問題児たちとロクデナシの魔王が異世界から来るそうですよ?   作:慢性睡眠不足

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前回より1日あけての投稿です。それではどうぞ。


魔王の恩恵と報酬

「どうやら終わったみたいね」

 

 飛び出していった黒ウサギが京一郎と白夜叉を連れて戻ってくる様子を見て、ほっと飛鳥は力を抜いた。しかしその端正な顔は浮かず、険しいままだ。

 

(今の戦い。どちらが相手だったとしても私じゃ一瞬で叩き潰されていたわ。……いいえ、それだけじゃない。これ以上戦いが激しくなっていたら、多分観戦すら続けられなかった)

 

 白夜叉がゲームを打ち切った訳を飛鳥は正確に掴んでいた。もしあの戦いが続いていたら、観戦していた飛鳥達も巻き込まれる。可愛がっている黒ウサギが窮乏しているコミュニティの再建をかけて呼び出した人材、それを()()()()()()()()()()白夜叉が自身の敗北を認めたのだという事を。

 

 その事実は彼女に生まれて初めての屈辱を与えた。元の世界では絶大な力を発揮した彼女の才能も、あの二人を前にしては何の役にも立たない。

 だが自分との間にある圧倒的な差を見せ付けられても飛鳥の心は折れることはなかった。

 

(今は勝てないのは認めるわ。……でもいつかは。いつかは、あの二人よりも強くなって、絶対に追い越してみせる!)

 

 固い誓いを胸に飛鳥は当面の指標として決めた二人の姿を目に焼き付けた。

 

「……負けない!」

 

 ふと飛鳥の隣から小さな声がした。その方向を見た飛鳥は、耀が固く拳をつくって近づいてくる二人を見据えている様子を目撃する。

 

 見られていることに気がついたのか、視線を合わせてきたきた耀の目の中に、おそらく自分と同じ強い決意の光が宿っているのを見た飛鳥は、一つのうなずきを返した。それは同じ決意を持つものとして認識を共有するためのものだ。

 

 二人が決意を新たにしているのとは対照的に十六夜は静かであった。ゲーム開始直後はお手並み拝見とばかりに笑って観戦をしていたが、竜巻と大水球の激突辺りからはその不敵な笑みも消え、今もまだむっつりとした顔で黙している。

 

「あれ、どうしたんですか? 皆様そんな変な顔をして」

 

「……気にすんな、たいした事じゃねえよ」

 

「なんでもないわ、黒ウサギ。ただちょっと決めたことがあるだけよ」

 

「うん。だから心配しないで」

 

「そ、そうですか。なぜか皆様固い顔をしているのでどうしたのかと」

 

 三者の思惑の混じった視線の中、京一郎たちは戻ってきた。妙な雰囲気を感じた黒ウサギが問いかけるが、あまり詳細を語りたくない問題児達はその答えを濁す。

 

「ところで黒ウサギよ。ゲームの景品なんだがの」

 

「あっ、そうでした。実は皆様のギフトの鑑定をお願いしたくて」

 

 そんな雰囲気に助け舟を出すためか、白夜叉がゲームの景品について話題を振る。その言葉に黒ウサギは依頼しようとしていたことを思い出した。しかしそれを聞いた白夜叉は気まずい顔をする。

 

「よ、よりにもよってギフトの鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだが」

 

 その言葉で黒ウサギは決闘前の事を思い出した。その時見せてもらった耀のペンダントも詳細は上層の鑑定士に依頼しなければ分からないといっていたではないか。

 

「ど、どうしましょう」

 

 思惑が外れてうろたえる黒ウサギに白夜叉は困ったように今は黒く染まってしまった髪をかき上げる。本来ならばゲームクリアの賞品の代わりに黒ウサギの頼みを無償で引き受けるつもりだったのだ。

 それでもとにかく見るだけ見てみようと思った白夜叉は四人に近づくと、両手でその顔を挟んで観察してみる。

 

「ううむ。そこの京一郎は当然として、他の三人も高い素養を持っている事は分かる。が、それ以上は何とも言えぬな。お主ら、自分達のギフトの力はどの程度、把握しておるのだ?」

 

「企業秘密」

 

「右に同じ」

 

「以下同文」

 

「使えさえすれば知らずとも問題はなかろう」

 

「うおおおい? いや人に話したくないのは分かるが、それでは話は進まんだろうに」

 

 あまりに非協力的な四人の返答に白夜叉は困惑の声を上げる。しかし十六夜は人に値札を張られるのは趣味じゃないと拒絶の言葉を発し、女子二人もその意見に賛同する。

 京一郎も知ろうが知るまいがどうでも良いとの構えだ。

 

 しかしそうは言われても白夜叉とて”主催者”の端くれである。試験と決闘をクリアしたもの達への報酬に手を抜くわけにもいかない。

 しばらく困り顔で考えていた白夜叉だが、妙案が浮かんだのか二ヤリと笑う。

 

「ふむ。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ最高の前祝いとしては丁度良かろう」

 

 そう言って彼女が柏手を打つと、四枚の輝くカードがそれぞれの前に現れた。コバルトブルーのカードには逆廻十六夜の、ワインレッドのカードには久遠飛鳥の、パールホワイトのカードには春日部耀の、そしてメタリックグレーのカードには空鳴京一郎の名前が記され、その下には各人の所持するギフトの名を表す文字列が続いていた。

 

 それを見た黒ウサギが驚きと興奮をあわせた顔で喜びの声を上げる。

 

「こっ、これはギフトカード!」

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「付け届けというやつか?」

 

「ち、違います!」

 

 四人の息の合った言葉にツッコミを入れた黒ウサギは、ギフトカードの素晴らしい性能を語りだす。顕現している恩恵の収納も可能な高価なカードだと力説する黒ウサギの言葉はしかし「超素敵アイテム」という一言であっさりとまとめられてしまった。

 

「うう、もう。いいですよそれで」

 

 やさぐれる黒ウサギをよそにしげしげとカードを眺める四人へ、白夜叉が追加の説明を加える。

 

「本来ならば”コミュニティ”の名と旗もそこに記されるのだが、おんしらは”ノーネーム”だからの。味気ない絵になっているが文句は黒ウサギにでも言ってくれ」

 

「はて? いつの間にか私もノーネームの一員にされているような」

 

 説明を聞いた十六夜が手に入れた水樹の苗を己のカードの中に収納してみせた。一方、京一郎はいつの間にか自分もノーネームの一員にされていることに疑問する。しかしその呟きは続く黒ウサギと十六夜の掛け合いによって流されてしまった。

 

 白夜叉の説明によればこれは”ラプラスの紙片”とよばれるものらしい。そしてその表面に記されるギフトネームは魂とつながった恩恵の名称であり、それを見れば鑑定は出来ずとも各人の持つ恩恵は大体分かるという。

 事実、飛鳥のカードにはギフトネームとして”威光”が、耀のカードには”生命の樹系図”と”ノーフォーマー”という文字が表示されていた。

 

「へえ? じゃあ俺のはレアケースって訳だ」

 

 その説明を聞いた十六夜は己のカードをもて遊んだ。その表面には確かに”正体不明”の文字が刻まれている。

 

 ヤハハと笑う十六夜とは対照的に白夜叉の変化は劇的だった。

 

「……いや、そんな馬鹿な」

 

 顔色を変えて十六夜からカードを受け取った白夜叉だが、事実を確認してもなお信じられなかった。ぶつぶつと呟きながらカードと、それを取り返した十六夜の顔を見比べる。

 

(まさか、ギフトを無効化した? いやラプラスの紙片の異常という事も。ううむ……)

 

 思わぬ事態に悩む白夜叉はとりあえずまだ見ていない京一郎のカードを確認してみようと思いたち、その姿を探した。

 その求める本人は少し離れた場所でカードを手になにやら物思いにふけっている。

 

「あっ、京一郎様。どうでしたか、恩恵は?」

 

「うん? 気になるなら見るか」

 

「え、私にも見せてくれるかしら?」

 

「私も気になる。さっきの戦いでいくつも恩恵を使っていたし」

 

 白夜叉よりも先に黒ウサギが京一郎に声をかけ、カードを受け取った。それを聞いた飛鳥と耀の二人も、黒ウサギへと寄って来た。

 

 先ほどの戦いで京一郎が複数の強力な異能を持っている事は知られている。その詳細を知ろうと好奇心で一杯の瞳を輝かせた三人は渡されたカードを見た。しかし期待の表情はすぐに戸惑いのそれへと変化した。

 

「えっ!?」

 

「どういうことかしら、これ?」

 

「……不可解」

 

 口々に困惑の感想をもらす三人の様子に、白夜叉と十六夜は”正体不明”の件を一時棚上げにして、黒ウサギ達へ合流する。

 

「一体どうしたのだ、おんしら。何か問題でもあったのかの?」

 

「おっ!? 何だ、何か面白い恩恵でもあったのか」

 

「いえ、それが……」

 

 困惑したままの黒ウサギからカードを受け取り、十六夜と二人で白夜叉は自分の目で確かめてみる。

 しかしそこに記されていたのは彼女にとって予想外の事実だった。

 

「……馬鹿な!?」

 

「へえ、これはおもしれえな」

 

 白夜叉の手に渡された京一郎のカードに記されていた恩恵は一つだけ。しかしそれは異形を生む力でも、暴風を振るう力でも、黒き太陽を呼び出す力でもない。

 

「……白夜叉。これってどういうこと?」

 

 動きを止めた白夜叉に耀が問いかけたのは、そのただ一つのギフトネームの意味だ。

 

 ギフトネーム ”異界の魔王”

 

 それが鈍く光るカードに刻まれた京一郎の、唯一の恩恵であった。

 

 

 

 

 

 「ふむ、妙なことになったのう」

 

 ざわめく一同の様子を気にも留めず、京一郎は安穏と呟いた。意外だったのは同じだが、思い当たる節もない訳ではなかったために、動じていない。

 

 黒ウサギから受けた説明を思い返してみれば、「恩恵」とは神仏や星霊といった存在から与えられるものらしい。しかし京一郎の持つ「権能」は全て神々を打ち倒した果てに簒奪したもの。出自を考えれば当然といえる。

 

 となると気になるのはあの”異界の魔王”という恩恵(ギフト)だ。しかし名声や功績が評価され、箱庭から与えられるものもあると黒ウサギは言っていたから、もしかしたらこれがそうなのかもしれないと京一郎は自身を納得させる。

 

 そこで思考を打ち切った京一郎は、その恩恵の持つ力について具体的な内容を知ろうとした。別段知らなくても使えるだろうが、せっかく近くに詳しそうな存在がいるのだ。利用しない手はないだろう。

 

「それで白夜叉よ。その恩恵は、一体どのようなものなのだ?」

 

 京一郎の問いかけに、しばらくためらう素振りを見せた白夜叉だが、やがて諦めたように自分の見解を述べた。

 

「……おそらくは”主催者権限”の付与と専用のゲーム番を合わせた複合型の恩恵であろう。お主の今までの功績に対して箱庭が与えたものであろうが。……ここに来るまでに一体、何をしておったのだ?」

 

 鋭い目で過去の所業を聞き出そうとする白夜叉に対し、京一郎はのほほんと答える。

 

「昔はヤンチャしておったが、ここしばらくは病に臥せっておってな」

 

「では、私との戦いで見せたあの異能の力は何だ? ここに記されていない以上恩恵ではあるまい」

 

「うむ、それも昔取った杵柄というやつよ」

 

 続く白夜叉の追及にも京一郎は適当にぼかした返答をした。

 

 別に神を相手に取って戦い、打ち倒してその権能を奪っていた、と正直に語ってもよかった。しかしどうやらここ箱庭の世界では、神格持ちとかいう神と称されるものを、恩恵があるとはいえただ人の身で打ち破るということは、ほとんどありえない事のようだ。

 

 それは先に十六夜が神格持ちだとかいう水神を倒したと聞いた時の白夜叉の反応を思えば、ほぼ事実と見ていいだろう。

 

 京一郎のいた元の世界では神殺しは言うに及ばず、その僕である神獣ぐらいならば、修練を積んだ達人でも討伐できる。その事を思えば、別段おかしいことではないのだが、どうやらここ箱庭の世界では違う認識のようだと京一郎は考えていた。

 

 そういう認識の広まっているこの地において、「神殺し」という存在がどういう混乱を引き起こすか。まあ、この箱庭に住む神仏修羅たちとの全面戦争が即時開戦となることはほぼ間違いないだろう。

 

 そんな事態をたった1人で楽しむのというのは、少々もったいない。

 

 どうせ花火を打ち上げるならば派手なほうが好みなのである。そのための準備時間を得るため、あえて京一郎はその詳細を語らなかった。

 

 まともに答える気のない京一郎に対し、白夜叉の頭に早速のリターンマッチが思い浮かぶ。だがその危険な空気を察したのか、慌てて黒ウサギが口を挟んだ。

 

「そ、それで白夜叉様。どうしましょうか? この恩恵は」

 

 なにせ魔王の名が冠された恩恵である。魔王に壊滅されたコミュニティを再建するために呼んだ人材の巻き添えが、この”主催者”権限を悪用して新たな魔王にでもなることがあれば、彼女にとっては悪夢以外のなにものでもない。

 白夜叉も黒ウサギの懸念を理解したのか、この恩恵の扱いについてある提案をする。

 

「ううむ、ならばこの恩恵は、当面は私が預かって……」

 

「それは却下させてもらおうかの、白夜叉よ。いずれ再戦するであろう相手にそのような重大な権限を預ける気はないぞ」

 

 しかし京一郎は即座にその提案を拒絶した。上手く使えば絶大な力になりそうなこの恩恵を、敵の手にゆだねることを嫌ったのだ。

 

「ほう、ではどうするつもりかの?」

 

「そうだのう。……ではわたしを呼び出した件もあるし、黒ウサギに預けておくとしようか。積極的な行使権限だけでも預けておけば、この箱庭で魔王としての活動は出来んのであろう? 何、その代わりにしばしノーネームに逗留させてもらえればそれでよい」

 

 要はこの恩恵が悪用されなければ良いのだ。ここ箱庭の世界で魔王が恐れられている理由は”主催者権限”を使用して、自分に圧倒的に有利なゲームへと参加者を強制的に引きずり込むことが出来るがため。

 ならばその手段を取れなくしてしまえば問題は解決する。

 

 一応そういった相手が”主催者権限”を使って襲って来た時を考え、対抗手段として防御用の権限さえ確保していれば、京一郎としては問題なかった。

 

 ゲームの開催について興味がないといえば嘘になる。しかしどうせやるからには派手に、そして大々的なものにしたい京一郎は、当分の間はそのための下準備に勤しんでおこうと考えていた。

 

「何、黒ウサギのコミュニティの抱える事情についても分かっておる。別に全力で接待して、面倒を見ろとは言わん。土地の一部でも貸してもらえばそれで充分よ」

 

「はあ、それぐらいなら別に構いませんが。これでいいでしょうか、白夜叉様?」

 

 京一郎の提案に黒ウサギは賛成したものの、白夜叉は渋い顔をして即答を避けた。自分が目をかけている黒ウサギをさりげなく盾にしようとする京一郎の思惑に気がついていたからである。

 

 とはいえ魔王としての活動の芽をつめるならばそれはそれに越したことはない。周囲を見れば、飛鳥や耀はともかく十六夜は京一郎の思惑に気がついているようだった。

 もし面倒が起こったとしてもきっと止めてくれるだろう。

 

「ううむ。まあ、それならばよいか」

 

(まあ、止めるのは無理でもこちらに知らせてくれれば。その時は私が直々に対処すれば、問題はないであろう)

 

 しばらく悩んだものの、白夜叉は仕方ないとばかりにその提案に同意した。

 

「何、ノーネームの連中には迷惑はかけんよ。……()()()()()()()のう」

 

「それを聞くと余計心配なんだが。……黒ウサギよ。何かあったら遠慮せずにすぐに私に知らせるのだぞ。他の面々もそれを忘れるでない」

 

「お、大げさですね白夜叉様。いくら京一郎さまでも早々面倒を起こすなんて事は……」

 

「お主、先ほどまでのあやつの所業を思い返してそんなことが言えるか? 他の連中も同じだがの」

 

「おいおい? 俺達はあそこまで酷くはないぜ」

 

「そうね。一緒にするのはどうかと思うわ」

 

「……真に遺憾」

 

「……何かあったらすぐにお知らせします。白夜叉様」

 

 一度は白夜叉に心配しすぎだと返した黒ウサギも、続く白夜叉の言葉と問題児達の発言を聞いて即座にその言葉を翻した。先ほどまでの京一郎の行状につい忘れていたが、この三人もかなり手を焼く問題児なのだ。

 知己の好意はありがたく受け取っておくべきである。

 

「これで、この話は終わりか。では白夜叉よ。次の話だが?」

 

「何っ? まだ他に何かあるのか?」

 

 ひとまず”主催者”権限の扱いについて決着がついたと見た京一郎は白夜叉へと声をかける。対する白夜叉ははっきり警戒を示しつつそれに応じた。

 

「うむ。試練を達成した三人の報酬はそのギフトカードとして、決闘に勝ったわたしの報酬分について話をしても良いか」

 

「ぐっ!?……まあ仕方ないのう。それで、何が望みなのだ?」

 

 さらなる報酬を要求する京一郎に、白夜叉は苦い顔をしつつもそれを許諾した。試練をクリアした報酬を大盤振る舞いした後では、決闘の報酬にもそれなりの上乗せをしなければ”主催者”としての沽券(こけん)にかかわる。

 

 それを計算に入れ、京一郎は自身の望みを口にする。

 

「ふむ。まずは再戦についてか。そちらが打ち切ったのだから、再戦の決定権はわたしの方で持たせてもらおうかの」

 

「ぬっ! まあ、それはよかろう。他には?」

 

「うむ。そしてその再戦をわたしが今後参加する全てのギフトゲームより最優先とし、その唯一の交戦権は白夜叉、お主に保持してもらおう」

 

「……お主。何を考えておる?」

 

 京一郎が出した二つの条件を聞き、白夜叉は警戒の声でその意を問う。この二つの条件は京一郎が望まない限り再戦は行われず、またその間は白夜叉を差し置いて京一郎の同意なしにはギフトゲームへの参加を強制することが出来なくなることを示していた。

 

「へえ? 中々、面白いことを考えるな」

 

「そうね。どうするのかしら」

 

「……興味ある」

 

 同じくその思惑に気がついた問題児三人の声を背景に白夜叉は裏にあるその狙いを明らかにするように迫った。

 

 先ほどの”主催者”権限の時に黒ウサギを盾にして白夜叉の干渉を防ごうとしたように、今度は白夜叉を緩衝として他の横槍をかわすためのものである。

 そうまでして束縛を避け、一体何をやろうとしているかを尋ねる白夜叉に対し、京一郎は笑って答えた。

 

「何、大したことではない。また邪魔をされないための方便よ」

 

「むー。何ですか。まるで私が悪いみたいじゃないですか」

 

 言葉の間に視線を向けられ、暗に先の戦いへの介入を非難された黒ウサギはむくれた。一方の白夜叉はそれでも疑いを捨て切れなかったが、やがて肩を落とすとその条件を二つとも受け入れる。決闘の報酬としては不足はなく、断ることなど出来なかったのだ。

 

「まあ、有効期間は半年としておこうか。期限付きならばそちらも気が軽くなろう」

 

「いや、全く軽くなった気がせんのだが」

 

「何、気にするでない。……ところで黒ウサギよ。用も済んだことだしそろそろほーむとやらに戻ったほうが良くないか」

 

「あっ!? そうですね、そういえばジン坊ちゃま達を待たせていますし。それに明日にも備えなければ。そういう訳なので白夜叉様、私達はそろそろ……」

 

「うむ。ああ、そうか。それでは引き止める訳にもいくまい」

 

 追加の報酬を記した”契約書類(ギアスロール)”の作成も終わり、、そろそろノーネームの本拠に戻る流れになった。

 ゲーム盤が解除され、元の私室に戻った一同を表まで見送りにでたところで、ふと白夜叉が京一郎を除く三人に問いかける。

 

「ところでおんしら。本当にノーネームに入るつもりか?」

 

 窮乏した黒ウサギのノーネームに加入するかという意思を確認した白夜叉は再び魔王が襲ってくる可能性に言及すると、飛鳥と耀を見て忠告する。

 

「そこの京一郎や小僧はともかくとして、童二人は今のままでは死ぬぞ。そうなりたくなくば必死で力をつけるが良い」

 

「ええ、分かってるわ」

 

「望むところ」

 

 固い決意と威勢のいい返事に白夜叉は笑い声を上げる。そしてそのまま一行を見送ろうとしたところではたと気がついた。

 

「ぬ。待て、京一郎。お主、私のこの髪はどうすれば元に戻るのだ?」

 

 そう言いながら黒く変色した髪をつまんでみせる白夜叉を一瞥し、京一郎は答える。

 

「うむ、一週間ぐらいすれば元に戻るはずだが」

 

「いや、待て!? 一週間じゃと! それまで私にこの頭でいろというのか、お主は」

 

 返ってきた答えに白夜叉は愕然となる。同じく答えを聞いた黒ウサギも慌てて京一郎へと尋ねた。

 

 

「あ、あの。白夜叉様は階層支配者なので、このままにしておく訳には。すぐには戻せないのですか?」

 

 

「おお、黒ウサギ! ナイス援護じゃ」

 

「まあ、わたしが解けばすぐにでも元には戻るが」

 

 京一郎の答えに黒ウサギと白夜叉はほっと一息をつく。やはり治安の面でも東側のトップが明らかに不調と分かるような事態は避けたいのだ。

 

「うむ。では早速頼もうかの」

 

「……ところで対価として今度は何をくれるのだ?」

 

「……お主。あれだけ好き勝手しておいて、私からさらにむしりとる気か」

 

 

 

 

 




問題児の原作では、「権能」とは星霊などの限られたものが持ち、「恩恵」を与えるものだという説明がありました。

この作品ではとりあえず両者を別物としたために、ギフトカードには記されなかったという設定にしています。

かなり強引ですが、ご容赦ください。

それとノーネームへの加入については本編のようになりました。どう考えてもあの魔王をおとなしくノーネームに所属させるのは無理そうだったので。とりあえずは一時的な逗留の地として置いておくのが限界でした。



それと今更ながらに白夜叉の口調を見直し。原作片手に修正を。

……先入観て、怖いですね。一人称から間違えていたなんて。

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