槌を振いし職人鬼   作:落着

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まだ原作キャラは出ません
次位にはたぶん……


二振り目

「あぁ……頭が割れそうだ」

 

 煙灰は浮かせた煙を椅子にして、煙管を片手に頭痛を堪えるように眉間を揉む。周囲は煙灰の工房がある木々の乱立した視界の悪い森の中ではなく、視界を遮るものが無い平原。ガン、ガンと何かをぶつけ合う鈍い音が鳴り響いた。

 

「ハッハァー!! 楽しいなァ! 産巣(むすび)ぃぃぃ!!!」

「いい、加減にしろぉ!!」

「ならば降して見せろ!!」

「ぐぅぅう!!」

 

 煙灰の視界の先では塊清と神、産巣と呼ばれた男が拳と矛を交えて闘っていた。2mを超える塊清と二回りは小さい、それでも煙灰よりか少しは大きい産巣がガンガンと拳と矛をぶつけ合う。

 ぶつかる音が響くたびに煙灰が眉をひそめ、眉間の皺が数と深さを増す。

 

「塊清、もっと静かに闘え……」

「け、軟弱だなぁ煙灰!!」

「テメェは酒にしろ、毒にしろすぐに抜け過ぎなんだよ、くそが……」

「ほら、テメェも闘えよ」

「自分の仕事はしているぞ」

 

 目の前で行われる塊清と産巣の勝負に邪魔が入らないよう、煙灰の操る煙が離れた場所にいる多くの人間を抑え込む。一人一人が武器を持っている何かしらの人間の集団。それらに対し、煙灰の煙がのっぺりとした顔の人型をとり、幾体もの煙が人間達を牽制をしていた。

 今朝、二日酔いの為川辺でへばっていたはずなのにどうして今このようなことをしているのかと煙灰は内心で嘆く。二回も吐けばケロリとした塊清に無理やり連れられここに居る為、塊清に向けられる煙灰の視線はひどく剣呑だ。

 

「貴様ら、いい加減に、しないか!」

「あん? 口で鬼が止まると思ってんのか!?」

「お前らは――」

「俺たちゃ鬼だ!!」

 

 何かを言おうとする産巣の声を塊清が遮る。産巣の顔が塊清の言葉を受け、悔しげに歪む。そこから塊清も産巣も言葉を交わす事無く、肉体と矛が互いを害そうとせめぎあう。さらに両者のぶつかり合いが激しさを増す。両者の身体を纏う妖力と神力が高まっていく。

 しかし、次第に産巣が押され始めた。矛にヒビが入り始めたのだ。神力を通し崩壊を阻止しようと産巣がするも、そちらに気を回す所為で防戦一方に陥る。そしてさらに塊清の拳を矛で受け止める為に矛の崩壊が進行していく。

 

「これで(しま)いだ!!」

「がぁああぁ!!」

 

 塊清の渾身の力が込められた拳が産巣の矛を打ち砕き、矛に守られていた産巣の身体を打ち抜く。塊清の拳に殴り飛ばされ、産巣の身体が後方へと吹き飛ぶ。矛の柄の一部を持った産巣が殴られた腹に片手を当て地面を削りながら停止をした。

 

「馬鹿力め……」

「当り前だ。この腕力こそが我が恐れの根源!」

「馬鹿者が……」

 

 矛を杖の様にし、産巣が立膝の体勢で塊清を睨む。塊清が産巣の言葉に、自らの剛腕を誇る様に掲げて声を上げる。産巣は恨みがましげに声を漏らす。

 

「あちらは――」

「誰も死んじゃいねぇよ」

「煙灰……やはり貴様は――」

「勘違いするな。雑魚を散らしてもつまらんだけだ」

 

 産巣が煙灰の煙達の相手をしている人間達を心配する様に視線をやり声にすれば、煙灰がその不安を消す様に言葉を発した。

 煙灰に何かを言おうとする産巣の声をやはり塊清同様に煙灰が遮る。産巣が煙灰の反応にギチリと音が鳴るほど歯を噛む。

 

「残念だな……腕は上がっているのに武器が付いて来ていないな」

「まぁ、そうだな。こりゃなまくらだ」

「ふざけたことを……」

「だが事実だ」

 

 煙灰が塊清の隣に並び、砕けた矛の一部を手に取り握って見せた。そして、煙灰が拳を開けば砂が舞う様に粒子状になった矛の一部が風に攫われて流れていく。

 産巣が悔しげな視線を煙灰に向けるも、煙灰は熱を感じさせない瞳で産巣を見返す。

 

「都の質はたいして上がっていないようだな、嘆かわしい」

「戯言を……貴様らがいれば、貴様らが……」

「そんな仮定に何の価値もない。俺達はここに立ち、お前らはそこに立つ。それだけが事実で現実だ」

 

 煙灰の無機質で事務的な言葉が産巣の心を苛む。顔を俯け、矛を持たない手で地面を掻き毟る様に指をめり込ませる。

 

「どうする、塊清?」

「どうすっかなぁ」

「――! チッ!!」

 

 煙灰が俯いて動きを見せなくなった産巣から視線を外し塊清に問う。塊清も俯き小さく見える産巣を少しだけ気の毒気に見ながら頭を掻いて悩む。

 すると、何かに気が付いた煙灰が隣にいる塊清を自身の背後に向けて蹴り飛ばし、自身もそれを追う様にすぐさま背後に向けて地面を蹴る。直後に二人が立っていた場所に空から何かが着弾した。

 飛来物は雲の上から飛んできているようで、上空に浮かぶ雲に穴が空いている。飛来物が地面にぶつかると爆発が起きたかのような轟音が鳴り響き、地面から大量の土煙が舞う。

 煙灰が能力で舞い上がる土煙を操り、視界を確保すれば爆心地にクレーターが形成されていた。

 

「これは……月夜見」

「煙灰、まじぃのが来ちまったぞ」

「あぁ、最悪だ。月夜見のお出ましだ」

 

 産巣が呆然と呟き、煙灰と塊清が眉をひそめる。

 

「随分と暴れているようですね、エンにセイ」

「その名で呼ぶな、月夜見。不快だ」

「そうだぞ」

「月夜見……すまん」

「高御産巣、気にすることはありません。あの二人の強さは知っています」

「しかし――」

「産巣」

「……助かった」

「はい、それでは引いてください。巻き込みたくはありませんので」

 

 産巣の背後にいつの間にか、白のシャツの上から黒のサロペットスカートを着て海の様に深い青眼と黒髪に黄色のカチューシャをした女性、月夜見が僅かに地面から浮きながら存在していた。

 月夜見に呼びかけられた煙灰と塊清がその呼び方に不満を隠す事無く噛み付く。

 月夜見は二人の言葉に応えることなく、産巣に下がる様に指示を出す。その間も月夜見は目の前の鬼から、煙灰から一度も視線を逸らさない。

 産巣が悔しげに顔を歪めると足早に煙灰の煙達の相手をする人間達の元へとかけていく。煙灰も煙達を手元に呼び寄せ煙に戻し周囲に燻らした。

 

「塊清、先に行け」

「大丈夫か?」

「問題ない。勝てはせんが……逃げられはする」

「信じるぞ?」

「俺を誰だと思っている?」

「くっくっく、そうだな。俺たちゃ鬼だったな」

「あぁ」

「逃がすと思っているのですか?」

「仕留められると思っているのか?」

「いいえ、捕えます」

「……馬鹿にするなよ、月夜見」

 

 月夜見の言葉を受け、煙灰の雰囲気に怒気が混じった。腰に刺している煙管を煙灰が手に取り大きく吸い込む。塊清がタイミングを計る様に、足に力を籠め駆け出す準備を行う。

 煙灰が煙管を吸い続けると、煙灰の纏う妖力が勢いを増し大きくなってゆく。身に纏う妖力だけで周囲の地面に亀裂が走り、空間がゆがむ様に揺れ、空を雲が覆い始め、日の光が地上に届か無くなり辺りは薄暗さを増す。

 

「その煙管は……」

「煙灰が作った妖力をため込む煙管だ。コイツは道具を作る為に普段使わない妖力をいつも貯めている」

「エンが」

「塊清、行くぞ」

「おう」

 

 煙灰が口から煙管を離して塊清に合図をした。煙灰はタダの人間であれば見ただけで殺せるような圧力を伴う視線を月夜見へ向けながら、口をあけると煙が漏れていく。

 そしてフゥと力強く息を吐けば、周囲一帯を包む様に白煙が爆発的に広がった。

 月夜見は片腕をあげ人差し指を伸ばし天へ向けて空を指さす。直後に煙灰たちの姿は煙で視界から消失した。月夜見は天へ向けた指先を今度は煙灰がいた煙に包まれた場所へと指し示す。

 流星が再び煙めがけて降り注ぐ。雲に穴を二つあけ、落下してきた隕石が地表とぶつかり爆風で煙を散らす。煙が晴れた先には煙灰が一人佇むだけで塊清の姿は見えない。

 

「セイには逃げられましたか……」

「相変わらず馬鹿げているな、お前の星を操る能力は」

「エンの煙を操る力も厄介ですね」

「煙灰だ、何度も言わせるな」

「いいえ、改めません。貴方は今も昔もエンです」

「月と夜を司る王と言われる神のお前が随分と些事にこだわるじゃないか」

「些事などではありません! 私は、私は――」

「だからあんな有象無象の戦闘集団を作ったのか。滑稽だな」

 

 煙灰から溢れ出る暴力的な妖力に対し、腰を抜かし立ち上がる事さえ叶わない人間達へ煙灰が侮蔑の視線を向けた。

 視線を向けられた人間達は、煙灰が自分たちの方へ視線を向けたことを察し悲鳴をあげるも動けない。中にはそのまま泡を吹いて気を失う者も出た。

 人間達の先頭に立ち結界を張る産巣がいなければ少なくない数の人間が恐怖で心臓を止めたかもしれない。それほどの重圧と恐れを今の煙灰は身に纏う。

 

「滑稽ではありません! あの時だってこうしていれば貴方は鬼になどならなかった!!」

「産巣にも言ったがそんな話に何の意味がある? 俺は鬼で貴様は神だ。違うか、ヨミ?」

「エン……どうしようもないのですか?」

「逆に聞くがどうしようもあるのか? ねぇだろ」

 

 月夜見が煙灰の言葉に肩を震わせ顔を俯かせた。握り絞められた拳からは血がしたたり地面へと落ちていく。月夜見が顔をあげ、キッと睨みつけるような鋭い視線を煙灰へ向ける。

 

「貴方をとらえます」

「公開処刑でもするつもりか?」

 

 人間に仇なす、それも鬼となればつかまえた所で殺すしかないと普通に判断すれば明瞭な事実だ。だからこそ、煙灰は皮肉気に笑って嘲りを含んだ声で月夜見に問う。月夜見の身体に神力が満ち、圧を増す。

 

「私たちの為に武具や道具を作ってもらいます。そうすればエンの居場所などいくらでも作れます。貴方の腕前が有れば誰にも反論などさせません」

「馬鹿にするのもいい加減にしろ……殺すぞ」

「馬鹿になどしていません。私は本気です」

 

 月夜見が掌を前方へ掲げ、煙灰を頭上から押しつぶす様に動かす。煙灰は月夜見が手を掲げると同時に地面を蹴りつけ横に跳ぶ。

 煙灰がその場から離脱した直後に月夜見の手が振り下ろされ、煙灰が立っていた場所を中心とした円形状に地面が陥没し穴が開く。

 

「重力か……随分と素早くなったじゃないか!?」

「私とて研鑽を積んでいるのです」

「燃費の悪さは治ったのか?」

 

 煙灰が月夜見に言葉を投げかければ、月夜見の表情が歪む。煙灰はその表情で理解した。月夜見の燃費の悪さは変わっていない。強力過ぎるがゆえに月夜見の能力はひどく燃費が悪い。

 だからこそ都の防衛を専門にしており、今回の様に都の外延部に現れることはほとんどない。

 

「関係ありません! 長引かせるつもりなどもとよりありません」

「だろうな。流星を落した時点でお前が今都にいないことなど周囲の妖怪からすれば自明の理だ」

「エン!!」

 

 重力でつぶされないようにと煙灰は同じ場所に留まる事無く月夜見の周囲を跳び回る。

 月夜見も煙灰をとらえようと、視線で追うも煙灰の跳び交う速度が、月夜見の能力の展開速度を超えているためにとらえきれない。

 

「だが、まだおせぇ!」

 

 煙灰が吼え、月夜見との距離を縮めるようにじりじりと迫っていく。

 月夜見は浮遊を解き地面へと降り立つと片足で地面をトンと打つ。

 叩いた地面を中心に光が波紋を広げる様に地面を走り抜けた。

 煙灰の足元を光が過ぎると、煙灰の足が地面へと沈む。

 

「この大地とて星の一つ」

「チッ……フゥゥゥウ!!」

 

 煙灰が息を大きく息を吐き大量の煙をだし、出した煙を用いて身体を持ち上げる。そのまま出した煙を足場にするようにしてその場で立つ。

 

「足場が無けりゃ作ればいい」

「相変わらず器用ですね」

「テメェがおおざっぱなんだよ」

「細かい調整は苦手です」

「だろうな」

 

 気安い言葉の応酬に両者が浮かべる表情はともに笑顔。その顔から負の念は感じられない。

 しかし、次の瞬間に煙灰は舌打ちを一つして頭を掻き毟るとまた眉間に皺を戻す。月夜見は煙灰の態度に悲しげに表情を歪めた。

 

「まぁ、そろそろ潮時だから帰らしてもらうぞ」

「逃げられると?」

「あぁ、これ以上長引くのも力を使う余裕もお前にはないだろ。余力を残しておかないといけないお前と、全力で逃げられる俺とどちらが有利だと思う?」

「……エン、どうしても駄目ですか? 貴方の力があれば――」

「くどい。もう結論が出た事だ」

「……それなら、私が貴方を討ちます。他の誰でもない私が」

 

 月夜見の言葉で煙灰に笑みが浮かぶ。それはどこか嬉しげに見える笑みだ。

 

「初めてお前の言葉でまともだと思えるものが出たな」

「覚悟してください、エン」

 

 月夜見が両腕を天に掲げた。神力がその手に集まり、空間が歪むほどの力場が生成される。煙灰も身から溢れ出るほどの妖力を煙に込めて月夜見の攻撃に備える。

 

「堕ちなさい」

 

 月夜見が静かで、感情のこもらない声をだす。掲げた腕が振り下ろされた。直後、雲にいくつもの穴をあけ隕石が落ちてくる。流星群とでも呼べるほどの無数の星が視界を埋め尽くす。

 

「吐き出せ、煙雲」

 

 煙灰が言葉を発すると、空を覆う雲からいくつもの力を宿す道具が隕石群と空中で交差する様に飛んだ。隕石と、鬼が鍛えし道具が空中でぶつかり生まれる物はいくつもの爆発。

 さらに撃ち漏らしや、壊しきれなかった隕石から身を守る為に妖力をこれでもかと込めた煙で自身の周囲を覆う。無数の爆発で生まれた爆風や閃光、熱から月夜見は目を守る様に腕を顔の前で掲げる。爆発が止まる。

 

「逃げられましたか……」

 

 月夜見が悔しげに声を漏らす。先ほどまで存在していた一人で百鬼夜行をも超える様な妖力が消え失せている事から月夜見は煙灰が逃げた事を察した。産巣へ向けて月夜見が空中を滑る様にし近づく。

 

「逃げたか」

「えぇ、残念ながら」

「そうか……すまんな、俺が不甲斐ないばかりに」

「いえ、仕方ありません。武器ばかりはどうしようも――」

「産巣」

「エン!?」

「逃げていないのか!?」

 

 妖力が感じられない事から逃げたと思っていた煙灰の声が煙の中から発せられた。月夜見と産巣が驚愕の声を上げ、視線をまだ残る煙へと動かす。煙が晴れた場に煙灰が立っていた。

 しかし、その姿に二人は疑問が浮かぶ。圧力が、存在感が酷く希薄に感じられる。

 

「これを使え」

 

 弱弱しい雰囲気を発する煙灰が指を上から下へとなぞると、雲から一本の矛が産巣の目の前めがけて打ち出された。地面に突き立つ矛から強い力を二人は感じる。

 

「これは?」

「俺が鍛えた矛だ。銘は無い、勝手につけろ」

「何故俺に?」

「鬼は試練の象徴。お前は俺の目に敵った、だからやる」

「施しは――」

「えり好みできる立場でもないだろ」

「う……しかし――」

「正しく使え。お前ならできる」

「……後悔するなよ?」

「フン、させてみろ」

 

 煙灰が不敵に笑えば産巣に浮かぶものは苦笑だ。昔からこういう所は変わらないなと産巣は思う。

 

「貴方は変わりませんね」

「変わったさ」

「根っこの部分は――」

 

 パンと乾いた音が月夜見の言葉を遮る様に平原へ響く。音の出どころを探せば人間達の中の一人が持つ筒状の武器の先端から煙が出ていた。先込め式のマスケット銃から弾丸が放たれたのだ。

 煙灰の妖力の重圧が無くなり、恐慌状態から抜け出した人間の一人が発砲を行った。恐慌から抜け出しても完全に混乱がなくなったわけではなく、いまだ煙灰に多大な恐れを抱いているために恐怖が引き金を引かせたのだ。

 

「全く、もう少しちゃんと鍛えておけ。統制のとれない集団なぞ、足手まとい以外の何物でもないだろう」

 

 煙灰の胸元に穴が開いており、そこから煙が漏れ出ている。煙が漏れ出るにつれ煙灰の姿が薄れていく。月夜見と産巣はその姿に存在が希薄な理由に察しがついた。目の前の煙灰は能力と妖術で作られた分身だと。

 

「相変わらず器用だな」

「お前らが不器用すぎるだけだ」

「お前が器用すぎるのだ」

「エン、わ――」

「ヨミ、これが答えだ。きっと当時に同じような集団があっても結末は変わらなかったさ」

 

 月夜見が悔しげに顔を歪め俯く。産巣は月夜見にも煙灰にもかける言葉を見つけられずただただ口を閉ざすだけだ。

 

「またな、産巣」

「大人しくしていろ」

「塊清に言え」

 

 顔を伏せる月夜見をしり目に煙灰と産巣が言葉を交わす。産巣が煙灰の言葉に苦笑すると煙灰が不遜な態度でフンと鼻を一度鳴らす。それを最後に煙灰の姿が完全にその場から消えた。

 

「ふぅ、散々暴れて気が済めば消える。馬鹿者どもが……月夜見帰るぞ」

「……産巣」

「今は帰るのが最優先だ。分かるだろう」

「そうですね、都に帰りましょう」

 

 産巣が人間達の集団に声をかけ帰路につく。月夜見は最後に、都とは反対側の妖怪たちの住む未開の領域へ視線を向けぽつりと言葉を漏らす。

 

「エン、私はまだ貴方の事が……」

 

 月夜見は言葉を続けることなく閉口した。瞼を閉じ、しばしの間逡巡をしてから瞳を開く。手を振れば凹凸のある地面が均され、何事もなかったかのように周囲が復元された。

 それを最後に月夜見も産巣を追うためその場を後にする。後にはなんの痕跡もない大地が残るだけだ。

 

 

 

 

 

 

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