欠けているモノを求めて   作:怠惰の化身

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今回は短いです。
次話と合わせて投稿しようと思ってたのですが、次話に苦戦していて時間かかりそうなので……。
8000字以上になりそうです助けて!


閑話休題

30分早く来たのに一時限目の終わりに教室に行った八幡。

普段は見向きもされないが今日の教室は、一部の男子の刺すような視線と葉山の同情するような視線、由比ヶ浜の何か言いたそうな視線などに晒された。

 

しばらくすると授業が終わり、先生が退出すると生徒もちらほらとグループを作り暫しの談笑が始まる。

その喧騒の中、ぼっちである八幡はいつものように机に突っ伏して次の授業まで英気を養うのだが、

 

「いや~、ヒキタニ君ごめ~ん。気絶するとは思わなかったんよ~。死んだかと思ったわ~」

 

そこに戸部がやってくる。

 

「誰でも頸動脈締め付けられたら落ちる。ったく、注意しろよ。」

 

拝むように謝罪をする戸部に八幡はムスッとした顔で思い出すように首を擦りながら答える。

 

「で、でもさ、仕方なくね?あんなことがあったんだから……、仕方なくね!」

 

自己暗示するように言いながら仕方ないアピールをする戸部。

そんな、本当に反省してるのか怪しい戸部の態度にため息を吐く八幡。

 

「お前が将来、仕方ないって理由で犯罪を犯さないか心配だよ」

「そんときゃ隼人くんに頼るから問題ないって~」

「問題大有りだろが……」

 

なんという短絡的思考、流石DQN脳。

しかし、葉山なら罪を償えと諭して戸部はめでたくブタ箱入りだろう。

そんなどうでもいいことを考えていると八幡の前に突然、大天使が降臨した。

 

「おはよう、八幡。朝から大変だったみたいだね」

「戸塚!」

 

八幡に戸塚彩加の優しく慈愛に満ちた声が掛けられる。

 

「倒れかたが悪いと大怪我にもなってたんだからね。ちゃんと反省しないとダメだよ」

「……は~い。ヒキタニ君、海よりも深く反省してっから~」

 

大天使の戸塚にメッといった表情で責められては、戸部も反省せざるを得ない。

 

「でもさ、ヒキタニ君どうやっていろはす落としたん?」

 

これが戸部の本題で、謝罪はついでだ。

 

「一色を落としたいのか?なら簡単だ、俺にした様に頸動脈を締めれば落ちるぞ」

「い、いや~、悪かったってば。意地悪無しでオナシャス!」

 

と、言われても利用されたので助言などできない。

三年生になると海老名とクラスが分かれるかも知れない、そんな状況で進展が無いことに藁にもすがりたい心境なのだろう。

 

基本的に学生は、クラス内の関係を重視する。

学年が上がると強制的にクラスも変わり、仲の良かった友達と別々になることは多い。

例え今、クラス内で薄い人間関係であったとしても、それだけで親友になることはよくあることだ。そして、その逆もしかり。

特に海老名はその変化が強いだろうとは八幡も思った。

 

「そうは言ってもな……」

 

しかし、八幡は人間関係の構築を始めから諦めていたので聞かれても困ることだ。

 

「八幡に聞いても無駄だよ」

 

うんうんと悩む八幡の代わりに戸塚がさらっと酷いことを言う。

 

「違うよ、違うからね?そんな意味じゃないから、そんな顔しないでよ八幡」

 

絶望のどん底のような八幡の顔を見て戸塚は慌ててそう言ってから説明する。

 

「八幡、モテるから勝手に惹き付けてしまうんだよ。だから聞いても無駄」

「えー!ヒキタニ君が?それはないでしょー」

「本当だよ。ね、八幡」

「ね、て言われててもそれはさすがに……」

 

戸塚の意見には無条件で賛同したいところだが、これには賛同できなかった。

八幡がこれに賛同すればナルシストみたいなものだから仕方ないだろう。

 

すると戸塚は目をウルウルとして、

 

「ぼくも八幡のこと好きだよ?」

「うん、戸塚の言った通りだ。戸部よ、聞いても無駄だ」

「ヒキタニ君!?」

 

あっさり手のひら返しをする姿に、それで良いのかといった仕草で訴える戸部だが八幡は涼しい顔でスルー。

 

「まあ、戸部くんは今のままでいいんじゃないかな?無理に自分を繕っても後悔するよきっと」

「そうか~、自分らしくかー。ん?自分らしく……、あれ?自分らしいってなんだろ」

 

八幡の代わりにとばかりに戸塚が助言すると戸部は雪ノ下と同様の問題に直面する。

1つだけ違うのは、戸部はその事を考えなかった所だが。

 

「深く考えなくてもいいよ。今の戸部くんが戸部くんらしいってこと」

「お!そだな、それもそうか~。よしっと!戸塚、ありがとなー」

 

戸部は笑顔で言うと教室の時計を確認して自分の席に戻って行く。

八幡は戸部が戻る姿を見てると由比ヶ浜と目が合うがサッと目を逸らされる。

 

(説明しないとな~。一色の奴、面倒なことしやがって……)

 

八幡は、ため息をついて視線を戻すと。

 

「八幡は自分らしさってどんなものだと思う?」

 

と、戸塚が聞いてくる。

 

「そうだな……、人間ってのは周囲の環境や人間関係から影響されて変化するものだ。その変化を取捨選択することで自分らしさが生まれる、と俺は考える」

 

俺は俺だ、と答えるのは戸部と同類みたいで嫌だなと思い哲学っぽく語る。

そんな八幡に戸塚は「八幡らしい答えだね」、とクスクスと笑い混じりにそう言う。

 

「じゃあ、戸塚の自分らしさって何だ?」

「ぼく?」

 

八幡は発言の照れを誤魔化すように聞く、すると戸塚は嬉しそうに微笑み。

 

「そうだね。譲れない気持ちを貫き通す、ってことかな」

「それは?」

「男らしく!ってことだよ」

 

戸塚は両手をむにゅと握り気合いを入れて言い放つ。

 

「戸塚、男らしいぞ」

「も~!顔と声が言葉に伴ってないよ~」

 

ほっこりとした顔で見つめる八幡に、戸塚は頬をマシュマロのように膨らませて抗議の声を上げる。

 

「でも八幡は、やっぱり変わったね」

 

しばらく八幡をほっこりさせていた戸塚はそう言って笑みをこぼす。

 

「まあ、俺も一年経てば変化することもある」

「うん。昔の一匹狼みたいな八幡もかっこよかったけどね」

「お、おう」

 

八幡は、一匹狼はぼっちのことでは?と思ったが、戸塚のはにかんだ笑顔を見れたことでどうでもよくなった。

そんな癒しの一時も次の授業を知らせるチャイムが鳴って終わりを告げ、外に出ていた生徒も戻ってくる。

 

「じゃあ、そろそろ行くね」

 

戸塚もその流れに沿うように自分の席に向かう。

途中、顔を少し傾けて手を小さく振りながら屈託のない笑顔を向ける戸塚。

そんな戸塚を目で追いながら、八幡は改めて思う。

 

戸塚彩加、声も仕草も女にしか見えない。いや、女より女らしい美少女。

だが男だ。

テニス部の部長だが、体付きはとても細い。

だが男だ。

季節は春だというのにまだ寒いな。桜のつぼみも咲く気配はない。

だが男だ。

青い長い髪をポニーテールにしている生徒と目が合った。改造した女子の制服を着こなしている。

だがおと……女ですごめんなさい睨まないで!

 

そうして、逃げるように視線を戻して誤魔化すように目覚まし時計と化しているスマホをまさぐる。

サワサワっとまさぐっていると、数少ない登録者の1つで止まる。

そして、少し考えてメールを送ろうと操作する。

 

[一色に奉仕部に来るように連絡を頼んでいいか?後、噂は勿論嘘だ。]

 

そして、メールの内容を確認して送る。

少し間を置いて由比ヶ浜が携帯を見たのを確認し、自身のスマホをしまう。

 

スマホをしまってる途中に由比ヶ浜から、[いろはちゃんにメール送ったよ。放課後、詳しく教えてね。]と、時を止めてるのかと思うほどの高速返信に八幡は超びびることになった。

 

一色は必ず奉仕部に来るだろう。

長い付き合いではないが、一色は逃げるようなダサいことはしないだろうと八幡は確信している。

 

「一色いろは、待っていろよ……」

 

誰に言うでもなく、小さくつぶやく復讐に燃える八幡。

 

すると、近くから舌打ちが聞こえた気がした。

次の授業は数学だ、寝よう。と机に突っ伏す八幡だった。

 




スマホをしまう。
といった文が作中ありましたが、これは地方によって、
スマホをなおす。
といった言い方をします。

しまう、が調べたところだと一般的だったので、こちらを使用しました。
他にも色々と言葉の違いはあったりするのですが、これが今のところ一番悩みました。

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