歌の女神たちの天使 〜天使じゃなくてマネージャーだけど!?〜 作:YURYI*
三年生三人に迫られ、さらに自分が思いのほか涙もろいと知った、さらにさらに絵里ちゃんと希ちゃ…いや、希との関係が少しだけ変わった日の翌朝。
いつもと変わらず誰もいない教室で、いつも通り自分の席から外を眺めていた。正確には空だが。
この時間は考え事をするのに最適なようで、意図的に思い出そうとしたわけでもないのに昨日のことが思い出される。
…随分と恥ずかしいことをした気がする。
肩はまだ痛むし、あの三年生たちが少しこわいというのももちろんだ。そりゃあ、今まで距離が近いかもと思った時は何度もあるけれど、女子校ならではのスキンシップというものもあると思うし、それにやんわりでも避ければ相手はそれ以上近づいてくることはなかった。もちろん、μ'sのメンバーは含まれないが。
それに、μ'sのみんなに触れられて嫌だと思ったことなど一度もないわけで。
そんなことよりも、問題なのはその後のほうだ。
自分でもなんであんなことをしたのかわからない。助けてもらったあげく、絵里ちゃんの制服をしっかり掴んで離さないというなんとも子供っぽいことをしてしまった。さらに、二人に優しくされてボロボロと泣き出すという…
“希って呼んで…?”
あんなに甘い声でしかも耳元で言われてしまったら誰でも赤面するって…
しかも、ちらりと盗み見た希の表情はいつもの雰囲気とは全く違い、不安と期待の入り混じったなんとも乙女、な顔をしていた。
いや、普段からかなり女の子なのだが、あんな表情をまさか私に向けてくれるとは思っていなかったわけで…とにかく今でも思い出すだけで心臓がばくばくと音を立てる。
それにーーー
絵里ちゃんとの2回目のキス。
まさか、自分でもあんなことを言うなんて思っていなかった。
それに、ほんとに…するとも思っていなかった。ああいうものは付き合っている二人がするもので、いくら仲良くなったからってホイホイするようなものではない。
それに、私と絵里ちゃんが…なんて、釣り合っていないにもほどがある。
そう、頭の中ではちゃんとわかっている。わかっているのだが、どうしても絵里ちゃんを目の前にしてああいう状況になると…
あぁぁぁあああ!!!
私はなんてことを…!!!
顔が熱くてしょうがない。
誰が見ているわけでもないが、恥ずかしくなって机に顔を伏せる。
「なにやってんのよ」
頭上から聞こえる誰かの声。
全く予想もしていなかった事態。まって、こんな時間に誰かが登校してくるなんてあるわけない。冷静になれ、私。
「なに、無視?」
今はまだ7時だし。そんなことよりも、さっきの見られてたりして…
「ねぇってば!」
「もう!にこうるさいよ!?」
「なんでにこが怒られるのよ!?それに、気づいてたなら返事しなさいよ!」
にこはツインテールを揺らしながら叫ぶ。
「静かにしてよね、まったく」
「だ、だからなんで怒られるのよ…!」
「そんなことより、こんな朝早くにどうしたの?」
「なんであんたはにこの扱いがそこまで雑なのよ…。まぁ、ここじゃなんだし屋上に行くわよ」
雑なんじゃなくて、それだけ私はにこに心を許してるんだと思うよ。と私は心の中で返す。
私の返事も聞かずに歩き出すにこをの背中を追いかけた。
*
〜にこ〜
屋上でみはねと見つめ合う。
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最初の頃は、ただ一緒にアイドルの話ができればいいそれだけだった。
みはねと出会ったのは、私の大好きなスクールアイドル「A-RISE」のライブの日だった。彼女はもともとライブを観に来たと言う感じではなかった。両手に買い物袋持ってたし。
普段だったら周りのことなんて気にならないのに、なぜか彼女から目が離せなかった。
彼女と私だけ世界が切り取られたような、そんな感じ。
真顔だったし、これといって楽しそうなわけでもなかったのに、彼女はA-RISEのライブが終わった後もずっとその場に残っていた。
ーーー話してみたい。
音ノ木の制服を着ているから、私と同じ学校の生徒だから、そう勝手に理由をつけて話しかけた。
話を聞いてみると、やっぱりA-RISEのファンというわけではなく、むしろ初めて知ったようだった。
でも、スクールアイドルには興味があるらしかった。
軽くスクールアイドルのことを教えてあげると、とても勉強になったと、ありがとうと優しく笑った彼女。彼女の笑顔を見たのはそれが最初だった。
…もっと笑ったらいいのに。
もちろん、お礼を言われたわけだし、私の話をこんなに真面目に聞いてくれたのは彼女が初めてだったし、とても嬉しかった。
最後にお互い自己紹介をした。そこで、彼女が最近現れた音ノ木のスクールアイドルのマネージャーをしていることを知った。
それから何度もあの子たちの、μ'sの練習を見にいった。
正直、レベルは最低だったし、スクールアイドルをかなりなめていると思った。
見てるとイラつくし、何度もそんななら辞めてしまえと思った。
でもそれはきっと、あの子たちが羨ましかったからなんだと今ならわかる。
私も一年生の頃にスクールアイドルを結成したがうまくいかなかった。アイドル研究部はどんどんと部員が辞めていき、最後は一人ぼっちになった。それは、部活だけでなく学校生活でも同じだった。
何度失敗しても立ち上がる。支えてくれる人がいる。そんなμ'sが羨ましくてしょうがなかった。
ま、その時は当然、私があの子たちと一緒にスクールアイドルをやるとは思っていなかったんだけどね。
何度もちょっかいをかけに行くたびに、みはねは楽しそうに笑ってくれた。
それが嬉しくて、最初は邪魔をするつもりだったのにいつの間にかみはねの笑顔を見に行くという理由に変わっていた。
たぶん、彼女は分かっていたんだと思う。私がμ'sを羨ましがっていたことを。不覚にも、仲間に入りたいと思ってしまっていたことを。
初めて部室に来てくれたと思ったら、いつの間にか増えているメンバーと共に、アイドル研究部に入れてくださいだものね。やんなっちゃうわよ、ほんと。
でも、そのとき思ったのよ。この子たちとなら私のやりたいアイドルができるかもしれない。彼女と、みはねとなら!ってーーー
それから、みはねは私にとってかわいい後輩から別の何かに変わってしまったんだと思う。
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屋上はまだ九月になったばかりだといっても朝は肌寒い。
少しだけ冷たい風に背中を押された。それを合図に話し始める。
「みはね。あんたに話があるの」
「どうしたの?」
あどけない表情で首をかしげて聞いてくるみはね。
わからないでしょ?私がこれから何を言うのか。
知らないでしょ?私の中であんたがかわいい後輩からどんな存在になってしまったのかを。
あんたは、まだ知らないでしょう?優しくて鈍感なあんたは、みはねは、私がどれだけその優しさに救われて、どれだけその鈍感さに苦しんだかを。
今、教えてあげるわよ。にこのこの想いをーーー
「…っ」
「…?」
ちょ、ちょっとまって、急かさないでよ!
今言うから、ちゃんと言うから、ほんとすぐに言うから…!
「ねぇ、結構時間経ってるけど?」
しかも顔こわい。とみはねは不審そうな顔で言ってくる。
「あぁ、もう!わかってるわよそんなこと!」
待ってって言ってるじゃない。待つことなんて、バカでも犬でもできるでしょ!?
ちがう、そう言う問題じゃない。
カッコつけて言おうとするから言葉が出てこないのよ。
私はみはねのことをどう思っているの?
言うって決めたじゃない、みんなで。私は三年だし部長だから、誰よりも最初に伝えるって決めたじゃないーーー
「好き。私はあんたが好き」
言えた…!頭の中で考えていたように、全然かっこよくないけど。ちゃんと伝えられた…!
「私も好きだけど…?」
みはねは今さら何言ってるの?という顔をしていた。
伝わってないわよね…これ。
きっと、今までで一番勇気出したのに、ほんとこいつなんなのよ!?
「あのねぇ!にこは真面目に言ってるの!アイドルのことだって、あんたのことだって、全部本気なの!!!」
年上の私よりも背の高い彼女を下から睨みつける。
みはねはさっきまでのにこにことした顔と違って真剣な表情で私を見つめていた。
「知ってる、にこの本気。私をただのマネージャーだと思わないでよ?私だって本気なんだから」
「な、何よいきなり」
「好きだって言ってるの、矢澤にこっていうアイドルを。初めて会ったとき、アイドルは笑顔を見せるんじゃなくて笑顔にさせる仕事だって言ったよね?にこを見ててほんとだなって思った。にこといるといつも笑ってばかりだもん」
そう言ってふわりと笑うみはね。
「尊敬してるし、大好きだよ。にこのこと。ずっと一番のファンとして見守っていたいと思ってる」
なによ、私がかっこよく決めたかったのに。
なんでみはねがかっこよく語っちゃってるのよ。
「この私が、そばにいさせてあげるって言ってるんだから…最高の笑顔、ちゃんと見せなさいよ?」
「うん。だからにこは、ずっとアイドルでいてね?」
「えぇ、約束してあげる」
さっきよりも格段と暖かくなった風が、笑顔でしっかりと指切りをする二人を包み込んでいた。
閲覧ありがとうございます。
どうだったでしょうか?
ちょっとにこちゃんっぽくないかもしれません…笑
次回は凛ちゃんの予定です。