硬質な物同士のぶつかる、甲高い音が洞窟内より発せられていた。
煙灰が一心不乱に槌を振う。鍛えている物は小さな物体。掌代程度の小さな金属塊。
しかし、槌を振う煙灰の動きが突如止まった。槌を置き、大きくため息を吐くように煙を吐き出す。
「おい、純狐。勝手に入ってくるなと何度言えば覚える、お前は。鳥だっていい加減に覚えるぞ」
「煙灰、狐仙を知りませんか?」
景色が揺らめくと、その場に純狐が姿を現した。煙灰の言葉にまるで取り合わず、要件を告げれば、煙灰のこめかみに血管が浮き出る。
煙灰は怒鳴りかえしたい気持ちをぐっとこらえ、深呼吸を一度した。真面目に相手をするだけ無駄であると、直らない……否、直さない行動から理解しているからだ。
振り返り、視線を向ければ早く答えろと言いたげな視線を向ける純狐と目が合う。煙灰の瞳が言葉にできない感情で、細くなるのは仕方のない事なのかもしれない。
煙灰の細めた視線さえ、気にすることなく純狐は催促する様に尾を軽く揺らす。
「はぁぁぁ、知らん」
「隠し立てはいい結果を生みませんよ?」
「本当に知らん。少なくともこの洞窟内にはいない。これで満足か?」
「そうですね。鬼の貴方がそこまで具体的に否定するのなら、確かにここにはいないみたいですね」
「また都に行っているのではないのか?」
「……やっぱり、そうなのかしら」
「どうかしたのか?」
純狐が煙灰の言葉に眉根をしかめた。
しかめられた眉根に煙灰が疑問を投げかける。煙灰の問いかけに純狐は僅かな逡巡をみせた後、答えを返す。
純狐の醸し出す雰囲気に、煙灰も苛立ちの感情を消し向き直った。少なくともいつものようなふざけた内容ではないと察せされたからだ。
「最近、都の防備の質が上がったようなのです」
「ほぅ。それは面白い話だな」
「面白くないわ」
「……あぁ、そうか。都に入り込むようなのは妖獣達が主だったな」
「最近返ってこない子が増えました……その事が悲しいです」
「そうか……」
「仕方のない事だとは思います。自らの力量への認識が足りないから、討たれるのでしょう。脅かし、討たれ、人と妖怪の在り方としては酷く正しい。ですが、あの子らは私の同胞であり、子供の様なもの……狩られるのは、不快です」
ザワリと蠢く純狐の妖気が、言葉の通り不快感を語る。
純狐が感じている不快感は、煙灰にはあまり分からない感覚だ。鬼はもともと、仲間が討たれれば、それを祝うとまではいかないが盛大に弔う。
闘い破れ、討たれたのであれば、それは鬼としては最高の死に方なのだ。だから、彼奴は良い一生を過ごしたのだ。満足したのだと、悲しみに沈むのではなく、死した者をねぎらう様に酒宴を開く。
死した者を悲しむ事や、惜しむことは基本的に無い。それが鬼という妖怪だ。
さらに、人間の時の煙灰は、自らに近しい者以外には興味を持たなかった。だから、他の人間が死のうとほとんど気にすることは無かった。
月夜見やサグメ、産巣などが傷を負ったりすれば心配するし、助けるだろう。だが、親しくない人間が死んだのであれば、その者のしていた仕事に穴が空くなどの思考が浮かぶ。そこに感情は乗らない。
そんな煙灰の様子が、人間達に恐れを抱かせた原因の一端であるのだろう。
煙灰も、そういった事を、我が身を振り返る事で学んでいる。関わりの薄い同胞たちにも興味を。心を砕く必要があると学んでいる。
過去に狐仙が初めて来たとき、力づくで追い返すことをしなかったり。鬼達とも距離を置いていたが、それでも気にかけたりと改善を図っていた。
試行錯誤をして、改善している。まだ純狐の抱く感情の機微までは感じ取れないが、大まかには理解できる。だからこそ、言葉にする。
「お前の気持ちがはっきり分かるとは言わん。だがな、一人で突っ込むような事はするなよ。討たれるだけだ。それでは帰ってこなかった者達も喜ばんだろう」
「……分かっています。私が統制を取ればいいのにしていない時点で、これは私の我が儘です。野をかける獣であった……自由であった彼らを縛りたくない。その結果なだけです。どちらもとる事は出来ない……これはただそれだけの話です」
「それが分かるならいい。何もかもは選べんよ、たとえ神でもな」
「えぇ、そうでしょうね」
純狐が煙灰の言葉に儚げな笑みを浮かべた。何かを耐える様で、それでいて慈愛を感じさせる笑み。自身の感じる苦悩と、煙灰の境遇を考え、それが入り混じった故の表情なのだろう。心配させまいと、安心させようと笑うのだ。
煙灰もそれを頭ではなく、肌で何となく感じ取ると小さく苦笑する。純狐は愛情深い性格だ。子供の事で荒れているのは、それだけ愛していたからだ。嫦娥への恨みも、それが根底にある。
狐仙を構うのも、自身でも持て余す
普段はこちらの言葉などまるで無視する傍若無人さを見せる癖に、改まった時だけに慈愛の面を見せてくる純狐。魔性の女狐らしいと、煙灰はついつい口元がほころんでしまう。
「いつもそうしていろ。そうすりゃ狐仙も怯えなかろうに」
「ふふふ、ビクビクしている姿が愛らしいのですよ」
「なんだ、確信犯か。始末に負えんな」
「告げ口しますか?」
「いや、やめておこう」
「あら、意外ですね」
「はっ、その内で蠢く妖力を収めてから言え。いちいちそんな下らん事で、お前と遊ぶなど面倒だ」
「つれないですね。私と遊ぶのは嫌ですか?」
純狐がクスクスと楽しげに笑い問い掛ける。
笑う純狐にげんなりしながら、煙灰が言葉を返す。
「嫌に好戦的だな。うっぷん晴らしなら塊清でも誘え。喜んでのってくるぞ」
「最近籠り気味な貴方を心配したのですよ」
「あん?」
純狐の言葉に煙灰が疑問の声をあげた。どうして、自分が心配されるのだと不思議そうな煙灰の様子に、純狐が悩ましげなため息を漏らした。
「月夜見との決着をつけられずイライラしているのかと。あれから二十数度、季節は巡りましたが、いまだつけられないのでしょう? あの神霊の能力を甘く見ていたと、何巡りか前にこぼしていたではないですか」
「あぁ、その事か。確かにその件でイラついてないとは言わんが……腐っていても仕方ないからな」
「あらあら。前向きなのですね」
「現状で難しいのならば、変えてしまえばいい」
煙灰が再び視線を、自身の正面にある作りかけの道具へと向けた。
純狐の言う通り煙灰は月夜見との決着をつけられないでいた。季節が二十数度も巡れば、幾度も相対することはあった。けれども、毎度毎度決着をつけられなかった。他者の横やりが、自然現象が、それらを測ったように邪魔をした。まさにそれが運命の如く、邪魔が入るのだ。
ここ最近では、煙灰はその状況にやる気をそがれてしまった。以前の、嵬との大喧嘩前の様に、ねぐらに籠る時間が増えたのだ。
純狐はそんな経緯から、煙灰の事を心配したのだろう。けれども、煙灰の意外と前向きな答えに、声色に、意外さを覚えた。そんな煙灰が何かを作っている。純狐の好奇心が刺激された。
「何を作っているのですか?」
「今は新しい煙管を作っている」
「煙管ですか?」
「あぁ、そうだ。現状の力で足りんならもっと蓄えるまでだ」
「なんというか……頭の中まで筋肉で作られていそうですね」
「けっ、それは塊清だけだ。俺がそんな即物的な物で解決すると思うか?」
「違うので?」
「違うさ」
問い掛ける純狐の視線の先で、煙灰が金属塊。否、作りかけの煙管を手に取る。
まだまだ、荒い意匠のそれは、煙管であろうとかろうじて察する事が出来る様な出来栄え。いくつか術を込められてはいるのか、僅かながら力を感じ取れる。
「どうするのですか?」
「運命を覆すくらいの力を持った道具を作ればいい。運命を覆すくらいの力があればいい。能力でさえ抗えない力を持てばいい。足りないならばもっともっと力を高めればいい、くかかっ」
「……こわいこわい。凝り性な鬼とは怖い物ですね」
窯の妖炎を受け、瞳を爛々と輝かせて滔々と語る煙灰に純狐は小さな寒気を感じた。感じた寒気を振り払う為、言葉で茶化してみせる。
恨みを、憎悪を振りまく自分を棚に上げて、煙灰の姿を恐ろしいと感じる。自らがふり撒く感情は溶岩の様にどろりと煮え立つ憎悪。
煙灰が見せた感情は、強い執着。煙に隠されて普段は見えない。けれども煙の先では邪魔する障害を、全て燃やし尽くさんと燃え上がっていた。
「お前に言われるとはな」
「他者の様子をみて、自分を顧みるのも複雑な気持ちですね」
「くかかっ、どうせ直す気などない癖に。反省だけなら誰でも出来る」
「なるほど。至言ですね。さて、それではここには狐仙はいないので、用は無いですね。ですので、もう行きます」
先ほどまでの真面目な雰囲気を一瞬で霧散させ、普段通りに戻った純狐が告げた。煙灰の都合など一切気にしない、純狐らしい物言いに煙灰が苦笑する。
勝手にしろと、言葉で答えず軽く手をあげ振ってみせた。煙灰の反応に、純狐も小さな笑いを一つこぼすと景色に溶け込み姿を消す。
純狐の気配が消えると、煙灰が再び槌を手に取り、振い始めた。再びカンカンと音が響き始める。
煙灰のねぐらを離れてもしばらく聞こえるその音に、純狐はまた笑みを少しだけ深めた。
純狐がねぐらを後にし、時が経過した。煙灰は疲れを覚え、槌を置く。随分と集中していたのか、身体を動かせば、腰や膝からパキパキと小気味いい音が鳴った。
思いのほか没頭しすぎたらしいと苦笑が漏れ出た。今は何時だろうと、外の様子をみようと通路へ向かう為立ち上がる。立ち上がり、振り返る際に視線をめぐらした時、ふと違和感を覚えた。
今は自分だけのねぐら内に、気配を感じた。妖力も、他の力も感じられないが、確かに気配を感じた。気にしなければ、気が付かない程度の僅かな気配。時たま入り込んでくる獣とも違うソレに、煙灰の瞳が細くなる。
道具をしまっている倉庫内に気配は存在していた。基本的には煙灰以外が入ることは無い。だからこそ気が付いたようなものだ。そこに生き物が入る事が無いからだ。
他の鬼はまず煙灰任せにする。獣が入ってきても、煙にあたりダニやノミをいぶすだけである為に奥まで入り込まない。狐仙などの他の妖怪達も奥までは行く用が無い為に誰も入らないのだ。
「誰だ」
低く威圧するような声が発された。いくら集中していたとはいえ、気がつけなかった。その事実が煙灰の自尊心を刺激した。
煙灰の声に反応したのか、倉庫内から僅かな物音がした。けれど、反応はそれだけで姿を現すことは無い。面倒くさげにため息を吐き、煙灰が倉庫へ向けて歩を進める。
「さて、鬼の倉庫に入る盗人とは……面白い」
口元がほころび、笑みを作る。気づかせない技量に関心と興味を懐く。一体、どの様な使い手がいるのかと楽しみを覚えた。
灯りをともしていない倉庫内は暗い。唯一の光源たる通路に煙灰が立っているために、中の暗さには拍車がかかっている。
中を照らす為、煙灰は術を紡ぐ。妖力を含む、吐息を吐き出した。倉庫の内壁に沿い、小さな火の玉が次々に浮かび、並んでいく。部屋をぐるりと囲む様に火がともる。
誰もいない室内。人影を見つけることは無い。煙灰の視界に小さな影が入る。頭上。
「くかっ」
小さく笑うと、後方へ小さく跳ぶ。目の前に、小さな影が降り立つ。その手には、鈍く光を反射する小刀。侵入者は身長1.2~3mほどの小柄な人物。外套と目深なフードをかぶっているために人相は見えない。
小刀の通った軌跡は煙灰の首があった場所。問答無用で急所を狙いに来る思い切りの良さが心地いい。それでいて全く殺気を感じない不気味さもまた、煙灰の愉快さを盛り立てる。
「終わりか?」
煙灰が腕を左右に開き、挑発してみせた。身体を開き、正面をがら空きにして待ち構える。
侵入者は、ゆったりとした外套の下から、小刀を持っていない手で、細長い透明な容器を取り出す。
火の玉の光を受けて、内容物がきらりと光る。小さな容器は液体を湛えていた。侵入者は手を振りかぶり、自身と煙灰の中間めがけて叩き付けた。
容器の割れる音と共に、内容物が辺りに飛び散った。煙灰には聞き取れない、本当に小さな声で侵入者が呟く。散ってできた液溜りから、小さな泡がいくつも生まれて宙に浮かぶ。光を受け、表面を妖しく煌めかせる。
煙灰は目の前の光景に感心し、僅かに警戒をする。
侵入者が指を弾いて、音を鳴らした。それを号令とするように、ふよふよと漂っていた泡たちが、煙灰めがけて飛翔した。
「面白い」
煙灰は煙を吐いて、泡を迎え撃つ。泡と同じ大きさの煙が生まれ、両者がぶつかる。泡はぶつかると、火を発し、帯電し、霜を下ろした。それだけでさまざまな術が込められていることが一目で分かる。
泡とぶつかる煙も全く同様の反応をする。火には火を、雷には雷、冷気には冷気を丁寧に返す。どれも同量で綺麗に相殺していく。その光景に、動揺したのか侵入者が小さく身じろぐ。
生まれた隙に付け込む。ふらりと煙灰が動き距離を詰めた。侵入者を捉えようと、腕を突出し――
「あ?」
疑問の声と共に、手を止め、思い切り地面を蹴る。直後、煙灰のいた場所を、小刀が通る。それは煙灰の背後からの一閃。クルリと空中で器用に回り、視線を向けるとそこには全く同じ姿の侵入者がいた。
地面に降り立つと、煙灰が軽く自らの頭を叩く。侵入者は躱されると思っていなかったのか、戦意を失くしたように手をだらりとさげてしまっていた。
「幻覚か……腕をあげたな小娘」
煙灰が侵入者に声をかけた。煙灰の呼びかけが不満だったのか、侵入者は不満そうなムッとした雰囲気を発する。
小刀を離し、足元へ落とした。空いたその手を、そのまま持ち上げフードをずらす。目深な布の下から綺麗な銀髪が顔を見せた。幼女から少女といえる程度まで成長した永琳が顔を出す。
「永琳よ、煙灰」
私不満です、と雄弁に訴える声色で永琳が言葉を返した。外套で髪が押し付けられるのが不快だったのか、外套と背中の間から、綺麗な銀の長髪を出すと頭を振って、髪に空気を含ませた。
「ちったぁ、大きくなったじゃねぇか」
「まだまだよ。一太刀入れられると思ったのに」
「くかかっ、良い線いっていたぞ」
「どうして最後に気が付いたの、幻覚だって。少なくとも幻覚を見ていた事を、自覚できていなかったはずだと思ったけれど」
「随分と口調が落ち着いたな」
「……教えてよ」
質問に答えない煙灰に、永琳が口をとがらせて再度の返答を要求した。永琳の仕草に、まだまだ幼さが完全に抜けたわけではないと。煙灰は理解して、小さく笑った。
煙灰が笑った理由を、永琳は正確に察し取り、とがらせた口を今度は膨らめてしまう。
「薄かった」
「薄かった?」
「あぁ。その外套の所為か知らんが、お前からは霊力やその他もろもろの気配をまるで感じん」
「ふっふっふー、頑張って研鑽した結果よ。すごいでしょ。これなら誰にも見つからないわ。前の玩具となんて全然違うんだから」
煙灰に気配を読めないと言われ、嬉しさを隠す事無く自慢した。胸を張り、外套をバサバサと翻して、見て見てとアピールを始める。余程嬉しいのか、膨らめた頬はしぼみ、満面の笑みだ。
「まぁ、それはおいおい聞いてやる」
「ぶー」
「くかかっ。でだ、俺が解ったのはほとんど勘みたいなものだが……行ってしまえば存在感や威圧感といった物が感じられなかった、これに尽きる」
「霊力や、体温、体臭、他のそういった情報は出ていなかったと思うわよ?」
「そういった物理的な面ではない。簡単に言えば殺気や闘気といった気概を感じられなかった。何もかも忘却し、知能も失くした霊の様な希薄さが決め手だ」
「むぅ、なるほど。精神面的な圧力が足りないか……そこは要検討ね。霊力で作ったおとりを幻覚に重ねるだけでもだいぶ違うかしら。もしくはその辺りも効能で出す? 材料があるかしら……」
煙灰の出した欠点を受け、永琳はぶつぶつと考え込み始めてしまった。顎に手を当て、思考に埋没して、あーだこーだと一人で呟く。
永琳の姿に僅かな既視感を覚えた。考えるよりまず作ってみる事が多い煙灰ではあるが、思考に沈むときは目の前の永琳と大差ない。なんど、塊清や他の鬼達に不気味だとなじられたことかと、永琳の姿を苦笑しながら見つめた。
「小娘、考え事をするなら都に帰れ。ここは俺の工房だ」
「永琳っ!」
「相変わらず喰いつく所はそこか」
呼び方にすぐさま噛み付く永琳に変わらんなと煙灰は笑う。がるる、と今にも唸り出しそうな永琳に煙灰が言葉をまた投げかける。
「幻覚はあの液体か。よくできている。製作者は腕の良い薬師――なんだその気持ちの悪い顔は」
「きもっ――! そんな事無い! 可愛いって近所で大評判の笑顔なのにっ!」
「知らん」
「煙灰の馬鹿っ、あほっ、頑固者! 誰が作ったか教えてあげないんだからねっ」
「そうか。別に知りたいと思わんから構わんぞ」
煙灰の返答に永琳は我慢の限界なのか、煙灰に近づくと胸元をポカポカとたたき始めた。怒ってます、と眉を吊り上げる永琳の様子に煙灰は疲れた吐息を一度漏らした。
「あぁ、うっとうしい。その様子ならお前が作ったのだろう。使い方はアレだが中身は優秀だからな」
「全部優秀! アレって何よ、アレって!?」
「過去を反省してみろ。賢い人間の行動かどうか考えれば答えがでるだろう」
「他の人が同じことをしたら馬鹿だけど、私は良いのよ」
「無茶苦茶だな」
「それくらい出来ずして、月夜見様や煙灰を追い越せるわけないわ」
意気揚々と言い放つ永琳に煙灰は頼もしさを覚えた。しばらく見ない間に随分と立派になったものだと感慨深い。無意識に腕が動き、永琳の頭を軽くなでつけた。
永琳は突然撫でられたことに一瞬肩を跳ねさせるも、すぐにそれを心地よさそうに受け入れる。撫でられながら、永琳が口を開いた。
「私、立派になった?」
「ん?」
「ここに出入りしても良い?」
「あぁ……そうだな」
煙灰はそう言ってしばし口を噤む。永琳は僅かに不安そうな顔をして煙灰を見上げた。
「霊力も良く練られている。あの泡の術も良く準備されていた。前もって込めた物を溜めている点も良かった。術を目くらましに薬品による幻覚を仕込むのも上出来だ」
「じゃあ?」
「好きにしろ。もう俺はとやかくは言わん」
「やっ――」
「だが、頻度は考えろ」
「……はーい」
「まったく。お前は大物になるよ」
「わあ、わ、頭、ぼさぼさ、になる。ぐりぐり、しな、いで煙灰っ」
倉庫の中で二つの影が仲睦まじく重なり合う。わいわいがやがやと喧騒が生まれた。
槌の音は消えたが、楽しげな声が洞窟内には広がった。また、しばしの間二人の道は重なる。
大小二つの影が、久方ぶりの再開を、空いた時間を埋める様に、離れることなく会話を続けた。それは、きっと楽しい時間となるだろう。
汚れの少なかった古代の人間は、原作時点の人間とは成長の速度も、寿命も違うかな思い書きました。
20年で幼女が少女になる。長いか短いかは、賛否あるかもしれませんが、そういうものかで流していただけると幸いです。