との面識があったら

アレク「やはりロクデナシだな。それも飛び切りの」

スミス「なかなかはた迷惑な御仁だ。舞台上での付き合いは遠慮したい」

ドニ「付き合いのいい人だよね。ケンカ売ったらすぐに乗ってくれるし」

護堂「絶対に、関わり合いになるのも嫌だ!」
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