「プロデューサー! 私もヤンデレになったり、ど変態になったり、百合百合したい!」
「何を言ってるんだ、お前は?」
ある日、そろそろお昼ご飯でも食べに行こうかなーと考えていると、担当アイドルの一人である本田未央が訳のわからない事を喚き始めた。
プロデューサーは一旦仕事の手を止め、未央の話に耳を傾けた。例えどれだけ下らないと思っていても、年頃の女の子の話はキチンと聞いてあげるべきである。例えどれだけ下らないと思っていても。
「だってさ、しぶりんとかしまむーってしょっちゅうヤンデレ扱いされたり、ど変態認定されたり、百合百合するでしょ?」
「いやそうかもしれないけど。お前、友達をどんな目で見てるんだよ……」
確かに、凛は普通の行動をしても深読みされてヤンデレとか変態扱いされることが多いし、卯月も最近は変態や鬼畜になる事が多い。
それにアニメ序盤で卯月と凛が結構な時間絡んだせいか、二人がペアになる事も増えた気がする。
と言っても勿論それはファンの方々の──更に言えばネット掲示板やSNS上での──話であり、実際にそうかと言われればそうでもないのだが。
「でもね、私にはなんっにもないの! なんっっっにも!
ヤンデレメインの二次創作でも私はツッコミポジション! 変態メインの二次創作でも私はツッコミポジション! かと言ってみくにゃんみたいに不動のツッコミポジションなわけでもない! ツッコミ役いないと話進まないし……とりあえず本田ツッコミ役にしとくか。みたいな!
後他にも、百合百合するにもペアがいない! ニュージェネはうづりん、ポジパはなんかそういう感じじゃないし! クラスみんなと仲良いけど、一番の親友がいない、それが今の私だよ!
あとあと! アニメでニッターニャやミクリーナみたいなカップリングが出来る中、私が手に入れたモノと言えば「本田ァ!」とか「本田未央氏ね」とかいう罵倒ばかり! それと「もう私〇〇辞める!」というネタァ! これはもうしまむーの横ステップ以下だよ!」
未央はアニメで唐突に庭で卯月と凛と演劇の練習をした時のポーズをとりながら、熱く語った。
これは思ったより長くなりそうだ、プロデューサーはひとつため息をついた。
「いやいや、お前はまだいいだろ。美城常務なんて急なアメリカ帰り設定が出たお陰で、新入社員にマジでそう思われてるらしいし、武内君もポエマーだと思われてるって困ってたよ」
「裏方じゃん! あくまで身内にそう思われてるだけじゃん! 私アイドル!」
「ていうかなに、未央は誰かと百合百合したいわけ?」
「いや、そういう訳じゃないけどさー。でもやっぱり思うわけよ、私も個性が欲しいなぁーって」
「卯月も個性ないじゃん」
「あー……しまむーはぶっちゃけ「個性が無いのが個性」みたいなとこあるじゃん。周りもそれでいじってるし。私の場合、いじる事も出来ない微妙な個性の無さなんだよね」
「アイドルがいじられる前提で話すなよ……。いやでも真面目な話、未央にも個性はあるぞ。テレビ局に売り込む時とか、その辺把握しておかないと売り込めないからな」
例えばどんな!? 未央が目を輝かせて迫ってきた。顔が近い。机の上からいくつか資料を取り、即興のプレゼンを行う。
「まず一つ、無難」
「無難て! アイドルなのに無難て!」
先程までの期待に満ちた顔とは一転、未央はオーバーに肩を落とした。
「いや、いや。バラエティーや食レポ系の収録の時、無難ってのは結構武器なんだぞ。前文香を試しに出して見たら、大御所芸能人の浅い豆知識を悉く論破して大変だったよ。
その点未央だったら、大体オーバーにリアクションして終わりだから使いやすい」
「う、うーん? それって褒められてるの、かな……?」
「褒めてる、褒めてる。偏差値で言うと58くらい褒めてる」
「それ私のリアルな偏差値じゃん! どこで知ったの!?」
「ははは」
「誤魔化さないでよ!」
「それは凛のネタな。つーかな、俺はその件に関して色々言いたいことがある」
「ほお。と言いますと?」
「地味にキャラ崩壊が大きかったのは凛だと思うんだよな。目指せ! シンデレラNo. 1とかシャイニーナンバーズの凛と、アニメの凛はだいぶ違くないか?」
「あー……」
「正直思ったね。こいつらは俺の凛の事が全然分かってない! と。凛て結構ノリが良いし、滅多に怒んないタチなんだよ。どっちかって言うと加蓮がすぐキレて、凛が取り持つっていうか」
「確かにプロデューサーとかれんが喧嘩して、しぶりんがそれを止めてる光景よく見るかも……て話が逸れてるよ! 今はこの未央ちゃんの事について語ってくれたまへ!」
「そうだったな。二つ目、誰と組み合わせても統合が取れる。未央は加蓮とか志希とか、扱いが難しい奴とでもやっていけるだろ。それは立派な強みだ」
「う、うーん……。いやね、誰とでも仲良く出来るって思われてるのは嬉しいよ? でもさ、それは他の人ありきなわけじゃん。私としては、やっぱり私だけのオンリーワンが欲しいと言うか……」
「三つ目、体つきがエロい」
「言い方! む、むう。プロデューサー!」
未央は顔を赤くしてプロデューサーを睨みつけた。アイドルとしてグラビアなどの仕事が求められることは理解しているが、未央はまだ15歳。興味がありつつも、耐性がないお年頃なのだ。
さすがにちょっと悪いと思ったのか、プロデューサーはため息をついてから、妥協案を出した。
「よし分かった。今この場でヤンデレになったり変態になったり、百合百合してみろ。似合ってたらそれ系の仕事取って来てやる」
「ホント!?」
「ホント、ホント。プロデューサー、嘘、つかない」
「うわー嘘っぽーい」
一旦、未央は扉を開けて事務所から出て行った。ややあってから、扉を勢いよく開けて事務所に飛び込んでくる。
「プロデューサー! プロデューサーの周りを嗅ぎ回る雌犬、全員◯して来たよ! 褒めて、褒めて!」
「うーん、なんか爽やかすぎる……」
「返り血がついちゃったから、プロデューサーに舐めて綺麗にして欲しいな!」
「なんだろう、何故か青春の味がしそう」
「プロデューサー、はいこれ! しきにゃんに頼んで作ってもらった性転換薬だよ。これ飲んで私と色々な事をしようよ!」
「百合ってより、夏休みに二人で仲良くしてる田舎の中学生みたいだ」
「うがー! じゃあどうすればいいの!? 私もうアイドル辞める!」
「今回の結果は……妥当だったと思います」
「誤魔化さないでよ!」
「お前も凛のネタ使ってるじゃないか……」
「プロデューサーだって武内さんのネタ使ってるじゃん」
「俺はいいの」
プロデューサーはひとつ咳払いをして、少し顔を背けながら言った。
「まあ、その……なんだ。未央はありのままが一番魅力的だと、俺は思うけどな」
「もう、そう言うのはいいから、プロデューサー!」
「──はあ。おっと、もうこんな時間か。昼飯食べに行くけど、一緒に行くか」
「おごり?」
「…………良いだろう」
「葛藤ながっ!? そんなんじゃモテないぞぉ〜」
「はい、おごりなし」
「嘘です! プロデューサーってば、今日もいけてるね! 髪の毛もフサフサだし!」
「お前マジネタでも髪の毛については触れんなよ……。女の子で言うところの、生理用ナプキンの話位デリケートな話なんだぞ」
「デリケートゾーンだけにデリケートな話……ってプロデューサー、最低のオヤジギャグだよ!」
「いや、それはお前の深読みのし過ぎだよ」
プロデューサーと未央は、ワイワイと話しながら事務所を出て行った。二人が話していたすぐそばのソファーに取り残された凛と卯月はポツリと呟いた。
「プロデューサーと仲良く出来て羨ましい」
「うん。未央ちゃん、羨ましいです……」
「「アレが立派な個性だよね(ですよね)」」